接触(12月)
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山本の自宅を通り過ぎる。
最近はいつも、そのまま沢田家までレイを送っている。前は断られていたが、最近は諦められたのかレイも何も言わない。
だいぶ暗くなった道で、他愛もない話を続ける。
3日前の休み時間のこと、ツナとリボーンのこと、宿題のこと、受験のこと。
さっきのことも、今繋がれている手のことも、全く触れない。
山本は少し怖かったのだ、その話に触れるのが。
正確には、これを蒸し返したら友達ではなくなってしまうだろうという予感に、立ち止まってしまう。
お互いの気持ちは同じなのだろうと、勘付いてはいる。
おそらく、レイも同じだろう。
進むことも退くことも選べず、手だけは握って人気のない道を歩いていく。
いつの間にか、沢田家に着いていた。
山本の手の中から、するりとレイの指が抜けていく。
数歩進み、玄関の前でレイが立ち止まり、振り向いた。
「山本」
「ん?」
「キミの誕生日は?」
「え、オレ?4月24日だけど」
「そっか。プレゼント、考えとくよ」
玄関灯の逆光を背負っているのに、レイの笑顔は何故だかよく見えた。
玄関のドアが閉まるまで見守ってから、山本は踵を返す。歩いて、早歩きになって、小走りになって、気付けば白い息をまき散らしながら走っていた。
冬の空気で肺の中が冷えていくのに、全く体は冷える気配がない。
「っは、あっちー……!」
とんでもないカウンターだった。
抵抗しないならまだしも、抱きしめ返されるとは露ほども思っていなかったのだ。
密着した時の体温、服の上からは分からなかった体の緩やかな凹凸、呼吸や体の揺れ、背中に回された手。
体すべてを預けるような、あんなハグをイタリア人はするのだろうか。いや、たぶんしないと思う。自分の知っているイタリア人はごく少数だが。
獄寺やスクアーロは当然ながら、フレンドリーなディーノですら誰かにあんな風に密着しているのを見たことがない。最近は減ったが、肩に乗ってくるリボーンですらそうだ。それこそリボーンに対するビアンキくらいしか、山本は事例を知らない。
そしてビアンキがリボーンに向けて一切隠そうともしない感情は。
気付けば自宅の前だった。走ったせいなのか、それとも別の理由なのかわからないほど顔が熱くてたまらない。
店の照明はそこまで強くない。どうか父にバレませんようにと願いながら、引き戸を開ける。
「ただいま」
「おかえり!なんだ、走ってきたのか」
「寒かったし、ついでにな」
魚を下ろす父からちらりと目線を向けられるが、それ以上は何も言われなかった。
安堵して自室に入って扉を閉める。荷物を床に落として少し上がった息もそのままに、改めて呆ける。
抱きしめた感触も、抱きしめ返された感触も、肩に預けられた頭も、珍しく少し色の差した肌も、帰り道に握り続けた手も、最後の笑顔も。何もかもがどうにもならないほどに胸を締め付ける。
しかも、あんな眼前でキスをねだるような言葉まで。
あれは本当にいけない。レイはこちらにそういった欲望がないとでも思っているのだろうか。
当然ながら、できることならしたかった。したくないはずがない、好きなのだから。
あんなことを言ってくるくせに、何もわかっていなさそうな唇に触れてしまいたかった。
しかし、本当に分かっていなさそうだった。その一点が、山本にブレーキを踏ませる。
人間ではないから、もしかしたらそういった欲についてピンときていなかったりするのだろうか。
あの一瞬でそこまでの思考が回った結果、何もできずに離れてしまったのだが、あれでよかったのだろうか。
格好つけて、平然を装って離れたが、不恰好ではなかっただろうか。
それにしても期待してしまう。あんな反応をされれば誰だって期待してしまうはずだ。
「告ったら……いけたかな……?」
ぽつりと呟きが部屋に落ちて畳に吸い込まれる。
たまに不思議な輝きを見せるあの目が、自分だけを見て柔らかく笑うところを妄想……したところで自身の頬を叩く。
駄目だ、自室にこもっていたらどうにかなりそうだ。
そもそもあそこで立ち止まって日和ったのは自分の方だ。今うだうだ考えても仕方がない。
振り切るように階下に向けて声を張り上げる。
「親父ー!なんかやることあるかー?」
とりあえず先延ばしにしよう、急ぐことではないはずだ。
じゃあ机拭いて裏からスズキ出してくれ、という剛の声に応えるべく、山本は急いで部屋を出た。
翌日、授業中にプリントを回そうと後ろを向いたとき、筆箱に青い輝きが見えた。
近くに置いておくと言っていて、普段持ち歩く筆箱につけてくれたのだ。
思わずレイの顔を見れば、彼女は「前向きなよ」と少し照れながら笑った。
→おまけ。レイの話。
最近はいつも、そのまま沢田家までレイを送っている。前は断られていたが、最近は諦められたのかレイも何も言わない。
だいぶ暗くなった道で、他愛もない話を続ける。
3日前の休み時間のこと、ツナとリボーンのこと、宿題のこと、受験のこと。
さっきのことも、今繋がれている手のことも、全く触れない。
山本は少し怖かったのだ、その話に触れるのが。
正確には、これを蒸し返したら友達ではなくなってしまうだろうという予感に、立ち止まってしまう。
お互いの気持ちは同じなのだろうと、勘付いてはいる。
おそらく、レイも同じだろう。
進むことも退くことも選べず、手だけは握って人気のない道を歩いていく。
いつの間にか、沢田家に着いていた。
山本の手の中から、するりとレイの指が抜けていく。
数歩進み、玄関の前でレイが立ち止まり、振り向いた。
「山本」
「ん?」
「キミの誕生日は?」
「え、オレ?4月24日だけど」
「そっか。プレゼント、考えとくよ」
玄関灯の逆光を背負っているのに、レイの笑顔は何故だかよく見えた。
玄関のドアが閉まるまで見守ってから、山本は踵を返す。歩いて、早歩きになって、小走りになって、気付けば白い息をまき散らしながら走っていた。
冬の空気で肺の中が冷えていくのに、全く体は冷える気配がない。
「っは、あっちー……!」
とんでもないカウンターだった。
抵抗しないならまだしも、抱きしめ返されるとは露ほども思っていなかったのだ。
密着した時の体温、服の上からは分からなかった体の緩やかな凹凸、呼吸や体の揺れ、背中に回された手。
体すべてを預けるような、あんなハグをイタリア人はするのだろうか。いや、たぶんしないと思う。自分の知っているイタリア人はごく少数だが。
獄寺やスクアーロは当然ながら、フレンドリーなディーノですら誰かにあんな風に密着しているのを見たことがない。最近は減ったが、肩に乗ってくるリボーンですらそうだ。それこそリボーンに対するビアンキくらいしか、山本は事例を知らない。
そしてビアンキがリボーンに向けて一切隠そうともしない感情は。
気付けば自宅の前だった。走ったせいなのか、それとも別の理由なのかわからないほど顔が熱くてたまらない。
店の照明はそこまで強くない。どうか父にバレませんようにと願いながら、引き戸を開ける。
「ただいま」
「おかえり!なんだ、走ってきたのか」
「寒かったし、ついでにな」
魚を下ろす父からちらりと目線を向けられるが、それ以上は何も言われなかった。
安堵して自室に入って扉を閉める。荷物を床に落として少し上がった息もそのままに、改めて呆ける。
抱きしめた感触も、抱きしめ返された感触も、肩に預けられた頭も、珍しく少し色の差した肌も、帰り道に握り続けた手も、最後の笑顔も。何もかもがどうにもならないほどに胸を締め付ける。
しかも、あんな眼前でキスをねだるような言葉まで。
あれは本当にいけない。レイはこちらにそういった欲望がないとでも思っているのだろうか。
当然ながら、できることならしたかった。したくないはずがない、好きなのだから。
あんなことを言ってくるくせに、何もわかっていなさそうな唇に触れてしまいたかった。
しかし、本当に分かっていなさそうだった。その一点が、山本にブレーキを踏ませる。
人間ではないから、もしかしたらそういった欲についてピンときていなかったりするのだろうか。
あの一瞬でそこまでの思考が回った結果、何もできずに離れてしまったのだが、あれでよかったのだろうか。
格好つけて、平然を装って離れたが、不恰好ではなかっただろうか。
それにしても期待してしまう。あんな反応をされれば誰だって期待してしまうはずだ。
「告ったら……いけたかな……?」
ぽつりと呟きが部屋に落ちて畳に吸い込まれる。
たまに不思議な輝きを見せるあの目が、自分だけを見て柔らかく笑うところを妄想……したところで自身の頬を叩く。
駄目だ、自室にこもっていたらどうにかなりそうだ。
そもそもあそこで立ち止まって日和ったのは自分の方だ。今うだうだ考えても仕方がない。
振り切るように階下に向けて声を張り上げる。
「親父ー!なんかやることあるかー?」
とりあえず先延ばしにしよう、急ぐことではないはずだ。
じゃあ机拭いて裏からスズキ出してくれ、という剛の声に応えるべく、山本は急いで部屋を出た。
翌日、授業中にプリントを回そうと後ろを向いたとき、筆箱に青い輝きが見えた。
近くに置いておくと言っていて、普段持ち歩く筆箱につけてくれたのだ。
思わずレイの顔を見れば、彼女は「前向きなよ」と少し照れながら笑った。
→おまけ。レイの話。