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ワンピ

 いつまで経ってもあいつの頭の中がどうなってるのかは分かりやしなかった。
 汗ばんでつるつるしてて、おれより一回り小さいけど決して華奢では無い手にぎゅうっと繋がれているのは、自分の白く骨が出っ張ってて同じく若干湿ってる手。これ以上手汗を出さないために必死に手のひらの汗腺を引き締めようとするもこいつがにぎにぎとおれの手を確かめるように手を動かすのでそれどころじゃない、おれはおれが情けねえ。恥ずかしいわけではない。これが日中の人通りが多い道のど真ん中だとしたら今すぐ大根だとかとシャンブルズしているが、今は夜の殆ど人が通らないような裏路地だ。だからこそなのか?おれの意識は隣にいるおれの女1人ばかりに注がれてしまっていた。
 恋人になったのは1ヶ月前。あいつから言ってきたから付き合ってやった。このバカと言ったら付き合うの意味もよく分かっていなくて、ベタベタ触ってくる上に顔にキツツキかってレベルでキスしてきやがるから、そういうのはオツキアイしてる恋人同士がやるんだよって言ったらじゃあオツキアイする!と言われ今に至る。馬鹿馬鹿しい。敵船の船長同士だぞ。しかもおれより7歳も年下でほぼガキだし全然タイプじゃねぇ。おれは頭の中に金髪の癖っ毛で優しくておれの全てであるちょっと間抜けな命の恩人を思い浮かべる。全然ちげえ、コラさん、おれはコラさんみたいな人が良いと思うんだが。
 しかしながら、おれの夜の海のように静かだった性欲は7歳年下のおれの女により、それはもう思春期のマスかきを覚え始めた男と同じくらいに目覚めてしまったのだ。
 おれの何倍かはデカい胸。人の胸部なんて気にした事ねえがコイツのはデカすぎる。いつもペラペラの赤色のシャツみたいなのを羽織っているがおれは喋る時どこを見れば良いのかさっぱり分からなかった。頂上戦争の時にコイツを預かった時はそれなりに緊急事態だったので気づかなかったし、パンクハザードの時も厚着だったし、そう、気づいたのは一緒の船に乗ってる時だ。風呂場に突っ込んできたコイツの筋肉質で健康的な裸体にくっついてる二つのでかい餅が揺れてるのを見ておれは衝撃を受けた。その後おれは、くそ、思い出したくも無いが殆ど初めて、自慰行為をした。性の目覚めってやつだ、自己嫌悪に苛まれたのもその時が初めてかもしれねえ。自分が変わっていくのが怖かった。おれは女が好きだったのか。今まで男に欲情したこともなければ恋愛もしたことすらなかったし、その時はこれから先そういうことがあるとも思えなかったのだ。そもそもおれはドフラミンゴの頭に引き金を引き脳漿をぶち撒けるところを見るために生きてきたからそれ以外のことはさっぱりだった。おれが強く想ったのはコラさんだけで、多分、これから人生でコラさん以上の人間なんて現れる訳も無いと思っていたからどうでもよかったというのも、恋愛だの何だのに積極的になれない理由だっただろうか。
 おれは、体と脳にコラさんを刻み込み、コラさんという静かな凪を全身に宿して共に死ぬ予定だったのだ。
 それがデカい乳にやられてこのザマだ。
 同船してた時なんて毎日のように後ろからやってきてよく伸びる腕で巻きつかれては胸…いやもう何だこれ胸でも無いだろこんなんでよく今まで冒険出来たなこいつ…を押し付けられ、鳥肌を立たせながらシャンブルズで鬼ごっこが始まる。あまりのしつこさに怒鳴ったらしばらく落ち着いたが、今度は寝ている時に顔を鳥みてえにつつかれる始末。
 そうだ、あの時のアイツはちょっと変だった。顔がくすぐったくて薄く目を開けると、長いまつ毛と大きく静かな夜の海が鼻先にあって、形の良くて何の瑕も無いおでこに短く前髪が揺れていた。甲板で寝ていたおれに乗っかってお前は何してんだ、と怒鳴ろうと思ったがやたら神妙な顔をしているので、飲み込んだ。するとまたほっぺたを唇でつっつこうとしてきたから顔を引っ掴んで止めた。何で止めるんだ、と言うから恋人同士がやるもんだと教えてやったらじゃあそうなる、とかほざきやがる。
 それだけかよ。唇くっつけたいだけで敵と恋人になれるのか、お前は。
 好き、とか分からねえんだろうな。何となく目の前の女の頭の中が分かったような気がした。ただおれがお前に絆されないのが珍しくて興味深いだけだろう。おれもちょうどお前の身体に興味があったところだよ、なんて言葉はコラさんに怒られてしまいそうなので、オツキアイしても良いと答えた。

 それから2回ほどデートっぽいことをしたが、恋人らしいことなんざお互い手を繋いでたまに口と口をくっつけるくらいだった。
 想像以上にコイツに手を出すことは困難だった。経験が無いせいなのか、おれがそういうのに向いてないのか欠陥人間なのか。唇を啄んで服の上から軽く触れてみるも柔らかくて、ふにふにして指が勝手に沈んでいった。ベポのやらかい感じとはまた違え、女の体というのはどこもかしこもぶにぶになのか?触っているだけなのに腹の下あたりがゾクゾクして、こいつの割とゴツい手で触られたら絶対気持ちいいだろうな、というのは分かりつつもそれ以上は何もしなかった。しなかったというより、出来なかった…海賊なんだからとっとと組み敷いて奪ってしまいたかったが、この女の笑った顔だとか、繋いだ手の曲がった指の関節とか、何でもない風景が目の前を過ぎていって急にまだダメだ、と思ってしまう。こいつもおれも子供でもなんでもないのに。
 
「とらおー、はらへった!」

 悶々と悩み黙り込むおれなんか気にせず繋いでる方の手をブンブン振り回しながらへらへらと笑う。
 ……取り消す、クソガキだコイツは……

「もう店は全部閉まってる。我慢しろ」
「朝まで飯抜きとか耐えられねえぞ!」
「夕飯散々食ってただろ。…ナミ屋が雨が降るって言ってた、そろそろお前も船に戻って…」

 寝ろ、と言おうとすると、ポツ、ポツ、と頭の上に何か降ってきた。ヤバい、と言う前にそれはすぐスコールとなり、バケツをひっくり返したみてえに雨が降ってきた。

「…こんなんじゃすぐ帰れねえな」
「びしょ濡れになっちまったあ、さみー」

 …実はお前と手繋いでるだけでおれはこの雨と同じくらい下着を濡らしまくって、会うたび帰りの船で自己嫌悪に陥りながら洗ってると告白したらどういう顔するだろうか。
 絶対しねえけどなそんな告白低俗すぎる。
 おれはいつからこんなくだらないことを考える人間になったのか。コラさんが言ってた自由っていうのは、頭真っピンクな状態のことも含まれているだろうか。そうじゃなかったらおれは親不孝者ならぬコラ不孝者で…

「これ止むのかー?」
「……止まなかったらお互い走って帰るしかねえな」
「………」
「麦わら屋?」
「………」
「………タコになっちまったのか?」
「ちげえよ!!!!!キス待ちだ!!!」

 えう゛、と変な声が出るのを咳払いで必死に誤魔化す何なんだ本当に何考えてるんだ、キ、キス待ち?改めまして過ぎるだろ。

「散々してるじゃねえか今更何なんだ」
「むーどってやつだ!」
「…誰から教わったんだ」
「ナミ。むーどっていうのが大事で、待つことも重要らしいぞ」
「はあ…そんなの別に良い。調子が狂う」
「でも好きだし」

 今度こそ本気で変な声が出た。
 すき、好き?おれがずーっと悶々悩んでることをこいつは簡単に言ってしまう。ああくそ、育ちが多分全然違えんだなきっとそうだ。分かってねぇくせに、本当の好きなんて…本当の好きはコラさんみたいに与えることであって奪うことじゃなくて、こうやって不純な動機で探り合うんじゃ無くて、もっと…だから…
 雨音がうるせえ。
 自分がどうしたいかわからなかった。強いていうならお前の胸が触りたい。なんて。
 深くため息をつくと、隣で笑う気配があって顔が熱くなる。何笑ってんだと顔を向けると、こつんと鼻の先同士がぶつかった。

「いてっ」
「……」
「にしし、暗くてよく見えなかった」

 ペタペタとあたたかい手が無遠慮に、おれの顔のパーツを確かめるように触れる。唇を優しく親指で撫でられた後に、薄くてちょっと湿ったのがぷにとくっついた。
 何度か角度を変えて啄み返してやると、鼻から息が漏れる。2年前と比べて女っぽくなった細い腰に手を回し、ゆっくりと上の方へ撫でるとくすぐったそうに身を捩らせた。お返しにと言わんばかりにケツを揉まれて思わず体が跳ねる。

「……辞めろ、濡れる…」
「あ?屋根ついてんぞ」
「…そうだったな。気のせいだった」

 とにかく、雨が止むまでは、好きが真っピンクでも良いことにしよう。
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