未来設定
フェロー・オネストは愛煙家であるのだが、冬の時期だけ煙草を吸う回数が減る。
理由は単純かつ明快だ。
「煙草を吸いたいのなら吸ってもいいけど、ベランダで吸ってね」
行き倒れていたフェローとギデルを拾った彼女がそう言ったからだ。
彼女はフェローとギデルを自分の家に住まわせた上に朝・昼・夕と三食付きで2人に強制労働させることもなく、むしろ彼女自身が外出して稼ぎに行っているため、家にあまりいない状態だ。
最初は彼女に裏があるんじゃないかとフェローは疑っていたが、彼女はフェローとギデルを警察に突き出すことをしなかったし、仕事が休みの日は学校なんて通っていなかったフェローとギデルに勉強を教えるようなお人好しでフェローは『なんでこんな甘ちゃんなのに今まで無事で生きてこられたんだ?』と不思議に思うくらいだ。
いつだったか彼女に何故自分達を拾ったのかフェローは聞いた。
「……多分寂しかった、からかしら?」
「寂しかった?」
「ナイトレイブンカレッジにいた頃はずっと家にグリムやゴーストさん達がいてくれたけど、今は誰もいなくなったから……家に帰った時、誰かにいて欲しかったのかもしれないわね」
彼女は力なく微笑んで、そう答えた。
それ以降、彼女がいてもいいというのならフェローは遠慮なくいることにした。
そして彼女がフェローとギデルに守るように言ったルールの1つが『煙草を吸いたいのなら吸ってもいいけど、ベランダで吸うように』ということだった。
そのルールは冬以外の季節なら問題なかったが、冬の寒さにフェローは耐えられなかった。
獣人属は寒さに弱いため、ギデルなんかこたつから出るのを嫌がるくらいだ……正直に言えばフェローもこたつから出たくない。恐ろしいもんだぜ、こたつ。
一度だけ換気扇を回して室内で煙草を吸ったけど、何故か彼女にバレた。
「あたしが普通の人間だからって舐めてんじゃないわよ」
温かい室内にいるはずなのに彼女の後ろにブリザードが見えたし、フェローも寒気を感じた。
しかも後日、煙草の副流煙の恐ろしさについて家でプレゼンされた。
「……という訳で、煙草から立ち上がる煙である副流煙は体に良くないものが多く含まれているの」
難しい言葉の分からないフェローとギデルにも分かりやすいようにスライドを作った彼女はバリバリと仕事をしているだけあって説明も分かりやすかった。
「禁煙しないの?」
「禁煙なんてしねえ」
それでもフェローは煙草を吸い続けた。
* * *
そんなある日、フェローはいつものように煙草を吸おうとベランダに出て煙草を口に銜えたのだが――
「おっと」
足元に視線を向ければ、そこにはフェローと同じ耳と尻尾を持つ子供がしがみついていた。
「とーちゃ」
最近ちょこまかと歩き回るようになった子供がフェローの後をついてきたらしい。
フェローが腰を曲げて子供を部屋の中に戻そうと話しかける。
「火が点いてなかったからいいが……おいっ!」
しかし、フェローが口に銜えた煙草に興味深々な子供が手を伸ばそうとする。
(危ねえな……煙草を食って死なれても困る。仕方ねぇなあ)
フェローは銜えていた煙草を箱に戻し、子供を抱きかかえた。
「はぁ……まさか俺が禁煙する日が来るたぁなあ」
そしてフェローは子供を抱えていない方の手で煙草の箱をゴミ箱に捨てた。
「なんだこりゃ」
フェローの前にはガムやキャンディなどのお菓子が沢山置かれていた。
「禁煙するんでしょ? 口が寂しいときにでもいいんじゃないかと思ったんだけど」
どうやら彼女はフェローが禁煙することを知って、その手伝いをしてくれるらしい。
「よくもまあ、こんなに買ってきて」
「煙草の代わりに好きになるかもしれないじゃない。食べ過ぎは駄目だけどね」
クスクスと笑う彼女を見て、ピンと閃いたフェローは彼女を抱き寄せた。
「ん? 何?」
「お前がいれば菓子は要らねえ」
そしてフェローは彼女と唇を重ね、彼女から唇を離したときには彼女はヘロヘロになっていた。
「……いや、これは子供の教育に良くない」
「問題ねえ、ほれ」
フェローの示す先を見た彼女は驚いた。
ギデルが子供の目を手で覆っていた。
「み、見られてた!?」
子供には見られていなくてもギデルに見られていたことを恥ずかしく思った彼女は顔を真っ赤にしていて、フェローは笑った。
「ファッハッハッ、グハッ!」
彼女に腹パンされたフェローは腹を押さえた。
「いってぇな……別にギデルは構わねぇだろ、ガキじゃねぇんだからよ」
「ガキだ、ガキじゃないとそういう問題じゃないの! ……まぁ、2人だけのときなら口が寂しいのなら慰めてもいいわ」
煙草の箱をゴミ箱に捨てた日からフェローは煙草を吸うことは無くなった。
その代わりに彼女が「唇が腫れそうだわ」と文句を言う機会が増えたのだが、フェローの口が寂しくなったらちゃんと慰めたらしい。
理由は単純かつ明快だ。
「煙草を吸いたいのなら吸ってもいいけど、ベランダで吸ってね」
行き倒れていたフェローとギデルを拾った彼女がそう言ったからだ。
彼女はフェローとギデルを自分の家に住まわせた上に朝・昼・夕と三食付きで2人に強制労働させることもなく、むしろ彼女自身が外出して稼ぎに行っているため、家にあまりいない状態だ。
最初は彼女に裏があるんじゃないかとフェローは疑っていたが、彼女はフェローとギデルを警察に突き出すことをしなかったし、仕事が休みの日は学校なんて通っていなかったフェローとギデルに勉強を教えるようなお人好しでフェローは『なんでこんな甘ちゃんなのに今まで無事で生きてこられたんだ?』と不思議に思うくらいだ。
いつだったか彼女に何故自分達を拾ったのかフェローは聞いた。
「……多分寂しかった、からかしら?」
「寂しかった?」
「ナイトレイブンカレッジにいた頃はずっと家にグリムやゴーストさん達がいてくれたけど、今は誰もいなくなったから……家に帰った時、誰かにいて欲しかったのかもしれないわね」
彼女は力なく微笑んで、そう答えた。
それ以降、彼女がいてもいいというのならフェローは遠慮なくいることにした。
そして彼女がフェローとギデルに守るように言ったルールの1つが『煙草を吸いたいのなら吸ってもいいけど、ベランダで吸うように』ということだった。
そのルールは冬以外の季節なら問題なかったが、冬の寒さにフェローは耐えられなかった。
獣人属は寒さに弱いため、ギデルなんかこたつから出るのを嫌がるくらいだ……正直に言えばフェローもこたつから出たくない。恐ろしいもんだぜ、こたつ。
一度だけ換気扇を回して室内で煙草を吸ったけど、何故か彼女にバレた。
「あたしが普通の人間だからって舐めてんじゃないわよ」
温かい室内にいるはずなのに彼女の後ろにブリザードが見えたし、フェローも寒気を感じた。
しかも後日、煙草の副流煙の恐ろしさについて家でプレゼンされた。
「……という訳で、煙草から立ち上がる煙である副流煙は体に良くないものが多く含まれているの」
難しい言葉の分からないフェローとギデルにも分かりやすいようにスライドを作った彼女はバリバリと仕事をしているだけあって説明も分かりやすかった。
「禁煙しないの?」
「禁煙なんてしねえ」
それでもフェローは煙草を吸い続けた。
* * *
そんなある日、フェローはいつものように煙草を吸おうとベランダに出て煙草を口に銜えたのだが――
「おっと」
足元に視線を向ければ、そこにはフェローと同じ耳と尻尾を持つ子供がしがみついていた。
「とーちゃ」
最近ちょこまかと歩き回るようになった子供がフェローの後をついてきたらしい。
フェローが腰を曲げて子供を部屋の中に戻そうと話しかける。
「火が点いてなかったからいいが……おいっ!」
しかし、フェローが口に銜えた煙草に興味深々な子供が手を伸ばそうとする。
(危ねえな……煙草を食って死なれても困る。仕方ねぇなあ)
フェローは銜えていた煙草を箱に戻し、子供を抱きかかえた。
「はぁ……まさか俺が禁煙する日が来るたぁなあ」
そしてフェローは子供を抱えていない方の手で煙草の箱をゴミ箱に捨てた。
「なんだこりゃ」
フェローの前にはガムやキャンディなどのお菓子が沢山置かれていた。
「禁煙するんでしょ? 口が寂しいときにでもいいんじゃないかと思ったんだけど」
どうやら彼女はフェローが禁煙することを知って、その手伝いをしてくれるらしい。
「よくもまあ、こんなに買ってきて」
「煙草の代わりに好きになるかもしれないじゃない。食べ過ぎは駄目だけどね」
クスクスと笑う彼女を見て、ピンと閃いたフェローは彼女を抱き寄せた。
「ん? 何?」
「お前がいれば菓子は要らねえ」
そしてフェローは彼女と唇を重ね、彼女から唇を離したときには彼女はヘロヘロになっていた。
「……いや、これは子供の教育に良くない」
「問題ねえ、ほれ」
フェローの示す先を見た彼女は驚いた。
ギデルが子供の目を手で覆っていた。
「み、見られてた!?」
子供には見られていなくてもギデルに見られていたことを恥ずかしく思った彼女は顔を真っ赤にしていて、フェローは笑った。
「ファッハッハッ、グハッ!」
彼女に腹パンされたフェローは腹を押さえた。
「いってぇな……別にギデルは構わねぇだろ、ガキじゃねぇんだからよ」
「ガキだ、ガキじゃないとそういう問題じゃないの! ……まぁ、2人だけのときなら口が寂しいのなら慰めてもいいわ」
煙草の箱をゴミ箱に捨てた日からフェローは煙草を吸うことは無くなった。
その代わりに彼女が「唇が腫れそうだわ」と文句を言う機会が増えたのだが、フェローの口が寂しくなったらちゃんと慰めたらしい。
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