小さな恋の詰め合わせ
「ラブソング作りませんか!?」
「・・・急にどうしたの、気でも狂った?」
テストも無事終わり、校庭の木が赤く染まり始めた日。
最近涼しいな、読書日和だなんて思いながら、僕は自分の席で本を読んでいた。
そんな僕の至高のひと時を、君は大声で破ってきた。
「ラブソング!!作りませんか!!」
「うわうるさっ、さっきも聞いたよそれ」
君は興奮冷めやらない様子で目を輝かせている。手もブンブン振り回している。当たったら絶対痛いから止めてほしい。
興奮すると手を振り回すのは、君の悪い癖だと思う。何回その餌食になったことか。しかも毎年強くなっている。この馬鹿力。
とりあえず君を座らせて、お茶を飲ませて、深呼吸させる。こうすれば君は基本落ち着く。
「落ち着いた?」
「うん、あのねあのね、ラブソング作りたい」
・・・どうやら駄目だったらしい。
こうなると君は言うことを聞かない。僕が「うん」と言うまで一生喋り続ける。
小さいときからずっとそうだ。僕は部屋で本を読んでいたかったのに、僕の家を顔パスできる君は勝手に入ってきて外へ連れ出そうとする。拒否すると泣く。
君の泣き顔には弱いので、だいたい言うことを聞いてしまう。
「・・・ラブソング作るってなに」
しぶしぶ君に尋ねると、君の顔は分かりやすく明るくなった。漫画だったら『パアッ』みたいな、そういう擬音がつくくらいに。
「えっとねえっとね、今って秋じゃないですか」
「そうですね」
「秋って、ラブソング少なくない?てか聞いたことなくない?」
「それはまあ、そうだね」
「だからね、作りたくない?私と君で秋のラブソング」
まるで何かのプロデューサーのように、僕を指さして君はウインクした。
もしこれが告白なら五点だな。
「う~ん、却下」
「なんで!?」
断られると思っていなかったのか、本気で驚いた声をあげる。
いや、逆になんでそんな驚けるんだ。それはちょっと僕をなめすぎじゃない?
「理由はね、三つあるよ。一つ目、めんどくさい。二つ目、多分探せば出てくる。三つ目、僕達って楽器できたっけ?」
最初の理由は僕の圧倒的個人の理由だけど、三つ目の理由は結構大事なことじゃないかな。
そう、僕の記憶が正しければ、僕達は楽器なんて弾けない。
「昔ピアノやってて~」とかもない。家に置いてすらいない。楽譜も読めるかどうか怪しい。
強いていうならリコーダーはできるけど、リコーダーを使ったラブソングなんて聞いたことがない。しかも僕も君も下手くそだから、誰かへの愛を歌っているときに『ぷぺ~』なんて音が鳴るのは、さすがに間抜けすぎる。
「ふっふっふ~、分かってないなぁ」
これで諦めるだろうと思っていた僕の考えとは裏腹に、君はニヤニヤしながらこっちを見ている。なんか気味悪いな。
「めんどくさい?そんなのやってる間に忘れる。探せば出てくる?私たちで作るからいいんじゃんか!楽器ができない?これがあるでしょうが!!」
そう言うと、君はリュックから何かを取り出した。
それは・・・タブレット?
「そう!文明の利器!これさえあれば大丈夫!」
両手で持ったそれを僕の机の上に置く。なんか手でキラキラ~とかしてる。何やってるんだこいつ。
でもそうか、タブレットか。そういえばあったな、音楽作れるアプリ。
楽器を打ち込むだけで曲ができるとかで、一時期それの制作過程を見せる動画が流行ってた気がする。「えっ、アプリで打ち込んでるんですか?すごーい!」みたいなコメントも、見たことある気がする。
確かにこれなら、楽器ができない僕らでも、一応曲っぽいものを作れるだろう。音楽の教科書とにらめっこすれば、ちゃんとした曲が完成するかもしれない。
・・・でもなぁ。
君は知らないかもだけど、僕は存外めんどくさがり屋だ。昔は君の泣き顔と迫力に負けていつも付き合ってただけで。けど、もう高校生だし、僕も断る力をつける良い機会かもしれない。
そう、きっとこれは神様が僕に与えた試練。
甘やかしてばかりではいられないってこと。
「あのね、タブレットがあっても僕は・・・」
そこで僕の言葉は途絶えた。
「・・・やっぱり、だめ?」
そう言って、君が上目遣いで僕を見ていたから。
今でこそ泣かないけど、小さいときは泣く前にそんな顔をしていた。
昔から変わらない、僕にお願いごとをするときの顔。
昔から変わらない、愛しい顔。
あぁ、ずるいなぁ。そんな顔でそんなこと言われたら、僕は頷くことしかできないじゃないか。
神様、ごめんなさい。僕は誘惑に負ける弱い男です。
そう思ってため息をついて、僕は少しほほえんで言った。
「まあ、テストも終わったし、しばらくは暇だしね。・・・いいよ、やろうか」
さっきまで少し曇っていた君の顔が、晴れたみたいな笑顔を浮かべる。
初めて聞く季節のラブソングが君と作ったもの、か。
それもまあ、良いのかもしれないな。
『出来上がった曲はあまりにチグハグで、思わず顔を見合せて笑ってしまった。』
「・・・急にどうしたの、気でも狂った?」
テストも無事終わり、校庭の木が赤く染まり始めた日。
最近涼しいな、読書日和だなんて思いながら、僕は自分の席で本を読んでいた。
そんな僕の至高のひと時を、君は大声で破ってきた。
「ラブソング!!作りませんか!!」
「うわうるさっ、さっきも聞いたよそれ」
君は興奮冷めやらない様子で目を輝かせている。手もブンブン振り回している。当たったら絶対痛いから止めてほしい。
興奮すると手を振り回すのは、君の悪い癖だと思う。何回その餌食になったことか。しかも毎年強くなっている。この馬鹿力。
とりあえず君を座らせて、お茶を飲ませて、深呼吸させる。こうすれば君は基本落ち着く。
「落ち着いた?」
「うん、あのねあのね、ラブソング作りたい」
・・・どうやら駄目だったらしい。
こうなると君は言うことを聞かない。僕が「うん」と言うまで一生喋り続ける。
小さいときからずっとそうだ。僕は部屋で本を読んでいたかったのに、僕の家を顔パスできる君は勝手に入ってきて外へ連れ出そうとする。拒否すると泣く。
君の泣き顔には弱いので、だいたい言うことを聞いてしまう。
「・・・ラブソング作るってなに」
しぶしぶ君に尋ねると、君の顔は分かりやすく明るくなった。漫画だったら『パアッ』みたいな、そういう擬音がつくくらいに。
「えっとねえっとね、今って秋じゃないですか」
「そうですね」
「秋って、ラブソング少なくない?てか聞いたことなくない?」
「それはまあ、そうだね」
「だからね、作りたくない?私と君で秋のラブソング」
まるで何かのプロデューサーのように、僕を指さして君はウインクした。
もしこれが告白なら五点だな。
「う~ん、却下」
「なんで!?」
断られると思っていなかったのか、本気で驚いた声をあげる。
いや、逆になんでそんな驚けるんだ。それはちょっと僕をなめすぎじゃない?
「理由はね、三つあるよ。一つ目、めんどくさい。二つ目、多分探せば出てくる。三つ目、僕達って楽器できたっけ?」
最初の理由は僕の圧倒的個人の理由だけど、三つ目の理由は結構大事なことじゃないかな。
そう、僕の記憶が正しければ、僕達は楽器なんて弾けない。
「昔ピアノやってて~」とかもない。家に置いてすらいない。楽譜も読めるかどうか怪しい。
強いていうならリコーダーはできるけど、リコーダーを使ったラブソングなんて聞いたことがない。しかも僕も君も下手くそだから、誰かへの愛を歌っているときに『ぷぺ~』なんて音が鳴るのは、さすがに間抜けすぎる。
「ふっふっふ~、分かってないなぁ」
これで諦めるだろうと思っていた僕の考えとは裏腹に、君はニヤニヤしながらこっちを見ている。なんか気味悪いな。
「めんどくさい?そんなのやってる間に忘れる。探せば出てくる?私たちで作るからいいんじゃんか!楽器ができない?これがあるでしょうが!!」
そう言うと、君はリュックから何かを取り出した。
それは・・・タブレット?
「そう!文明の利器!これさえあれば大丈夫!」
両手で持ったそれを僕の机の上に置く。なんか手でキラキラ~とかしてる。何やってるんだこいつ。
でもそうか、タブレットか。そういえばあったな、音楽作れるアプリ。
楽器を打ち込むだけで曲ができるとかで、一時期それの制作過程を見せる動画が流行ってた気がする。「えっ、アプリで打ち込んでるんですか?すごーい!」みたいなコメントも、見たことある気がする。
確かにこれなら、楽器ができない僕らでも、一応曲っぽいものを作れるだろう。音楽の教科書とにらめっこすれば、ちゃんとした曲が完成するかもしれない。
・・・でもなぁ。
君は知らないかもだけど、僕は存外めんどくさがり屋だ。昔は君の泣き顔と迫力に負けていつも付き合ってただけで。けど、もう高校生だし、僕も断る力をつける良い機会かもしれない。
そう、きっとこれは神様が僕に与えた試練。
甘やかしてばかりではいられないってこと。
「あのね、タブレットがあっても僕は・・・」
そこで僕の言葉は途絶えた。
「・・・やっぱり、だめ?」
そう言って、君が上目遣いで僕を見ていたから。
今でこそ泣かないけど、小さいときは泣く前にそんな顔をしていた。
昔から変わらない、僕にお願いごとをするときの顔。
昔から変わらない、愛しい顔。
あぁ、ずるいなぁ。そんな顔でそんなこと言われたら、僕は頷くことしかできないじゃないか。
神様、ごめんなさい。僕は誘惑に負ける弱い男です。
そう思ってため息をついて、僕は少しほほえんで言った。
「まあ、テストも終わったし、しばらくは暇だしね。・・・いいよ、やろうか」
さっきまで少し曇っていた君の顔が、晴れたみたいな笑顔を浮かべる。
初めて聞く季節のラブソングが君と作ったもの、か。
それもまあ、良いのかもしれないな。
『出来上がった曲はあまりにチグハグで、思わず顔を見合せて笑ってしまった。』
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