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NRC在学中

 交流会が終わり、ノーブルベルカレッジからナイトレイブンカレッジへ帰る日のこと――

「あ! ツノ太郎いた!」
「ん? ああ、お前か。どうかしたのか?」
 マレウスの姿が見当たらないため、鐘楼の中へ入った監督生はマレウスを見つけた。
「『どうかしたのか?』じゃないわよ。皆でナイトレイブンカレッジへ帰ろうとしたのにツノ太郎の姿が見当たらなくて探してたんだから。セベクの慌てっぷりを見せてあげたいくらいだわ」
 セベクが大声で「若様ー! 若様ー!」と叫ぶだけで耳がキーンとするので、皆は耳を押さえていた。
「それはすまないことをしたな。……だが、もうここのガーゴイルたちに会えないのかと思うと名残惜しくてな……」
 哀愁漂うマレウスの視線の先にはノーブルベルカレッジのガーゴイルたちがいた。
「マレ、もう帰っちまうんだな……」
「寂しくなりますね……」
「わぁ! 本当に喋るのね!」
 マレウスから喋るガーゴイルのことを聞いてはいたが、実際に見聞きすると驚いてしまう。
「君は誰だい?」
「はじめまして、ガーゴイルさんたち。あたしはナイトレイブンカレッジから来ました。皆によく『監督生』って呼ばれているから、そう呼んでくださいな」
 監督生はガーゴイルに自己紹介をした。
「ナイトレイブンカレッジからってことはマレと同じ場所から来たんだね」
「ええ、そうよ。それにしてもツノ太郎、可愛いあだ名が出来たのね」
「ああ、ガーゴイルが付けてくれた」
 とても嬉しそうにニコニコと笑うマレウスを見て、監督生は『ツノ太郎、可愛いな……』と思った。
「君はマレのことをツノ太郎と呼ぶんだね?」
「彼と最初出会ったときに名前を教えてくれなくて好きに呼んでいいって言ったの。だから頭に角が生えてるから『ツノ太郎』だって」
 マレウスと出会った頃を思い出して監督生はフフッと笑った。
「角が生えてるから『ツノ太郎』……じゃあ、おいらたちも『ツノ太郎』?」
 ガーゴイルにはツノ太郎と同じくらい立派な角があった。
「うーん……全員『ツノ太郎』だと区別がつかなくて困るから、『ツノ次郎』・『ツノ三郎』・『ツノ四郎』でどう?」
 監督生はガーゴイルを順番にビシッと指差して名前を付けていった。
「ツノ次郎……」
「ツノ三郎……」
「ツノ四郎……」
 ガーゴイルたちが自分に付けられた名前を呟いた。
「ツノ太郎合わせて四人兄弟みたいでいいんじゃないかしら」
「四人兄弟……」
 今度はツノ太郎が呟いた。
「嬉しいな! おいらたちにも名前が付いた!」
「しかもマレも合わせて兄弟みたいですって!」
「マレ、大丈夫だよ! おいらたち、ツノ四兄弟はまたきっと出会えるさ!」
「……ああ、そうだな」
 そしてマレウスはガーゴイルたちと抱き締め合った後、ガーゴイルたちに見送られて鐘楼を去ったのだった。

「ふふっ、ツノ太郎に兄弟が出来たわね」
「恐れ多いが、とても嬉しく思う」
「……ねぇ、ツノ太郎」
「ん?」
 マレウスの前を歩いていた監督生が足を止めたので、マレウスも少し遅れて足を止めた。
 そして監督生は振り返ってマレウスを見て問いかける。
「あたしとツノ太郎の関係ってなんて言うんだろうね?」
 監督生とマレウスは友達と呼ぶほど互いのことを知っていない。先輩と後輩と呼ぶほど指導したり世話をしたりしていない。他人と呼ぶほど無関心ではない。
「それは……」
 相手に笑っていて欲しいと、幸せでいて欲しいと祈り、一緒にいたいと願う……この関係になんという名前を付ければいいのだろう?
 言葉が出てこないマレウスに監督生は眉を下げて困ったように笑った。
「ツノ太郎、変なこと言ってごめんね。ほら、早く行こう。皆、待ってる」
 監督生はマレウスの手を握って、歩き始めようとしたが――

 グイッ!

「わっ!」
 マレウスに手を引かれた。そして額に柔らかな感触がした。
「へ?」
(今のもしかして……デコちゅー?!)
 監督生がピシッと固まったのに気付かぬまま、マレウスは言葉を続ける。
「お前が誰かの悪意で傷付くことがなければいいと思うくらいには大事だと思っている」
 そしてマレウスは監督生の前髪をサラリと撫でた。
「……ツノ太郎、一応王子様なのに人間の小娘相手にそんなことしていいの?」
「ただ小さな祝福を贈っただけだから問題ない」
「小さな祝福?」
「お前には害がないから安心していい」
 マレウスは自信満々そうな表情でそう言った。

 後日、監督生に対して悪口を言ったり、虐めようとしたりする男子生徒に雷が落ちるようになった。ギリギリ当たらないところに雷が落ちているのだが、それでも怖いものは怖いため、監督生に悪意のある者が近寄らなくなった。
「ツノ太郎の祝福って天罰とか神罰とかの類なのかしら? でも本当にあたしには害がないあたり流石ね……」
 それ以降監督生の二つ名『猛獣使い』『歩くオバブロ製造機』の他に『鉄槌を下す者』が増えた……なんで?
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