接触(12月)
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玄関の扉が閉まると同時に、階段を駆け上がって自室に飛び込んだ。そして、マフラーを外し、閉めた扉にもたれ、レイはズルズルと座り込んだ。
はぁ、と大きく息を吐く。
体温が変動することなどほとんどないが、今ばかりは発熱している気がする。
もしも自分が人間で心臓があったのなら、鼓動が早過ぎて死んでしまっているのではないだろうか。
山本から急に抱きしめられたとき、本当に驚いた。逃げられるほどの力で拘束され、それでいて触れていれば分かるほどの鼓動に気付いてしまえば、彼への恋心を抱えたレイから離れることなんてできなかった。
耳をくすぐる彼の呼気に足が震えそうになって、気合で踏ん張れば棒立ちにしかなれなくて。
息を止めるのも、気合で立つのもどちらも疲れてしまって。まるで言い訳のようにどさくさに紛れて抱きしめ返した。本当は離れていこうとする体が名残惜しかっただけだ。
よく言えば大胆、悪く言えば考えなしな自分の行動に今更ながら恥ずかしさが噴き上がって仕方がない。
喉の奥から絞り出すよな音が出る。
「あんなのイタリアでも当たり前なわけないだろ……!」
なんだあのはぐらかし方は。
確かに日本に比べればスキンシップ過多だろう。挨拶代わりのハグも日常的なものだ。
レイ自身がイタリアにいた頃も、周りの人たちとゆるい抱擁を交わした回数は数えきれない。チークキスだって何度もした。
それでも、あんなに体を密着させることなんて基本はない。家族やよほど親しい同性の友人か、そうでなければそれこそ恋人のような関係性でもなければ。
密着した大きな体と、普段は意識もしない山本の体臭と、背中にしっかりと回された腕を思い出して、柄にもなく叫びそうになる。衝動を抑えようと、レイはプレゼントが付いているマフラーを抱きしめた。
温かかった。心地よかった。彼の体で脈打つ心臓、その振動を感じた。
そしてその後、どうにも離れたくなくて。
キスをねだるようなことを言い放ったり、山本のどこかに触れていたくて手を握ってしまったりもした。
拒絶されなかった。握り返してくれた。誕生日も教えてくれた。
小さな一つ一つがこんなにも嬉しい。
触れ合っていた時間が長かったからだろうか、体の中を彼の雨の波動が少しだけ濃く巡っていることがわかる。
もしかして、とリングに炎を灯してみる。
普段はオレンジの炎にいくらか白い炎が混ざっている程度なのに、今は少しだけ青いきらめきも混ざっていた。
無灯火の暗い部屋が、炎の灯りでぼんやりと浮かぶ。
京子からもらったウサギのぬいぐるみと目が合う。
まるで友達に見られているような気分になって、意識がぶれてリングの炎は消えてしまった。
雨の炎の特性は『鎮静』のはずなのに、レイの感情は収拾がつかないほどにとっ散らかっている。
恋している相手から誕生日のプレゼントをもらい、さらには抱きしめられて、長い時間手を繋いでいられるなんて、夢にも思っていなかった。
日本人は告白という儀式をもって恋人になるという。だから、抱きしめられたからといって恋人になったわけではない。
それでも自惚れても許されるだろうか。彼も、そういう意味で自分を想ってくれていると、その可能性を夢見てもいいのだろうか。
そして、もしあのままキスをしていたらどうだったのだろう。
唇へのキスというものを、レイはしたことがない。しかし、あの時触れた呼吸からも山本の命を感じた。
あれがそのまま自分の中に入ってきたのなら、それはきっと、とても心地いいものなのではないだろうか。
彼とどうなりたいのかは、やはり今もよく分からない。しかし、触れてみたかった。
人が愛する人と交わすキスというものを、人間ではない自分も一度くらい経験してみたかった。
それを山本とできたなら、それはきっと幸せな記憶になる。
「ボクから行けばよかった、かも……」
「おーい、レイ」
「わっ!?」
部屋に飛び込んできた声に体が跳ねる。慌てて立ち上がって扉を開けると、呆れた顔でツナが立っていた。
「何も言わずに部屋まで飛んでくから母さんびっくりしてたぞ」
「ご、ごめん……」
ツナはまじまじとレイの顔を見ている。居心地が悪く、一歩後ずさる。
「何か山本といいことあったの?」
「……なに?」
「ふーん」
追及するでもなく、からかうでもなく、ツナは案外あっさりと引いた。しかし、その顔に浮かんだ『ちょっと面白そう』という表情は見逃せない。
何が起きたかは分かっていないだろうが、何かを見透かしているような空気に、ほんの少し腹が立つ。
「ツナ」
「ん?」
「キミは京子に抱き着かれたらどうする?」
「えー、そん……、は。な、なななん……!?」
何気ないように言い放った言葉で盛大に動揺してくれたツナに、少しだけスッキリする。
バッグをベッドに置き、バグったかのように顔を真っ赤にして震えるツナを放置してリビングに向かう。
「ちょ、お、お前なぁ!!」
「知らない知らない、手洗わないと」
「レイ!!」
我に返って慌てて追いかけてくるツナから逃げるように、レイは階段を駆け下りた。
はぁ、と大きく息を吐く。
体温が変動することなどほとんどないが、今ばかりは発熱している気がする。
もしも自分が人間で心臓があったのなら、鼓動が早過ぎて死んでしまっているのではないだろうか。
山本から急に抱きしめられたとき、本当に驚いた。逃げられるほどの力で拘束され、それでいて触れていれば分かるほどの鼓動に気付いてしまえば、彼への恋心を抱えたレイから離れることなんてできなかった。
耳をくすぐる彼の呼気に足が震えそうになって、気合で踏ん張れば棒立ちにしかなれなくて。
息を止めるのも、気合で立つのもどちらも疲れてしまって。まるで言い訳のようにどさくさに紛れて抱きしめ返した。本当は離れていこうとする体が名残惜しかっただけだ。
よく言えば大胆、悪く言えば考えなしな自分の行動に今更ながら恥ずかしさが噴き上がって仕方がない。
喉の奥から絞り出すよな音が出る。
「あんなのイタリアでも当たり前なわけないだろ……!」
なんだあのはぐらかし方は。
確かに日本に比べればスキンシップ過多だろう。挨拶代わりのハグも日常的なものだ。
レイ自身がイタリアにいた頃も、周りの人たちとゆるい抱擁を交わした回数は数えきれない。チークキスだって何度もした。
それでも、あんなに体を密着させることなんて基本はない。家族やよほど親しい同性の友人か、そうでなければそれこそ恋人のような関係性でもなければ。
密着した大きな体と、普段は意識もしない山本の体臭と、背中にしっかりと回された腕を思い出して、柄にもなく叫びそうになる。衝動を抑えようと、レイはプレゼントが付いているマフラーを抱きしめた。
温かかった。心地よかった。彼の体で脈打つ心臓、その振動を感じた。
そしてその後、どうにも離れたくなくて。
キスをねだるようなことを言い放ったり、山本のどこかに触れていたくて手を握ってしまったりもした。
拒絶されなかった。握り返してくれた。誕生日も教えてくれた。
小さな一つ一つがこんなにも嬉しい。
触れ合っていた時間が長かったからだろうか、体の中を彼の雨の波動が少しだけ濃く巡っていることがわかる。
もしかして、とリングに炎を灯してみる。
普段はオレンジの炎にいくらか白い炎が混ざっている程度なのに、今は少しだけ青いきらめきも混ざっていた。
無灯火の暗い部屋が、炎の灯りでぼんやりと浮かぶ。
京子からもらったウサギのぬいぐるみと目が合う。
まるで友達に見られているような気分になって、意識がぶれてリングの炎は消えてしまった。
雨の炎の特性は『鎮静』のはずなのに、レイの感情は収拾がつかないほどにとっ散らかっている。
恋している相手から誕生日のプレゼントをもらい、さらには抱きしめられて、長い時間手を繋いでいられるなんて、夢にも思っていなかった。
日本人は告白という儀式をもって恋人になるという。だから、抱きしめられたからといって恋人になったわけではない。
それでも自惚れても許されるだろうか。彼も、そういう意味で自分を想ってくれていると、その可能性を夢見てもいいのだろうか。
そして、もしあのままキスをしていたらどうだったのだろう。
唇へのキスというものを、レイはしたことがない。しかし、あの時触れた呼吸からも山本の命を感じた。
あれがそのまま自分の中に入ってきたのなら、それはきっと、とても心地いいものなのではないだろうか。
彼とどうなりたいのかは、やはり今もよく分からない。しかし、触れてみたかった。
人が愛する人と交わすキスというものを、人間ではない自分も一度くらい経験してみたかった。
それを山本とできたなら、それはきっと幸せな記憶になる。
「ボクから行けばよかった、かも……」
「おーい、レイ」
「わっ!?」
部屋に飛び込んできた声に体が跳ねる。慌てて立ち上がって扉を開けると、呆れた顔でツナが立っていた。
「何も言わずに部屋まで飛んでくから母さんびっくりしてたぞ」
「ご、ごめん……」
ツナはまじまじとレイの顔を見ている。居心地が悪く、一歩後ずさる。
「何か山本といいことあったの?」
「……なに?」
「ふーん」
追及するでもなく、からかうでもなく、ツナは案外あっさりと引いた。しかし、その顔に浮かんだ『ちょっと面白そう』という表情は見逃せない。
何が起きたかは分かっていないだろうが、何かを見透かしているような空気に、ほんの少し腹が立つ。
「ツナ」
「ん?」
「キミは京子に抱き着かれたらどうする?」
「えー、そん……、は。な、なななん……!?」
何気ないように言い放った言葉で盛大に動揺してくれたツナに、少しだけスッキリする。
バッグをベッドに置き、バグったかのように顔を真っ赤にして震えるツナを放置してリビングに向かう。
「ちょ、お、お前なぁ!!」
「知らない知らない、手洗わないと」
「レイ!!」
我に返って慌てて追いかけてくるツナから逃げるように、レイは階段を駆け下りた。