真相

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苗字 デフォルトは「瀬切(セギリ)」
名前 デフォルトは「レイ」

屋上の扉を開けば、光と蒸し暑さがぶつかってきて思わず眉を顰める。水たまりの残る明るい屋上で、リボーンが背を向けて佇んでいた。

「リボーン」
「お前らには色々と話しておこうと思ってな」

リボーンがゆっくりと振り返る。

「もうわかってるとは思うが、レイとヒロヤのことだ。ここまで来たらお前らも知る権利があるからな。レイにも関係者にも許可は取ってある。ただ聞きたくなければ聞かなくてもいい。特にツナ、お前にとって気分のいい話ではねぇからな」

リボーンの黒い目が4人を順繰りに見る。最後にもう一度、瞳の焦点がツナに当たった。指導の時とは違う、少しだけ柔らかい視線に、ツナも覚悟を決めるしかなかった。

「オレは……知りたい。レイと兄ちゃんに、何があったか」

他の3人も静かに頷く。ツナの声は情けなくも震えていたが、リボーンはそれを受け入れるように目元を緩めた。

「そうか」

リボーンのボルサリーノから飛び降りたレオンが、ツナ達の足元に寄って来る。そして体を膨らませて5人掛けのソファへと変化した。
主人の下に残ったレオンの尻尾がスツールに変化し、そこにリボーンが腰掛ける。
ツナ達が恐る恐るソファに腰を下ろすのを確認し、リボーンは足を組む。

「まず、最初に一つ。レイとヒロヤは人間じゃない」

え、と声を漏らしたのはクロームだった。
一方、ツナ自身にはそこまで驚きはない。ヒロヤの体は跡形もなく消えた。
似た事例は何度か目の当たりにしたが、今回のは記憶にあるものとまた様相が違う。
それに、切り落とされたはずの右手、その手のひらまで再生していたというのも、普通の人間であれば起こりえないことだろう。
そしてヒロヤがそうであれば、おのずと妹であるレイにもその疑いは浮上する。
それだけでなく、レイはあれだけの傷を負ったというのにほぼ自力で帰宅し、さらに家に帰る前にあらかた出血は止まっていた。
人間どころか生物としてみても異様な治癒の早さだ。
ツナだけではない。獄寺と山本も反応が薄いのを見るに、きっと同じ考えなのだろう。

「人間じゃないなら一体……」
「これについてはオレより詳しい奴を呼んでるぞ」
「詳しい奴?」

疑問が音になると同時に、頭上に妙な気配を感じて、ツナは顔を上げた。
他の3人も同様に空を見上げる。曇天の一部が蜃気楼のように歪んでいた。これは何だろうか。

「光学迷彩……?」
「その通りだ」

獄寺の疑問に答えるように歪みが滲んで、小さな飛行機のようなものが目の前に現れた。
パコ、と音を立ててコックピットが開かれれば、中から重力に逆らった緑色の髪がわさわさと揺れた。

「ヴェルデ!?」
「お、時間通りに来たな」
「貴様が呼びつけたのだろうが」

眉を寄せ、口はへの字で声も低い。不機嫌を隠す気のないヴェルデに対して、リボーンは一切悪びれずに言葉を返した。

「こういうのはお前が一番詳しいからな。研究費の一部を持ってやるんだから悪い話じゃないだろ」
「まったく、研究者の懐事情を狙ってこの男は……」

飛行艇は驚くほど静かに着陸し、のそのそとヴェルデがはい出てくる。そして小さい手で何かを押すと、飛行艇はカタカタと小さな椅子に姿を変えた。
ぶつくさと愚痴りながらも彼は椅子に腰かける。
リボーンに「どこまで話していいんだ」と問いかけ、リボーンは「全部いいぞ。本人の許可もとってる」と答えた。
「そうか」と大した感慨もなさそうに返したヴェルデは、面倒そうにため息を吐きヴェルデはその三白眼をツナ達に向ける。

「人形だ」

人形、と小さく誰かが復唱する声が聞こえる。

「沢田、お前の叔父の職業は知っているか?」
「え、確かおもちゃを作ってたような……」
「……幼ければそんなものか。正確には人形作家だ」

へえ、と感嘆の声が漏れる。
言わんとすることは何となく理解できるが、そんな職業があるのか。
確かに幼いころ、伯父は工房も兼ねていたという自室にこもって作業をしていた記憶がある。まだ幼かったレイと共に部屋の中に入れてもらい、その場で簡単なおもちゃを作って渡してくれたことがある。

「あの男がまだ独身だったころ、ドイツで出会った。『オートマタ・ドール』の技術を有していたから、その繋がりでな」

また聞きなれない言葉が出てきた。
隣に座る獄寺の顔を盗み見れば、彼もなんだそれはと言わんばかりに眉間にしわを寄せている。マフィア関係で獄寺が知らないことであれば、ツナが知らなくても仕方ないはずだ。
リボーンからも「裏社会でもそこまで知名度は高くないからな。お前らが知らなくても無理はねぇ」とフォローが入った。
クロームが質問する。

「ドールって、人形のドール?その『オートマタ・ドール』って、普通の人形と何が違うの?」
「基本的には人間と見紛うような見た目で自律して動く人形を指す」

まるで「お前達も頭を回せ」と言わんばかりに、ヴェルデが言葉を区切った。
考える。記憶を探る。自律して動く人形。
その言葉でツナの頭に真っ先に浮かんだのは、人を食ったように笑う魔術師だった。

「ジンジャー・ブレッド……」
「そうだ」

ツナの回答に、ヴェルデは満足げに頷いた。

「この技術の祖こそ復讐者の1人、アレハンドロ。そして原初のオートマタ・ドールにしてアレハンドロの最高傑作が『魔術師の人形』ことジンジャー・ブレッドだ」



人形作家であった彼は、復讐者になるまでの生涯をこの人形作りに捧げることとなる。
ジンジャー・ブレッドの誕生に至るまでの試行錯誤を書き残したアレハンドロの手記は、彼がアルコバレーノとなる前に弟子の手に渡ることになる。
そして長い年月をかけて細々と才ある人形作家の間で継承・洗練されていった。

「時代と共に技術は進み、1900年代にはほぼ生命体ともいえるドールの生成方法も生まれた。あの兄妹もその製法で作られた。しかし人間ではない。まあ、その使い勝手の良さ故に色々と需要はあったわけだ」
「こいつはドールの技術を元に、生物兵器である匣アニマルの開発を進めていたんだ」

リボーンの説明に、右手のリングが小さく熱を持つのを感じた。
ヴェルデはツナの右手から獄寺の腰、山本の胸元と順に指先と視線を動かす。

「匣アニマルの生成技術はオートマタ・ドールを大いに参考にしている。基本的なつくりは同じだ」

小さい指を2本立たせ、それをゆっくり1つずつ折る。

「まず、成長及び身体維持のための生命エネルギー  。これは体を動かすための動力となる。人間でいうところの血液と食事のようなものだ。もう1つが心臓部となるコア。ここは最も重要な部分だ。人間における脳や心臓と思え。 常時発炎することでエネルギーを変換し、全身に送ることで活動を可能にしている」
「その、コアが壊れたり、エネルギーがなくなったらどうなるの?」
「端的に言えば死ぬ」

あの時、ツナを抱き締めていたはずのヒロヤの体がどんどんと体積と質量を失っていき、最後には布の重さしか残らなかったことを思い出す。

「……死んだら、何も残らずに消えちゃうの?」
「製法によって異なる。生物とほぼ同様に元の姿そのまま残るもの、素体のみ残るもの、体が崩壊し跡形も残らないもの、様々なパターンが見受けられる。その様子であれば兄の方、おそらく妹の方も、跡形も残らないタイプだろうな」

遺体も遺灰も何も残らない。遺されるものがほとんどないという事実に、ツナの胸は寂しさで押しつぶされそうになる。

「とにかく、ドールも匣アニマルも、コアが破壊されたり、生命エネルギーの蓄積がなくなれば生物でいうところの死を迎える。細かいことはいい。お前達はこれだけ覚えておけ。ちなみにコアの場所は頭や腕、首、腹など多種多様だ。兄の場合は話しに聞く限りみぞおち付近だろう。妹の方は知らん。急所を晒すようなものだからな、基本的には秘匿情報となる」

そう言ってからヴェルデは椅子の肘掛けのキーボードに何かを打ち込み始める。

「ドールについて超初心者向けにまとめたものをメールで送ってやる。これからもあれとつつがなく過ごしたいのであれば、この程度は頭に叩き込んでおけ」

釘を指すようにヴェルデは言い、一息ついた。
話の大半は理解できなかったが、ヴェルデが「これだけは」といった部分だけは理解した。
ナッツ達が死ぬことはないと思い込んでいた。
それこそリング自体が破壊されたり、存在そのものが崩壊しない限りは生きているものだと何となく思い込んでいた。
本当はそうではない。そっとリングを撫でる。
大切な仲間であることは違いないのだ。もちろん、レイもそれは変わらない。

レイと兄ちゃんはそのオートマタ・ドールってやつで、どっちかっていうとナッツ達と似てるってことなんだな」

「そうだ。なんだ、思ったより落ち着いているな」とヴェルデは満足げに口の橋を吊り上げる。

「伯父さんと伯母さんは?」
「そちらは普通の人間だ。母親の方は紛れなくお前の母親の姉であり、父親も紛れなく人間だ。強いて言えば、父親の方はドール製作にいては天才と評価するに値する人間だった、ということくらいか」
「天才?」
「あの男は子どもを望めない妻のためだけに、勘だけで数々の難所工程があるドール製作を2度も成功させた。多くが成功に至る過程の研究だけでも何十年を費やすのだ、その幸運にも近い技術力がどれほど垂涎ものか。だから……」

中途半端に言葉を区切ったヴェルデの目がちらりとツナを見て、そしてリボーンに向いた。

「おい、こいつはどこまで知ってる」
「お前が今思い至ったことに関しては何も。今から話す」

ヴェルデをあしらい、いつになく真剣で、ほんの少し暗い瞳でリボーンが口を開いた。

「ツナ。今からレイがイタリアにいる間、何があったかをかいつまんで話す」

ゆっくりと頷けば、リボーンも頷いた。

「お前にとってはキツイ話もあるだろう。あえてオレ達が口を噤んでいた部分もある。聞いてられねぇと思ったら言え」
「分かった」

いつになく優しい言葉に、いつだかリボーンが言った「立派なボスにはしたいが不要な傷は負わせたくない」という言葉を思い出した。




夢主の設定詳細についてはここ(本作独自設定(夢主の正体など))参照。
読まなくてもいい。
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