真相
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「おはようございます、10代目!」
十字路の向こう側からよく知る声が聞こえてきた。
傘を差しながら走る獄寺の足は、早々に黒く湿っている。
「おはよう、獄寺君」
挨拶を交わせば、彼はちらりとその目を左右に振らせて眉間にしわを寄せた。
しかしすぐに眉間を緩め、「じゃあ行きましょう」と笑顔で歩き始めた。
教室に入れば京子と目が合った。
「おはよう、ツナ君。レイちゃんは今日もお休み?」
ツナの周囲を見やってからそう言う京子に、ツナ「まだちょっとね」と曖昧に返事を返した。
京子は疑うことなく「夏風邪が長引いちゃってるのかな。早く治るといいね」と純粋に心配してくれた。視界の端でクロームが眉尻を下げるのが見える。
対外的にレイの欠席は体調不良、ということにしている。
一方で当事者でもあるクロームには、ツナの見た一部始終を伝えた。
ツナは何度も言葉を詰まらせたが、彼女は急かしも遮りもせず、ただ静かに聞いた。
レイを探す協力をしてくれた炎真達には、仔細は伏せてレイの無事だけ伝えた。炎真は「できることがあったら言ってね」とツナの肩を叩き、深くは聞かなかった。
屋内での朝練を終えた運動部もガヤガヤと教室に入ってくる。山本もその1人だ。
はよ、とツナと獄寺に挨拶をしながら、彼もレイの姿が見えないことに、かすかに落胆の色をにじませる。
山本の後ろの席は、今日も空席のままだ。
あの日、そっと玄関の扉を開けて家に入れば、ちょうどビアンキが1階に降りてきたところだった。
ビアンキは目を真っ赤にさせたツナと傷だらけのレイを見て、目を見開いた。しかしすぐにレイの手を取って風呂場に押し込み、ツナには「あなたも顔を洗って着替えなさい」と言った。
レイの手当てだけでなく、血や埃でひどく汚れたレイの服の処分や、山本が貸したジャージやタオルの洗濯もしてくれたようだった。
レイはツナが風呂を上がる前には手当を終え、そのまま自室に閉じ籠ってしまい、それから顔を合わせていない。
ひどい怪我をして夜中に熱を出したりしていないかと不安にもなったが、リボーンに「今は1人にしてやれ」と言われてそれきりだ。
事情を知らない子ども達も、異様な空気を察しているのかここ数日はおとなしい。
奈々にはリボーンが言いくるめたようだが、詳細は何も知らない。
ツナにあれこれ訊いてくることも、部屋に籠るレイに何かをしようともしないようだ。
一度だけ、夜中にリビングで鉢合わせた時に温かいお茶を入れてくれた。そして泣き出したツナを何も言わずに抱き締めた。
小学生以来の母親の抱擁にどうしようもなく泣き続けて、そんな息子に何かを言うこともなかった。
5限目、教科担任の急な体調不良で自習が言い渡された。
実態は自習という名の自由時間だ。真面目に教科書を捲る者、受験勉強に備えて塾の課題を行う者もいれば、早々に席を立って友人達と遊び始める者や居眠りを始める者、教室を出る者もいた。
しかしここは3年生、度を越して風紀委員を呼び寄せるような愚か者はいない。適度な音量を保ったまま、教室はざわめいている。
獄寺は早々にツナのところに来て、雑誌を開いた。相変わらずよく分からない横文字や漢字が羅列している。
獄寺が3回ページをめくるころ、山本が近付いてきた。
「ツナ、獄寺」
「山本」
「んだよ」
「今、小僧が窓から」
そう言って開かれた手のひらの上には、四つ折りの小さなメモ用紙が乗っていた。
守護者、代理も含めて屋上に集合。
開けばそう書いてある。
窓の外を見れば、今はちょうど晴れ間になっているようだった。雲の割れ間からうっすらと光が差し込んでいる。
この自習がリボーンの差し金ではないかという疑いを押し込めて、京子達と自習をしようとしていたクロームに目配せをしてから廊下に出る。
廊下の隅、階段付近で待っていると、ぱたぱたと小走りの足音が近付いてきた。
「ボス」
「ごめんね、邪魔して」
「ううん。どうしたの?」
山本からメモ用紙を見せられたクロームの表情が、かすかに曇った。
メモ用紙の情報量はゼロに等しい。
それでもこれから何に、誰に関わる話を聞くことになるのか、それは全員が察していた。
授業中の静かな階段を、誰も何も話すことなく登っていく。
十字路の向こう側からよく知る声が聞こえてきた。
傘を差しながら走る獄寺の足は、早々に黒く湿っている。
「おはよう、獄寺君」
挨拶を交わせば、彼はちらりとその目を左右に振らせて眉間にしわを寄せた。
しかしすぐに眉間を緩め、「じゃあ行きましょう」と笑顔で歩き始めた。
教室に入れば京子と目が合った。
「おはよう、ツナ君。レイちゃんは今日もお休み?」
ツナの周囲を見やってからそう言う京子に、ツナ「まだちょっとね」と曖昧に返事を返した。
京子は疑うことなく「夏風邪が長引いちゃってるのかな。早く治るといいね」と純粋に心配してくれた。視界の端でクロームが眉尻を下げるのが見える。
対外的にレイの欠席は体調不良、ということにしている。
一方で当事者でもあるクロームには、ツナの見た一部始終を伝えた。
ツナは何度も言葉を詰まらせたが、彼女は急かしも遮りもせず、ただ静かに聞いた。
レイを探す協力をしてくれた炎真達には、仔細は伏せてレイの無事だけ伝えた。炎真は「できることがあったら言ってね」とツナの肩を叩き、深くは聞かなかった。
屋内での朝練を終えた運動部もガヤガヤと教室に入ってくる。山本もその1人だ。
はよ、とツナと獄寺に挨拶をしながら、彼もレイの姿が見えないことに、かすかに落胆の色をにじませる。
山本の後ろの席は、今日も空席のままだ。
あの日、そっと玄関の扉を開けて家に入れば、ちょうどビアンキが1階に降りてきたところだった。
ビアンキは目を真っ赤にさせたツナと傷だらけのレイを見て、目を見開いた。しかしすぐにレイの手を取って風呂場に押し込み、ツナには「あなたも顔を洗って着替えなさい」と言った。
レイの手当てだけでなく、血や埃でひどく汚れたレイの服の処分や、山本が貸したジャージやタオルの洗濯もしてくれたようだった。
レイはツナが風呂を上がる前には手当を終え、そのまま自室に閉じ籠ってしまい、それから顔を合わせていない。
ひどい怪我をして夜中に熱を出したりしていないかと不安にもなったが、リボーンに「今は1人にしてやれ」と言われてそれきりだ。
事情を知らない子ども達も、異様な空気を察しているのかここ数日はおとなしい。
奈々にはリボーンが言いくるめたようだが、詳細は何も知らない。
ツナにあれこれ訊いてくることも、部屋に籠るレイに何かをしようともしないようだ。
一度だけ、夜中にリビングで鉢合わせた時に温かいお茶を入れてくれた。そして泣き出したツナを何も言わずに抱き締めた。
小学生以来の母親の抱擁にどうしようもなく泣き続けて、そんな息子に何かを言うこともなかった。
5限目、教科担任の急な体調不良で自習が言い渡された。
実態は自習という名の自由時間だ。真面目に教科書を捲る者、受験勉強に備えて塾の課題を行う者もいれば、早々に席を立って友人達と遊び始める者や居眠りを始める者、教室を出る者もいた。
しかしここは3年生、度を越して風紀委員を呼び寄せるような愚か者はいない。適度な音量を保ったまま、教室はざわめいている。
獄寺は早々にツナのところに来て、雑誌を開いた。相変わらずよく分からない横文字や漢字が羅列している。
獄寺が3回ページをめくるころ、山本が近付いてきた。
「ツナ、獄寺」
「山本」
「んだよ」
「今、小僧が窓から」
そう言って開かれた手のひらの上には、四つ折りの小さなメモ用紙が乗っていた。
守護者、代理も含めて屋上に集合。
開けばそう書いてある。
窓の外を見れば、今はちょうど晴れ間になっているようだった。雲の割れ間からうっすらと光が差し込んでいる。
この自習がリボーンの差し金ではないかという疑いを押し込めて、京子達と自習をしようとしていたクロームに目配せをしてから廊下に出る。
廊下の隅、階段付近で待っていると、ぱたぱたと小走りの足音が近付いてきた。
「ボス」
「ごめんね、邪魔して」
「ううん。どうしたの?」
山本からメモ用紙を見せられたクロームの表情が、かすかに曇った。
メモ用紙の情報量はゼロに等しい。
それでもこれから何に、誰に関わる話を聞くことになるのか、それは全員が察していた。
授業中の静かな階段を、誰も何も話すことなく登っていく。