嘘つき
「じゃあ、また明日ね。おやすみ」
『うん、おやすみなさい』
あの子と一緒に買ったぬいぐるみを抱きしめる。夜には不釣り合いなくらい、部屋の中は明るかった。
向こうから通話を切るのを待つのは、私達のルールだ。いつもなら三十秒はある、通話を切る前の名残惜しそうな時間は、今夜はほんの十秒だった。
あの子のアイコンだけが画面に残る。五月に二人で行った遊園地。観覧車をバックに、二人で撮った写真だった。
あの子は束縛が激しい。ちょっと誰かと話しただけで、あの人は誰なんだとか、なんで喋ってたんだとか、根掘り葉掘り聞いてくる。そんな性格を治したいけど、どんなに頑張っても治せないらしい。
一番ひどかったのは、私が他の女の子と話しているのは嫌だとか言って、毎日自分のクラスに来てと言われたときだった。
それから私の定位置はあの子の隣だ。
スマホのカレンダーアプリを確認する。来週の日曜日。
にやけてしまいそうな顔を抑えながら、その下に『デート』と打つ。
さっきまでの会話を思い出す。急に怒り始めたあの子。勘違いに気づいて恥ずかしがるあの子。『今度絶対にお詫びするから!』っていきこんでたあの子。
あぁ、可愛かったなぁ。
思わず頬が緩む。どんなに嫉妬されても、やっぱりあの子は可愛い。
感情的になって怒鳴ってしまったときも、そのあと自己嫌悪に陥って泣いていたときも、私の『全然大丈夫だよ』の一声に、全身の力が無くなるくらい安心していたときも。
全部全部、私の大好きなあの子だ。
それに、束縛されればされるほど、愛されてるって気がする。
『わたしだけを見ていてほしい』って、なんて健気なんだろう!
別に、束縛されるのが好きってわけじゃない。あの子が特別ってだけ。
少し巻いた髪の毛も、ぱっちり開いた大きな目も、少し小さめの背丈も、笑顔も泣き顔も性格も。全部好きなのはあの子だけ。
あの子は私の全てだから、あの子の言うことすることなら、何だって肯定してしまう。
束縛しちゃうあの子が大好き。嫉妬でおかしくなっちゃうあの子が大好き。
なのに。
ねえ、〇〇ちゃん。
最近嫉妬してくれなくなったね?
この前クラスの女子と喋っちゃったときもなんにも言わなかったし、私とペアじゃなくても後で我儘言わなくなっちゃったよね。
なんでそんな、笑顔で『大丈夫だよ』って言えるの?
私の事、好きじゃなくなったのかと思っちゃった。
相変わらず好きって言ってくれるし、私といるときはすごく幸せそうな顔してくれるけど。
でもね、私、それだけじゃ満足できないんだ。
私、すごい寂しかったんだよ。
だから今日のあれは嬉しかったなぁ!久しぶりに嫉妬してくれたね。
やっぱり君は嫉妬してるときが一番可愛い。私のことしか見えてないみたいで、私のことでいっぱいいっぱいになっちゃったみたいで。
実はね、気づいてたんだ。君が、私と妹が帰ってるのを見てたこと。わざとあの道を通ったから。
でも知らないふりしちゃった。だって、こんなこと言って嫌われたら嫌だったんだ。
悪いことしてる自覚はあった。でもやめられなかったんだよ、君のことが大好きだから。
束縛するのを我慢なんかしなくていいよ。私なら、君の全部を好きでいられるよ。
私の気持ちで溺れちゃえばいいのに。
ずっとそのまま、私しか見えなかったらいいのに。
机の上にある写真立てを見る。そこにはピースをしているあの子が写っていた。
写真立てを手に取って抱きしめる。
この世で一等素敵で可愛くて純粋で綺麗な〇〇ちゃん。あなたは絶対に汚れちゃだめなんだよ。
どうせ汚れちゃうなら、私が汚してあげるからね。
さっきまでの通話を思い出す。
心底嬉しそうに、『大好き』と言ったあの子。
「...私も」
思わずあふれ出た言葉が口からこぼれる。
「一生大好きだよ。」
『うん、おやすみなさい』
あの子と一緒に買ったぬいぐるみを抱きしめる。夜には不釣り合いなくらい、部屋の中は明るかった。
向こうから通話を切るのを待つのは、私達のルールだ。いつもなら三十秒はある、通話を切る前の名残惜しそうな時間は、今夜はほんの十秒だった。
あの子のアイコンだけが画面に残る。五月に二人で行った遊園地。観覧車をバックに、二人で撮った写真だった。
あの子は束縛が激しい。ちょっと誰かと話しただけで、あの人は誰なんだとか、なんで喋ってたんだとか、根掘り葉掘り聞いてくる。そんな性格を治したいけど、どんなに頑張っても治せないらしい。
一番ひどかったのは、私が他の女の子と話しているのは嫌だとか言って、毎日自分のクラスに来てと言われたときだった。
それから私の定位置はあの子の隣だ。
スマホのカレンダーアプリを確認する。来週の日曜日。
にやけてしまいそうな顔を抑えながら、その下に『デート』と打つ。
さっきまでの会話を思い出す。急に怒り始めたあの子。勘違いに気づいて恥ずかしがるあの子。『今度絶対にお詫びするから!』っていきこんでたあの子。
あぁ、可愛かったなぁ。
思わず頬が緩む。どんなに嫉妬されても、やっぱりあの子は可愛い。
感情的になって怒鳴ってしまったときも、そのあと自己嫌悪に陥って泣いていたときも、私の『全然大丈夫だよ』の一声に、全身の力が無くなるくらい安心していたときも。
全部全部、私の大好きなあの子だ。
それに、束縛されればされるほど、愛されてるって気がする。
『わたしだけを見ていてほしい』って、なんて健気なんだろう!
別に、束縛されるのが好きってわけじゃない。あの子が特別ってだけ。
少し巻いた髪の毛も、ぱっちり開いた大きな目も、少し小さめの背丈も、笑顔も泣き顔も性格も。全部好きなのはあの子だけ。
あの子は私の全てだから、あの子の言うことすることなら、何だって肯定してしまう。
束縛しちゃうあの子が大好き。嫉妬でおかしくなっちゃうあの子が大好き。
なのに。
ねえ、〇〇ちゃん。
最近嫉妬してくれなくなったね?
この前クラスの女子と喋っちゃったときもなんにも言わなかったし、私とペアじゃなくても後で我儘言わなくなっちゃったよね。
なんでそんな、笑顔で『大丈夫だよ』って言えるの?
私の事、好きじゃなくなったのかと思っちゃった。
相変わらず好きって言ってくれるし、私といるときはすごく幸せそうな顔してくれるけど。
でもね、私、それだけじゃ満足できないんだ。
私、すごい寂しかったんだよ。
だから今日のあれは嬉しかったなぁ!久しぶりに嫉妬してくれたね。
やっぱり君は嫉妬してるときが一番可愛い。私のことしか見えてないみたいで、私のことでいっぱいいっぱいになっちゃったみたいで。
実はね、気づいてたんだ。君が、私と妹が帰ってるのを見てたこと。わざとあの道を通ったから。
でも知らないふりしちゃった。だって、こんなこと言って嫌われたら嫌だったんだ。
悪いことしてる自覚はあった。でもやめられなかったんだよ、君のことが大好きだから。
束縛するのを我慢なんかしなくていいよ。私なら、君の全部を好きでいられるよ。
私の気持ちで溺れちゃえばいいのに。
ずっとそのまま、私しか見えなかったらいいのに。
机の上にある写真立てを見る。そこにはピースをしているあの子が写っていた。
写真立てを手に取って抱きしめる。
この世で一等素敵で可愛くて純粋で綺麗な〇〇ちゃん。あなたは絶対に汚れちゃだめなんだよ。
どうせ汚れちゃうなら、私が汚してあげるからね。
さっきまでの通話を思い出す。
心底嬉しそうに、『大好き』と言ったあの子。
「...私も」
思わずあふれ出た言葉が口からこぼれる。
「一生大好きだよ。」