新風(6月)
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友人達と別れ、自宅に向かってレイと並んで歩く。リボーンはツナの肩に座ったまま完全にリラックスしていた。
「炎の出力って、そんなに急に上がるものなのか……」
「その前はリングとグローブが完全に別々だったから、一緒になった瞬間に色々変わったというか」
そういえば10年後にどんなことがあったか、レイに細かくは話していなかった。どこかでゆっくりと話すのもありだな、と思いながら自分の経験を拙くも伝える。
とはいえグローブから出る炎の力と、本人から直接出る力では扱い方が違う。ツナがアドバイスするにも限界はあるし、レイもそれはわかっていることだろう。
というより、まずはリングなりギアなり、そういった媒体はどこから入手するのだろうか。タルボに相談をすればよいのだろうか。
自宅が見えるほどになると、家の前にどう見ても高級そうな黒い車が2台停まっているのが見えた。
スーツを着たガタイのいい男性が1名車外に立っており、車内では1人が船を漕いでいる。レイと顔を見合わせてから、歩みを早める。
沢田家の前にこんな車のつけ方をする人は限られているのだ。
足音に気づいた男がこちらを向いて破顔した。
「こんにちは」
「ボンゴレ、邪魔してます。リボーンさんもお久しぶりです」
「来てたんだな」
「ええ、何とか最低限片付きまして。先に上がらせていただいてます」
じゃあ行くぞ、とリボーンに促され、ツナは玄関に足を向ける。
「レイ、元気だったか?」
「はい」
「じゃあ早く元気な顔を見せてやれ」
そう背中を押されたレイを横目に、ツナは玄関のドアを開けた。玄関には普段置かれていないスニーカーと革靴が1足ずつ並んでいる。
靴を脱げば、レイも改めて体の砂を払ってから三和土に入ってきた。レイがスニーカーをひっくり返して砂を落としていると、奈々が買い物袋を持って顔を出してきた。
「あ、母さん。ただいま」
「あら、お帰りなさい」
「ただいま」
「ディーノ君達が来たから夕飯買い足しに行ってくるわね。今リビングにお通ししてるから」
「はーい」
奈々は慌ただしく靴を履いたかと思えば、レイを見て「あら。髪の毛に砂付いてるわよ」とカバンから櫛を取り出して世話を焼き始めた。
レイはおとなしくされるがままになっており、細かい音が三和土に落ちる音が聞こえる。
「服も砂まみれじゃない、何してたの」
「えっと」
「手洗ってから着替えなさい」
時間がかかりそうなレイに「先に行ってるから」と声を掛け、手を洗ってリボーンと共にリビングに向かう。
扉を開ければ見知った2人がダイニングチェアに並んで座っていた。
「ディーノさん、ロマーリオさん!」
「よお、ツナ!」
「邪魔してるぜ」
「お久しぶりです」
ツナが2人の向かいに腰掛けると、彼らは見計らったようにいつもの笑みを引っ込め、居住まいを正して頭を下げた。
眼前の光景に、ツナは当然動揺した。
しかし、それもすぐに収まる。彼らが頭を下げる理由は1つしか浮かばないからだ。
「ヒロヤのこと、巻き込んで本当にすまなかった」
「ディーノさん……」
「ツナにとっては京子や山本が襲われたことも、事実を隠されていたことも許せないだろう。できる限りの対応はするし、その上で気が済まなければ言ってくれ」
それがアイツのボスとして、オレができることだ。
レイはまだ上がってこない。リボーンも何も言わない。
ツナが対応をしなければならないというこだろう。急にパサついた口内を唾液で潤して、息を吸う。
「あの、山本も、京子ちゃんも、どちらも怪我をしてないし、京子ちゃんのお兄さん含めて誰も怒ってません。その、オレ達は大丈夫です。だから、顔を上げてください」
情けなくも声が震えるが、その言葉で目の前の大人達がゆっくりと頭を上げる。
リボーンから何の叱責も飛んでこないことを考えると、とりあえず及第点だったようだ。
「ありがとう」
ゆっくりと顔を上げたディーノの顔には、静かな笑みが浮かんでいる。大人扱い、ではないが、対等な立場に見ているということが分かって、緊張で背筋が伸びる。
「ただ、本当に今回のことで何かあれば、時間が経ったとしても必ず言ってくれ。罪悪感だとかそういうのは抜きで、ボスとしての責任の問題なんだ」
頷いたツナを見て、ディーノは「じゃあこの話は終わりだ。辛気臭くなる」と立ち上がって伸びをした。
ヒロヤのことを考えれば、もっと暗い顔をしていてもおかしくはないとも思うが、そこは経験の差か、あるいは年上の意地か。
ツナもこれ以上踏み込むことではないと判断し、体の力を緩めた。
「ところで、レイはどうした?さっき声はしたが」
ロマーリオが奈々が出したであろう茶をすすりながら、視線を揺らす。
「たぶん着替えてるんで、そろそろ来ると思います」
ツナが返答したタイミングでノックの音がして、リビングの扉が開いた。
顔を出したレイの服は、さっきのものとは違うものになっている。奈々に言われた通り着替えたようだ。
レイは少しだけ気まずそうに、ゆっくりとリビングに入ってくる。
理由は明白だ。しかし、そんな彼女に来訪者達は明るい声で呼びかけた。
「レイ、何突っ立ってんだ?」
「早くこっち来て座れ」
笑顔で手招きをされて、レイは少しだけ逡巡した後、素直にツナの隣に腰を下ろした。最初に口を開いたのはディーノだった。
「レイ、久しぶりだな。元気だったか?」
「はい。ディーノさんも、ロマーリオさんも元気そうでよかった」
「たまに連絡はくれてたが、やっぱ直接顔を見ると安心するもんだな」
「ロマーリオはじめ、おっさん連中はお前がいじめられてないか心配してたんだぜ。失礼だろ?」
「おいボス、やめろ」
大人達のやりとりに、レイが小さく笑う。
緩んだレイの表情に、ディーノとロマーリオは顔を合わせる。そしてディーノはロマーリオが差し出したカバンから、小さな箱を取り出した。
「ツナ、お前がレイのオーナーになったこと、聞いたよ」
「えっ、は、はい」
急に話の矛を向けられ、思わず声が高くなる。そんなツナを笑うことなく、ディーノはツナ達を見ながら手の中の箱を軽くもてあそんだ。
「レイ、改めて確認させてくれ。お前はツナと共に生きていく。そう決めたってことで間違いないな?」
「……はい。あの、ごめ」
「待て待て、なんで謝る?お前自身が望んで選んだことだ。オレがそうあってほしいと望んだように」
軽い言葉で笑いながら、ディーノはレイの謝罪を遮った。レイが勝手に申し訳なくなってしまったのだろう。それを軽く制するあたり、ディーノはレイの扱いに慣れている。
「と、いうわけで」
ディーノが手の中の箱を、向かいに座るレイに差し出した。真っ黒なベルベット生地の小箱、どうみても並の中学生が手に取っていい品とは思えない。
レイも少々困惑した面持ちでディーノの手の上を見ている。ほら、と再度促され、レイは恐る恐る小箱を受け取った。
近くで見ると箱の表面が滑らかな光沢で覆われているのがよく分かり、よりその高級感を感じてしまう。
ディーノの目に促され、レイの指が上蓋を押し上げると、音もなく箱が開いた。
「ゆび、わ……?」
箱の中、グレーの台座に鎮座していたのは、シンプルな黒色のリングだった。どこかに石が乗っているわけでも、何らかの掘り加工が施されている様子もない。ただ真っ黒でつるりとしている。
「特殊な天然石をくりぬいて作ったリングだ。お前専用のな」
「ボク専用って……、ど、どうして……!」
動揺を隠しきれない声でレイが叫ぶ。
ディーノはそれにすら顔色も表情も変えず、穏やかにレイを見ていた。優しいまなざしに、レイもそれ以上の言葉が出てこない。
「お前が独り立ちした時何かを渡すってのは、何年も前から話してたんだ。ヒロヤと」
レイの目が丸くなる。
ディーノの目はレイを通して誰かを見ているような、そんな遠い目をしながら笑顔を浮かべた。
「あいつが『レイが独り立ちしたら、何か特別なものを渡したい』なんて言ってさ、オレも乗っかったんだよ。でも結局、何を渡すか決める前に、あいつは消えた」
レイの口は何かを言おうと震えるが、音になりそこなった呼吸が喉から漏れるだけだった。
そんなレイの姿に、ディーノは「勘違いするなよ」と釘を刺す。
「ヒロヤは死ぬつもりなんか、あんな風に姿を消すつもりなんて欠片もなかった。この世界を生き抜いて、その上で自分の目でお前の成長を見届けるつもりだった。だからオレはあいつに託されたわけでもなんでもない」
「じゃあ、なんで」
「オレが嫌だった。オレがあいつとの約束を忘れてないこと、お前が自分で未来を選んだこと、それをどうしてもオレ自身に示したかった。つまるところ、自己満足だ」
ディーノから手の中のリングへ、レイの視線が移る。
「お前のこれからに、きっと必要になる」
下瞼の上に限界まで張っていた水が転がり落ちる前に、レイは手の甲で目元をぬぐって顔を上げる。
「ありがとうございます。大事に使います」
少し赤くなった目と鼻を隠すことなく、レイが笑顔をディーノに向ける。ディーノの目もわずかながら滲んだ。隣に座るロマーリオなんかさらに目尻を湿らせて、軽く上を向いてしまった。
よかったなぁ、とツナは安堵する。
彼らとヒロヤとの間に起きたことは、これからもわずかながらにわだかまりとして残っていくことだろう。特にディーノはレイの家族を守れなかったことをこれから先も悔いていく。
それでもここで1つ、小さな区切りを迎えた証としてこの指輪がレイの手に渡った。
「特殊な天然石っつってたが、何が特殊なんだ?」
ここにきてようやく口を開いたリボーンが、レイの手の中の箱を眺めながら疑問を投げる。
ツナ自身、天然石や宝石に関する興味が薄いというのもあるが、こんなにも黒い石は見たことがない。
「オレも細かいことは分からないが、こいつは大空の7属性、すべての属性を通して炎に変換できる石だ」
「あるとは聞いていたが、実際に目にするとはな。貴重なものか?」
「貴重というより、宝石としても武器としても需要が低すぎて利用されないんだと。まあ、実戦で複数属性使える奴なんてほんの一握りだからな」
レイがリングを摘まんで室内灯に透かしている。横から覗き込めば、リングの中でグレーの光がかすかに揺れた。全く光を通さないというわけではないようだ。
「早速使ってみたらどうだ。さっきも言ったが、媒体があった方が炎を使った戦いはやりやすくなるはずだぞ」
リボーンに促されて、レイが緊張した面持ちで右手の中指にリングを嵌める。そしてゆっくりと拳を握った。
数秒後、黒いはずのリングが内側で、ゆらゆらと光が揺れ始める。そしてその光を中心に、炎が噴き出した。先ほどと変わらず白をベースに橙の炎も揺れている。
「綺麗なもんだな」
感慨深げにロマーリオが呟く。いくつかの火の粉がテーブルに垂れるが、焦げる様子はない。頬杖を突きながらディーノが問いかけた。
「体調だどうだ?」
「さっきと違って全然苦しくない、すごい……」
「そいつはよかった!」
驚きを隠さないレイの言葉に、ディーノが嬉しそうに笑った。
「炎の出力って、そんなに急に上がるものなのか……」
「その前はリングとグローブが完全に別々だったから、一緒になった瞬間に色々変わったというか」
そういえば10年後にどんなことがあったか、レイに細かくは話していなかった。どこかでゆっくりと話すのもありだな、と思いながら自分の経験を拙くも伝える。
とはいえグローブから出る炎の力と、本人から直接出る力では扱い方が違う。ツナがアドバイスするにも限界はあるし、レイもそれはわかっていることだろう。
というより、まずはリングなりギアなり、そういった媒体はどこから入手するのだろうか。タルボに相談をすればよいのだろうか。
自宅が見えるほどになると、家の前にどう見ても高級そうな黒い車が2台停まっているのが見えた。
スーツを着たガタイのいい男性が1名車外に立っており、車内では1人が船を漕いでいる。レイと顔を見合わせてから、歩みを早める。
沢田家の前にこんな車のつけ方をする人は限られているのだ。
足音に気づいた男がこちらを向いて破顔した。
「こんにちは」
「ボンゴレ、邪魔してます。リボーンさんもお久しぶりです」
「来てたんだな」
「ええ、何とか最低限片付きまして。先に上がらせていただいてます」
じゃあ行くぞ、とリボーンに促され、ツナは玄関に足を向ける。
「レイ、元気だったか?」
「はい」
「じゃあ早く元気な顔を見せてやれ」
そう背中を押されたレイを横目に、ツナは玄関のドアを開けた。玄関には普段置かれていないスニーカーと革靴が1足ずつ並んでいる。
靴を脱げば、レイも改めて体の砂を払ってから三和土に入ってきた。レイがスニーカーをひっくり返して砂を落としていると、奈々が買い物袋を持って顔を出してきた。
「あ、母さん。ただいま」
「あら、お帰りなさい」
「ただいま」
「ディーノ君達が来たから夕飯買い足しに行ってくるわね。今リビングにお通ししてるから」
「はーい」
奈々は慌ただしく靴を履いたかと思えば、レイを見て「あら。髪の毛に砂付いてるわよ」とカバンから櫛を取り出して世話を焼き始めた。
レイはおとなしくされるがままになっており、細かい音が三和土に落ちる音が聞こえる。
「服も砂まみれじゃない、何してたの」
「えっと」
「手洗ってから着替えなさい」
時間がかかりそうなレイに「先に行ってるから」と声を掛け、手を洗ってリボーンと共にリビングに向かう。
扉を開ければ見知った2人がダイニングチェアに並んで座っていた。
「ディーノさん、ロマーリオさん!」
「よお、ツナ!」
「邪魔してるぜ」
「お久しぶりです」
ツナが2人の向かいに腰掛けると、彼らは見計らったようにいつもの笑みを引っ込め、居住まいを正して頭を下げた。
眼前の光景に、ツナは当然動揺した。
しかし、それもすぐに収まる。彼らが頭を下げる理由は1つしか浮かばないからだ。
「ヒロヤのこと、巻き込んで本当にすまなかった」
「ディーノさん……」
「ツナにとっては京子や山本が襲われたことも、事実を隠されていたことも許せないだろう。できる限りの対応はするし、その上で気が済まなければ言ってくれ」
それがアイツのボスとして、オレができることだ。
レイはまだ上がってこない。リボーンも何も言わない。
ツナが対応をしなければならないというこだろう。急にパサついた口内を唾液で潤して、息を吸う。
「あの、山本も、京子ちゃんも、どちらも怪我をしてないし、京子ちゃんのお兄さん含めて誰も怒ってません。その、オレ達は大丈夫です。だから、顔を上げてください」
情けなくも声が震えるが、その言葉で目の前の大人達がゆっくりと頭を上げる。
リボーンから何の叱責も飛んでこないことを考えると、とりあえず及第点だったようだ。
「ありがとう」
ゆっくりと顔を上げたディーノの顔には、静かな笑みが浮かんでいる。大人扱い、ではないが、対等な立場に見ているということが分かって、緊張で背筋が伸びる。
「ただ、本当に今回のことで何かあれば、時間が経ったとしても必ず言ってくれ。罪悪感だとかそういうのは抜きで、ボスとしての責任の問題なんだ」
頷いたツナを見て、ディーノは「じゃあこの話は終わりだ。辛気臭くなる」と立ち上がって伸びをした。
ヒロヤのことを考えれば、もっと暗い顔をしていてもおかしくはないとも思うが、そこは経験の差か、あるいは年上の意地か。
ツナもこれ以上踏み込むことではないと判断し、体の力を緩めた。
「ところで、レイはどうした?さっき声はしたが」
ロマーリオが奈々が出したであろう茶をすすりながら、視線を揺らす。
「たぶん着替えてるんで、そろそろ来ると思います」
ツナが返答したタイミングでノックの音がして、リビングの扉が開いた。
顔を出したレイの服は、さっきのものとは違うものになっている。奈々に言われた通り着替えたようだ。
レイは少しだけ気まずそうに、ゆっくりとリビングに入ってくる。
理由は明白だ。しかし、そんな彼女に来訪者達は明るい声で呼びかけた。
「レイ、何突っ立ってんだ?」
「早くこっち来て座れ」
笑顔で手招きをされて、レイは少しだけ逡巡した後、素直にツナの隣に腰を下ろした。最初に口を開いたのはディーノだった。
「レイ、久しぶりだな。元気だったか?」
「はい。ディーノさんも、ロマーリオさんも元気そうでよかった」
「たまに連絡はくれてたが、やっぱ直接顔を見ると安心するもんだな」
「ロマーリオはじめ、おっさん連中はお前がいじめられてないか心配してたんだぜ。失礼だろ?」
「おいボス、やめろ」
大人達のやりとりに、レイが小さく笑う。
緩んだレイの表情に、ディーノとロマーリオは顔を合わせる。そしてディーノはロマーリオが差し出したカバンから、小さな箱を取り出した。
「ツナ、お前がレイのオーナーになったこと、聞いたよ」
「えっ、は、はい」
急に話の矛を向けられ、思わず声が高くなる。そんなツナを笑うことなく、ディーノはツナ達を見ながら手の中の箱を軽くもてあそんだ。
「レイ、改めて確認させてくれ。お前はツナと共に生きていく。そう決めたってことで間違いないな?」
「……はい。あの、ごめ」
「待て待て、なんで謝る?お前自身が望んで選んだことだ。オレがそうあってほしいと望んだように」
軽い言葉で笑いながら、ディーノはレイの謝罪を遮った。レイが勝手に申し訳なくなってしまったのだろう。それを軽く制するあたり、ディーノはレイの扱いに慣れている。
「と、いうわけで」
ディーノが手の中の箱を、向かいに座るレイに差し出した。真っ黒なベルベット生地の小箱、どうみても並の中学生が手に取っていい品とは思えない。
レイも少々困惑した面持ちでディーノの手の上を見ている。ほら、と再度促され、レイは恐る恐る小箱を受け取った。
近くで見ると箱の表面が滑らかな光沢で覆われているのがよく分かり、よりその高級感を感じてしまう。
ディーノの目に促され、レイの指が上蓋を押し上げると、音もなく箱が開いた。
「ゆび、わ……?」
箱の中、グレーの台座に鎮座していたのは、シンプルな黒色のリングだった。どこかに石が乗っているわけでも、何らかの掘り加工が施されている様子もない。ただ真っ黒でつるりとしている。
「特殊な天然石をくりぬいて作ったリングだ。お前専用のな」
「ボク専用って……、ど、どうして……!」
動揺を隠しきれない声でレイが叫ぶ。
ディーノはそれにすら顔色も表情も変えず、穏やかにレイを見ていた。優しいまなざしに、レイもそれ以上の言葉が出てこない。
「お前が独り立ちした時何かを渡すってのは、何年も前から話してたんだ。ヒロヤと」
レイの目が丸くなる。
ディーノの目はレイを通して誰かを見ているような、そんな遠い目をしながら笑顔を浮かべた。
「あいつが『レイが独り立ちしたら、何か特別なものを渡したい』なんて言ってさ、オレも乗っかったんだよ。でも結局、何を渡すか決める前に、あいつは消えた」
レイの口は何かを言おうと震えるが、音になりそこなった呼吸が喉から漏れるだけだった。
そんなレイの姿に、ディーノは「勘違いするなよ」と釘を刺す。
「ヒロヤは死ぬつもりなんか、あんな風に姿を消すつもりなんて欠片もなかった。この世界を生き抜いて、その上で自分の目でお前の成長を見届けるつもりだった。だからオレはあいつに託されたわけでもなんでもない」
「じゃあ、なんで」
「オレが嫌だった。オレがあいつとの約束を忘れてないこと、お前が自分で未来を選んだこと、それをどうしてもオレ自身に示したかった。つまるところ、自己満足だ」
ディーノから手の中のリングへ、レイの視線が移る。
「お前のこれからに、きっと必要になる」
下瞼の上に限界まで張っていた水が転がり落ちる前に、レイは手の甲で目元をぬぐって顔を上げる。
「ありがとうございます。大事に使います」
少し赤くなった目と鼻を隠すことなく、レイが笑顔をディーノに向ける。ディーノの目もわずかながら滲んだ。隣に座るロマーリオなんかさらに目尻を湿らせて、軽く上を向いてしまった。
よかったなぁ、とツナは安堵する。
彼らとヒロヤとの間に起きたことは、これからもわずかながらにわだかまりとして残っていくことだろう。特にディーノはレイの家族を守れなかったことをこれから先も悔いていく。
それでもここで1つ、小さな区切りを迎えた証としてこの指輪がレイの手に渡った。
「特殊な天然石っつってたが、何が特殊なんだ?」
ここにきてようやく口を開いたリボーンが、レイの手の中の箱を眺めながら疑問を投げる。
ツナ自身、天然石や宝石に関する興味が薄いというのもあるが、こんなにも黒い石は見たことがない。
「オレも細かいことは分からないが、こいつは大空の7属性、すべての属性を通して炎に変換できる石だ」
「あるとは聞いていたが、実際に目にするとはな。貴重なものか?」
「貴重というより、宝石としても武器としても需要が低すぎて利用されないんだと。まあ、実戦で複数属性使える奴なんてほんの一握りだからな」
レイがリングを摘まんで室内灯に透かしている。横から覗き込めば、リングの中でグレーの光がかすかに揺れた。全く光を通さないというわけではないようだ。
「早速使ってみたらどうだ。さっきも言ったが、媒体があった方が炎を使った戦いはやりやすくなるはずだぞ」
リボーンに促されて、レイが緊張した面持ちで右手の中指にリングを嵌める。そしてゆっくりと拳を握った。
数秒後、黒いはずのリングが内側で、ゆらゆらと光が揺れ始める。そしてその光を中心に、炎が噴き出した。先ほどと変わらず白をベースに橙の炎も揺れている。
「綺麗なもんだな」
感慨深げにロマーリオが呟く。いくつかの火の粉がテーブルに垂れるが、焦げる様子はない。頬杖を突きながらディーノが問いかけた。
「体調だどうだ?」
「さっきと違って全然苦しくない、すごい……」
「そいつはよかった!」
驚きを隠さないレイの言葉に、ディーノが嬉しそうに笑った。