NRC在学中
誰もいない中庭に監督生はひとりで背伸びをしていた。
「ん~、やっぱり人の多いところは落ち着かないわね……」
グリムからの『参加したいんだゾ!!』攻撃に耐えられなかった学園長から押し付けられてノーブルベルカレッジへ来たけれど、そもそもこの交流会は他校の若い魔法士達で交流しようという会なのだから、魔法の使えない監督生には参加する意味がないのだ。
監督生が他校の魔法士達へ魔法や魔法士のことについて話したいことは『変なプライドなどゴミ箱にでも捨てろ! ストレス溜めるな! オバブロするぞ!』以外特にないため、気付かれないようにコッソリと大講堂から抜け出したのだった。
「それにしても良い歌だったな……」
交流会に参加するメンバーで今日のために歌の練習をしていたとデュースが言っていた。
「鐘よ響け 僕の願いを運んで~♪」
一度しか聞いてないから合っているか自信はあまりないけど、監督生はさっき聞いた歌を口ずさんだ。
「喜び 悲しみ 共に生きよう~♪」
「……驚きましたね」
監督生が歌うのを止めて声のした方を見ると、アズールが言葉通り少し驚いた表情をしていた。
「ここにいていいの? 将来有望な人とコネ作るために来たんでしょ?」
「目ぼしい人に挨拶と名刺を渡して目的を果たしたので、少し休憩に来たんですよ」
本当は大聖堂を抜け出そうとする監督生を見かけて自分も抜け出したのだが、アズールは誤魔化した。
「ところで監督生さん、一度しか聞いていないはずのあの歌を覚えたんですか?」
監督生は歌の練習に参加しておらず、歌を聞いたのはあのときの一度だけのはずだ。
「まぁね、少し聞いて気に入ったら歌いたくなるから」
「……続きを歌わないんですか?」
「先輩の前では歌いたくないから歌わないわ」
「僕の前では? それならマレウスさんやイデアさんなら歌うんですか?」
「むしろ一緒に歌おうと誘うかしらね」
「……なぜ僕の前では歌いたくないんですか?」
自分と自分以外との接し方の差を感じてアズールは声を低くして監督生に問いかけた。
「……美しい声じゃないから」
監督生は静かに答えた。
「はい?」
「先輩が自分で言ったのよ、あたしに向かって」
アズールは記憶を必死に辿るが、思い出せなかった。
「……そんなことを言いましたか?」
「イソギンチャク事件のときに取引で言ったわ。あたしの声は対価にならないって……」
(あれか!!)
監督生の言葉を聞いてアズールは一気に思い出した。
(言った。確かに言った……けど!)
「あなた、よく覚えてましたね……」
正直、言ったアズール本人が覚えていないことを彼女が覚えているとは思わなかった。
「あたしの故郷は恨み辛みを忘れることなく根に持つ人が多いのよね。まぁ、受けた恩も忘れないんだけど」
「……傷付きました?」
「傷付いてはないけど、絶対に先輩の前では歌わないと誓ったくらいね。ちなみに双子の先輩は結構あたしが歌った故郷の歌を気に入ってたわよ。聞いたことない変わった歌だって」
「あいつら、聞いたんですか?!」
「モストロ・ラウンジのスピーカーの調子が悪くて音楽が流れなかったときにね。先輩は寮長会議でいないからいいかと思って。いや~、マイクで歌うと気分良いわ!」
自分の知らないところで監督生の歌を聞いていた双子に対してアズールは羨ましいという気持ちを突き抜けてズルいという怒りになった。
「監督生さん、あなたに不快な思いをさせたことを申し訳なく思います。ですから……」
「先輩」
アズールが自分の前でも歌って欲しいと願いを伝える前に監督生が言葉を遮った。
「あたしの故郷に『覆水盆に返らず』という言葉があるんです」
「……はい」
「その言葉の意味は『一度してしまったことは取り返しがつかない』」
「……」
「先輩。沢山後悔して、自分の胸に刻んでください。一度言った言葉は消えないし、ずっと言われた人に残ってるんだって」
この日以降、アズールは監督生に対して発言するときはとても慎重になった。
そして少し先の未来、アズールの前で彼女が歌を止めることなく歌ったとき、アズールは涙を流した。
「そんなに泣くこと?」
「だってあなたが初めて止めずに歌った」
「子供達を寝かせるのに子守唄を歌ってるのに止める訳にはいかないじゃない」
母の子守唄を聞いていた二人の子供達が今スヤスヤと眠っていた。
アズールは妻の手を握って真剣に話す。
「あなたに言った言葉を心から後悔しました。もうあんなことを思っていません。だから、いつか僕のために歌ってくれませんか?」
「……アズールの好きな歌を教えてくれたらね」
「!!」
アズールは妻の慈悲に感謝して、妻を強く抱き締めた。
「ん~、やっぱり人の多いところは落ち着かないわね……」
グリムからの『参加したいんだゾ!!』攻撃に耐えられなかった学園長から押し付けられてノーブルベルカレッジへ来たけれど、そもそもこの交流会は他校の若い魔法士達で交流しようという会なのだから、魔法の使えない監督生には参加する意味がないのだ。
監督生が他校の魔法士達へ魔法や魔法士のことについて話したいことは『変なプライドなどゴミ箱にでも捨てろ! ストレス溜めるな! オバブロするぞ!』以外特にないため、気付かれないようにコッソリと大講堂から抜け出したのだった。
「それにしても良い歌だったな……」
交流会に参加するメンバーで今日のために歌の練習をしていたとデュースが言っていた。
「鐘よ響け 僕の願いを運んで~♪」
一度しか聞いてないから合っているか自信はあまりないけど、監督生はさっき聞いた歌を口ずさんだ。
「喜び 悲しみ 共に生きよう~♪」
「……驚きましたね」
監督生が歌うのを止めて声のした方を見ると、アズールが言葉通り少し驚いた表情をしていた。
「ここにいていいの? 将来有望な人とコネ作るために来たんでしょ?」
「目ぼしい人に挨拶と名刺を渡して目的を果たしたので、少し休憩に来たんですよ」
本当は大聖堂を抜け出そうとする監督生を見かけて自分も抜け出したのだが、アズールは誤魔化した。
「ところで監督生さん、一度しか聞いていないはずのあの歌を覚えたんですか?」
監督生は歌の練習に参加しておらず、歌を聞いたのはあのときの一度だけのはずだ。
「まぁね、少し聞いて気に入ったら歌いたくなるから」
「……続きを歌わないんですか?」
「先輩の前では歌いたくないから歌わないわ」
「僕の前では? それならマレウスさんやイデアさんなら歌うんですか?」
「むしろ一緒に歌おうと誘うかしらね」
「……なぜ僕の前では歌いたくないんですか?」
自分と自分以外との接し方の差を感じてアズールは声を低くして監督生に問いかけた。
「……美しい声じゃないから」
監督生は静かに答えた。
「はい?」
「先輩が自分で言ったのよ、あたしに向かって」
アズールは記憶を必死に辿るが、思い出せなかった。
「……そんなことを言いましたか?」
「イソギンチャク事件のときに取引で言ったわ。あたしの声は対価にならないって……」
(あれか!!)
監督生の言葉を聞いてアズールは一気に思い出した。
(言った。確かに言った……けど!)
「あなた、よく覚えてましたね……」
正直、言ったアズール本人が覚えていないことを彼女が覚えているとは思わなかった。
「あたしの故郷は恨み辛みを忘れることなく根に持つ人が多いのよね。まぁ、受けた恩も忘れないんだけど」
「……傷付きました?」
「傷付いてはないけど、絶対に先輩の前では歌わないと誓ったくらいね。ちなみに双子の先輩は結構あたしが歌った故郷の歌を気に入ってたわよ。聞いたことない変わった歌だって」
「あいつら、聞いたんですか?!」
「モストロ・ラウンジのスピーカーの調子が悪くて音楽が流れなかったときにね。先輩は寮長会議でいないからいいかと思って。いや~、マイクで歌うと気分良いわ!」
自分の知らないところで監督生の歌を聞いていた双子に対してアズールは羨ましいという気持ちを突き抜けてズルいという怒りになった。
「監督生さん、あなたに不快な思いをさせたことを申し訳なく思います。ですから……」
「先輩」
アズールが自分の前でも歌って欲しいと願いを伝える前に監督生が言葉を遮った。
「あたしの故郷に『覆水盆に返らず』という言葉があるんです」
「……はい」
「その言葉の意味は『一度してしまったことは取り返しがつかない』」
「……」
「先輩。沢山後悔して、自分の胸に刻んでください。一度言った言葉は消えないし、ずっと言われた人に残ってるんだって」
この日以降、アズールは監督生に対して発言するときはとても慎重になった。
そして少し先の未来、アズールの前で彼女が歌を止めることなく歌ったとき、アズールは涙を流した。
「そんなに泣くこと?」
「だってあなたが初めて止めずに歌った」
「子供達を寝かせるのに子守唄を歌ってるのに止める訳にはいかないじゃない」
母の子守唄を聞いていた二人の子供達が今スヤスヤと眠っていた。
アズールは妻の手を握って真剣に話す。
「あなたに言った言葉を心から後悔しました。もうあんなことを思っていません。だから、いつか僕のために歌ってくれませんか?」
「……アズールの好きな歌を教えてくれたらね」
「!!」
アズールは妻の慈悲に感謝して、妻を強く抱き締めた。