5月 地歩(夢主視点)
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気付けば午後2時。
散らしまくった砂利を整え、縁側に座りながらじゃれつく次郎を撫でた。日向ぼっこをしていたからか、小麦色の毛はポカポカしている。
暖かい毛並みに指と顔を埋めていたら、いつの間にか肩が当たるほど近くに山本が座っていた。次郎がしっぽを振りながら、山本の脇腹に鼻先を突っ込んだ。
次郎の耳の後ろを撫でながら、山本がレイを見た。
「なあ、このあと予定とかあるか?」
「特にない。帰ってもやることはないな」
「じゃあ、ちょっと出かけねぇか?」
「どこに?」
素直に問えば、山本にそっと手を握られた。
「今からだとそんなに行けるとこねぇし、散歩みたいなもんになりそうだけど、……デートってやつ」
デート、とおうむ返しすれば、幸福と気恥ずかしさと、その他よく分からないものが体の内から溢れそうになる。
顔が綻ぶのを自覚しつつ何も言えずに頷けば、山本は嬉しそうに笑ってくれた。
着替えるのも面倒で、手合わせからそのままの服装で町内を歩く。
気づけばおやつ時で、小腹が空いたという山本の言葉もあってファミレスに入った。
レイはサンドイッチの単品を頼んだが、山本が頼んだのはハンバーグのランチセットだ。どう見ても『小腹』の量ではない。
「そんなにおなか減ってたのか?」
「なんかなぁ。最近前にも増して食っても食っても食い足りないっつーか……」
そういえばディーノも昔こんな感じだった。理由の分からない空腹に耐えられないと夜中に厨房へ忍び込み、翌朝誰かに叱られていた姿を見たことがある。
最近はツナも随分と食べる量が増えたし、10代後半に入ると誰しもこうなるのだろうか。
空腹や満腹の概念を持たないレイにはよく分からない。
大変だなぁと他人事のように水を飲む。
それでも美味しいものを食べるのは幸せだし、家では奈々が嬉しそうにたくさん盛り付けてくれるので、沢田家ではツナの次によく食べているのだが。
先に小ぶりなサンドイッチ3つが乗った皿が来た。一つ差し出せば、山本は申し訳なさそうにしながらも素直に受け取って口に運ぶ。
「そういや、さっきちょっと飛んだだろ?あれ、ツナに教わったのか?」
「ツナとリボーンに協力してもらったんだ」
4月末、大型連休の初日のことだった。
リボーンが「ツナ。お前、最近たるんでるな?」とツナの首根っこを掴み、レイにも「お前も来い。見るだけでもいい刺激になるからな」と声をかけてくれた。
ツナが引きずられていったのは、並盛町のはずれにある山の中だった。
少し開けた崖のある場所で、容赦なく発砲しはじめるリボーン。ツナはぎゃーぎゃーと文句を言いながらも、最終的にはしっかり額に炎を灯して崖の外へと飛び出した。
縦横無尽に飛び回る従兄の姿に、レイは「自分も空中に投げ出されたときの対応を考えたいなぁ」とぼんやり考えていたのだ。
疲れ切った顔で降りてきたツナに「ボクも飛んでみたい」と愚痴ってみた。
そしてツナから返ってきた言葉は「ずっと飛ぶんじゃなくて、空中にいるときに少し動くためだけに炎を使ってみるのは?」だった。
「山本も一時期短剣、じゃなくて短刀?小刀だっけ?……なんかそんなやつから炎出して飛んだりしてたし、それ使えばできるんじゃない?」
「なるほど」
レイの短剣とダガーを指すツナに、レイは即座に試したくなった。指輪をはめ、短剣を構えて炎を噴き出し、次の瞬間にレイの体は崖外へと吹っ飛んだ。
文字通りすっ飛んできたツナに助けられ、レイはその考えなしをツナとリボーンの2人に説教されたのだ。
それからリボーンの助言とツナの手助けを受けながら、最低限の自分なりの空中制動を身に着けることができた。
崖外に吹っ飛んだ話のあたりから、向かいに座る山本の肩の震えが止まらない。
むっとしながらテーブルの下で軽く足を蹴れば、「蹴んなって」とにやけた顔で蹴り返される。
「いやー、オレも見たかったな。吹っ飛んでく瀬切」
「馬鹿にしてるだろ」
店員が持ってきたランチセットを受け取りながら、山本は「してねぇよ」と答える。
「新しいことやってみるって時、お前ほとんど躊躇わないだろ?」
「そりゃあ怪我してもすぐに治るから」
「でも痛いし、誰だってちょっとくらいは怖いもんだろ。そこを全部ぶっ飛ばして、最初から全力で突っ込んでいけるとこ、かっこいいと思ってるぜ」
笑っていたと思ったら、いきなり正面から褒められてしまい、言葉に詰まる。
ありがとう、と小さい声で返しながらも目線を逸らしてしまえば、再度くつくつと笑う音が聞こえた。
食事を終え、商店街に足を運ぶ。
山本が「スパイク見てきてもいいか?」とスポーツ用品店を指した。特に行きたいところもないレイは、素直に山本について行く。
レイはこの店に初めて入るが、山本は常連のようだ。店主の男性とあいさつを交わしてからスパイクを手に取り始めた。
することが特にないレイは、目の前につるされているグローブを眺める。
山本が持ち歩いているし、体育のソフトボールの授業で触ったこともある。しかし、こうしてまじまじと見るのは初めてだ。
意外と複雑なつくりをしているし、単純なサイズ以外にもわずかな違いがある。どう使い分けるのだろうかと考えながら軽く指で撫でれば、なめらかだがしっかりとした反発があった。
改めて店内を見渡し、思った以上にスポーツ用品に革製品が多いことを知る。革製品の手入れ用具もたくさん置いてあった。
レイは短剣やダガーを収めるナイフベルトを持っているが、それこそ革製品だった。今はまだクリームなども残っているが、なくなってしまったらここで買うのもありかもしれない。
候補だけ決めようと、いくつか手に取って眺めているうちに、山本が隣に寄ってきた。手ぶらだ。
「あれ?スパイクは?」
「オレのサイズ、ちょうど売り切れてるって」
在庫切れをあっさりと受け入れている山本が、レイの手元をのぞき込んで「何見てんだ?」と訊いた。
「クリームだよ。ベルトの手入れに使えないかなって」
「へぇ。オレ、グローブにはこれ使ってるぜ」
「どんな感じか知りたいから、今度見せて」
「いいぜ。ついでにキャッチボールするか?」
山本はワクワクした表情を浮かべている。
つられて軽率に頷きそうになってから、いつかツナから聞いた彼の剛速球の話を思い出す。
あの時のツナの遠い目を思い浮かべてしまい、レイは申し訳なくなりながら首を横に振った。
「……それはやめとく」
散らしまくった砂利を整え、縁側に座りながらじゃれつく次郎を撫でた。日向ぼっこをしていたからか、小麦色の毛はポカポカしている。
暖かい毛並みに指と顔を埋めていたら、いつの間にか肩が当たるほど近くに山本が座っていた。次郎がしっぽを振りながら、山本の脇腹に鼻先を突っ込んだ。
次郎の耳の後ろを撫でながら、山本がレイを見た。
「なあ、このあと予定とかあるか?」
「特にない。帰ってもやることはないな」
「じゃあ、ちょっと出かけねぇか?」
「どこに?」
素直に問えば、山本にそっと手を握られた。
「今からだとそんなに行けるとこねぇし、散歩みたいなもんになりそうだけど、……デートってやつ」
デート、とおうむ返しすれば、幸福と気恥ずかしさと、その他よく分からないものが体の内から溢れそうになる。
顔が綻ぶのを自覚しつつ何も言えずに頷けば、山本は嬉しそうに笑ってくれた。
着替えるのも面倒で、手合わせからそのままの服装で町内を歩く。
気づけばおやつ時で、小腹が空いたという山本の言葉もあってファミレスに入った。
レイはサンドイッチの単品を頼んだが、山本が頼んだのはハンバーグのランチセットだ。どう見ても『小腹』の量ではない。
「そんなにおなか減ってたのか?」
「なんかなぁ。最近前にも増して食っても食っても食い足りないっつーか……」
そういえばディーノも昔こんな感じだった。理由の分からない空腹に耐えられないと夜中に厨房へ忍び込み、翌朝誰かに叱られていた姿を見たことがある。
最近はツナも随分と食べる量が増えたし、10代後半に入ると誰しもこうなるのだろうか。
空腹や満腹の概念を持たないレイにはよく分からない。
大変だなぁと他人事のように水を飲む。
それでも美味しいものを食べるのは幸せだし、家では奈々が嬉しそうにたくさん盛り付けてくれるので、沢田家ではツナの次によく食べているのだが。
先に小ぶりなサンドイッチ3つが乗った皿が来た。一つ差し出せば、山本は申し訳なさそうにしながらも素直に受け取って口に運ぶ。
「そういや、さっきちょっと飛んだだろ?あれ、ツナに教わったのか?」
「ツナとリボーンに協力してもらったんだ」
4月末、大型連休の初日のことだった。
リボーンが「ツナ。お前、最近たるんでるな?」とツナの首根っこを掴み、レイにも「お前も来い。見るだけでもいい刺激になるからな」と声をかけてくれた。
ツナが引きずられていったのは、並盛町のはずれにある山の中だった。
少し開けた崖のある場所で、容赦なく発砲しはじめるリボーン。ツナはぎゃーぎゃーと文句を言いながらも、最終的にはしっかり額に炎を灯して崖の外へと飛び出した。
縦横無尽に飛び回る従兄の姿に、レイは「自分も空中に投げ出されたときの対応を考えたいなぁ」とぼんやり考えていたのだ。
疲れ切った顔で降りてきたツナに「ボクも飛んでみたい」と愚痴ってみた。
そしてツナから返ってきた言葉は「ずっと飛ぶんじゃなくて、空中にいるときに少し動くためだけに炎を使ってみるのは?」だった。
「山本も一時期短剣、じゃなくて短刀?小刀だっけ?……なんかそんなやつから炎出して飛んだりしてたし、それ使えばできるんじゃない?」
「なるほど」
レイの短剣とダガーを指すツナに、レイは即座に試したくなった。指輪をはめ、短剣を構えて炎を噴き出し、次の瞬間にレイの体は崖外へと吹っ飛んだ。
文字通りすっ飛んできたツナに助けられ、レイはその考えなしをツナとリボーンの2人に説教されたのだ。
それからリボーンの助言とツナの手助けを受けながら、最低限の自分なりの空中制動を身に着けることができた。
崖外に吹っ飛んだ話のあたりから、向かいに座る山本の肩の震えが止まらない。
むっとしながらテーブルの下で軽く足を蹴れば、「蹴んなって」とにやけた顔で蹴り返される。
「いやー、オレも見たかったな。吹っ飛んでく瀬切」
「馬鹿にしてるだろ」
店員が持ってきたランチセットを受け取りながら、山本は「してねぇよ」と答える。
「新しいことやってみるって時、お前ほとんど躊躇わないだろ?」
「そりゃあ怪我してもすぐに治るから」
「でも痛いし、誰だってちょっとくらいは怖いもんだろ。そこを全部ぶっ飛ばして、最初から全力で突っ込んでいけるとこ、かっこいいと思ってるぜ」
笑っていたと思ったら、いきなり正面から褒められてしまい、言葉に詰まる。
ありがとう、と小さい声で返しながらも目線を逸らしてしまえば、再度くつくつと笑う音が聞こえた。
食事を終え、商店街に足を運ぶ。
山本が「スパイク見てきてもいいか?」とスポーツ用品店を指した。特に行きたいところもないレイは、素直に山本について行く。
レイはこの店に初めて入るが、山本は常連のようだ。店主の男性とあいさつを交わしてからスパイクを手に取り始めた。
することが特にないレイは、目の前につるされているグローブを眺める。
山本が持ち歩いているし、体育のソフトボールの授業で触ったこともある。しかし、こうしてまじまじと見るのは初めてだ。
意外と複雑なつくりをしているし、単純なサイズ以外にもわずかな違いがある。どう使い分けるのだろうかと考えながら軽く指で撫でれば、なめらかだがしっかりとした反発があった。
改めて店内を見渡し、思った以上にスポーツ用品に革製品が多いことを知る。革製品の手入れ用具もたくさん置いてあった。
レイは短剣やダガーを収めるナイフベルトを持っているが、それこそ革製品だった。今はまだクリームなども残っているが、なくなってしまったらここで買うのもありかもしれない。
候補だけ決めようと、いくつか手に取って眺めているうちに、山本が隣に寄ってきた。手ぶらだ。
「あれ?スパイクは?」
「オレのサイズ、ちょうど売り切れてるって」
在庫切れをあっさりと受け入れている山本が、レイの手元をのぞき込んで「何見てんだ?」と訊いた。
「クリームだよ。ベルトの手入れに使えないかなって」
「へぇ。オレ、グローブにはこれ使ってるぜ」
「どんな感じか知りたいから、今度見せて」
「いいぜ。ついでにキャッチボールするか?」
山本はワクワクした表情を浮かべている。
つられて軽率に頷きそうになってから、いつかツナから聞いた彼の剛速球の話を思い出す。
あの時のツナの遠い目を思い浮かべてしまい、レイは申し訳なくなりながら首を横に振った。
「……それはやめとく」
