5月 地歩(夢主視点)
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「そういえば、ツナのXバーナーも見せてもらったよ」
本屋から出ながら思い出したことを告げれば、お、と山本の目がきらめいた。
「どうだった?」
「すごかった。ボクのとは桁が違う」
自分を卑下するつもりはないが、いつだかレイが模倣で放った炎の塊とは質も量も全く違った。あの領域に到達することは、レイには不可能だ。
恐ろしいほどに強く、美しく、鮮やかだった。
あれにまた触れることがあるとすれば、それなりの戦いの場になるだろう。そうならないことが望ましいことは分かっているが、また見たいという気持ちがあるのも事実だ。
「すげぇよな、アレ」
隣を歩く山本も、どこか陶酔した顔でそう言った。
レイ自身も人のことは言えないが、山本も大概ツナのことが大好きなようだ。
タイプの違う2人が親友となったきっかけを、いつか教えてくれたらうれしいと思う。
あれ、と山本が不意に声を上げた。
その視線を追えば、そこには京子とハル、そして2人にニヤつきながら声を掛けている3人の男がいた。
友達2人の顔は明らかに嫌そうで、それだけでレイの足は動き出した。
ハルの腕を掴もうとした男の腕を手で払い、友達と男たちの間に体を割り入れる。「レイちゃん」とどちらかが小さく声を漏らしたのが分かった。
山本も近付いてくる気配がするから、最悪喧嘩になっても京子とハルを遠ざけることはできるだろう。
男のうちの1人がレイを見て鼻で嗤う。
「なんだ?カッコつけようってのか?チビのくせに!」
その言葉に釣られるようにして他の2人も笑った。
舐めやがって、と下から睨めば、相手もイラついたのだろう。「女の前で調子乗ってんのか?」と言いながら胸倉を掴んできた。
その瞬間、背後に怯えたような気配を感じて内心で舌打ちをする。
大事な友人を怖がらせた目の前の連中へのフラストレーションが溜まっていく。
その手を掴み返し、投げ飛ばすか蹴り飛ばすか思案したとき、レイの横に山本が立った。
山本は何も言わない。何もしない。ただ立って、相手を見ているだけだ。殺気も露骨な威圧もない。
だというのに、男たちの表情は強張る。年齢は上だろうが、背丈は明らかに山本の方が大きい。あと、普段朗らかだから忘れがちではあるが、真顔の山本は嫌いではないが、たまに怖い。
ぱ、とレイの服を離して、男たちは去っていった。
山本の体格と、素の威圧感がうらやましい。自分ももう少し身長が欲しいものだ。
男たちを見送った山本は、表情をパッと明るく戻して「割り込んじまった」といたずらっぽく言う。
山本に小さく笑い返してから京子たちに目を向ける。幸い、2人の顔はもう引きつっていなかった。
「2人とも、大丈夫だった?」
「レイちゃん、山本君もありがとう」
「手出されかけてただろ、怪我とかしてねぇか?」
「大丈夫です!」
笑顔を浮かべる2人に安堵する。
前々から可愛かった彼女たちだが、大人びたこともあってか余計に変な輩に目を付けられるようになったのかもしれない。
嫌だなあと思っていると、山本が軽く肘で小突いてきた。
「お前、さっき手出そうとしただろ?」
「まあ、ちょっと……」
「本当にちょっとか?」
素手で対応するつもりだったので『ちょっと』の範疇のはずだ。
こっちの思考が分かったのか、山本が小さく笑う。
ふと視線を感じた。京子とハルが、レイと山本をじっと見ている。
「どうかしたか?」
「レイちゃんと山本君、なんか雰囲気が変わった?」
「雰囲気って?」
首を傾げる山本に、京子は言葉を選ぶようにうーん、とつぶやく。
「なんていうのかな……、前よりもっと仲良くなった……?」
京子のその言葉に、ハルは恐る恐る挙手をした。
「……違ったらごめんなさい。レイちゃんと山本さん、その、もしかして、お付き合いされてます?」
失礼がないかと恐れながらも、ハルの目は好奇心を隠し切れずに輝いている。
レイが山本を見れば、山本もレイを見た。軽く目配せをしてから頷く。
一拍の沈黙。直後に京子とハルは目を丸くしてから「わーっ!」と歓声を上げた。
「そうなの!?クラス違うから知らなかった!」
「どっちからですか!?どっちから告白されたんですか!?」
興奮で顔を赤くした2人から浴びせられる祝福と好奇心の圧に押され、口を開く。
「ボ、ボクから……」
「レイちゃんからなの!?」
「でも、お付き合いされたってことは山本さんもレイちゃんのこと……!」
「まあ、そうだな」
はひー!とハルが自身の両頬を押さえる。それから「ハッ!」と息を飲んでからレイに詰め寄ってきた。
「レイちゃん、バレンタインの時に好きな人いるか訊いたのに、教えてくれなかったじゃないですか!」
「いや、それは」
「お泊り会の時だって!」
「ごめん、ごめんってば」
曝け出すものではない気がして黙っていたのだが、黙っていたというだけでこんなに詰問されるとは思っていなかった。
タジタジになりながら謝るレイの耳に、京子の声が聞こえた。
「そういえば山本君も、冬休みの前にレイちゃんの誕生日プレゼントで迷ってたよね。あの時から好きだったの?」
迷ってたのか、そして京子はそれを知っていたのか、と初めて知る。
山本が「あー、まあ、そうだな」と照れながら答えた。
レイが告白したとき、山本は「オレ、梅雨くらいの時から瀬切のこと好きだったんだぜ?」と言ってくれたが。好きになった時期というのは、対外的には少し嘘を吐くものなのかもしれない。
いつの間にかハルも山本と京子の会話を聞いており、「プレゼント、うれしかったですか?」と耳打ちしてきた。素直に頷けば、ハルは自分のことのように満面の笑みを浮かべてくれる。
「もしかして、お付き合いしてること隠してた?」
京子は山本とレイを交互に見て、不安そうに訊いてきた。
隠しているつもりは特になかったレイは少し驚く。一方、山本は特に驚くでもなく軽く答えた。
「隠してるってほどじゃねぇよ。ツナとか獄寺とかには伝えてるしな。でも言い触らすもんでもねぇし、普通にしてるだけだぜ」
「そうなんだ。じゃあ私も普通にしとくね」
そう笑顔で言ってくれた京子に、山本も「サンキュ」と笑顔を返した。
京子とハルと別れて、商店街を後にする。街は夕方の色が濃くなってきた。人気のない道を並んで歩く。
「ごめん、その、デート中に」
恋人を置いて飛び出したことも、山本に止められなければ手を出すつもりだったことも、両方を合わせてレイは謝った。
しかし山本は、少し笑いながら手を握ってくれた。
「いや、アレはオレでも割って入る。笹川たちも困ってたしな」
ありがとう、とレイも手を握り返す。
「あー、でも」と山本は続けた。
「瀬切が胸倉掴まれたのは結構嫌だったな」
「え?」
「いや、お前なら無傷で返り討ちにできることくらいわかってんだけどさ」
空いた方の手で耳の後ろを掻きながら、山本はもごもごと口を動かす。
「恋人が、他の奴にあんな風に触られてんのは、ちょっと……」
西日でも誤魔化せないくらいには、山本の耳が赤い。
それが妙にくすぐったくて、どうしようもなく嬉しくて、レイは肩を震わせて笑ってしまった。
本屋から出ながら思い出したことを告げれば、お、と山本の目がきらめいた。
「どうだった?」
「すごかった。ボクのとは桁が違う」
自分を卑下するつもりはないが、いつだかレイが模倣で放った炎の塊とは質も量も全く違った。あの領域に到達することは、レイには不可能だ。
恐ろしいほどに強く、美しく、鮮やかだった。
あれにまた触れることがあるとすれば、それなりの戦いの場になるだろう。そうならないことが望ましいことは分かっているが、また見たいという気持ちがあるのも事実だ。
「すげぇよな、アレ」
隣を歩く山本も、どこか陶酔した顔でそう言った。
レイ自身も人のことは言えないが、山本も大概ツナのことが大好きなようだ。
タイプの違う2人が親友となったきっかけを、いつか教えてくれたらうれしいと思う。
あれ、と山本が不意に声を上げた。
その視線を追えば、そこには京子とハル、そして2人にニヤつきながら声を掛けている3人の男がいた。
友達2人の顔は明らかに嫌そうで、それだけでレイの足は動き出した。
ハルの腕を掴もうとした男の腕を手で払い、友達と男たちの間に体を割り入れる。「レイちゃん」とどちらかが小さく声を漏らしたのが分かった。
山本も近付いてくる気配がするから、最悪喧嘩になっても京子とハルを遠ざけることはできるだろう。
男のうちの1人がレイを見て鼻で嗤う。
「なんだ?カッコつけようってのか?チビのくせに!」
その言葉に釣られるようにして他の2人も笑った。
舐めやがって、と下から睨めば、相手もイラついたのだろう。「女の前で調子乗ってんのか?」と言いながら胸倉を掴んできた。
その瞬間、背後に怯えたような気配を感じて内心で舌打ちをする。
大事な友人を怖がらせた目の前の連中へのフラストレーションが溜まっていく。
その手を掴み返し、投げ飛ばすか蹴り飛ばすか思案したとき、レイの横に山本が立った。
山本は何も言わない。何もしない。ただ立って、相手を見ているだけだ。殺気も露骨な威圧もない。
だというのに、男たちの表情は強張る。年齢は上だろうが、背丈は明らかに山本の方が大きい。あと、普段朗らかだから忘れがちではあるが、真顔の山本は嫌いではないが、たまに怖い。
ぱ、とレイの服を離して、男たちは去っていった。
山本の体格と、素の威圧感がうらやましい。自分ももう少し身長が欲しいものだ。
男たちを見送った山本は、表情をパッと明るく戻して「割り込んじまった」といたずらっぽく言う。
山本に小さく笑い返してから京子たちに目を向ける。幸い、2人の顔はもう引きつっていなかった。
「2人とも、大丈夫だった?」
「レイちゃん、山本君もありがとう」
「手出されかけてただろ、怪我とかしてねぇか?」
「大丈夫です!」
笑顔を浮かべる2人に安堵する。
前々から可愛かった彼女たちだが、大人びたこともあってか余計に変な輩に目を付けられるようになったのかもしれない。
嫌だなあと思っていると、山本が軽く肘で小突いてきた。
「お前、さっき手出そうとしただろ?」
「まあ、ちょっと……」
「本当にちょっとか?」
素手で対応するつもりだったので『ちょっと』の範疇のはずだ。
こっちの思考が分かったのか、山本が小さく笑う。
ふと視線を感じた。京子とハルが、レイと山本をじっと見ている。
「どうかしたか?」
「レイちゃんと山本君、なんか雰囲気が変わった?」
「雰囲気って?」
首を傾げる山本に、京子は言葉を選ぶようにうーん、とつぶやく。
「なんていうのかな……、前よりもっと仲良くなった……?」
京子のその言葉に、ハルは恐る恐る挙手をした。
「……違ったらごめんなさい。レイちゃんと山本さん、その、もしかして、お付き合いされてます?」
失礼がないかと恐れながらも、ハルの目は好奇心を隠し切れずに輝いている。
レイが山本を見れば、山本もレイを見た。軽く目配せをしてから頷く。
一拍の沈黙。直後に京子とハルは目を丸くしてから「わーっ!」と歓声を上げた。
「そうなの!?クラス違うから知らなかった!」
「どっちからですか!?どっちから告白されたんですか!?」
興奮で顔を赤くした2人から浴びせられる祝福と好奇心の圧に押され、口を開く。
「ボ、ボクから……」
「レイちゃんからなの!?」
「でも、お付き合いされたってことは山本さんもレイちゃんのこと……!」
「まあ、そうだな」
はひー!とハルが自身の両頬を押さえる。それから「ハッ!」と息を飲んでからレイに詰め寄ってきた。
「レイちゃん、バレンタインの時に好きな人いるか訊いたのに、教えてくれなかったじゃないですか!」
「いや、それは」
「お泊り会の時だって!」
「ごめん、ごめんってば」
曝け出すものではない気がして黙っていたのだが、黙っていたというだけでこんなに詰問されるとは思っていなかった。
タジタジになりながら謝るレイの耳に、京子の声が聞こえた。
「そういえば山本君も、冬休みの前にレイちゃんの誕生日プレゼントで迷ってたよね。あの時から好きだったの?」
迷ってたのか、そして京子はそれを知っていたのか、と初めて知る。
山本が「あー、まあ、そうだな」と照れながら答えた。
レイが告白したとき、山本は「オレ、梅雨くらいの時から瀬切のこと好きだったんだぜ?」と言ってくれたが。好きになった時期というのは、対外的には少し嘘を吐くものなのかもしれない。
いつの間にかハルも山本と京子の会話を聞いており、「プレゼント、うれしかったですか?」と耳打ちしてきた。素直に頷けば、ハルは自分のことのように満面の笑みを浮かべてくれる。
「もしかして、お付き合いしてること隠してた?」
京子は山本とレイを交互に見て、不安そうに訊いてきた。
隠しているつもりは特になかったレイは少し驚く。一方、山本は特に驚くでもなく軽く答えた。
「隠してるってほどじゃねぇよ。ツナとか獄寺とかには伝えてるしな。でも言い触らすもんでもねぇし、普通にしてるだけだぜ」
「そうなんだ。じゃあ私も普通にしとくね」
そう笑顔で言ってくれた京子に、山本も「サンキュ」と笑顔を返した。
京子とハルと別れて、商店街を後にする。街は夕方の色が濃くなってきた。人気のない道を並んで歩く。
「ごめん、その、デート中に」
恋人を置いて飛び出したことも、山本に止められなければ手を出すつもりだったことも、両方を合わせてレイは謝った。
しかし山本は、少し笑いながら手を握ってくれた。
「いや、アレはオレでも割って入る。笹川たちも困ってたしな」
ありがとう、とレイも手を握り返す。
「あー、でも」と山本は続けた。
「瀬切が胸倉掴まれたのは結構嫌だったな」
「え?」
「いや、お前なら無傷で返り討ちにできることくらいわかってんだけどさ」
空いた方の手で耳の後ろを掻きながら、山本はもごもごと口を動かす。
「恋人が、他の奴にあんな風に触られてんのは、ちょっと……」
西日でも誤魔化せないくらいには、山本の耳が赤い。
それが妙にくすぐったくて、どうしようもなく嬉しくて、レイは肩を震わせて笑ってしまった。
