白線(10月その1)
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山本、獄寺と別れて、ツナの隣を歩くのはレイだけになった。
「そうか、継承……」
レイが神妙に呟く。
傷はもうほとんど治っているようで、きれいな肌の上に拭いきれなかった血が凝固していてアンバランスに見えた。
「去年やった継承式はシモンと色々あって中止になったんだろ?」
「知ってるんだ」
「その日のうちに『継承式が妨害された』とか『守護者が重症で』とか連絡が入って、ボクの耳に入るくらいキャバッローネでも大騒ぎになってたんだ」
知ってるのはそれくらいだよ、とレイが爪を立てて腕で凝固した血をぽりぽりと剥がした。
「去年の継承式は、単純にボンゴレを継ぐためのものじゃなかったんだな」
「えっ」
「だってそうならキミが今更そんな顔で悩んだりはしないだろ?」
レイの黒い目は、ツナを咎めることも宥めることもせず、まっすぐ前を向いている。
白く清潔な手術室の中、真っ赤に染まった意識のない山本の姿。
今でも思い出すだけでめまいがする。
ほの真相を知るため、9代目も他の守護者も巻き込んで開催した、思惑まみれの継承式だった。
「何があったか、無理に言わなくてもいい。古里達と色々あったことくらいは小耳に挟んでるけど、今更ボクの好奇心で蒸し返すことじゃない」
「……うん」
「ごめん、踏み込み過ぎた」
従妹からの謝罪に首を横に振り、口の端を持ち上げれば、彼女はそれ以上深く突っ込んでは来ない。
ふと浮かんだ疑問を口に出す。
「……ディーノさんはさ、ボスになるとき悩まなかったのかな」
信頼する兄貴分、いつだったか彼も「マフィアのボスなんてクソくらえと思っていた」なんて言っていた気がする。そんな彼が、どうしてボスになる決意をしたのだろう。
「ディーノさんがボスになったの、どこかのファミリーとの抗争でお父さん……、先代が殺されたのが大きかったらしい」
「は!?ディーノさんのお父さん、殺されたの!?」
「ボクも詳しくは知らないけどね、騙し討ちみたいなものだったって聞いてるよ」
敵対ファミリーに町を襲われ、急に父親を奪われ、窮地に立たされたファミリー。それを守るため、若くして過酷な選択を余儀なくされたのだろうか。
気付けば自宅は目の前だった。
鼻に流れ込むのはカレーの匂いで、胃が急に空腹を訴え始めた。
悩んでいようが腹は減る。腹が減れば気分も降下する。
「今度ディーノさんが日本に来た時、訊いてみたらいい。きっと教えてくれるよ。でも、キミとディーノさんは違う。あの人はなんやかんやで生まれた時から裏社会を知っていた。キミはそうじゃない」
「うん」
「ボクはツナがどんな選択をしても、キミの味方だ。絶対に」
「……ありがとう」
軽く背中を押され、一緒に玄関へ向かう。
いつだったか、10年後の未来に飛ばされた時。その世界、時代の自分はボスになっていた。
彼は一体何を考えてボスになったのだろうか。
じゃあ、彼と同一人物でありながら、彼とは違う人生を生きる自分は一体何を考えて、どんな未来を選ぶのだろうか。
「そうか、継承……」
レイが神妙に呟く。
傷はもうほとんど治っているようで、きれいな肌の上に拭いきれなかった血が凝固していてアンバランスに見えた。
「去年やった継承式はシモンと色々あって中止になったんだろ?」
「知ってるんだ」
「その日のうちに『継承式が妨害された』とか『守護者が重症で』とか連絡が入って、ボクの耳に入るくらいキャバッローネでも大騒ぎになってたんだ」
知ってるのはそれくらいだよ、とレイが爪を立てて腕で凝固した血をぽりぽりと剥がした。
「去年の継承式は、単純にボンゴレを継ぐためのものじゃなかったんだな」
「えっ」
「だってそうならキミが今更そんな顔で悩んだりはしないだろ?」
レイの黒い目は、ツナを咎めることも宥めることもせず、まっすぐ前を向いている。
白く清潔な手術室の中、真っ赤に染まった意識のない山本の姿。
今でも思い出すだけでめまいがする。
ほの真相を知るため、9代目も他の守護者も巻き込んで開催した、思惑まみれの継承式だった。
「何があったか、無理に言わなくてもいい。古里達と色々あったことくらいは小耳に挟んでるけど、今更ボクの好奇心で蒸し返すことじゃない」
「……うん」
「ごめん、踏み込み過ぎた」
従妹からの謝罪に首を横に振り、口の端を持ち上げれば、彼女はそれ以上深く突っ込んでは来ない。
ふと浮かんだ疑問を口に出す。
「……ディーノさんはさ、ボスになるとき悩まなかったのかな」
信頼する兄貴分、いつだったか彼も「マフィアのボスなんてクソくらえと思っていた」なんて言っていた気がする。そんな彼が、どうしてボスになる決意をしたのだろう。
「ディーノさんがボスになったの、どこかのファミリーとの抗争でお父さん……、先代が殺されたのが大きかったらしい」
「は!?ディーノさんのお父さん、殺されたの!?」
「ボクも詳しくは知らないけどね、騙し討ちみたいなものだったって聞いてるよ」
敵対ファミリーに町を襲われ、急に父親を奪われ、窮地に立たされたファミリー。それを守るため、若くして過酷な選択を余儀なくされたのだろうか。
気付けば自宅は目の前だった。
鼻に流れ込むのはカレーの匂いで、胃が急に空腹を訴え始めた。
悩んでいようが腹は減る。腹が減れば気分も降下する。
「今度ディーノさんが日本に来た時、訊いてみたらいい。きっと教えてくれるよ。でも、キミとディーノさんは違う。あの人はなんやかんやで生まれた時から裏社会を知っていた。キミはそうじゃない」
「うん」
「ボクはツナがどんな選択をしても、キミの味方だ。絶対に」
「……ありがとう」
軽く背中を押され、一緒に玄関へ向かう。
いつだったか、10年後の未来に飛ばされた時。その世界、時代の自分はボスになっていた。
彼は一体何を考えてボスになったのだろうか。
じゃあ、彼と同一人物でありながら、彼とは違う人生を生きる自分は一体何を考えて、どんな未来を選ぶのだろうか。