3月 陽光(ツナ視点)
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談笑していると、ディーノの視線がツナのベッドの上に向いた。
ベッドの上に投げ捨てられている冊子の表紙には『並盛町立北高等学校 入学の手引』と書かれている。
ディーノはその冊子を手に取ってパラパラとめくった。
「高校の準備、進んでるか?」
「はい。一昨日、制服の採寸に行ってきました。来週教科書買いに行きます」
携帯電話で撮影した制服の写真を見せる。見切れているが、女子の制服も半分ほど映り込んでいる。
胸ポケットの校章が刺繍された濃紺のジャケットとスラックス、白いカッターシャツ、そして臙脂のネクタイ。ごく普通の高校の制服だ。
レイはツナと一緒に準備を進めているし、獄寺もほぼ同じスケジュールで動いているようだった。スポーツ推薦で一足先に進路が決まっていた山本だけは、入学準備をほぼ終えている。
「シンプルでいいじゃねぇか。……レイの制服、高校でも男子用か?」
写真を見たディーノの質問に、ツナたち3人は顔を見合わせる。
全員当たり前のように、レイは中学同様男子の制服を着ると思い込んでいた。本人もその気だったようで、一昨日もツナと一緒に男子の制服で採寸をしていたのだ。
「高校の校則は大丈夫か?」
「あっ!た、確かに……」
中学では雲雀という最終関門が許可したので、校則も何もなかった。焦るツナの代わりに、リボーンが答える。
「安心しろ、ママンが高校に確認取って了解もらってるぞ」
「よかった……」
「へえ、日本の学校って結構自由なんだな」
感心したように言うディーノに、一年間抱えていた疑問をぶつけてみる。
「そういえば、並中に転入する時、雲雀さんが男子の制服許可したみたいですけど、あれってディーノさんが確認取ったんですか」
「ああ。まだレイを日本にやるタイミングを迷ってた時期に、一応恭弥に聞てみたんだよ。そしたら『風紀を乱さなければ』ってな」
ディーノは軽く語っているが、雲雀からその一言を聞き出すためだけに、恐らく戦闘だとか戦闘だとか、さらに戦闘だとかで多大な苦労があったことだろう。こんなのディーノでなければ成しえない。面倒見がいい、の一言で片づけるには偉業である。
制服の話から、もう一つツナの頭に疑問が浮かぶ。レイ本人に聞けばいい話ではあったが、なんとなく聞くのを忘れていたのだ。
「イタリアにいた時、レイはスカートはいたりしなかったんですか?」
イタリアの路地裏で再会したときも、今に至っても、レイは女性らしい装いをしていない。というより動きやすさを最重要項目にしているせいで、日常的にもツナと似たような服装をしている。
いつぞやの浴衣のように、家の中で着るだけならば構わないようだが、まだ戦う力を得る前からそうだったのだろうか。
瀬切一家が渡伊する4歳までのことを思い起こせば、幼かったレイは低頻度ながらスカートやワンピースを着ていたような記憶がうっすら残っている。
そんなツナの質問に、ディーノはロマーリオと顔を合わせて苦笑いした。
「昔、アイツが12歳くらいの時だったか?誰かがスカート買ってきたことはあったんだ。『動きやすいのもいいが、たまには女の子らしい格好もどうだ?』って。ごく普通の膝丈くらいのスカートでな」
「無理強いはしてないぜ。レイも照れながらも嫌がってはいなかった」
短い髪も、少しだけ女の子らしく見えるように整えられたという。
ローテーブルに肩肘で頬杖をついて、ディーノは「最初はよかったんだよ」とため息交じりに語り始める。
「慣れないうちはまだ大人しくしてた。ただ、時間が経てばスカートの存在忘れやがってな。猫追い掛けて木登りしようとしたり、窓枠飛び越えようとしたり、ばあさんから財布をスッたやつからスリ返したり……」
「やらかす度にうちの連中から注意されたもんで、レイも嫌になっちまって、それ以降はあの通りだ。すぐに動けて、かつ細かいことを気にしなくていいことが第一条件、って感じにな。嫌な予感はしてたんスパッツは履かせてたんだが、それでも肝が冷えたのなんの……」
遠い目で語るロマーリオに同情する。
沢田家でも似たようなことが先週発生した。レイではなくイーピンだが。
母が買い与えた新しいスカートを、イーピンはいたく気に入った。そこまではいい。問題はその後に発生したランボとの喧嘩だった。
なんとイーピンはスカートのままランボに足技を繰り出した。横にいたツナが、大慌てでイーピンを止めながらスカートを抑えたのだ。
いくら未就学児といえど、家の中での話といえど、よくないものはよくない。
そのまま癖になって、外でも同じことをしてしまっては大変だ。世の中には変な奴がごまんといるし、兄のような立場としてはとても心臓に悪かった。
図らずもディーノたちに深く感情移入してしまう。ああいうのは男側からどのように注意するのがいいのだろうか。
ツナがロマーリオと同じように遠い目をしていたら、「んなことよりも」とディーノがぐっと身を乗り出した。
その目は山本を捉えており、山本は目をぱちくりとさせている。
「お前ら、今どんな感じ?」
「お前らって?」
「お前と、レイのことだよ」
え、と声を山本と、ロマーリオが声を漏らす。
ディーノの目は敵意や咎める色はなく、どちらかといえば興味で輝いている。ちょっと面白がっていたりするかもしれない。
脈絡のない、さらにはド直球の質問に、山本も呼吸を止めたまま何回も瞬きをしている。
しかし、さすがは山本。すぐに持ち直したようで背筋を伸ばし、まっすぐディーノと目線を合わせて口を開いた。
「あの、少し前に、……恋人になりました」
おー、言った、とツナは内心で感心した。
少し声が震えているからなんだというのか。保護者相手に言い切ったことがかっこいい。
しかしディーノはまだ真顔で山本を見据えている。
「アイツで大丈夫か?」
それは、アイツは人間じゃないけど大丈夫か、という意味を明確に含む質問だった。
普通なら一瞬怯むであろうその言葉に山本は、一切の躊躇いなく頷いた。
「オレが、アイツがいいんです」
そのあまりにもまっすぐな言葉に、思わずツナがグッと来てしまった。
横で獄寺が小さく鼻を鳴らしたので横目で見れば、その割には少しだけ顔がにやけている。彼も彼なりに、2人の関係を認めているらしい。
ディーノは山本の言葉を聞き、目を閉じる。そして、すぐに満面の笑みを浮かべた。
「ありがとな、山本!レイのこと頼んだぜ!」
ディーノは山本の肩を叩いた。
「アイツ人間じゃないから、過保護だって分かっててもどうしてもな。ちょっと意地の悪い訊き方になって悪かった」
「いえ」
「でも、お前なら安心だ。オレも、ヒロヤも。もちろん、アイツのことで何かあったら遠慮なく聞いてくれ。可能な限り力になる」
「ありがとうございます」
ディーノに反対されなかったどころか全面的に託された山本は、ふうっと肩の力を抜いた。
それから「ん?」と怪訝そうな顔になる。
「なんで、ディーノさん知ってんすか……?」
今度はツナが硬直する番だった。
秋に兄貴分がやってきた際、レイにいい感じの相手がいることを漏らしてしまったのは、何を隠そうツナなのだ。
しかし、ディーノはツナの名前を欠片も出さずにニヤリとした。
「10月くらいだったか?お前らと偶然外で会っただろ。あの時にいい雰囲気だったからな」
何があったのかツナは知らないが、マジかよ、と山本は少し耳を赤くしながら気まずそうに呟く。
横から獄寺が呆れたように「だから言っただろ、そのうちバレるって」と意地悪く言い放った。相変わらず、山本に対してはいい性格をしている。
その奥でロマーリオが微妙な顔をしている。反対はしないが、ディーノほど手放しで喜んではいないようだ。よく分からないが、父性というやつだろうか。
不意に階下の玄関ドアが開く音がした。
「ただいまー」
聞こえたのはレイの声だ。
「お、来た来た」とレイの分の万年筆を持って、ディーノがうきうきと立ち上がった。そして誰も止める間もなく1人で部屋を出る。
「あ!」という従妹の嬉しそうな声の直後、ドダダダッと何かが落下する音が家中に響き渡った。
いってー、というディーノの声と慌てたようなレイの声を聞きながら、室内の全員が顔を見合わせて苦笑したり呆れたりした。
リボーンがこれみよがしに溜息を吐く。
「アイツがレイ相手にやらかすのは久々だな」
「そうなの?」
「ああ。ヒロヤが消えてからはなかったはずだぞ。アイツなりにレイの前では気を張ってたんだろうな。な、ロマーリオ」
「そうですね」
そうリボーンが言えば、ロマーリオはゆっくり立ち上がりながら笑った。
「ようやくボスも、完全にレイの手を離せたってことでしょうね。……正直オレは寂しいが」
ベッドの上に投げ捨てられている冊子の表紙には『並盛町立北高等学校 入学の手引』と書かれている。
ディーノはその冊子を手に取ってパラパラとめくった。
「高校の準備、進んでるか?」
「はい。一昨日、制服の採寸に行ってきました。来週教科書買いに行きます」
携帯電話で撮影した制服の写真を見せる。見切れているが、女子の制服も半分ほど映り込んでいる。
胸ポケットの校章が刺繍された濃紺のジャケットとスラックス、白いカッターシャツ、そして臙脂のネクタイ。ごく普通の高校の制服だ。
レイはツナと一緒に準備を進めているし、獄寺もほぼ同じスケジュールで動いているようだった。スポーツ推薦で一足先に進路が決まっていた山本だけは、入学準備をほぼ終えている。
「シンプルでいいじゃねぇか。……レイの制服、高校でも男子用か?」
写真を見たディーノの質問に、ツナたち3人は顔を見合わせる。
全員当たり前のように、レイは中学同様男子の制服を着ると思い込んでいた。本人もその気だったようで、一昨日もツナと一緒に男子の制服で採寸をしていたのだ。
「高校の校則は大丈夫か?」
「あっ!た、確かに……」
中学では雲雀という最終関門が許可したので、校則も何もなかった。焦るツナの代わりに、リボーンが答える。
「安心しろ、ママンが高校に確認取って了解もらってるぞ」
「よかった……」
「へえ、日本の学校って結構自由なんだな」
感心したように言うディーノに、一年間抱えていた疑問をぶつけてみる。
「そういえば、並中に転入する時、雲雀さんが男子の制服許可したみたいですけど、あれってディーノさんが確認取ったんですか」
「ああ。まだレイを日本にやるタイミングを迷ってた時期に、一応恭弥に聞てみたんだよ。そしたら『風紀を乱さなければ』ってな」
ディーノは軽く語っているが、雲雀からその一言を聞き出すためだけに、恐らく戦闘だとか戦闘だとか、さらに戦闘だとかで多大な苦労があったことだろう。こんなのディーノでなければ成しえない。面倒見がいい、の一言で片づけるには偉業である。
制服の話から、もう一つツナの頭に疑問が浮かぶ。レイ本人に聞けばいい話ではあったが、なんとなく聞くのを忘れていたのだ。
「イタリアにいた時、レイはスカートはいたりしなかったんですか?」
イタリアの路地裏で再会したときも、今に至っても、レイは女性らしい装いをしていない。というより動きやすさを最重要項目にしているせいで、日常的にもツナと似たような服装をしている。
いつぞやの浴衣のように、家の中で着るだけならば構わないようだが、まだ戦う力を得る前からそうだったのだろうか。
瀬切一家が渡伊する4歳までのことを思い起こせば、幼かったレイは低頻度ながらスカートやワンピースを着ていたような記憶がうっすら残っている。
そんなツナの質問に、ディーノはロマーリオと顔を合わせて苦笑いした。
「昔、アイツが12歳くらいの時だったか?誰かがスカート買ってきたことはあったんだ。『動きやすいのもいいが、たまには女の子らしい格好もどうだ?』って。ごく普通の膝丈くらいのスカートでな」
「無理強いはしてないぜ。レイも照れながらも嫌がってはいなかった」
短い髪も、少しだけ女の子らしく見えるように整えられたという。
ローテーブルに肩肘で頬杖をついて、ディーノは「最初はよかったんだよ」とため息交じりに語り始める。
「慣れないうちはまだ大人しくしてた。ただ、時間が経てばスカートの存在忘れやがってな。猫追い掛けて木登りしようとしたり、窓枠飛び越えようとしたり、ばあさんから財布をスッたやつからスリ返したり……」
「やらかす度にうちの連中から注意されたもんで、レイも嫌になっちまって、それ以降はあの通りだ。すぐに動けて、かつ細かいことを気にしなくていいことが第一条件、って感じにな。嫌な予感はしてたんスパッツは履かせてたんだが、それでも肝が冷えたのなんの……」
遠い目で語るロマーリオに同情する。
沢田家でも似たようなことが先週発生した。レイではなくイーピンだが。
母が買い与えた新しいスカートを、イーピンはいたく気に入った。そこまではいい。問題はその後に発生したランボとの喧嘩だった。
なんとイーピンはスカートのままランボに足技を繰り出した。横にいたツナが、大慌てでイーピンを止めながらスカートを抑えたのだ。
いくら未就学児といえど、家の中での話といえど、よくないものはよくない。
そのまま癖になって、外でも同じことをしてしまっては大変だ。世の中には変な奴がごまんといるし、兄のような立場としてはとても心臓に悪かった。
図らずもディーノたちに深く感情移入してしまう。ああいうのは男側からどのように注意するのがいいのだろうか。
ツナがロマーリオと同じように遠い目をしていたら、「んなことよりも」とディーノがぐっと身を乗り出した。
その目は山本を捉えており、山本は目をぱちくりとさせている。
「お前ら、今どんな感じ?」
「お前らって?」
「お前と、レイのことだよ」
え、と声を山本と、ロマーリオが声を漏らす。
ディーノの目は敵意や咎める色はなく、どちらかといえば興味で輝いている。ちょっと面白がっていたりするかもしれない。
脈絡のない、さらにはド直球の質問に、山本も呼吸を止めたまま何回も瞬きをしている。
しかし、さすがは山本。すぐに持ち直したようで背筋を伸ばし、まっすぐディーノと目線を合わせて口を開いた。
「あの、少し前に、……恋人になりました」
おー、言った、とツナは内心で感心した。
少し声が震えているからなんだというのか。保護者相手に言い切ったことがかっこいい。
しかしディーノはまだ真顔で山本を見据えている。
「アイツで大丈夫か?」
それは、アイツは人間じゃないけど大丈夫か、という意味を明確に含む質問だった。
普通なら一瞬怯むであろうその言葉に山本は、一切の躊躇いなく頷いた。
「オレが、アイツがいいんです」
そのあまりにもまっすぐな言葉に、思わずツナがグッと来てしまった。
横で獄寺が小さく鼻を鳴らしたので横目で見れば、その割には少しだけ顔がにやけている。彼も彼なりに、2人の関係を認めているらしい。
ディーノは山本の言葉を聞き、目を閉じる。そして、すぐに満面の笑みを浮かべた。
「ありがとな、山本!レイのこと頼んだぜ!」
ディーノは山本の肩を叩いた。
「アイツ人間じゃないから、過保護だって分かっててもどうしてもな。ちょっと意地の悪い訊き方になって悪かった」
「いえ」
「でも、お前なら安心だ。オレも、ヒロヤも。もちろん、アイツのことで何かあったら遠慮なく聞いてくれ。可能な限り力になる」
「ありがとうございます」
ディーノに反対されなかったどころか全面的に託された山本は、ふうっと肩の力を抜いた。
それから「ん?」と怪訝そうな顔になる。
「なんで、ディーノさん知ってんすか……?」
今度はツナが硬直する番だった。
秋に兄貴分がやってきた際、レイにいい感じの相手がいることを漏らしてしまったのは、何を隠そうツナなのだ。
しかし、ディーノはツナの名前を欠片も出さずにニヤリとした。
「10月くらいだったか?お前らと偶然外で会っただろ。あの時にいい雰囲気だったからな」
何があったのかツナは知らないが、マジかよ、と山本は少し耳を赤くしながら気まずそうに呟く。
横から獄寺が呆れたように「だから言っただろ、そのうちバレるって」と意地悪く言い放った。相変わらず、山本に対してはいい性格をしている。
その奥でロマーリオが微妙な顔をしている。反対はしないが、ディーノほど手放しで喜んではいないようだ。よく分からないが、父性というやつだろうか。
不意に階下の玄関ドアが開く音がした。
「ただいまー」
聞こえたのはレイの声だ。
「お、来た来た」とレイの分の万年筆を持って、ディーノがうきうきと立ち上がった。そして誰も止める間もなく1人で部屋を出る。
「あ!」という従妹の嬉しそうな声の直後、ドダダダッと何かが落下する音が家中に響き渡った。
いってー、というディーノの声と慌てたようなレイの声を聞きながら、室内の全員が顔を見合わせて苦笑したり呆れたりした。
リボーンがこれみよがしに溜息を吐く。
「アイツがレイ相手にやらかすのは久々だな」
「そうなの?」
「ああ。ヒロヤが消えてからはなかったはずだぞ。アイツなりにレイの前では気を張ってたんだろうな。な、ロマーリオ」
「そうですね」
そうリボーンが言えば、ロマーリオはゆっくり立ち上がりながら笑った。
「ようやくボスも、完全にレイの手を離せたってことでしょうね。……正直オレは寂しいが」
