一歩(2月その2)
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2月13日、日曜日。
約束した通り、レイはハルたちと共にバレンタインのチョコレート菓子作りをすることになった。
事前にハルから渡された複数のレシピを勉強の合間に眺めながら悩んだ結果、レイは個々に渡しやすく、かつ難易度もそこまで高くなさそうなチョコレートマフィンを選んだ。
材料と包むための諸々を用意して、笹川家のキッチンを借りた。
とても、とても楽しかった。
ほとんどが他愛もない話だったというのに、友達とおしゃべりをしながらお菓子を作ることがこんなに楽しいことだとは知らなかった。
家庭科の実習もとても楽しかったが、その比ではない。
誰に渡すか、混ぜる順番やオーブンの温度がどうか、明日の学校はどんな感じになるか、出来上がった菓子をどう包むか、早く受験を終えて心置きなく遊びたいとか。
そして出来上がったお菓子のうち、少し焦がしてしまったものはその場で摘みながら「たまにはお昼ご飯がお菓子でもいいですよね」と笑ったり、少し横に膨れてしまったレイのマフィンを「すごくおいしい!」と喜んでくれたり。
そんな彼女たちを眺めながら、レイはその幸福感に少しだけ泣きそうになった。
日本に行って学校に通えと言ってくれたディーノに、もう何回目になるかわからない感謝を心の中で伝える。彼が背中を押してくれなければ、こんな幸福に出会うことはなかったかもしれない。
受験が終わったら、改めてお礼の手紙を書いて送ろう。
午後、了平宛のお菓子3人分を京子に託して笹川家を出る。
ハルともクロームとも別れ。マフィンを詰めた箱がいくつも入った紙袋を片手に、レイは沢田家に帰る。
「ただいまー」
「あ、レイ!」
玄関を開ければ、ランボが廊下にブロックを積み上げるでもなくひたすら敷き詰めて遊んでいた。
「後でちゃんと片付けるんだよ」
「んーん、ツナにやらせる」
「獄寺と喧嘩になっても助けてあげないぞ?」
三和土に置かれた友人の靴を見ながら自身の靴を脱ぐ。昨日も来ていたというか、獄寺が来てない日の方が珍しいような気がしてきた。
パッと顔を上げたランボが、自分のまき散らしたブロックを器用によけながらレイの足にまとわりついてくる。
「なんかいい匂いすんね?お菓子?」
「後でね」
「今がいいー!」
「おばさんにおやつの予定聞いてからだ」
「あ、おかえり。朝からどこ行ってたんだよ」
あしらっても駄々をこねる子どもに苦笑していると、騒ぎを聞いたのかリビングからツナが顔を出してきた。その後ろに、やはり獄寺もいる。
「ただいま、ランボが……」
「ねーツナー!レイがお菓子持ってんのにランボさんにくれないんだもんね!」
「お菓子?」と首をかしげるツナを見て、別に今渡してもいいか、とレイは脱力して笑う。
足にしがみついたランボはそのままにツナに近寄り、一つ箱を差し出した。ツナが不思議そうに受け取る。
「はい、1日早いけどバレンタインのお菓子。いつもありがとう」
「え、こっちこそ……?これ作ってたの?」
「ああ、京子の家で」
「え、京子ちゃんち?」
バレンタインよりもお菓子よりも、『京子』という単語に反応するツナに笑ってしまう。京子はキミの分も作ってたよ、とネタばらししてしまうのはもったいないので黙っておこう。
「何作ったの?」
「マフィン」
「マフィンって手作りできるんだ……」
「思ったよりは難しくなかったよ」
そういいながら、獄寺にも箱を差し出す。
「キミにも。いつもありがとう。……どうした?」
妙に顔色が悪い。甘いものが嫌いではないと思っていたが、違っただろうか。
困惑していると、彼は声を絞って訊いてきた。
「……きは」
「ん?」
「そこに、姉貴はいたか?」
要は、このお菓子に劇物が混入していないかを恐れているようだ。彼にとっては深刻な問題なのだろう、思わず笑ってしまってにらまれた。
「いなかったよ。京子とハルとクロームとボクの4人だ」
そう伝えれば、獄寺は心底ほっとした顔で受け取ってくれた。彼の気持ちはこの体質上、レイは一生分かってやれないだろう。
最後にランボを抱き上げる。
「ランボの分もちゃんとあるよ」
「ちょーだい!」
「おばさんに訊いてから」
やだやだと駄々をこねるランボを抱えたまま、奈々、リボーン、フゥ太、イーピンにも渡すことができた。
奈々に至っては大喜びで、ランボごとレイを抱き締めてくれたのが照れ臭くも嬉しかった。奈々とイーピンは、明日お菓子を作ってくれるのだという。
なお、姿の見えなかったビアンキは、リボーンのために南米にカカオ採取に行ったという。彼女には帰国後に渡すことにして、残り数個となったほかのマフィンと共に冷蔵庫にしまった。
過去問の答え合わせを一通り終えて嘆息する。理科はよほど奇怪な問題が出されなければ合格圏内なはずだ。
時計を見れば午後3時過ぎだった。
人の気配を感じて椅子から立つと同時にノックの音が飛び込んだ。ドアを開ければツナと獄寺が立っている。
「マフィンおいしかった、ありがとう」
「そっか、よかった」
いらないのに、わざわざ礼を言いに来てくれたようだ。
日常でツナのささやかな心遣いや優しさに触れるたび、彼が自身のオーナーであることに喜びと誇りを感じる。
ツナの後ろに立つ獄寺も悪くない顔をしているので、彼にとっても気に食わない味ではなかったのだろう。
レイがあたたかな気持ちに癒されていると、ツナが「そういえば」と口を開いた。
「冷蔵庫にあと3個くらい入ってたけど、あれ誰の?」
「ああ、あれか」
明日に渡そうと思っている人たちの分だ。
「ビアンキさんと、花と……」
そこまで言って、どうしてか口が止まってしまった。
そんなレイに慌てることもなく、ツナは「ああ、山本ね」と勝手に合点が行ったように頷いた。
「まだ遅くないし、今から渡しに行けばいいじゃん」
渡す相手も渡すことも勝手に決めてきたツナを、思わずにらんで反論する。
「別に山本のって言ってないだろ」
「オレらにくれたのに、山本にないわけないだろ」
即座に論破され、レイは黙り込む。
それはそうだ。ツナはともかく、獄寺にも渡して山本に渡さないというのは妙な話だ。
確かに、3のうち1つは山本に渡すためのもので間違いはない。
だが、別に今日渡す必要はないと思っていた。それは今日がバレンタインの前日であることと、照れと不安によるちょっとした先延ばしの融合によるものだ。
まごついているレイを茶化すでもなく、ツナが言う。
「明日になったら山本に渡すタイミングないと思うから、今日渡しに行きなよ」
「……なんで明日だとタイミングがないんだ?」
「毎年ヤバいから」
「ヤバいって?……うわ、獄寺なんだその顔」
横に視線を移せば、獄寺は苦虫どころかもっとヤバいものを噛み潰したような顔をしていた。
「……瀬切」
獄寺の地を這うような声に、ほんの少し身がすくむ。
「な、なに?」
「明日、心底不本意だがオレは10代目の登下校にお付き合いすることができねぇ。山本もだ」
「あ、ああ?」
「だからテメェが10代目を学校までお守りしろ、いいな」
「それは構わないけど」
どうせ登下校はツナと一緒だから言われるまでもないが、何が彼にこんな顔をさせているのかが全く分からない。
「護衛とかは別にいいんだけど、明日は獄寺君も山本もとんでもないことになるのは間違いないからさ」
もう三年生だし、とツナは少し同情するように獄寺を横目で見た。
そして、三年生だから何なのか理解が及ばないレイに向き直り、「だから、今日がいい。山本もその方が嬉しいと思う」と言ってきた。
揶揄うでもなく、ただ事実に優しさを乗せただけのツナの言葉に、どう返せばいいのか分からなくなる。
ツナと目を合わせたまま黙っていると、横で一部始終を見ていた獄寺からも「さっさと行け」と言われた。
「なんでキミまで」
「10代目のお手を煩わせんな」
文句は一蹴される。レイは大きくため息を吐いた。
2人分の視線に押されるようにして上着とマフラーを取り、部屋を出る。まず向かうは冷蔵庫だ。
ツナの横を通って階段の中程まで降りたところで、上から声が降ってきた。
「あ、レイ」
「なに?」
「ハート描いた?」
「描くわけないだろ!バカ!」
「おい瀬切!テメェ今10代目になんつった!?」
約束した通り、レイはハルたちと共にバレンタインのチョコレート菓子作りをすることになった。
事前にハルから渡された複数のレシピを勉強の合間に眺めながら悩んだ結果、レイは個々に渡しやすく、かつ難易度もそこまで高くなさそうなチョコレートマフィンを選んだ。
材料と包むための諸々を用意して、笹川家のキッチンを借りた。
とても、とても楽しかった。
ほとんどが他愛もない話だったというのに、友達とおしゃべりをしながらお菓子を作ることがこんなに楽しいことだとは知らなかった。
家庭科の実習もとても楽しかったが、その比ではない。
誰に渡すか、混ぜる順番やオーブンの温度がどうか、明日の学校はどんな感じになるか、出来上がった菓子をどう包むか、早く受験を終えて心置きなく遊びたいとか。
そして出来上がったお菓子のうち、少し焦がしてしまったものはその場で摘みながら「たまにはお昼ご飯がお菓子でもいいですよね」と笑ったり、少し横に膨れてしまったレイのマフィンを「すごくおいしい!」と喜んでくれたり。
そんな彼女たちを眺めながら、レイはその幸福感に少しだけ泣きそうになった。
日本に行って学校に通えと言ってくれたディーノに、もう何回目になるかわからない感謝を心の中で伝える。彼が背中を押してくれなければ、こんな幸福に出会うことはなかったかもしれない。
受験が終わったら、改めてお礼の手紙を書いて送ろう。
午後、了平宛のお菓子3人分を京子に託して笹川家を出る。
ハルともクロームとも別れ。マフィンを詰めた箱がいくつも入った紙袋を片手に、レイは沢田家に帰る。
「ただいまー」
「あ、レイ!」
玄関を開ければ、ランボが廊下にブロックを積み上げるでもなくひたすら敷き詰めて遊んでいた。
「後でちゃんと片付けるんだよ」
「んーん、ツナにやらせる」
「獄寺と喧嘩になっても助けてあげないぞ?」
三和土に置かれた友人の靴を見ながら自身の靴を脱ぐ。昨日も来ていたというか、獄寺が来てない日の方が珍しいような気がしてきた。
パッと顔を上げたランボが、自分のまき散らしたブロックを器用によけながらレイの足にまとわりついてくる。
「なんかいい匂いすんね?お菓子?」
「後でね」
「今がいいー!」
「おばさんにおやつの予定聞いてからだ」
「あ、おかえり。朝からどこ行ってたんだよ」
あしらっても駄々をこねる子どもに苦笑していると、騒ぎを聞いたのかリビングからツナが顔を出してきた。その後ろに、やはり獄寺もいる。
「ただいま、ランボが……」
「ねーツナー!レイがお菓子持ってんのにランボさんにくれないんだもんね!」
「お菓子?」と首をかしげるツナを見て、別に今渡してもいいか、とレイは脱力して笑う。
足にしがみついたランボはそのままにツナに近寄り、一つ箱を差し出した。ツナが不思議そうに受け取る。
「はい、1日早いけどバレンタインのお菓子。いつもありがとう」
「え、こっちこそ……?これ作ってたの?」
「ああ、京子の家で」
「え、京子ちゃんち?」
バレンタインよりもお菓子よりも、『京子』という単語に反応するツナに笑ってしまう。京子はキミの分も作ってたよ、とネタばらししてしまうのはもったいないので黙っておこう。
「何作ったの?」
「マフィン」
「マフィンって手作りできるんだ……」
「思ったよりは難しくなかったよ」
そういいながら、獄寺にも箱を差し出す。
「キミにも。いつもありがとう。……どうした?」
妙に顔色が悪い。甘いものが嫌いではないと思っていたが、違っただろうか。
困惑していると、彼は声を絞って訊いてきた。
「……きは」
「ん?」
「そこに、姉貴はいたか?」
要は、このお菓子に劇物が混入していないかを恐れているようだ。彼にとっては深刻な問題なのだろう、思わず笑ってしまってにらまれた。
「いなかったよ。京子とハルとクロームとボクの4人だ」
そう伝えれば、獄寺は心底ほっとした顔で受け取ってくれた。彼の気持ちはこの体質上、レイは一生分かってやれないだろう。
最後にランボを抱き上げる。
「ランボの分もちゃんとあるよ」
「ちょーだい!」
「おばさんに訊いてから」
やだやだと駄々をこねるランボを抱えたまま、奈々、リボーン、フゥ太、イーピンにも渡すことができた。
奈々に至っては大喜びで、ランボごとレイを抱き締めてくれたのが照れ臭くも嬉しかった。奈々とイーピンは、明日お菓子を作ってくれるのだという。
なお、姿の見えなかったビアンキは、リボーンのために南米にカカオ採取に行ったという。彼女には帰国後に渡すことにして、残り数個となったほかのマフィンと共に冷蔵庫にしまった。
過去問の答え合わせを一通り終えて嘆息する。理科はよほど奇怪な問題が出されなければ合格圏内なはずだ。
時計を見れば午後3時過ぎだった。
人の気配を感じて椅子から立つと同時にノックの音が飛び込んだ。ドアを開ければツナと獄寺が立っている。
「マフィンおいしかった、ありがとう」
「そっか、よかった」
いらないのに、わざわざ礼を言いに来てくれたようだ。
日常でツナのささやかな心遣いや優しさに触れるたび、彼が自身のオーナーであることに喜びと誇りを感じる。
ツナの後ろに立つ獄寺も悪くない顔をしているので、彼にとっても気に食わない味ではなかったのだろう。
レイがあたたかな気持ちに癒されていると、ツナが「そういえば」と口を開いた。
「冷蔵庫にあと3個くらい入ってたけど、あれ誰の?」
「ああ、あれか」
明日に渡そうと思っている人たちの分だ。
「ビアンキさんと、花と……」
そこまで言って、どうしてか口が止まってしまった。
そんなレイに慌てることもなく、ツナは「ああ、山本ね」と勝手に合点が行ったように頷いた。
「まだ遅くないし、今から渡しに行けばいいじゃん」
渡す相手も渡すことも勝手に決めてきたツナを、思わずにらんで反論する。
「別に山本のって言ってないだろ」
「オレらにくれたのに、山本にないわけないだろ」
即座に論破され、レイは黙り込む。
それはそうだ。ツナはともかく、獄寺にも渡して山本に渡さないというのは妙な話だ。
確かに、3のうち1つは山本に渡すためのもので間違いはない。
だが、別に今日渡す必要はないと思っていた。それは今日がバレンタインの前日であることと、照れと不安によるちょっとした先延ばしの融合によるものだ。
まごついているレイを茶化すでもなく、ツナが言う。
「明日になったら山本に渡すタイミングないと思うから、今日渡しに行きなよ」
「……なんで明日だとタイミングがないんだ?」
「毎年ヤバいから」
「ヤバいって?……うわ、獄寺なんだその顔」
横に視線を移せば、獄寺は苦虫どころかもっとヤバいものを噛み潰したような顔をしていた。
「……瀬切」
獄寺の地を這うような声に、ほんの少し身がすくむ。
「な、なに?」
「明日、心底不本意だがオレは10代目の登下校にお付き合いすることができねぇ。山本もだ」
「あ、ああ?」
「だからテメェが10代目を学校までお守りしろ、いいな」
「それは構わないけど」
どうせ登下校はツナと一緒だから言われるまでもないが、何が彼にこんな顔をさせているのかが全く分からない。
「護衛とかは別にいいんだけど、明日は獄寺君も山本もとんでもないことになるのは間違いないからさ」
もう三年生だし、とツナは少し同情するように獄寺を横目で見た。
そして、三年生だから何なのか理解が及ばないレイに向き直り、「だから、今日がいい。山本もその方が嬉しいと思う」と言ってきた。
揶揄うでもなく、ただ事実に優しさを乗せただけのツナの言葉に、どう返せばいいのか分からなくなる。
ツナと目を合わせたまま黙っていると、横で一部始終を見ていた獄寺からも「さっさと行け」と言われた。
「なんでキミまで」
「10代目のお手を煩わせんな」
文句は一蹴される。レイは大きくため息を吐いた。
2人分の視線に押されるようにして上着とマフラーを取り、部屋を出る。まず向かうは冷蔵庫だ。
ツナの横を通って階段の中程まで降りたところで、上から声が降ってきた。
「あ、レイ」
「なに?」
「ハート描いた?」
「描くわけないだろ!バカ!」
「おい瀬切!テメェ今10代目になんつった!?」