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お互いに在学中

「ツノ太郎ー! いるー?」
 会場でいなくなったツノ太郎を探すため、監督生は鐘楼の中に入った。
「ツノ太郎の推しがいるって聞いたから来たけど、こっちじゃなかったかしら……」
 マレウスは話が出来るガーゴイルへ会いに行ってると思った監督生だが、鐘楼の中にマレウスの姿はなかった。
「大聖堂に戻ろう。……あっ」
「む……」
 階段を降りようとした監督生の前にロロがいた。
「えっと……こんばんは」
 ロロとあの紅蓮の花騒動以降初めて会った監督生はとりあえず挨拶をすることにした。
「……こんばんは」
 するとロロが意外にも挨拶をし返してくれた。
(律儀な人だ……)
 監督生がそんなことを考えていると、ロロが話しかけてくる。
「……魔法士ではない卿を巻き込んでしまったことはすまないと思う」
「それは心の底から反省してください。そしてあたしを助けてくれたトレイン先生とツノ太郎に感謝してください」
 ロロの言葉から『もし自分が魔法士だったら謝罪してないな、この人……』と察しながらも監督生は言葉を続ける。
「大聖堂の床が無くなったとき、死ぬかと思いました。生徒会長さんはあたしが魔法を使えないのを知っているから、本当に殺す気なのかと……」
「……そんなつもりはない」
 ロロは監督生から視線を逸らして言った。
「説得力皆無ですね。あんな悪意に満ちたような顔をしておいて……それに実際に地下水路に落とされた後ですし」
「……」
「もし、本当に悪いと思っているのなら1つ質問に答えてください」
「……なにかね?」
 監督生はマレウス達から今回の事件を起こしたロロの動機を聞いて気になったことがあった。
 それは――
「あなたは魔法や魔法士がいなくなった世界で生きていけますか?」
 三人から詳しい話を聞いた監督生はロロ・フランムが『自分の身も心も薪として復讐の炎を燃やしているような男』だと思った。
 今は憎んでいる魔法や魔法士が存在しているからいいだろう。
 だけどもしロロ本人が望んだように魔法や魔法士がこの世界から消えたら……復讐の炎が消え去ったら、何が残るか? ……最後に残るのは弟を守れなかった罪の意識だけだ。
「……どういう、ことだ」
「『この世界から魔法と魔法士が消えました、めでたしめでたし』……物語はそれで終わることが出来ても、物語ではないあなたは目的を果たした後どうするのかと聞いています」
「それは……」
 ロロは何も言えず黙ることしか出来ない。
「もしかして何も考えていなかったんですか? それはいけませんね」
「うるさい! お前に私の何が分かる!」
 ロロは魔法や魔法士のいない世界にすることが自分の使命だと信じて、ずっと生きてきた。
 それ故、魔法や魔法士の存在を世界から消すという大きな目標はあっても、目標を果たしたその先のことは考えていなかったのである。
 そのことを指摘され、ロロは監督生に自分の使命を否定されたような気がして、感情的になってしまう。
「出会って1日2日しか経ってない人間の気持ち全てを分かってたまりますか!」
 監督生も勢いよく返した。
「自分のことを何も話さない人のことを分かれとか甘えたことを言ってんじゃないですよ! それに、あなた以外にも家族を失って嘆き悲しんでる人はこの世界に沢山います! ……イデア先輩だってそうです」
「……あの男が?」
「……弟さんを失いました」
「まさか……」
 確かに鐘楼の最上階でイデアがロロに「分かりたくなくても分かっちゃうんですよねえ」「結構似た者同士っぽいんで」と言っていたが……。
(あの男も『弟』を失っていた……?)
「……いなくなった人はその人を覚えている人の記憶の中でしか生きていけない。あなたの弟さんは魔法のせいで不幸せな人生しかなかったですか? 魔法のおかげで楽しく幸せなときは一欠けらもなかったですか?」
 監督生の言葉を聞いて、ロロの頭に浮かんだのは『お兄さま!』と呼んで楽しそうに魔法を使っている弟の姿。
「……人を誑かす悪魔のような女め」
「褒め言葉として受け取っておきましょうか。あなたの心に一石を投じることが出来たのなら」
 ロロからの悪態も監督生はサラリと応えた。
「あたしは神でもなければ神の言葉を聞く聖職者でもないから、あなたを救うことも導くことも出来ない。人間としてあたしが出来るのは可能性を、選択肢を示すことだけ。だから生徒会長さん、沢山悩んで選んでください? このままずっと復讐の炎を燃やし続けるのか、使命を果たして自分を責め続けるのか、それとも新たな別の道を見つけるのかを……ね」
 そして監督生は微笑んだ。
 そのときの彼女の微笑みが聖母のように慈愛に満ちたものだったのか、それとも人を誑かす妖艶な悪女のようだったのか……それを知るのはロロ・フランムだけである。
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