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【アズ監♀】365枚の言葉なきラブレター

【アズール2年生のときの誕生日】

  誕生日の人へのインタビューを終えて監督生はポツリと呟いた。
「先輩の奥さんになる人って大変そうね」
「……どういう意味ですか?」
「だってお母さんは故郷で一番有名なリストランテの経営者、お義父さんは弁護士、お祖母さんは優れた魔法士だっていうのなら、奥さんもそれに釣り合う優れたものがなくちゃいけないでしょう?」
 アズールがチラリと監督生を見ると、監督生はインタビュー用のマイクをクルクルと手遊んでいる。
(……もし、僕が妻にしたいのはあなたですと言ったら、彼女はどんな反応をするんだろう)
 頭の中でアズールは想像する。
『監督生さん、僕が妻にしたいのはあなたです』
『……アーシェングロット先輩、頭と目は大丈夫? 保健室行く?』
 アズールの脳内にいる監督生は真剣な表情でアズールの体調を心配していた。
(あ、駄目な奴だな……これ……)
 よく考えてみれば、監督生に好かれるようなことをしていないような気がしてきた。
 監督生に対して契約のときに何も持ってないごく普通の人間だと言ったり、オンボロ寮を追い出したり、小汚い雑巾かと思ったと言ったり……思い出せば思い出すほど、監督生がアズールを好きになる要素が見つからない。
(いや、スカラビアでの厄介事に巻き込まれていた彼女を助けたことがある!)
 グルグルとアズールが考えていると、ジェイドとフロイドが傍へやってくる。
「アズール、料理はいかがですか?」
「……お前はどれだけ僕が食べると思ってるんだ」
 ジェイドの持っているお盆には複数の皿の上に唐揚げが山盛り乗っていた。
「え~、アズール食わねーの?」
「そんなに食べられるか!」
 誕生日は摂取カロリーを気にせず好きな物を食べると決めているアズールでも限度というものがある。
「小エビちゃんがせっかく作ってくれたのにー」
「は?」
 アズールはすぐに監督生の方を見た。
「えーっと、普通の唐揚げだけだと飽きるかなと思って色んな種類を作ったら多くなっちゃって……」
 ジェイドの持っているお盆に乗っている唐揚げは誕生日の主役であるアズールのために監督生が作ってくれたらしい。
「アズールが食べないのなら仕方ありません。僕がアズールの食べない分を食べましょう」
「オレも食べる~」
 ジェイドとフロイドは色んな種類の唐揚げを少しだけ空のお皿に移そうとする。
「駄目です! 僕が全部食べます!」
 アズールは大声でそれを止める。
「え? いや、あんなに沢山食べられないんじゃ……」
「食べます。あなたが僕のために作ってくれたのでしょう?」
「ええ、先輩の好物が唐揚げなの知ってたし、せっかくだから飽きないようにアレンジしたんだけど」
「それなら全部僕が食べます。唐揚げのアレンジについて説明してください」
「分かったけど、無理しちゃ駄目よ。食べ過ぎは体に良くないんだから」
 そしてアズールは監督生に説明してもらいながら片っ端から唐揚げを食べた。
「これは何ですか?」
「それはチキン南蛮風の唐揚げ。甘酢に漬けて、タルタルソースっていうソースをかけるの」

 監督生の作った唐揚げは今まで食べた誕生日のどんな料理より美味しく感じた。





【アズール3年生のときの誕生日】

 今日はアズールの誕生日。
 魔法のペンデュラムによって選ばれたプレゼンターの生徒からの質問に答え、飾り付けられた箒を贈られて、最後になんとかバースデーロードを駆け抜けた後のこと。
 オクタヴィネル寮内の人気の少ない場所にアズールと監督生はいた。
「監督生さん、約束を忘れてはいませんね?」
「ええ、覚えているわ……ところでなんで壁ドンをされているのかしら?」
 監督生の顔の横にはアズールの両腕があり、アズールの体で囲い込まれていた。
「だってあなた、こうしないと逃げるでしょう?」
「逃げない、デスヨ」
「本当ですか?」
 目が泳いでいる監督生をアズールは訝しんだ。
 監督生は逃げずにちゃんと和歌の意味を教えるつもりである……和歌の説明をし終わって恥ずかしくなってきたら逃げようと思ってたけど。
「それで恋の詩だと言ってましたけど、どういう意味があるんですか?」
 バースデーロードで無様な姿を晒さないように飛行術の練習をしていたアズールに監督生は詩を贈った。
『春霞たなびく山の桜花見れどもあかぬ君にもあるかな』
 アズールは最初何かの呪文かと思ったけれど、監督生が言うには31文字で綴られた詩――ポエムのようなものらしい。
 監督生はアズールがバースデーロードで納得のいく飛び方が出来たら詩の意味を教えるから頑張ってと応援して、アズールは必ずバースデーロードで納得のいく飛び方をしてやると決意した。
 そしてアズールは無事にバースデーロードを特別な箒で飛び終えて、監督生を捕まえて今に至る訳である。
 監督生はアズールが恋の詩の意味を知るまではこのままなのだと察して、小さく溜息を吐いた。
「……あの詩の意味は『春霞がたなびいている山の桜はいくら見ても飽きることがありません。それと同じように、いくら逢っても飽きることはないんですよ、あなたには』……です」
 アズールは監督生から『サクラ』という花について聞いたことがあった。
 春に咲く花で監督生の故郷では国民からとても愛されていて、監督生も大好きだから毎年春が来るのを楽しみにしていたと言っていた。
「……僕と一緒にいてあなたは楽しいですか?」
「前も同じようなことを言ったけど、あたしは努力してる人を見てるの割と好きよ」
 アズールは監督生を思いきり抱き締めた。
 監督生が愛する花のようだと、監督生がアズールの傍にいることを好きだと言われて嬉しく思うなんて単純だと思うけど、本当に嬉しいのだから仕方がない。
「あああああの、なんで抱き締めたんですか!?」
「……恋人じゃなくても友人同士でハグくらいします」
「先輩、ウツボ兄弟とハグできる?」
「………………出来ます」
「ダウト! 絶対嘘!」
「ああもう! 黙ってください! 変なことされたくないでしょう!」
 監督生の動きがピタッと止まった。
(変なことって何!?)
 監督生が固まっている一方でアズールも固まっていた。
(僕は何を言ってるんだ!?)
 勢いで言ってしまったけれど、アズールは監督生の嫌がることをするつもりはなかった。
 それに監督生が本気で嫌がっていたら大人しくせずにアズールのことを殴ってでも離れようとしていたはずだから、少なくとも嫌がっていはいない……と信じたい。
((どうしよう、動けない……))

 そしてアズールと監督生はお互い顔を真っ赤にしながらジェイドとフロイドに見つかるまで抱き締め合っていたのだった。

~Fin.~
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