NRC在学中
「思ったんだけど、あなたにとって“国”って故郷しかないの?」
草食動物は目の前のチェスボードを見ながら、そう言った。
「……何が言いてぇ」
「んー……腐りながらこのまま生きていくぐらいなら、母国を飛び出して自分の国を作って念願の王様になっちゃえばいいのにと思って」
駒を手に取り、コツンとチェスボードの上に置いた。
「国を作るなんて簡単に出来る訳ねぇだろ」
「そうなの? こっちの世界の法律は知らないけれど、うちの世界の法律では国として認められるには3つの要素が必要なのよ」
カツンッ
「領域」
コツンッ
「国民」
カツンッ
「権力または主権」
コツンッ
「つまり“国”とは、権力が領域と国民を内外の干渉を許さず統治する存在であると捉えられ、これらの三要素を有するものは“国”として認められる。たとえどんなに小さな領域でも、たとえどんなに国民が少なくても、ね」
カツンッ
「うちの世界で一番小さな国は面積が大体0.4km²、人口が約600人……もしかしたらナイトレイブンカレッジよりも小さくて、人数も少ないかもしれないわね」
「それを俺に教えてどうする? そんなことしたら王宮の奴らが黙ってねぇぞ」
「……あなたって結構良い子ちゃんよね?」
「あ゛?」
「どうして一々王宮の顔色なんか窺わなきゃいけないの?」
そう言われてハッとさせられる。
「自分の人生なんだから自分の好きなようにしたっていいじゃない。親だろうが兄弟だろうが王宮だろうが勝手に人の人生を決めんなって話よ!」
コツンッ
「はい、チェックメイト!」
草食動物にそう言われてチェスボードを見て見れば、俺のキングがどこへ行っても草食動物の駒に取られてしまう位置にいた。
「いつの間に……」
「あたしの故郷にもチェスに似たようなものがあるのよ。ちょっとルールとか駒とか違うけどねぇ。慣れるまでちょっと時間かかったけど、いつまでもやられっぱなしじゃないんだから!」
草食動物はフフン!とでもいうように胸を張った。
「あとさっきの話の続きだけど、故郷の王宮でつまらなさそうで不機嫌な顔してるくらいなら、ラギーパイセンが言ってたみたいにふんぞり返ってニヤニヤして悪巧みしてる方があなたに似合ってるわ」
クスクスと笑う草食動物にチェスで負けたが、気分は悪いどころかとても良かった。
(これだから、手放したくねぇって思うんだよな……こいつ)
* * *
「レオナ、本当にそんな遠くへ行くのか? 領地が欲しいなら国内でも……」
「わかってねぇな……いいか? 俺は夕焼けの草原の領主になりたい訳じゃねぇんだよ」
「決意は……変わらないのだな?」
「ああ」
「……いつの日か、お前と共に国をより良くできる日が来ると思っていたが……もう来ないのだな」
「……ああ」
「……そうか」
なんだか目が覚めてお父さんの所へ向かうとレオナおじさんがいた。
「う~ん、レオナおじさん?」
僕は目元を擦りながらレオナおじさんに話しかけた。
「げっ……お前、どうして起きてんだ。いつもならまだ寝てるだろ」
「あれ? おじさん、どこか行くの? いつ帰ってくる? 来週? その次?」
よく見るとレオナおじさんは普段着ではなく旅に行くような服装をしていた。
「………もうここへは帰らねぇ」
「えっ?」
もう、帰ってこない?
「いやだ! 行かないで、レオナおじさん!」
僕はレオナおじさんに必死にしがみついた。
(どうして? なんで? あ、もしかして……)
召使の人達がコソコソ話していたのを聞いたことがある。
『第二王子のレオナ様は王位を狙っている』
『チェカ様がいる限り、レオナ様は王にはなれない』
(もしも、僕が王様にならなかったら……レオナおじさんが王様になったら……レオナおじさんはどこにも行かないでくれる?)
「レオナおじさん! 行かないで! 僕、王様になれなくてもい「チェカ!!」」
レオナおじさんの大きな声が僕の言葉に重なった。
「ふざけんなよ……俺が渇望したものを簡単に捨てることは認めねぇ……許さねぇ。いいか? 王座はテメェが考えているよりも大きく、重い。最後の最後までしがみつけ……足掻け。それが俺に対してテメェが出来る唯一のことだ」
そう言ってレオナおじさんは行ってしまった。
外を見れば、日が昇って明るくなっていた。
(ああ、夜が明けた……)
* * *
新たな国が誕生した。
その国はとても小さな領土でとても少ない国民しかいなかったけれど、皆笑顔で暮らしていた。
その国の王は他の国の人からは頭も良く、強力な魔法を使いこなすが気難しい性格だと言われていたが、王妃や腹心の部下の前ではまるで少年のように笑うこともあったと言う。
そして、その国は珍しい響きの名前であった。
国の名前の由来は王妃の国の言葉であり、意味は『夜明け』であったそうな。
「『夕焼け』って日が沈んで暗くなるじゃない? それよりも日が昇って明るくなるように、誰にでも『夜明け』が来る方が縁起良さそうよね」
「うん…確かにあたしが新しい自分の国作っちゃえばって言ったわ。そして、レオナおじたんなら出来るだろうなとも思ってた、やる気がないだけで実力あるから。……でもね! 自分が王妃になるなんて、これっぽっちも考えてなかったわ!!」
「俺は俺が認めた雌以外傍に置く気はねぇって言っただろ。それに草食動物、俺が認めた雌はお前じゃないとは言ってねぇ」
「分かるか馬鹿ぁ!? それで『え?あたしのこと?(トゥンク)』なんて思う訳ないじゃない! どんだけ自意識過剰なのよ!」
「レオナさん相手に馬鹿って言えるのアンタしかいないッスね~」
草食動物は目の前のチェスボードを見ながら、そう言った。
「……何が言いてぇ」
「んー……腐りながらこのまま生きていくぐらいなら、母国を飛び出して自分の国を作って念願の王様になっちゃえばいいのにと思って」
駒を手に取り、コツンとチェスボードの上に置いた。
「国を作るなんて簡単に出来る訳ねぇだろ」
「そうなの? こっちの世界の法律は知らないけれど、うちの世界の法律では国として認められるには3つの要素が必要なのよ」
カツンッ
「領域」
コツンッ
「国民」
カツンッ
「権力または主権」
コツンッ
「つまり“国”とは、権力が領域と国民を内外の干渉を許さず統治する存在であると捉えられ、これらの三要素を有するものは“国”として認められる。たとえどんなに小さな領域でも、たとえどんなに国民が少なくても、ね」
カツンッ
「うちの世界で一番小さな国は面積が大体0.4km²、人口が約600人……もしかしたらナイトレイブンカレッジよりも小さくて、人数も少ないかもしれないわね」
「それを俺に教えてどうする? そんなことしたら王宮の奴らが黙ってねぇぞ」
「……あなたって結構良い子ちゃんよね?」
「あ゛?」
「どうして一々王宮の顔色なんか窺わなきゃいけないの?」
そう言われてハッとさせられる。
「自分の人生なんだから自分の好きなようにしたっていいじゃない。親だろうが兄弟だろうが王宮だろうが勝手に人の人生を決めんなって話よ!」
コツンッ
「はい、チェックメイト!」
草食動物にそう言われてチェスボードを見て見れば、俺のキングがどこへ行っても草食動物の駒に取られてしまう位置にいた。
「いつの間に……」
「あたしの故郷にもチェスに似たようなものがあるのよ。ちょっとルールとか駒とか違うけどねぇ。慣れるまでちょっと時間かかったけど、いつまでもやられっぱなしじゃないんだから!」
草食動物はフフン!とでもいうように胸を張った。
「あとさっきの話の続きだけど、故郷の王宮でつまらなさそうで不機嫌な顔してるくらいなら、ラギーパイセンが言ってたみたいにふんぞり返ってニヤニヤして悪巧みしてる方があなたに似合ってるわ」
クスクスと笑う草食動物にチェスで負けたが、気分は悪いどころかとても良かった。
(これだから、手放したくねぇって思うんだよな……こいつ)
* * *
「レオナ、本当にそんな遠くへ行くのか? 領地が欲しいなら国内でも……」
「わかってねぇな……いいか? 俺は夕焼けの草原の領主になりたい訳じゃねぇんだよ」
「決意は……変わらないのだな?」
「ああ」
「……いつの日か、お前と共に国をより良くできる日が来ると思っていたが……もう来ないのだな」
「……ああ」
「……そうか」
なんだか目が覚めてお父さんの所へ向かうとレオナおじさんがいた。
「う~ん、レオナおじさん?」
僕は目元を擦りながらレオナおじさんに話しかけた。
「げっ……お前、どうして起きてんだ。いつもならまだ寝てるだろ」
「あれ? おじさん、どこか行くの? いつ帰ってくる? 来週? その次?」
よく見るとレオナおじさんは普段着ではなく旅に行くような服装をしていた。
「………もうここへは帰らねぇ」
「えっ?」
もう、帰ってこない?
「いやだ! 行かないで、レオナおじさん!」
僕はレオナおじさんに必死にしがみついた。
(どうして? なんで? あ、もしかして……)
召使の人達がコソコソ話していたのを聞いたことがある。
『第二王子のレオナ様は王位を狙っている』
『チェカ様がいる限り、レオナ様は王にはなれない』
(もしも、僕が王様にならなかったら……レオナおじさんが王様になったら……レオナおじさんはどこにも行かないでくれる?)
「レオナおじさん! 行かないで! 僕、王様になれなくてもい「チェカ!!」」
レオナおじさんの大きな声が僕の言葉に重なった。
「ふざけんなよ……俺が渇望したものを簡単に捨てることは認めねぇ……許さねぇ。いいか? 王座はテメェが考えているよりも大きく、重い。最後の最後までしがみつけ……足掻け。それが俺に対してテメェが出来る唯一のことだ」
そう言ってレオナおじさんは行ってしまった。
外を見れば、日が昇って明るくなっていた。
(ああ、夜が明けた……)
* * *
新たな国が誕生した。
その国はとても小さな領土でとても少ない国民しかいなかったけれど、皆笑顔で暮らしていた。
その国の王は他の国の人からは頭も良く、強力な魔法を使いこなすが気難しい性格だと言われていたが、王妃や腹心の部下の前ではまるで少年のように笑うこともあったと言う。
そして、その国は珍しい響きの名前であった。
国の名前の由来は王妃の国の言葉であり、意味は『夜明け』であったそうな。
「『夕焼け』って日が沈んで暗くなるじゃない? それよりも日が昇って明るくなるように、誰にでも『夜明け』が来る方が縁起良さそうよね」
「うん…確かにあたしが新しい自分の国作っちゃえばって言ったわ。そして、レオナおじたんなら出来るだろうなとも思ってた、やる気がないだけで実力あるから。……でもね! 自分が王妃になるなんて、これっぽっちも考えてなかったわ!!」
「俺は俺が認めた雌以外傍に置く気はねぇって言っただろ。それに草食動物、俺が認めた雌はお前じゃないとは言ってねぇ」
「分かるか馬鹿ぁ!? それで『え?あたしのこと?(トゥンク)』なんて思う訳ないじゃない! どんだけ自意識過剰なのよ!」
「レオナさん相手に馬鹿って言えるのアンタしかいないッスね~」
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