NRC在学中
マレウス・ドラコニアの生きるべき道は誕生したときにほとんど決まっていた。
『妖精の王として茨の谷を治める』
しかし、たった1人の人間との出会いがマレウスへ大きな変化をもたらした。
「……フフッ」
「どうしたのじゃ、マレウス。突然笑って」
何かを思い出して笑ったマレウスを見てリリアは内心驚いた。
基本的に感情を動かすことのないマレウスが笑うなんて!
「いや……最近面白い人間と出会ったんだ。僕のことを『ツノ太郎』と、呼んで……」
またそのときのことを思い出したらしく、マレウスは笑いすぎてその先の言葉を言えなかった。
(マレウスのことを知らぬ人間など、この学園におるのかのう?)
リリアは後からその人間が異世界から来た魔法の使えない『オンボロ寮の監督生』だと知った。
○ ● ○
マレウスは窓越しに雪の積もった外の光景を眺めていた。
「また今年も招待されなかった……」
「そう拗ねるでない、マレウス」
「別に拗ねてなどいない……リリア、これを」
明らかに不機嫌そうな顔をしているマレウスは魔法でリリアの前に封筒を飛ばした。
「これはなんじゃ?」
「ただのホリデーカードだ。オンボロ寮のヒトの子へ届けてくれ」
リリアは封筒を裏返してマレウスに声をかける。
「差出人がイニシャルでいいのか?」
「ああ、ヒトの子は僕の名を知らないからな」
(本当の名を知られて怯えられたり、離れて欲しくないと素直に言えばいいのに……)
茨の谷のもの以外にマレウスが関心を持つことを喜ばしいと思うのと同時にリリアは心配になった。
● ○ ●
「……」
「マレウスや、何を考えておるんじゃ?」
総合文化祭が終わった後、思い耽るマレウスにリリアは声をかけた。
「今日、ヒトの子が僕の正体を知った」
「それはそれは……。監督生のマレウスに対する態度は変わってしもうたのか?」
「いや、何も変わらなかった……」
そしてマレウスは自分の胸に手を置いた。
「何故僕は何も変わらなかったヒトの子に安堵したのだろう?」
リリアはマレウスの胸に置かれた手の上を指差した。
「よいか、マレウス。わしが言うのは簡単じゃが、その原因は自分で気付かねばならぬ。その原因を知ったとき、お主は成長するであろう」
「ああ、分かった」
○ ● ○
オーバーブロットをしたマレウスをシュラウド兄弟が頑張って正気に戻した後のこと――
監督生は激怒した。
必ず情緒未発達な次期妖精王を叱らねばならぬと決意した。
しかし監督生にはこの世界のことが分からぬ。
監督生は異世界人である。
野を駆け、動物達と遊んで暮して来た。
けれども厄介事に対しては人一倍に敏感であったから思った。
この次期妖精王を何とかしなくては!
「ツノ太郎がリリア先輩やシルバー先輩のことを思ったのは分かるわ。でも本人達がしてくれって望んだ?」
「……望んでいない」
「ツノ太郎、声のボリュームを上げようね」
マレウスと監督生の声が響くが、それ以外の人達は静かに見守っていた。
(あのマレウス・ドラコニアを床に変わった足の組み方で座らせて、目の前にドーンと立って叱る監督生……なんてシュール)
ちなみにドラコニアン代表としてセベクが文句を言ったら監督生から倍の声量で「お黙り!!」と言われて負けていた。
「望んでいない」
「そう2人は望んでないのよ……ツノ太郎、一番上に立つものは独断と偏見で決めてはいけないの。誰かが悲しんでいるとしても、どれだけ自分が嫌だと思っていても……。それをしてしまったらただの暴君だわ」
「しかしこうしなければ、リリアはいなくなってしまう……お前も帰ってしまう」
悲しんでいる表情をするマレウスに近付いて監督生はマレウスの頬をムニッと軽く引っ張った。
「リリアが沢山考えて出した答えを否定しないで! あたしの答えを勝手に決めないで! というか、帰って欲しくないのなら声に出しなさいよ!」
「言ったらお前は帰らないのか?」
マレウスはそんなこと出来っこないという態度でいたが、監督生はけろっと言い放つ。
「別に元の世界には未練ないし、帰って欲しくないって言うのなら帰んないわよ」
「は?」
マレウスは目を瞠った。
傍でシルバーに支えながらマレウスと監督生のやり取りを見ていたリリアは元気だったら笑い転げていただろう。
(くふふ、マレウスを言い負かす人間がおるとは……これならわしがいなくなっても、彼女が傍にいれば何とかなるじゃろ)
もしリリアがいなくなってマレウスが悲しんだとしても監督生が傍にいて、間違ったことをしたら今のように叱り飛ばしてくれる。
でも監督生を失うことになったら、またマレウスは今回のようなことをするのかもしれない。
きっとこの世界で魔法を使わずにマレウスを殺せる人間は彼女だけ。
『妖精の王として茨の谷を治める』
しかし、たった1人の人間との出会いがマレウスへ大きな変化をもたらした。
「……フフッ」
「どうしたのじゃ、マレウス。突然笑って」
何かを思い出して笑ったマレウスを見てリリアは内心驚いた。
基本的に感情を動かすことのないマレウスが笑うなんて!
「いや……最近面白い人間と出会ったんだ。僕のことを『ツノ太郎』と、呼んで……」
またそのときのことを思い出したらしく、マレウスは笑いすぎてその先の言葉を言えなかった。
(マレウスのことを知らぬ人間など、この学園におるのかのう?)
リリアは後からその人間が異世界から来た魔法の使えない『オンボロ寮の監督生』だと知った。
○ ● ○
マレウスは窓越しに雪の積もった外の光景を眺めていた。
「また今年も招待されなかった……」
「そう拗ねるでない、マレウス」
「別に拗ねてなどいない……リリア、これを」
明らかに不機嫌そうな顔をしているマレウスは魔法でリリアの前に封筒を飛ばした。
「これはなんじゃ?」
「ただのホリデーカードだ。オンボロ寮のヒトの子へ届けてくれ」
リリアは封筒を裏返してマレウスに声をかける。
「差出人がイニシャルでいいのか?」
「ああ、ヒトの子は僕の名を知らないからな」
(本当の名を知られて怯えられたり、離れて欲しくないと素直に言えばいいのに……)
茨の谷のもの以外にマレウスが関心を持つことを喜ばしいと思うのと同時にリリアは心配になった。
● ○ ●
「……」
「マレウスや、何を考えておるんじゃ?」
総合文化祭が終わった後、思い耽るマレウスにリリアは声をかけた。
「今日、ヒトの子が僕の正体を知った」
「それはそれは……。監督生のマレウスに対する態度は変わってしもうたのか?」
「いや、何も変わらなかった……」
そしてマレウスは自分の胸に手を置いた。
「何故僕は何も変わらなかったヒトの子に安堵したのだろう?」
リリアはマレウスの胸に置かれた手の上を指差した。
「よいか、マレウス。わしが言うのは簡単じゃが、その原因は自分で気付かねばならぬ。その原因を知ったとき、お主は成長するであろう」
「ああ、分かった」
○ ● ○
オーバーブロットをしたマレウスをシュラウド兄弟が頑張って正気に戻した後のこと――
監督生は激怒した。
必ず情緒未発達な次期妖精王を叱らねばならぬと決意した。
しかし監督生にはこの世界のことが分からぬ。
監督生は異世界人である。
野を駆け、動物達と遊んで暮して来た。
けれども厄介事に対しては人一倍に敏感であったから思った。
この次期妖精王を何とかしなくては!
「ツノ太郎がリリア先輩やシルバー先輩のことを思ったのは分かるわ。でも本人達がしてくれって望んだ?」
「……望んでいない」
「ツノ太郎、声のボリュームを上げようね」
マレウスと監督生の声が響くが、それ以外の人達は静かに見守っていた。
(あのマレウス・ドラコニアを床に変わった足の組み方で座らせて、目の前にドーンと立って叱る監督生……なんてシュール)
ちなみにドラコニアン代表としてセベクが文句を言ったら監督生から倍の声量で「お黙り!!」と言われて負けていた。
「望んでいない」
「そう2人は望んでないのよ……ツノ太郎、一番上に立つものは独断と偏見で決めてはいけないの。誰かが悲しんでいるとしても、どれだけ自分が嫌だと思っていても……。それをしてしまったらただの暴君だわ」
「しかしこうしなければ、リリアはいなくなってしまう……お前も帰ってしまう」
悲しんでいる表情をするマレウスに近付いて監督生はマレウスの頬をムニッと軽く引っ張った。
「リリアが沢山考えて出した答えを否定しないで! あたしの答えを勝手に決めないで! というか、帰って欲しくないのなら声に出しなさいよ!」
「言ったらお前は帰らないのか?」
マレウスはそんなこと出来っこないという態度でいたが、監督生はけろっと言い放つ。
「別に元の世界には未練ないし、帰って欲しくないって言うのなら帰んないわよ」
「は?」
マレウスは目を瞠った。
傍でシルバーに支えながらマレウスと監督生のやり取りを見ていたリリアは元気だったら笑い転げていただろう。
(くふふ、マレウスを言い負かす人間がおるとは……これならわしがいなくなっても、彼女が傍にいれば何とかなるじゃろ)
もしリリアがいなくなってマレウスが悲しんだとしても監督生が傍にいて、間違ったことをしたら今のように叱り飛ばしてくれる。
でも監督生を失うことになったら、またマレウスは今回のようなことをするのかもしれない。
きっとこの世界で魔法を使わずにマレウスを殺せる人間は彼女だけ。
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