閃光(2月その1)
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店のドアを開けた瞬間にびゅう、と吹き付けた冷たい風に、クロームは思わず目を閉じる。それを見て、レイは首を傾げた。
「寒い?」
「うん。レイは……、平気そうだね」
隣を歩くレイは前髪を北風に持ち上げられながらも、ケロッとした顔をしている。唯一身に着けている防寒具であるマフラーも、相変わらず首回りはスカスカである。昔から寒さが苦手なクロームは、いいなぁ、とこっそり思った。
放課後、クロームはレイと共に商店街の書店に入り、それぞれ目当ての問題集を購入した。
受験まであと2週間ほど。
いわゆる受験直前期。人によるだろうが、レイは苦手を潰しきるよりもひたすらに過去問や類似の問題集をこなして行く方に舵を切ったようだ。
クロームは苦手を潰しておきたい。成績だけで言えば志望校は十分に合格圏内だが、もう少しだけ数学を詰めて安心しておきたい。
ふと、商店街の全体を飾る赤とピンクの飾りが目に入った。特に洋菓子店から雑貨店、花屋ではその色合いが増えているように見えた。
脳裏に骸の姿が浮かび、心臓の鼓動が早くなる。チョコレートを好む彼に、何か渡すことはできるだろうか。
「バレンタイン、日本でも盛り上がるんだ」
クロームの視線を追ったレイが、しみじみとつぶやいた。そういえばこのイベントの発祥はイタリアだったか。
「イタリアのバレンタインってどんな感じなの?」
「そうだなぁ、とにかく『恋人のための日』って感じだった。町中でバラが売られて、レストランも予約でいっぱい。ファミリーの人も、恋人や奥さんがいる人は休んだり早く帰ったりしてたよ」
「すごいね」
「あっちは”愛”に全力な国だから」
確かにイタリアといえば愛情表現が熱烈な国というイメージが強い。
「レイはそういうのあった?」
「家族としてディーノさんやキャバッローネの人たちと花やプレゼントや手紙を渡し合ったりはしたな」
恋人だけでなく、広い意味で愛を伝える日でもあるのだとレイは言う。その顔は優しくて、クロームも口元が緩む。
と同時に、レイの目が好奇心できらめいているのにも気付く。異国でのバレンタインデーの催しが気になるようだ。
実を言えば、クロームも少し気になっている。受験直前といえど、たまの息抜きはきっと必要だ。
「せっかくだし、行ってみる?」
そういえば、レイはパッと顔を明るくして頷いた。
洋菓子店を後にして雑貨店に入りながらレイが「なんでチョコレート?」首をかしげる。クロームもあまり詳しいことは知らず、「昔お菓子メーカーがなんとか……」くらいの回答しかできなかった。
2人の入った雑貨店の中も、前にレイへの誕生日プレゼントを買った時よりピンクや赤の割合が増えているように見えた。
店内をきょろきょろしながら、レイが「こっちは女性が男性に渡すイメージみたいだ」とつぶやく。イタリアでは男性から女性にアプローチをする日だからこそ、不思議なのだろう。
「女の人が好きな男の人にチョコレートを渡して告白するような感じかも。友達や家族にも渡すけど」
「へー……」
ふとレイの声と視線が遠くなったような気がした。
誰を考えているかなんて、訊かなくたって分かる。
冬休みに入る前に山本がレイへの誕生日プレゼントを悩んでいたことを思い出す。
『あのさ、瀬切って何渡したら喜ぶと思う?』と真っ直ぐに訊いてきた彼は、レイへの好意を隠すことなく見せてくれた。クロームと京子を信頼してくれていたのだろう。
嬉しくて、誇らしくて、少しだけくすぐったい。
レイからはまだはっきりと彼への好意を聞いたことはない。
でも、意識し始めたであろう時期に比べれば、彼女の心はずっと柔らかくなった。
もう少しかなぁ、とクロームは人知れず微笑んだ。
2人でバレンタイン向けの雑貨を眺めていると、店員に「カップルさんにはこちらが人気ですよ」とさりげなくアクセサリーコーナーを勧められる。
カップルじゃないです、とレイが店員に伝えていると、後ろから声をかけられた。
「クロームちゃん」
「こんにちは!」
「京子ちゃん、ハルちゃん」
友人2人がそこにいた。店員との話が終わったレイも、2人に気付いて近付いてくる。
「2人ともどうしたんだ?」
「さっきラ・ナミモリーヌでケーキ買ってたの!」
嬉しそうに話す京子に、そっか、とレイもつられるように笑顔を浮かべながら言う。
そんなレイをしげしげと見ながら、ハルが口を開く。
「レイちゃん、なんか身長伸びました……?」
「そう、かな?」
レイは首を傾げているが、実際に身長は伸びている。
出会った頃は160cmあるかないかといった身長が、秋から2~3cmは伸びているだろう。春よりも、レイの顔は少し高い位置にあった。
しかし、よく一緒にいるツナと獄寺と山本も、身長が伸びている。そのせいか、レイは自分たちの身長が伸びていることにあまりピンと来ていないようだ。
「絶対伸びましたよ!一瞬クロームちゃんが知らない男の人といるのかと思ってドキドキしちゃいました」
ハルの言葉に、クロームはクスリと笑ってしまった。
女子の中ではやや背が高い部類に入ったレイは、その見た目も相まってか、以前にも増して男子に間違われる。
相変わらず短めの髪に、学校では男子用の制服を着用して、私服も動きやすさを重視した結果ほとんどメンズ。さらに少し精悍さを増した顔立ちも含めてしまえば無理もないだろう。
レイのことをあまり知らない他クラスや後輩の中には、クロームとレイがカップルだと勘違いしている人もいるようだ。同性同士の気安い距離感や会話もその誤解を後押ししているのだろう。
よもやハルまで一瞬勘違いしてしまうとは。
「はっ……。ツナさんも身長伸びたりしました?」
「ツナ?どうだろう。でも、ボクが伸びたなら目線変わらないし、ツナも伸びたかも……?」
「きゃー!」
恋する乙女は今日も元気だ。相手の話題一つでこんなにも大喜びするなんて。
ふと気になって、京子の顔を盗み見る。秋のお泊りの時、彼女がわずかに見せた恋の芽は一体誰に向けたものなのだろう。
「どうしたの?」
「う、ううん。なんでもない」
ぱちくりと大きな目を瞬かせた京子に、慌てて首を横に振る。
ここにいる4人全員が、1人は仮だが、恋をしていると考えると、なんだかどうしようもなくむず痒い。
「あ、そうだ!」
ハルの声が明るく響く。
「みんなでバレンタインのチョコづくりしませんか?」
「へ?作るの?」
「はい!日本では友達やお世話になった人、そして好きな人に手作りのチョコを渡したりするんですよ!」
そこまで言ってから、ハルははっと息をのんで言葉を止めた。
「皆さん受験があるの忘れてました……。無神経でごめんなさい……」
項垂れてしまった。彼女は内部進学なので、確かにクロームたちとはこの冬の過ごし方が違う。
しかし誰も彼女を責めるつもりはない。最初にレイが笑顔で答えた。
「誘ってくれて嬉しかったよ。チョコレートを作って渡すってことも教えてくれたしさ。ボクも時間が取れたらみんなとやってみたい」
レイの言葉にハルが「レイちゃん……」と顔を上げる。
「私もいいかな?受験生でも息抜きは大事だもん。ね、クロームちゃん」
「うん」
「京子ちゃんとクロームちゃんも……!」
3人からの肯定の言葉に、ハルの目が輝き、そしてその顔が明るく晴れていく。
ぐっと胸の前で拳を握ったハルが、また明るく声を上げた。
「じゃあ、週末に集まりましょう!レイちゃん、友チョコとか義理チョコとか本命チョコとか色々ありますが、どこまで作りますか!?」
「ま、待って。何が何だって?」
「寒い?」
「うん。レイは……、平気そうだね」
隣を歩くレイは前髪を北風に持ち上げられながらも、ケロッとした顔をしている。唯一身に着けている防寒具であるマフラーも、相変わらず首回りはスカスカである。昔から寒さが苦手なクロームは、いいなぁ、とこっそり思った。
放課後、クロームはレイと共に商店街の書店に入り、それぞれ目当ての問題集を購入した。
受験まであと2週間ほど。
いわゆる受験直前期。人によるだろうが、レイは苦手を潰しきるよりもひたすらに過去問や類似の問題集をこなして行く方に舵を切ったようだ。
クロームは苦手を潰しておきたい。成績だけで言えば志望校は十分に合格圏内だが、もう少しだけ数学を詰めて安心しておきたい。
ふと、商店街の全体を飾る赤とピンクの飾りが目に入った。特に洋菓子店から雑貨店、花屋ではその色合いが増えているように見えた。
脳裏に骸の姿が浮かび、心臓の鼓動が早くなる。チョコレートを好む彼に、何か渡すことはできるだろうか。
「バレンタイン、日本でも盛り上がるんだ」
クロームの視線を追ったレイが、しみじみとつぶやいた。そういえばこのイベントの発祥はイタリアだったか。
「イタリアのバレンタインってどんな感じなの?」
「そうだなぁ、とにかく『恋人のための日』って感じだった。町中でバラが売られて、レストランも予約でいっぱい。ファミリーの人も、恋人や奥さんがいる人は休んだり早く帰ったりしてたよ」
「すごいね」
「あっちは”愛”に全力な国だから」
確かにイタリアといえば愛情表現が熱烈な国というイメージが強い。
「レイはそういうのあった?」
「家族としてディーノさんやキャバッローネの人たちと花やプレゼントや手紙を渡し合ったりはしたな」
恋人だけでなく、広い意味で愛を伝える日でもあるのだとレイは言う。その顔は優しくて、クロームも口元が緩む。
と同時に、レイの目が好奇心できらめいているのにも気付く。異国でのバレンタインデーの催しが気になるようだ。
実を言えば、クロームも少し気になっている。受験直前といえど、たまの息抜きはきっと必要だ。
「せっかくだし、行ってみる?」
そういえば、レイはパッと顔を明るくして頷いた。
洋菓子店を後にして雑貨店に入りながらレイが「なんでチョコレート?」首をかしげる。クロームもあまり詳しいことは知らず、「昔お菓子メーカーがなんとか……」くらいの回答しかできなかった。
2人の入った雑貨店の中も、前にレイへの誕生日プレゼントを買った時よりピンクや赤の割合が増えているように見えた。
店内をきょろきょろしながら、レイが「こっちは女性が男性に渡すイメージみたいだ」とつぶやく。イタリアでは男性から女性にアプローチをする日だからこそ、不思議なのだろう。
「女の人が好きな男の人にチョコレートを渡して告白するような感じかも。友達や家族にも渡すけど」
「へー……」
ふとレイの声と視線が遠くなったような気がした。
誰を考えているかなんて、訊かなくたって分かる。
冬休みに入る前に山本がレイへの誕生日プレゼントを悩んでいたことを思い出す。
『あのさ、瀬切って何渡したら喜ぶと思う?』と真っ直ぐに訊いてきた彼は、レイへの好意を隠すことなく見せてくれた。クロームと京子を信頼してくれていたのだろう。
嬉しくて、誇らしくて、少しだけくすぐったい。
レイからはまだはっきりと彼への好意を聞いたことはない。
でも、意識し始めたであろう時期に比べれば、彼女の心はずっと柔らかくなった。
もう少しかなぁ、とクロームは人知れず微笑んだ。
2人でバレンタイン向けの雑貨を眺めていると、店員に「カップルさんにはこちらが人気ですよ」とさりげなくアクセサリーコーナーを勧められる。
カップルじゃないです、とレイが店員に伝えていると、後ろから声をかけられた。
「クロームちゃん」
「こんにちは!」
「京子ちゃん、ハルちゃん」
友人2人がそこにいた。店員との話が終わったレイも、2人に気付いて近付いてくる。
「2人ともどうしたんだ?」
「さっきラ・ナミモリーヌでケーキ買ってたの!」
嬉しそうに話す京子に、そっか、とレイもつられるように笑顔を浮かべながら言う。
そんなレイをしげしげと見ながら、ハルが口を開く。
「レイちゃん、なんか身長伸びました……?」
「そう、かな?」
レイは首を傾げているが、実際に身長は伸びている。
出会った頃は160cmあるかないかといった身長が、秋から2~3cmは伸びているだろう。春よりも、レイの顔は少し高い位置にあった。
しかし、よく一緒にいるツナと獄寺と山本も、身長が伸びている。そのせいか、レイは自分たちの身長が伸びていることにあまりピンと来ていないようだ。
「絶対伸びましたよ!一瞬クロームちゃんが知らない男の人といるのかと思ってドキドキしちゃいました」
ハルの言葉に、クロームはクスリと笑ってしまった。
女子の中ではやや背が高い部類に入ったレイは、その見た目も相まってか、以前にも増して男子に間違われる。
相変わらず短めの髪に、学校では男子用の制服を着用して、私服も動きやすさを重視した結果ほとんどメンズ。さらに少し精悍さを増した顔立ちも含めてしまえば無理もないだろう。
レイのことをあまり知らない他クラスや後輩の中には、クロームとレイがカップルだと勘違いしている人もいるようだ。同性同士の気安い距離感や会話もその誤解を後押ししているのだろう。
よもやハルまで一瞬勘違いしてしまうとは。
「はっ……。ツナさんも身長伸びたりしました?」
「ツナ?どうだろう。でも、ボクが伸びたなら目線変わらないし、ツナも伸びたかも……?」
「きゃー!」
恋する乙女は今日も元気だ。相手の話題一つでこんなにも大喜びするなんて。
ふと気になって、京子の顔を盗み見る。秋のお泊りの時、彼女がわずかに見せた恋の芽は一体誰に向けたものなのだろう。
「どうしたの?」
「う、ううん。なんでもない」
ぱちくりと大きな目を瞬かせた京子に、慌てて首を横に振る。
ここにいる4人全員が、1人は仮だが、恋をしていると考えると、なんだかどうしようもなくむず痒い。
「あ、そうだ!」
ハルの声が明るく響く。
「みんなでバレンタインのチョコづくりしませんか?」
「へ?作るの?」
「はい!日本では友達やお世話になった人、そして好きな人に手作りのチョコを渡したりするんですよ!」
そこまで言ってから、ハルははっと息をのんで言葉を止めた。
「皆さん受験があるの忘れてました……。無神経でごめんなさい……」
項垂れてしまった。彼女は内部進学なので、確かにクロームたちとはこの冬の過ごし方が違う。
しかし誰も彼女を責めるつもりはない。最初にレイが笑顔で答えた。
「誘ってくれて嬉しかったよ。チョコレートを作って渡すってことも教えてくれたしさ。ボクも時間が取れたらみんなとやってみたい」
レイの言葉にハルが「レイちゃん……」と顔を上げる。
「私もいいかな?受験生でも息抜きは大事だもん。ね、クロームちゃん」
「うん」
「京子ちゃんとクロームちゃんも……!」
3人からの肯定の言葉に、ハルの目が輝き、そしてその顔が明るく晴れていく。
ぐっと胸の前で拳を握ったハルが、また明るく声を上げた。
「じゃあ、週末に集まりましょう!レイちゃん、友チョコとか義理チョコとか本命チョコとか色々ありますが、どこまで作りますか!?」
「ま、待って。何が何だって?」