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 一日中暑かったのが段々と涼しくなって夏から秋に近付いた頃、月明りが入る窓から外を見てリドルが言う。
「今日は満月か……道理で明るいと思った」
「まん丸で月が綺麗ですね……」
 リドルと一緒に窓越しの月を見て彼女が言うと、ふと思い出したように話を続けた。
「あ、そういえばあたしの故郷では『月が綺麗ですね』という言葉は『あなたを愛しています』という意味もあるんですよ」
「何故『月が綺麗ですね』という言葉が『あなたを愛しています』という意味になるんだい?」
 日本の文豪の感性は頭が良いだけでは理解されないらしくリドルは首を傾げた。
「あたしの故郷にいた有名な小説家さんがいて、その方は海外の言葉を教える先生もしていたんです。それで『あなたを愛しています』という海外の言葉を『月が綺麗ですね』と訳したって言われていて、そこから来ています」
「……随分遠回りな表現だね。この世界の人ならその言葉をそのまま受け取って告白だと気付かないんじゃなないかな」
「あたしの故郷の人達は照れ屋な人が多いからストレートに『あなたを愛しています』と言えないんだと思うわ。それに独りの食事より誰かと一緒に食べる方が美味しく感じるでしょう? それと同じで独りで見る月より好きな人と見る月はいつもより綺麗に見えるんじゃないですかね」
 確かに同じ料理だとしてもリドルが独りでする食事より彼女と一緒に食事をする方が美味しいように感じる。
「なるほど……」
「……リドルさんだったら『あなたを愛しています』という言葉の代わりに何て言います?」
 彼女からの問いにリドルは真剣に考える。
「……『キミが傍にいれば心が安らぐ』かな」
 実際リドルと彼女がナイトレイブンカレッジに在学中の頃、リドルがキレたときに彼女が抱き着くと怒りよりも羞恥心の方が勝り、リドルの怒りは収まっていた。そのせいか、『リドル寮長がキレたときはオンボロ寮の監督生を呼んで来い』というハーツラビュル寮の寮生達の中で暗黙の了解が出来たのだが、当の本人達はそれを知らないままでいた。
 今では彼女が抱き着くとリドルは羞恥心ではなく、温かさや安らぎを感じるようになった。
「今も安らいでます?」
「もちろん」
「ふふ、それなら嬉しいわ」
 彼女は嬉しそうにリドルに寄り添って、リドルは彼女を抱き寄せた。
 そんな二人を祝福するように優しく月の光が降り注ぐ。

 どうか、いつまでも彼女と一緒にいられますように――
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