胸中(1月その2)
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いつにも増して気合の入った母の料理に、皆が舌鼓を打っている。一番テンションが高いのは酒も入っている父だが。
人数が多いせいで半ば立食パーティーと化している。普段であれば行儀にうるさい母も、今日ばかりは注意せず機嫌よく料理をふるまっていた。
ビアンキからポイズンクッキングの味見をさせられているレイは「ボクはもっと甘い方が好きです」と平然と答えている。獄寺が見たら3秒で意識を失いそうな光景だ。
「おぉい、ツナー!」
「うわ、酒臭!!」
リビングのソファでから揚げを食べていたツナの横に、家光が突撃してきた。しこたま飲んだのか、日本酒特有の甘辛いようなアルコール臭が鼻を突き刺す。
そのままどすんとソファごと揺らしながら腰を下ろし、肩を組んできた。よりダイレクトにアルコールが飛んできて、思わず顔を反らす。
「おいおい嫌うなよー」
「だから酒臭いんだって!」
「親子同士、男同士話したいんだよ、父さんは」
こっちにはない、と言いたいところだったが、あいにくツナも家光に訊きたいことがある。
「じゃあ、オレだって話がある」
瞠目した父親の腕を掴み、冷える廊下に出た。
ああ、唐揚げの乗った取り皿をもう片方の手に持ったままだ。置いて行けばよかった。
足の裏がジワリと冷える。
寒さとは無関係に震えそうになる喉を、唾液を飲み込んで叱咤した。
「父さんは、オレにボンゴレを継いでほしいの?」
目を見ずに問いかける。
息子がマフィアのボスになることを、父がどう思っているのか。リングの片割れを押し付けられたあの日から、ずっと訊きたかった。
騒がしかった家光の気配が、いつの間にか静かになっている。横目で見た顔は、どこか遠くを見ている。
「門外顧問のボスとしてはな」
そう言ってから、家光はツナの頭に手を乗せた。
「でもな、父親としては継がないでほしい」
大きな手がツナの頭を揺らす。
「あんなもん、本心から継がせたい親がいるわけないだろ。複数いたはずの候補者が消され、最後に白羽の矢が立ったのが日本に住む愛する我が子だったんだぞ」
やってられん。
雑に吐き捨てるような言葉に、ツナはずっと蓋をしていた感情がぐつぐつと音を立て始めたのを感じる。奥歯を噛み締めたせいか、ぎち、という音が脳に響いた。
「あんだけ色々吹っ掛けといて」
頭の上から家光の手が離れるのを感じる。それでも止まらない。
「この前はレイが怪我して帰ってきたんだぞ。継承のつなぎ目を狙われたとか何とかで」
二の腕を中心に赤黒く汚れたブレザーを覚えている。
傷がすぐ治るだとか、そんなことはどうだっていい。あんな出血をして痛くないわけがないのだ。
リボーンはレイから話を聞き、「よくある話だ。泡沫の弱小マフィアが一旗上げようとしたり、逆恨みで因縁つけてくる輩が来やがる」と溜息と共に愚痴るようにこぼした。
つまり、今回だけの話ではないということだ。本部と連携して可能な限りイタリアで潰すだとか言っていたが、ゼロにはならない。
それにレイだけではない。
「これまでだって、みんな怪我したし、死ぬかもしれないことになったり、怖がらせたりした」
誰かの血や恐怖に震える顔、目を閉じてぐったりと動かない姿。
ふとした時に思考を荒らすあれこれを思い出し、感情が振り切れそうになる。それを必死に抑え、声のボリュームも何とか絞った。
「そうだな、すまなかった」
酒が入っているとは思えないほど、落ち着いた返答が返ってくる。それにすら腹が立って仕方がない。
「オレが今とか、ボンゴレを継いでから『やめたい』って言ったらどうすんだよ」
「そん時は父さんがお前と母さんを守ってやる」
「レイは?ランボやイーピンやフゥ太やビアンキは?」
「そいつらもだ」
「じゃあ山本やお兄さんや、京子ちゃんやハルは?山本が野球選手になりたいっていう夢は?もし大怪我してそれどころじゃなくなったら、どうするんだよ?そんなとこまで責任とれるのかよ」
できないだろ、あんただって。
声が震えて視界がにじむ。リビングの明るい空気を壊したくない。だから、荒れ狂う心とは裏腹に静かに話す。
家光もツナのその気持ちをくんでいるのか、世間話のようなトーンで「ごめんな」と言った。
「無責任」
「ああ」
「クソ親父」
「言われてもしょうがないが、さすがに口が悪いな。母さんが聞いたら叱られるぞ」
「父さんが継げばよかったじゃんか。血筋とかいうなら問題ないんだから」
「門外顧問はなれないんだ」
「権力とかで捻じ曲げろよ、そんなの」
「ごめんな」
苛立ちと諦めをぶつけても、家光は受け止めるだけだった。
それがどうしてこんなにも虚しいのだろう。
ヤケクソのように唐揚げを口に放り込む。美味しいのに、なんでこんな気持ちで食べなきゃいけないのか。
泣きたいのに、父親の前で泣くのはとても癪なので意地でも涙は押し込める。鼻だって啜ってやらない。
金輪際口を利いてやりたくない気持ちすらわいてくる。
でももう一つだけ、どうしても教えてほしいことがあった。
これだけは聞かないと、きっとツナはどこにも進めない。
「父さんは」
「うん?」
「……オレが生まれた時、ボンゴレを継ぐ可能性も考えた?ボンゴレを継がせることも考えながら、オレのこと育ててた?」
ずっと胸の中で抱え込んでいた小さな疑問は、ここ数ヶ月で随分と大きくなってしまった。
それをそっと手渡せば、家光は動きを止める。
ツナは、ちら、と家光の顔を見た。そして少し、息を止めた。
「……そんなこと、考えてたわけないだろ」
父の目に、涙が滲んでいた。初めて見た。
「母さんのお腹にお前が来た時も、お前が生まれた時も、お前が小学生の時も……。ツナは、オレの大事な息子は、どんな大人になるんだろうと、そんな風に楽しみにしか、考えてなかった」
大きな体の父が、ゆっくりと冷たい廊下にしゃがみ込む。
「ヒロヤやレイを見て、お前と奈々だけはあんな目に遭わせないと……、思ってた。思ってたんだけどなぁ……」
本当にやってられん。
そう呟いて、父は酒瓶を持たない手でその顔を覆って黙り込んでしまった。
初めて見た父の弱さに、ツナは何も言えずにいた。
不思議な気持ちだった。
悲しさと、虚しさと、ずいぶんしぼんでしまった怒りと、少し温かい気持ちと。
家光は大きく息を吐いて立ち上がり、正面からツナを抱きしめた。
「何を選んでも構わない。父さんより先に死なんでくれ」
ツナは目をつむる。
たっぷり5秒待って、家光の体を押しのけた。
そしてずいぶんとしょぼくれた顔を睨みつけて口を開く。
「オレ、自分で選ぶからな。まだ決めてないけど、あんたがどうとか関係ないから」
そうか、という小さな家光の声を後に、ツナはリビングに入りなおす。まぶしさに視界が白む。
そして冷たい風が顔に当たったことに少しだけ驚いた。
「あ、ツナ!」
「沢田殿!」
レイとバジルの声が鼓膜を打つ。
なぜか庭に続く窓が開け放たれており、雪の積もった庭にレイが立っている。
彼女だけではない。ランボはじめ子どもたちも外にいた。
「雪合戦!!」
ランボの明るい声が庭からリビングに響き渡った。
その声に誘われるように、ツナは持っていた皿と箸をテーブルに置いて庭に向かって歩いていく。
冷えた空気が、少しだけ熱を持った目元が冷やされる。
人数が多いせいで半ば立食パーティーと化している。普段であれば行儀にうるさい母も、今日ばかりは注意せず機嫌よく料理をふるまっていた。
ビアンキからポイズンクッキングの味見をさせられているレイは「ボクはもっと甘い方が好きです」と平然と答えている。獄寺が見たら3秒で意識を失いそうな光景だ。
「おぉい、ツナー!」
「うわ、酒臭!!」
リビングのソファでから揚げを食べていたツナの横に、家光が突撃してきた。しこたま飲んだのか、日本酒特有の甘辛いようなアルコール臭が鼻を突き刺す。
そのままどすんとソファごと揺らしながら腰を下ろし、肩を組んできた。よりダイレクトにアルコールが飛んできて、思わず顔を反らす。
「おいおい嫌うなよー」
「だから酒臭いんだって!」
「親子同士、男同士話したいんだよ、父さんは」
こっちにはない、と言いたいところだったが、あいにくツナも家光に訊きたいことがある。
「じゃあ、オレだって話がある」
瞠目した父親の腕を掴み、冷える廊下に出た。
ああ、唐揚げの乗った取り皿をもう片方の手に持ったままだ。置いて行けばよかった。
足の裏がジワリと冷える。
寒さとは無関係に震えそうになる喉を、唾液を飲み込んで叱咤した。
「父さんは、オレにボンゴレを継いでほしいの?」
目を見ずに問いかける。
息子がマフィアのボスになることを、父がどう思っているのか。リングの片割れを押し付けられたあの日から、ずっと訊きたかった。
騒がしかった家光の気配が、いつの間にか静かになっている。横目で見た顔は、どこか遠くを見ている。
「門外顧問のボスとしてはな」
そう言ってから、家光はツナの頭に手を乗せた。
「でもな、父親としては継がないでほしい」
大きな手がツナの頭を揺らす。
「あんなもん、本心から継がせたい親がいるわけないだろ。複数いたはずの候補者が消され、最後に白羽の矢が立ったのが日本に住む愛する我が子だったんだぞ」
やってられん。
雑に吐き捨てるような言葉に、ツナはずっと蓋をしていた感情がぐつぐつと音を立て始めたのを感じる。奥歯を噛み締めたせいか、ぎち、という音が脳に響いた。
「あんだけ色々吹っ掛けといて」
頭の上から家光の手が離れるのを感じる。それでも止まらない。
「この前はレイが怪我して帰ってきたんだぞ。継承のつなぎ目を狙われたとか何とかで」
二の腕を中心に赤黒く汚れたブレザーを覚えている。
傷がすぐ治るだとか、そんなことはどうだっていい。あんな出血をして痛くないわけがないのだ。
リボーンはレイから話を聞き、「よくある話だ。泡沫の弱小マフィアが一旗上げようとしたり、逆恨みで因縁つけてくる輩が来やがる」と溜息と共に愚痴るようにこぼした。
つまり、今回だけの話ではないということだ。本部と連携して可能な限りイタリアで潰すだとか言っていたが、ゼロにはならない。
それにレイだけではない。
「これまでだって、みんな怪我したし、死ぬかもしれないことになったり、怖がらせたりした」
誰かの血や恐怖に震える顔、目を閉じてぐったりと動かない姿。
ふとした時に思考を荒らすあれこれを思い出し、感情が振り切れそうになる。それを必死に抑え、声のボリュームも何とか絞った。
「そうだな、すまなかった」
酒が入っているとは思えないほど、落ち着いた返答が返ってくる。それにすら腹が立って仕方がない。
「オレが今とか、ボンゴレを継いでから『やめたい』って言ったらどうすんだよ」
「そん時は父さんがお前と母さんを守ってやる」
「レイは?ランボやイーピンやフゥ太やビアンキは?」
「そいつらもだ」
「じゃあ山本やお兄さんや、京子ちゃんやハルは?山本が野球選手になりたいっていう夢は?もし大怪我してそれどころじゃなくなったら、どうするんだよ?そんなとこまで責任とれるのかよ」
できないだろ、あんただって。
声が震えて視界がにじむ。リビングの明るい空気を壊したくない。だから、荒れ狂う心とは裏腹に静かに話す。
家光もツナのその気持ちをくんでいるのか、世間話のようなトーンで「ごめんな」と言った。
「無責任」
「ああ」
「クソ親父」
「言われてもしょうがないが、さすがに口が悪いな。母さんが聞いたら叱られるぞ」
「父さんが継げばよかったじゃんか。血筋とかいうなら問題ないんだから」
「門外顧問はなれないんだ」
「権力とかで捻じ曲げろよ、そんなの」
「ごめんな」
苛立ちと諦めをぶつけても、家光は受け止めるだけだった。
それがどうしてこんなにも虚しいのだろう。
ヤケクソのように唐揚げを口に放り込む。美味しいのに、なんでこんな気持ちで食べなきゃいけないのか。
泣きたいのに、父親の前で泣くのはとても癪なので意地でも涙は押し込める。鼻だって啜ってやらない。
金輪際口を利いてやりたくない気持ちすらわいてくる。
でももう一つだけ、どうしても教えてほしいことがあった。
これだけは聞かないと、きっとツナはどこにも進めない。
「父さんは」
「うん?」
「……オレが生まれた時、ボンゴレを継ぐ可能性も考えた?ボンゴレを継がせることも考えながら、オレのこと育ててた?」
ずっと胸の中で抱え込んでいた小さな疑問は、ここ数ヶ月で随分と大きくなってしまった。
それをそっと手渡せば、家光は動きを止める。
ツナは、ちら、と家光の顔を見た。そして少し、息を止めた。
「……そんなこと、考えてたわけないだろ」
父の目に、涙が滲んでいた。初めて見た。
「母さんのお腹にお前が来た時も、お前が生まれた時も、お前が小学生の時も……。ツナは、オレの大事な息子は、どんな大人になるんだろうと、そんな風に楽しみにしか、考えてなかった」
大きな体の父が、ゆっくりと冷たい廊下にしゃがみ込む。
「ヒロヤやレイを見て、お前と奈々だけはあんな目に遭わせないと……、思ってた。思ってたんだけどなぁ……」
本当にやってられん。
そう呟いて、父は酒瓶を持たない手でその顔を覆って黙り込んでしまった。
初めて見た父の弱さに、ツナは何も言えずにいた。
不思議な気持ちだった。
悲しさと、虚しさと、ずいぶんしぼんでしまった怒りと、少し温かい気持ちと。
家光は大きく息を吐いて立ち上がり、正面からツナを抱きしめた。
「何を選んでも構わない。父さんより先に死なんでくれ」
ツナは目をつむる。
たっぷり5秒待って、家光の体を押しのけた。
そしてずいぶんとしょぼくれた顔を睨みつけて口を開く。
「オレ、自分で選ぶからな。まだ決めてないけど、あんたがどうとか関係ないから」
そうか、という小さな家光の声を後に、ツナはリビングに入りなおす。まぶしさに視界が白む。
そして冷たい風が顔に当たったことに少しだけ驚いた。
「あ、ツナ!」
「沢田殿!」
レイとバジルの声が鼓膜を打つ。
なぜか庭に続く窓が開け放たれており、雪の積もった庭にレイが立っている。
彼女だけではない。ランボはじめ子どもたちも外にいた。
「雪合戦!!」
ランボの明るい声が庭からリビングに響き渡った。
その声に誘われるように、ツナは持っていた皿と箸をテーブルに置いて庭に向かって歩いていく。
冷えた空気が、少しだけ熱を持った目元が冷やされる。