3月 陽光(ツナ視点)
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「左に隠し扉がありますね」
「えっ、どこ?」
「あ、『金の虫』」
「マジで!?見落としちゃったよ」
1人用のRPGを3人で進める。
両サイドの友人たちから飛んでくる、助言なんだか反射なんだか分からないコメントに、ツナも笑いながら反応する。
受験という重荷が消えてしまえばこんなものだ。山本だって入学したら部活に専念するから、今ほどは遊べなくなる。今だけの特権というやつを謳歌しているのだ。
同じくツナの部屋にいるリボーンが、文句を一言も言わない。つまり完全に許されている。
まあ、高校入学後にはまた成績でしばき倒される予感があるわけだが。
騒ぎながら画面の中の洞窟を進んみ、セーブしたときだった。
インターホンが鳴り響いた。パタパタという母の足音がして、そして。
「あら!ディーノ君!」
明るく響いた奈々の声に、獄寺と山本と顔を合わせた。ゲームの電源を切り、部屋のドアを開ける。もちろんリボーンもついてきた。
階下に明るい髪を見つけると同時に、向こうもこちらを見て笑った。
「ディーノさん!」
「ツナ、リボーン!獄寺と山本もいたか、久しぶりだな!」
奈々に何やら手土産を渡しているロマーリオも、同じように笑みを浮かべた。
階段を下りようとするツナを、ディーノが片手を上げて止める。奈々と一言二言交わした2人は、迷うことなく階段を登ってきた。同じ高さで足をそろえたディーノが、ツナの頭をポンポンと叩いて口を開く。
「背伸びたんじゃねぇか?」
「えっ、本当ですか!?」
「ま、獄寺と山本も伸びてるけどな」
一瞬浮かれるが、即座に現実も叩き込まれた。
なるほど、通りでこの2人と一向に目線が縮まらないわけだ。特に山本はもう十分に伸びたからこれ以上伸びなくてもいいのではないだろうか。
ディーノの視線がツナの膝のあたりに向いた。
「リボーンもすくすく育ってるじゃねぇか」
「成長期だからな」
顔を上げたディーノは、少しだけ目を左右に動かした。
探しているのはツナの従妹だろう。
「すいません、レイは今遊びに行ってて……」
どこに行くかは詳しく聞いていないが、お昼を食べたら帰ってくると言っていた。もうすでに14時を回っているが、まだ帰ってこない。
ディーノが来ると知っていたら、きっと外出もせずにそわそわと待っていたはずだ。
「京子たちとか?」
「あ、いや、今日はクラスの、京子ちゃんじゃない女子と……」
ツナはそこまで交流のないメンバーなので、どんな会話をしてどんな空気になっているのは全く想像がつかなかった。
そんなツナの言葉に、ディーノは嬉しそうに「そっかそっか!」と破顔する。
「いやぁ、アイツに女の子の友達、たくさん作って欲しかったんだよ。キャバッローネなんておっさんばっかだろ?女の子はおろか、同世代の男すらいねぇからさ。な、ロマーリオ」
「まあな。唯一まともに関わりがあった同世代が、ヴァリアーのベルフェゴールくらいだ。性格が歪まなくてよかったというか……」
ツナの部屋に入りながら、客人2人は完全に父兄の目線になっていた。レイが4、5歳の頃からの付き合いなわけだし、実質的な保護者だった期間も長いから仕方ないことかもしれない。
2人の願いはちゃんと叶えられている。
卒業式の後、クラスで自由に歓談していた時。自然と教室内は男女で別れていたが、レイは何の気負いもなく女子の方に混ざっていた。男子の制服を着ているというのに、本人はおろか周囲の女子も全く気にしない。
泣いてる吹奏楽部だった女子の背中をさすったり、女バスの元副主将に抱きつかれたり、かと思えば隅の方でクロームとのんびり談笑していたり、自由にしながらもちゃんと馴染んでいた。
ツナの知らないところで、レイはクラスの女子全体ともちゃんと親交を持っていたということだ。
このことをちゃんと知ったら、この兄貴分は心底喜ぶだろう。
ただ、これはツナよりもレイ本人の口から聞いた方がいい。帰宅後に話を振ってやろう。
ローテーブルを囲むように座れば、「ボス」と言いながらロマーリオが何かをディーノに渡す。それを受け取ったディーノは、ツナたちに向けてその何かを差し出してきた。
「そういや、全員高校合格おめでとう!大したもんじゃねぇけど、合格祝いだ」
「あ、ありがとうございます!」
受け取った箱は、細長く、しかし大きすぎない。ペンケースくらいだろうか。
「これ、なんすか?」
山本が無邪気に問う。その隣で、箱を見ただけの獄寺が頬をひくつかせていた。
「万年筆だ」
「まんねん、ひつ……?」
明るいディーノの声に反して、山本の声が困惑に満ちる。ツナもその声につられるように自身に渡された箱を見た。
万年筆、聞いたことはある。見たこともある。リボーンが使っていたので。
が、ツナ本人は使ったこともなければ触ったこともない。ボールペンと何が違うのかもよくわかっていない。
そもそも、一般的な日本の男子高校生が日常的に使用するものではないような気がする。
リボーンにオーダーメイドの革靴を渡しに行ったディーノを尻目に、山本がこっそり耳打ちしてくる。
「なあツナ、万年筆ってどう使えばいいんだ?」
「わ、わかんない……」
助けを求めるように獄寺を横目で見れば、彼は彼で「老舗の高級文具……」とと軽く引いてるところだった。イタリア語が読めて、イタリアの知識のある獄寺が言うのだからそうなのだろう。
万年筆の相場なんて知らない。老舗の高級品だったらさらに分からない。
途端に手の中の箱が重く感じた。価格を聞いてもいいのだろうか。精神衛生上、聞かない方がいいのだろうか。
祝いの品を片手に硬直してしまう。
「使い方や手入れはレイが知ってるから、あいつに教えてもらってくれ」
「え、レイって万年筆使えるんですか?」
「教養として一応叩き込んである。軽い手入れくらいならお手の物だ」
万年筆の使い方が教養になる文化圏なんて聞いたこともなかった。キャバッローネ内での話だけだと信じたい。
手入れという単語も、正直に言えば重さがある。
「残念、ボンゴレでも教養だぞ」
「えっ……、じゃなくて、だからオレは……!」
手の中の感覚的な重さのせいか、こっちの思考を読んだようなリボーンの言葉にもうまく反論し切れなかった。
もごもご言っていると、ディーノがさわやかな笑顔を向けてくる。
「本当は腕時計とかも考えたんだ。今からでも交換しようか?」
「万年筆ありがとうございます大事に使います!」
一息で感謝を述べる。ディーノの感覚に任せて腕時計なんて選ばれたらどうなることか。まだ万年筆のほうが金額は一桁二桁減るはずだ。
そんなツナを見てニヤつきながら、ディーノは別の包みを差し出してきた。
「今のは『キャバッローネのボス』から『ボンゴレ10代目とその守護者』への祝い。こっちはオレ個人から、お前ら個人への祝いの品だ」
今度は万年筆の箱より縦にも横にも大きい。きれいな布に包まれたそれは見た目の割に少し軽く、中からカサリと音がする。
「イタリア銘菓の詰め合わせだ!ツナはランボに取られないように気をつけろよ」
茶目っ気を見せながら渡された菓子に、ツナの心がぐっと上を向いた。非常に申し訳ない話だが、15歳の男子には食べ物の方がずっと魅力的なのだ。
他の2人も同じようで、先ほどよりも明るい顔で包みを受け取っている。
「ところでこの布って何ですか?」
「ん?被服ブランドのスカーフ」
「ひえぇ……」
再度慄いたツナに、とうとうディーノが声を上げて笑った。
「えっ、どこ?」
「あ、『金の虫』」
「マジで!?見落としちゃったよ」
1人用のRPGを3人で進める。
両サイドの友人たちから飛んでくる、助言なんだか反射なんだか分からないコメントに、ツナも笑いながら反応する。
受験という重荷が消えてしまえばこんなものだ。山本だって入学したら部活に専念するから、今ほどは遊べなくなる。今だけの特権というやつを謳歌しているのだ。
同じくツナの部屋にいるリボーンが、文句を一言も言わない。つまり完全に許されている。
まあ、高校入学後にはまた成績でしばき倒される予感があるわけだが。
騒ぎながら画面の中の洞窟を進んみ、セーブしたときだった。
インターホンが鳴り響いた。パタパタという母の足音がして、そして。
「あら!ディーノ君!」
明るく響いた奈々の声に、獄寺と山本と顔を合わせた。ゲームの電源を切り、部屋のドアを開ける。もちろんリボーンもついてきた。
階下に明るい髪を見つけると同時に、向こうもこちらを見て笑った。
「ディーノさん!」
「ツナ、リボーン!獄寺と山本もいたか、久しぶりだな!」
奈々に何やら手土産を渡しているロマーリオも、同じように笑みを浮かべた。
階段を下りようとするツナを、ディーノが片手を上げて止める。奈々と一言二言交わした2人は、迷うことなく階段を登ってきた。同じ高さで足をそろえたディーノが、ツナの頭をポンポンと叩いて口を開く。
「背伸びたんじゃねぇか?」
「えっ、本当ですか!?」
「ま、獄寺と山本も伸びてるけどな」
一瞬浮かれるが、即座に現実も叩き込まれた。
なるほど、通りでこの2人と一向に目線が縮まらないわけだ。特に山本はもう十分に伸びたからこれ以上伸びなくてもいいのではないだろうか。
ディーノの視線がツナの膝のあたりに向いた。
「リボーンもすくすく育ってるじゃねぇか」
「成長期だからな」
顔を上げたディーノは、少しだけ目を左右に動かした。
探しているのはツナの従妹だろう。
「すいません、レイは今遊びに行ってて……」
どこに行くかは詳しく聞いていないが、お昼を食べたら帰ってくると言っていた。もうすでに14時を回っているが、まだ帰ってこない。
ディーノが来ると知っていたら、きっと外出もせずにそわそわと待っていたはずだ。
「京子たちとか?」
「あ、いや、今日はクラスの、京子ちゃんじゃない女子と……」
ツナはそこまで交流のないメンバーなので、どんな会話をしてどんな空気になっているのは全く想像がつかなかった。
そんなツナの言葉に、ディーノは嬉しそうに「そっかそっか!」と破顔する。
「いやぁ、アイツに女の子の友達、たくさん作って欲しかったんだよ。キャバッローネなんておっさんばっかだろ?女の子はおろか、同世代の男すらいねぇからさ。な、ロマーリオ」
「まあな。唯一まともに関わりがあった同世代が、ヴァリアーのベルフェゴールくらいだ。性格が歪まなくてよかったというか……」
ツナの部屋に入りながら、客人2人は完全に父兄の目線になっていた。レイが4、5歳の頃からの付き合いなわけだし、実質的な保護者だった期間も長いから仕方ないことかもしれない。
2人の願いはちゃんと叶えられている。
卒業式の後、クラスで自由に歓談していた時。自然と教室内は男女で別れていたが、レイは何の気負いもなく女子の方に混ざっていた。男子の制服を着ているというのに、本人はおろか周囲の女子も全く気にしない。
泣いてる吹奏楽部だった女子の背中をさすったり、女バスの元副主将に抱きつかれたり、かと思えば隅の方でクロームとのんびり談笑していたり、自由にしながらもちゃんと馴染んでいた。
ツナの知らないところで、レイはクラスの女子全体ともちゃんと親交を持っていたということだ。
このことをちゃんと知ったら、この兄貴分は心底喜ぶだろう。
ただ、これはツナよりもレイ本人の口から聞いた方がいい。帰宅後に話を振ってやろう。
ローテーブルを囲むように座れば、「ボス」と言いながらロマーリオが何かをディーノに渡す。それを受け取ったディーノは、ツナたちに向けてその何かを差し出してきた。
「そういや、全員高校合格おめでとう!大したもんじゃねぇけど、合格祝いだ」
「あ、ありがとうございます!」
受け取った箱は、細長く、しかし大きすぎない。ペンケースくらいだろうか。
「これ、なんすか?」
山本が無邪気に問う。その隣で、箱を見ただけの獄寺が頬をひくつかせていた。
「万年筆だ」
「まんねん、ひつ……?」
明るいディーノの声に反して、山本の声が困惑に満ちる。ツナもその声につられるように自身に渡された箱を見た。
万年筆、聞いたことはある。見たこともある。リボーンが使っていたので。
が、ツナ本人は使ったこともなければ触ったこともない。ボールペンと何が違うのかもよくわかっていない。
そもそも、一般的な日本の男子高校生が日常的に使用するものではないような気がする。
リボーンにオーダーメイドの革靴を渡しに行ったディーノを尻目に、山本がこっそり耳打ちしてくる。
「なあツナ、万年筆ってどう使えばいいんだ?」
「わ、わかんない……」
助けを求めるように獄寺を横目で見れば、彼は彼で「老舗の高級文具……」とと軽く引いてるところだった。イタリア語が読めて、イタリアの知識のある獄寺が言うのだからそうなのだろう。
万年筆の相場なんて知らない。老舗の高級品だったらさらに分からない。
途端に手の中の箱が重く感じた。価格を聞いてもいいのだろうか。精神衛生上、聞かない方がいいのだろうか。
祝いの品を片手に硬直してしまう。
「使い方や手入れはレイが知ってるから、あいつに教えてもらってくれ」
「え、レイって万年筆使えるんですか?」
「教養として一応叩き込んである。軽い手入れくらいならお手の物だ」
万年筆の使い方が教養になる文化圏なんて聞いたこともなかった。キャバッローネ内での話だけだと信じたい。
手入れという単語も、正直に言えば重さがある。
「残念、ボンゴレでも教養だぞ」
「えっ……、じゃなくて、だからオレは……!」
手の中の感覚的な重さのせいか、こっちの思考を読んだようなリボーンの言葉にもうまく反論し切れなかった。
もごもご言っていると、ディーノがさわやかな笑顔を向けてくる。
「本当は腕時計とかも考えたんだ。今からでも交換しようか?」
「万年筆ありがとうございます大事に使います!」
一息で感謝を述べる。ディーノの感覚に任せて腕時計なんて選ばれたらどうなることか。まだ万年筆のほうが金額は一桁二桁減るはずだ。
そんなツナを見てニヤつきながら、ディーノは別の包みを差し出してきた。
「今のは『キャバッローネのボス』から『ボンゴレ10代目とその守護者』への祝い。こっちはオレ個人から、お前ら個人への祝いの品だ」
今度は万年筆の箱より縦にも横にも大きい。きれいな布に包まれたそれは見た目の割に少し軽く、中からカサリと音がする。
「イタリア銘菓の詰め合わせだ!ツナはランボに取られないように気をつけろよ」
茶目っ気を見せながら渡された菓子に、ツナの心がぐっと上を向いた。非常に申し訳ない話だが、15歳の男子には食べ物の方がずっと魅力的なのだ。
他の2人も同じようで、先ほどよりも明るい顔で包みを受け取っている。
「ところでこの布って何ですか?」
「ん?被服ブランドのスカーフ」
「ひえぇ……」
再度慄いたツナに、とうとうディーノが声を上げて笑った。
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