NRC在学中
狭い箱の中でアズールは必死に頭を働かせていた。
(どうすればここから出られる? ここは狭い上に、反射の魔法がかけられている可能性があるから攻撃の魔法は使えない。体勢が悪くて殴って壊すのは難しい……クソッ! 考えがまとまらない!)
アズールの思考を掻き乱す要因は狭い箱の中に閉じ込められた非常事態……ではなく、アズールと一緒に狭い箱の中に閉じ込められた相手だった。
「先輩、どうかした?」
アズールの脚の上に座り、首をコテンと傾げた監督生を見てアズールは心の中で大きく叫ぶ。
(どうしてよりにもよって監督生さんと狭い箱の中に閉じ込められなければならないんだ!!)
オンボロ寮の監督生――彼女はアズールが片想いしている相手だった。
何故アズールが監督生と共に閉じ込められたのか?
それを知るために少し時間を遡るとしよう。
* * *
「ふわぁ……」
監督生はアルバイトの制服に着替え、口元を片手で覆って小さく欠伸をしながら10分前には開店の準備が終えるよう少し早めの時間にモストロ・ラウンジへ続く廊下を歩いていた。
「おや、珍しいですね」
途中でバッタリと偶然会ったアズールもモストロ・ラウンジに向かうため、監督生と一緒に歩いている。
「何が?」
「あなたが欠伸をしているなんて」
「ああ、夜遅くまで宿題解いてたから」
監督生は普段早寝早起きなのだが、昨日は宿題の最後の応用問題がなかなか解けず寝るのが遅くなったのだった。ちなみにグリムは宿題をやらずに寝て、今日先生から叱られて涙目だった。
「僕に言ってくれれば教えて差し上げたのに」
「見返りに何を要求するつもり? またオンボロ寮とか言うんじゃないでしょうね」
イソギンチャク事件でオンボロ寮を追い出されたことがある監督生はジトーッとした目でアズールを見れば、アズールは監督生から少し視線を逸らして答える。
「……今はオンボロ寮よりも欲しいものが出来たので」
「オンボロ寮よりも欲しいもの?」
そのときちょうどモストロ・ラウンジに着いた。
監督生は『アズールがオンボロ寮よりも欲しいものなんてあるのか、もしかして学園長の弱みかしら?』と思いながらモストロ・ラウンジの扉を開けた、その瞬間――
ピカッ!
扉の向こう側で目が潰れるんじゃないかと思うくらいの光が輝いた。
「きゃっ!」
「監督生さん!」
反射的に目を閉じた2人が目をおそるおそる目を開くと、真っ暗な闇の中にいた。
「うわ、暗っ!」
「暗いだけではないですよ、これは。おそらく狭い……箱のようなものの中にいます」
動かしにくくなった杖をアズールが無理に動かせば、杖の先が壁に当たっているのかカツンカツンと硬い音がする。
「それに何か僕の脚の上に乗ってます」
「うん? あたしは何か硬そうなものの上に座ってるような?」
「「……」」
「今明かりをつけます」
「お願いします」
アズールが明かりをつける魔法を使う。すると――
「なっ!?」
「あらまあ」
胡坐をかいたアズールの脚の上に監督生が横向きに座っていた。もしアズールが監督生の背と足を手で支えてこのまま立ち上がることが出来ればお姫様抱っこが完成しそうな体勢だ。
(よし、すぐにここから出よう)
アズール・アーシェングロット。17歳。健康な体と精神を持つ彼は片想い中の監督生との密着に耐える自信が無く、すぐに脱出する決意をした。
そして冒頭に戻る。
* * *
「あなたはどうして狭い箱に閉じ込められて平気そうな顔してるんですか!?」
アズールが必死に箱から脱出する方法を考えているのに対し、監督生は普段通りのほほんとしている。
「だって先輩と一緒だから」
アズールが監督生の言葉でドキッとしたが、監督生は『あたしひとりがいなくなっても問題にならないけど、流石に寮長がいなくなったら必死に探すでしょ』と割とドライなことを考えていた。
言わぬが花とはまさにこのことである。
「監督生さん。あ、あなたは……」
「しっ!」
「むぐっ!」
アズールが監督生へ言おうとした途中で監督生がアズールの口を手で塞いだ。
「ぷはっ、急に何するんですか!」
「何か音が聞こえない?」
「音?」
監督生の言葉を聞き、アズールは耳を澄ました。
監督生は聞き慣れてないけれど、アズールには聞き慣れている音が聞こえた。
「あっ、スマホ!」
鳴っていたのはアズールのスマホだった。しかし、取り出したくても狭い箱の中にいる上に監督生がいてうまく動けないアズールは仕方なく監督生へ声をかける。
「監督生さん、すみませんが僕のスマホをポケットから出してもらっていいですか?」
「いいわよ」
監督生がアズールのスマホを取るために身を寄せれば、監督生からフワッと良い香りがアズールに届いた。
(これはシャンプーの香りか? ……いや、こんなときに何を考えているんだ!!)
思春期真っ只中なアズールが葛藤しているのを知らない監督生はポケットからスマホを取り出すと無邪気に笑って言う。
「先輩からする香り、爽やかで結構好きだわ」
(あなたって人は!!)
心の中で荒ぶっているのを悟られないようにアズールは「……コロンをつけていますから」と冷静に返してスマホの画面を見た。
そこにはジェイドの名前が表示されている。
おそらくいつまで経ってもモストロ・ラウンジに現れないアズールへ連絡してきたのだろう。
「出て大丈夫?」
「ええ、どうぞ」
監督生は通話ボタンを押してアズールの口元へ行くようスマホを支えた。
『もう開店の時間を過ぎましたけど、どこにいるんですか? あと監督生さんもまだ来ていないんですが……』
「支配人と一緒にいるんで無断欠勤じゃないです!」
無断欠勤扱いされたくない監督生がすぐに反論した。
『アズールと監督生さんが一緒に遅刻するようなことをしている……なるほど。お邪魔いたしました。では』
「「わー! 通話を切るな!」」
勝手に想像して納得して通話を切ろうとするジェイドを慌ててアズールと監督生が引き留め、これまでの経緯を話した。
『つまり突然暗くて狭い箱の中に閉じ込められたんですか?』
「「そう!」」
『アズールも小エビちゃんも楽しそうなことになってんじゃん』
ジェイドの傍にいたらしくフロイドの声がスマホ越しに聞こえた。
「「何も楽しくない!!」」
『2人とも息ピッタリすぎて超ウケる』
アズールと監督生が閉じ込められているというのにジェイドもフロイドも他人事なので大変そうですねとか楽しそうとか気楽なことを言っている。
だからアズールは餌を用意する。ジェイドとフロイドがアズールの思い通りになるための餌を。
「ジェイド、もし僕達を一番最初に救出できたのなら没にした企画を開催するのを許可します」
『……本当ですか?』
『げっ……』
ジェイドの声に期待が込められているのに対してフロイドの声には絶望が込められている。
『ちょっとアズール本気で言ってんの?』
「本気じゃなければ言いません。フロイド、もしジェイドの企画を阻止したいと言うのならお前が一番最初に僕達を救出しなさい」
『ぜってージェイドより先に見つけ出す』
『ふふ、負けませんよ。フロイド』
そして通話がブツッと切れた。
「何事?」
事情が全く分からない監督生はどういうことかアズールに問いかけた。
「ジェイドが以前企画したんですよ。ひたすらキノコの料理を出す『キノコ料理の世界』という企画を」
「あー、なるほど。キノコ嫌いだから阻止したい訳か……」
ジェイドとフロイドが対立していた理由を知って監督生は納得した。
「それにしてもあの2人で何とかなるものなの? この状況」
「おそらくこれは108不思議の中にある『隠された箱』でしょう」
「108不思議って煩悩の数かってくらい多すぎる……」
「毎年増えたり減ったりするのでまた変わるとは思いますが……。話を元に戻しますけど、この隠された箱は人を閉じ込めてナイトレイブンカレッジ内に隠れるんです」
「なんて迷惑な……」
「そして中から脱出するより外から開けてもらう方が簡単なんですよ」
「ナイトレイブンカレッジって生徒だけでなく不思議な現象も面倒なのね……」
監督生は故郷の七不思議ってそんなに害がなかったんだな……としみじみと思った。
「それなら、あたし達に出来るのは待ってることくらいか」
「そういうことです」
「じゃあ、おやすみなさい」
監督生はアズールの胸にもたれた。
「は? この状況で寝るつもりですか!?」
「だって眠い……」
アズールはハッと気付いた。
(そういえば寝不足だと言っていた!)
監督生の目は段々と閉じていく。
「眠ったら死にますよ!」
「ここは、いつから……ゆきやまにな……た」
そして監督生はスウッと眠ってしまった。
「嘘だろ……」
アズールの呟きは箱の中で静かに消えた。
* * *
「アズールと小エビちゃんいるー?」
「おや、アズール。随分お疲れですね」
結局双子故なのか同時に箱を開けたジェイドとフロイドが箱の中を除けば、そこには疲れ切ったアズールとスヤスヤと眠っている監督生がいた。
「やっとか」
「監督生さん、気持ちよさそうに寝てますね」
「小エビちゃん、開いたよぉ」
フロイドが監督生に手を伸ばす。しかし――
バシンッ!
「触るな。僕が運ぶ」
アズールがフロイドの手を払い、監督生を抱きかかえて立ち上がった。
「ああ、そうそう。僕が願いを叶えるのは1人だけなので、ジェイドとフロイドはよーく話し合ってくださいね」
アズールは綺麗なビジネススマイルを浮かべてそう言った後、その場を後にした。後ろから威嚇する鳴き声や殴り合う音がするけれど、アズールが立ち止まることはなかった。
監督生を抱えたアズールが向かったのはオンボロ寮……ではなく、自分の部屋。
自分のベッドに監督生を寝かせ、制服の帽子を外して枕元に置いた。
「……僕の理性に感謝してください」
アズールは監督生が1つのまとめている髪ゴムを解き、髪を梳くとサラサラとした髪の感触がして先程狭い箱の中で感じた良い香りが広がる。
「二度目はありませんからね」
そしてアズールは監督生の髪を指先に絡めて唇を落とした。
(どうすればここから出られる? ここは狭い上に、反射の魔法がかけられている可能性があるから攻撃の魔法は使えない。体勢が悪くて殴って壊すのは難しい……クソッ! 考えがまとまらない!)
アズールの思考を掻き乱す要因は狭い箱の中に閉じ込められた非常事態……ではなく、アズールと一緒に狭い箱の中に閉じ込められた相手だった。
「先輩、どうかした?」
アズールの脚の上に座り、首をコテンと傾げた監督生を見てアズールは心の中で大きく叫ぶ。
(どうしてよりにもよって監督生さんと狭い箱の中に閉じ込められなければならないんだ!!)
オンボロ寮の監督生――彼女はアズールが片想いしている相手だった。
何故アズールが監督生と共に閉じ込められたのか?
それを知るために少し時間を遡るとしよう。
* * *
「ふわぁ……」
監督生はアルバイトの制服に着替え、口元を片手で覆って小さく欠伸をしながら10分前には開店の準備が終えるよう少し早めの時間にモストロ・ラウンジへ続く廊下を歩いていた。
「おや、珍しいですね」
途中でバッタリと偶然会ったアズールもモストロ・ラウンジに向かうため、監督生と一緒に歩いている。
「何が?」
「あなたが欠伸をしているなんて」
「ああ、夜遅くまで宿題解いてたから」
監督生は普段早寝早起きなのだが、昨日は宿題の最後の応用問題がなかなか解けず寝るのが遅くなったのだった。ちなみにグリムは宿題をやらずに寝て、今日先生から叱られて涙目だった。
「僕に言ってくれれば教えて差し上げたのに」
「見返りに何を要求するつもり? またオンボロ寮とか言うんじゃないでしょうね」
イソギンチャク事件でオンボロ寮を追い出されたことがある監督生はジトーッとした目でアズールを見れば、アズールは監督生から少し視線を逸らして答える。
「……今はオンボロ寮よりも欲しいものが出来たので」
「オンボロ寮よりも欲しいもの?」
そのときちょうどモストロ・ラウンジに着いた。
監督生は『アズールがオンボロ寮よりも欲しいものなんてあるのか、もしかして学園長の弱みかしら?』と思いながらモストロ・ラウンジの扉を開けた、その瞬間――
ピカッ!
扉の向こう側で目が潰れるんじゃないかと思うくらいの光が輝いた。
「きゃっ!」
「監督生さん!」
反射的に目を閉じた2人が目をおそるおそる目を開くと、真っ暗な闇の中にいた。
「うわ、暗っ!」
「暗いだけではないですよ、これは。おそらく狭い……箱のようなものの中にいます」
動かしにくくなった杖をアズールが無理に動かせば、杖の先が壁に当たっているのかカツンカツンと硬い音がする。
「それに何か僕の脚の上に乗ってます」
「うん? あたしは何か硬そうなものの上に座ってるような?」
「「……」」
「今明かりをつけます」
「お願いします」
アズールが明かりをつける魔法を使う。すると――
「なっ!?」
「あらまあ」
胡坐をかいたアズールの脚の上に監督生が横向きに座っていた。もしアズールが監督生の背と足を手で支えてこのまま立ち上がることが出来ればお姫様抱っこが完成しそうな体勢だ。
(よし、すぐにここから出よう)
アズール・アーシェングロット。17歳。健康な体と精神を持つ彼は片想い中の監督生との密着に耐える自信が無く、すぐに脱出する決意をした。
そして冒頭に戻る。
* * *
「あなたはどうして狭い箱に閉じ込められて平気そうな顔してるんですか!?」
アズールが必死に箱から脱出する方法を考えているのに対し、監督生は普段通りのほほんとしている。
「だって先輩と一緒だから」
アズールが監督生の言葉でドキッとしたが、監督生は『あたしひとりがいなくなっても問題にならないけど、流石に寮長がいなくなったら必死に探すでしょ』と割とドライなことを考えていた。
言わぬが花とはまさにこのことである。
「監督生さん。あ、あなたは……」
「しっ!」
「むぐっ!」
アズールが監督生へ言おうとした途中で監督生がアズールの口を手で塞いだ。
「ぷはっ、急に何するんですか!」
「何か音が聞こえない?」
「音?」
監督生の言葉を聞き、アズールは耳を澄ました。
監督生は聞き慣れてないけれど、アズールには聞き慣れている音が聞こえた。
「あっ、スマホ!」
鳴っていたのはアズールのスマホだった。しかし、取り出したくても狭い箱の中にいる上に監督生がいてうまく動けないアズールは仕方なく監督生へ声をかける。
「監督生さん、すみませんが僕のスマホをポケットから出してもらっていいですか?」
「いいわよ」
監督生がアズールのスマホを取るために身を寄せれば、監督生からフワッと良い香りがアズールに届いた。
(これはシャンプーの香りか? ……いや、こんなときに何を考えているんだ!!)
思春期真っ只中なアズールが葛藤しているのを知らない監督生はポケットからスマホを取り出すと無邪気に笑って言う。
「先輩からする香り、爽やかで結構好きだわ」
(あなたって人は!!)
心の中で荒ぶっているのを悟られないようにアズールは「……コロンをつけていますから」と冷静に返してスマホの画面を見た。
そこにはジェイドの名前が表示されている。
おそらくいつまで経ってもモストロ・ラウンジに現れないアズールへ連絡してきたのだろう。
「出て大丈夫?」
「ええ、どうぞ」
監督生は通話ボタンを押してアズールの口元へ行くようスマホを支えた。
『もう開店の時間を過ぎましたけど、どこにいるんですか? あと監督生さんもまだ来ていないんですが……』
「支配人と一緒にいるんで無断欠勤じゃないです!」
無断欠勤扱いされたくない監督生がすぐに反論した。
『アズールと監督生さんが一緒に遅刻するようなことをしている……なるほど。お邪魔いたしました。では』
「「わー! 通話を切るな!」」
勝手に想像して納得して通話を切ろうとするジェイドを慌ててアズールと監督生が引き留め、これまでの経緯を話した。
『つまり突然暗くて狭い箱の中に閉じ込められたんですか?』
「「そう!」」
『アズールも小エビちゃんも楽しそうなことになってんじゃん』
ジェイドの傍にいたらしくフロイドの声がスマホ越しに聞こえた。
「「何も楽しくない!!」」
『2人とも息ピッタリすぎて超ウケる』
アズールと監督生が閉じ込められているというのにジェイドもフロイドも他人事なので大変そうですねとか楽しそうとか気楽なことを言っている。
だからアズールは餌を用意する。ジェイドとフロイドがアズールの思い通りになるための餌を。
「ジェイド、もし僕達を一番最初に救出できたのなら没にした企画を開催するのを許可します」
『……本当ですか?』
『げっ……』
ジェイドの声に期待が込められているのに対してフロイドの声には絶望が込められている。
『ちょっとアズール本気で言ってんの?』
「本気じゃなければ言いません。フロイド、もしジェイドの企画を阻止したいと言うのならお前が一番最初に僕達を救出しなさい」
『ぜってージェイドより先に見つけ出す』
『ふふ、負けませんよ。フロイド』
そして通話がブツッと切れた。
「何事?」
事情が全く分からない監督生はどういうことかアズールに問いかけた。
「ジェイドが以前企画したんですよ。ひたすらキノコの料理を出す『キノコ料理の世界』という企画を」
「あー、なるほど。キノコ嫌いだから阻止したい訳か……」
ジェイドとフロイドが対立していた理由を知って監督生は納得した。
「それにしてもあの2人で何とかなるものなの? この状況」
「おそらくこれは108不思議の中にある『隠された箱』でしょう」
「108不思議って煩悩の数かってくらい多すぎる……」
「毎年増えたり減ったりするのでまた変わるとは思いますが……。話を元に戻しますけど、この隠された箱は人を閉じ込めてナイトレイブンカレッジ内に隠れるんです」
「なんて迷惑な……」
「そして中から脱出するより外から開けてもらう方が簡単なんですよ」
「ナイトレイブンカレッジって生徒だけでなく不思議な現象も面倒なのね……」
監督生は故郷の七不思議ってそんなに害がなかったんだな……としみじみと思った。
「それなら、あたし達に出来るのは待ってることくらいか」
「そういうことです」
「じゃあ、おやすみなさい」
監督生はアズールの胸にもたれた。
「は? この状況で寝るつもりですか!?」
「だって眠い……」
アズールはハッと気付いた。
(そういえば寝不足だと言っていた!)
監督生の目は段々と閉じていく。
「眠ったら死にますよ!」
「ここは、いつから……ゆきやまにな……た」
そして監督生はスウッと眠ってしまった。
「嘘だろ……」
アズールの呟きは箱の中で静かに消えた。
* * *
「アズールと小エビちゃんいるー?」
「おや、アズール。随分お疲れですね」
結局双子故なのか同時に箱を開けたジェイドとフロイドが箱の中を除けば、そこには疲れ切ったアズールとスヤスヤと眠っている監督生がいた。
「やっとか」
「監督生さん、気持ちよさそうに寝てますね」
「小エビちゃん、開いたよぉ」
フロイドが監督生に手を伸ばす。しかし――
バシンッ!
「触るな。僕が運ぶ」
アズールがフロイドの手を払い、監督生を抱きかかえて立ち上がった。
「ああ、そうそう。僕が願いを叶えるのは1人だけなので、ジェイドとフロイドはよーく話し合ってくださいね」
アズールは綺麗なビジネススマイルを浮かべてそう言った後、その場を後にした。後ろから威嚇する鳴き声や殴り合う音がするけれど、アズールが立ち止まることはなかった。
監督生を抱えたアズールが向かったのはオンボロ寮……ではなく、自分の部屋。
自分のベッドに監督生を寝かせ、制服の帽子を外して枕元に置いた。
「……僕の理性に感謝してください」
アズールは監督生が1つのまとめている髪ゴムを解き、髪を梳くとサラサラとした髪の感触がして先程狭い箱の中で感じた良い香りが広がる。
「二度目はありませんからね」
そしてアズールは監督生の髪を指先に絡めて唇を落とした。
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