暗雲
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「山本!」
「ツナ!獄寺に小僧も!」
雨の小山を上り切れば、山本がこちらに気付いて手を振ってきた。レイは縁側に腰掛けている。
「何があった」
ツナ達が家を出る際に「オレも行くぞ」と言って肩に飛び乗ってきたリボーンが、2人に問い掛ける。
レイは黙ったまま俯いており、代わりに山本が口を開いた。
「オレが先に来てて道場開けようとしたら、急に知らない奴に切り掛かられて」
「えっ、大丈夫だったの!?」
「咄嗟に応戦したからな、無傷だぜ」
ツナを安心させるように山本は笑う。
「どんな奴だった」
獄寺が訊けば、困ったような顔で山本が言う。
「フードのついたマントみたいなの被ってたからなぁ……。少なくとも男で、オレらより年上?ってくらいしか分かんねぇ」
「切り掛かられたってことは、武器は剣か?」
「日本刀じゃねぇけど、もっと細くてそこまで長くない剣だった。そんで、何度か打ち合ってたら瀬切も来て加勢してくれたんだけどさ……」
山本が説明する間も、レイは顔を上げようとしなかった。
ツナが立っているからだろうか、長くはない前髪でも目元が隠れて表情が読めない。
ただ、口は真一文字に結ばれたままだ。白いシャツと頬に泥が着いて汚れている。
リボーンがツナの肩の上から飛び降りた。
「山本、道場の中に入ってもいいか」
「いいぜ」
「さんきゅ」
レイの足元に立ったリボーンは、下からレイの顔を見上げて言った。
「レイ、中で少し話すぞ」
「……分かった」
ようやく聞こえたレイの声はかすれていた。
立ち上がったレイは、誰とも目を合わせることなく「山本、さっきはごめん」とだけ詫びて、返事も聞かずにリボーンの後を追う。頬の泥にはうっすらと血が滲んでいた。
「お前ら、先帰ってていいぞ」
リボーンはそう言い残し、道場の中に入っていった。
「山本」
心配を滲ませる山本に声を掛ければ、彼は少しだけ表情を和らげて「ま、座れよ」と縁側を指す。
並んで置かれているスクールバックは、山本のものとレイのものだろう。
傘を閉じて座る。
「さっきの話の続きだけどさ。瀬切が来て少ししたら、そいつ今度はわき目も振らずに逃げた」
「に、逃げた?」
「ああ。瀬切が切り掛かったら、短剣を避けてそのまま瀬切の腕引っ張って地面に叩き付けてさ。やべぇなって思ったら、そのまま何もせずにだーっとあっちの方に」
山本の指がツナ達が先ほど駆け上がってきた階段を指す。
「マジで手口が『灰の手』じゃねぇか……!」
くそっ、と悪態を吐きながら獄寺は頭を掻く。
「右手は?」
「マントで隠れてて分からなかった。ただ、剣を振るってたのは左手だ」
同一人物、尚且つ灰の手の犯行という確証は得られない。
しかし、獄寺から聞いた話、そして京子の一件からの翌日の行動と考えれば、複数犯でなければ確率は高い。
「あのさ、レイのことなんだけど」
先ほどの従妹の様子が心配になり、ツナは口を挟んだ。
「ずっとあの様子だった……?」
ツナの質問に、山本はがしがしと頭を掻く。うーん、と唸りながら言葉を探している。
「そいつが逃げようとしたときにさ、瀬切が追い掛けようとしたんだよ。勿論オレも最初はそのつもりだったけど……」
「けど?」
「そいつに切り掛かった時から瀬切の様子が変っつーか。焦ってるような、怖がってるような、怒ってるような……。どう見ても平常心失っててさ」
今の状態で行かせるわけにはいかない。そう判断して山本はレイの腕を掴んだという。
「そしたら、剣を向けられた」
離せ。
そう言って抜き身の剣を山本に向けたのだという。
「つっても、離したら何するか分かんねぇから、とにかく落ち着かせるためにも小次郎に手伝ってもらった」
小次郎の雨で、半ば興奮状態だったであろうレイの頭が冷えることを願いながら、山本は雨を降らせた。
「数秒雨が当たったら力が抜けて、短剣も落として。そうこうしてるうちにマントの奴を見逃しちまってさ。ごめんな」
どうか気にしないでくれ、そしてレイを止めてくれてありがとう。その気持ちを込めて、その背中を軽く叩いた。
きっと山本が止めようとしなければ、レイはそのままその男を追ったことだろう。
そこでもし無鉄砲なことをしたら、万が一があったらと思うと、山本の機転には感謝するほかない。
結局男の目的も、レイの行動の意図も分からず唸っていると、ガラガラと戸を引く音が聞こえた。
「お前ら、やっぱまだ帰ってなかったか」
「リボーン!」
呆れたように言いながら、小さい影が近付いてくる。レイの姿はない。
「あれ、レイは?」
「電話中だぞ」
「電話ですか?」
「ああ、ディーノにな」
急に出てきた兄弟子の名前に、ツナは目を丸くする。
「ディーノさん?どうして急に」
「京子の件も、今回の件も、『灰の手』の仕業で間違いない。今、この件の調査はキャバッローネにゆだねられている。だから、お前らは自衛行為以外でこれ以上関わるな」
リボーンはボルサリーノを目深に被り、そこからちょうどいい深さを探りながら、そう言い放った。その言葉に真っ先に食って掛かったのは獄寺だった。
「ま、待ってください、リボーンさん!『灰の手』の捜査はボンゴレとキャバッローネ合同で行っていたはずです。それに笹川とボンゴレの守護者である山本も巻き込まれました。ボンゴレが無関係の案件とは思えません!」
「そうだな」
「えっ」
きつい反論を覚悟していたであろう獄寺は、リボーンのあっさりとした肯定に声を詰まらせた。
「これはオレの独断だ。そんでディーノの希望でもある」
「跳ね馬の……?」
帽子の鍔で、リボーンの顔が見えない。ただ、これ以上踏み込んでくれるな、という思いだけを感じる。
リボーンに関わるな、と言われたのはこれで二度目だ。一度目は代理戦争で復讐者が乱入をしてきたときだった。あの時は勝てる見込みがない、自分のために命を散らす必要はないと、そういう理由だったが、今回は違うように思える。
ツナも縁側に下ろしていた腰を上げ、獄寺の隣に立った。
「リボーン。何で今回のことからそこまでオレを、オレ達を遠ざけようとするんだ?」
彼が理由もなくこんな選択をするはずがないことくらい、ツナだって重々承知している。
あからさまな面倒事に首を突っ込みたいわけでもないが、ここまで身近な人間が立て続けに狙われて「無関係ですか、そうですか」と聞き分けよく引けるはずもない。だからこそ、明確な理由を知りたかった。
リボーンは帽子の鍔から片目だけを覗かせ、ツナを見る。やはり表情は読めない。
「オレは常々お前には試練を乗り越え、最終的に立派なボスになってほしいと思っている。ただな、不必要な傷まで負う必要があるとは思ってねぇ。それだけだ」
傷ってなんなんだ。
そう問おうとしたところで、砂利を踏む音が聞こえた。顔を向ければ、携帯電話を片手に持ったレイが近付いてきていた。
表情は晴れていない。先ほどより幾分かマシになった程度だ。それでも、ようやく目が合った。
「レイ、大丈夫?」
「うん」
ツナの問いかけに、レイは薄く笑って返す。
ディーノとの電話の内容について訊こうとして、リボーンの言葉で口を閉ざした。従兄として、友人として、どこまで踏み込むことが許されているのだろう。
ツナが黙ることを選択したからか、獄寺と山本もレイに対して問いただすようなことはなかった。
「じゃ、帰るぞ」
重い沈黙を破るようにリボーンが言えば、山本も「そうだな」と便乗するように言い、レイに鞄を手渡す。
「あの、さっきは本当に」
「いいって、もう気にすんなよ」
その光景をぼんやり眺めているツナを、獄寺が気遣わし気に見ていることに気付いた。
「大丈夫」と答えたが、恐らくこれで本当に大丈夫だと思われることはないだろう。それでも獄寺は何も言わず、「では、帰りましょうか」と言って、傘を開いて渡してくれた。
分厚い雲は空を焼く夕日すら通さない。色もなく薄暗くなった道を、言葉少なに並び歩いて、それぞれの岐路についた。
「ディーノさん」
「よお、レイ。久しぶりだな、学校楽しいか?」
「はい」
「そうか、よかった」
「今日は山本が標的になりました」
「山本もか……。怪我は?」
「無傷です」
「そうか、流石だな。……悪い、行ってやりたいのは山々だが、今週はどうにも動けねぇ」
「分かってます。……だから、次に何かあればボクが動いてもいいですか?」
「……ああ、頼んだ」
「はい」
「レイ」
「……はい」
「ごめんな」
「ツナ!獄寺に小僧も!」
雨の小山を上り切れば、山本がこちらに気付いて手を振ってきた。レイは縁側に腰掛けている。
「何があった」
ツナ達が家を出る際に「オレも行くぞ」と言って肩に飛び乗ってきたリボーンが、2人に問い掛ける。
レイは黙ったまま俯いており、代わりに山本が口を開いた。
「オレが先に来てて道場開けようとしたら、急に知らない奴に切り掛かられて」
「えっ、大丈夫だったの!?」
「咄嗟に応戦したからな、無傷だぜ」
ツナを安心させるように山本は笑う。
「どんな奴だった」
獄寺が訊けば、困ったような顔で山本が言う。
「フードのついたマントみたいなの被ってたからなぁ……。少なくとも男で、オレらより年上?ってくらいしか分かんねぇ」
「切り掛かられたってことは、武器は剣か?」
「日本刀じゃねぇけど、もっと細くてそこまで長くない剣だった。そんで、何度か打ち合ってたら瀬切も来て加勢してくれたんだけどさ……」
山本が説明する間も、レイは顔を上げようとしなかった。
ツナが立っているからだろうか、長くはない前髪でも目元が隠れて表情が読めない。
ただ、口は真一文字に結ばれたままだ。白いシャツと頬に泥が着いて汚れている。
リボーンがツナの肩の上から飛び降りた。
「山本、道場の中に入ってもいいか」
「いいぜ」
「さんきゅ」
レイの足元に立ったリボーンは、下からレイの顔を見上げて言った。
「レイ、中で少し話すぞ」
「……分かった」
ようやく聞こえたレイの声はかすれていた。
立ち上がったレイは、誰とも目を合わせることなく「山本、さっきはごめん」とだけ詫びて、返事も聞かずにリボーンの後を追う。頬の泥にはうっすらと血が滲んでいた。
「お前ら、先帰ってていいぞ」
リボーンはそう言い残し、道場の中に入っていった。
「山本」
心配を滲ませる山本に声を掛ければ、彼は少しだけ表情を和らげて「ま、座れよ」と縁側を指す。
並んで置かれているスクールバックは、山本のものとレイのものだろう。
傘を閉じて座る。
「さっきの話の続きだけどさ。瀬切が来て少ししたら、そいつ今度はわき目も振らずに逃げた」
「に、逃げた?」
「ああ。瀬切が切り掛かったら、短剣を避けてそのまま瀬切の腕引っ張って地面に叩き付けてさ。やべぇなって思ったら、そのまま何もせずにだーっとあっちの方に」
山本の指がツナ達が先ほど駆け上がってきた階段を指す。
「マジで手口が『灰の手』じゃねぇか……!」
くそっ、と悪態を吐きながら獄寺は頭を掻く。
「右手は?」
「マントで隠れてて分からなかった。ただ、剣を振るってたのは左手だ」
同一人物、尚且つ灰の手の犯行という確証は得られない。
しかし、獄寺から聞いた話、そして京子の一件からの翌日の行動と考えれば、複数犯でなければ確率は高い。
「あのさ、レイのことなんだけど」
先ほどの従妹の様子が心配になり、ツナは口を挟んだ。
「ずっとあの様子だった……?」
ツナの質問に、山本はがしがしと頭を掻く。うーん、と唸りながら言葉を探している。
「そいつが逃げようとしたときにさ、瀬切が追い掛けようとしたんだよ。勿論オレも最初はそのつもりだったけど……」
「けど?」
「そいつに切り掛かった時から瀬切の様子が変っつーか。焦ってるような、怖がってるような、怒ってるような……。どう見ても平常心失っててさ」
今の状態で行かせるわけにはいかない。そう判断して山本はレイの腕を掴んだという。
「そしたら、剣を向けられた」
離せ。
そう言って抜き身の剣を山本に向けたのだという。
「つっても、離したら何するか分かんねぇから、とにかく落ち着かせるためにも小次郎に手伝ってもらった」
小次郎の雨で、半ば興奮状態だったであろうレイの頭が冷えることを願いながら、山本は雨を降らせた。
「数秒雨が当たったら力が抜けて、短剣も落として。そうこうしてるうちにマントの奴を見逃しちまってさ。ごめんな」
どうか気にしないでくれ、そしてレイを止めてくれてありがとう。その気持ちを込めて、その背中を軽く叩いた。
きっと山本が止めようとしなければ、レイはそのままその男を追ったことだろう。
そこでもし無鉄砲なことをしたら、万が一があったらと思うと、山本の機転には感謝するほかない。
結局男の目的も、レイの行動の意図も分からず唸っていると、ガラガラと戸を引く音が聞こえた。
「お前ら、やっぱまだ帰ってなかったか」
「リボーン!」
呆れたように言いながら、小さい影が近付いてくる。レイの姿はない。
「あれ、レイは?」
「電話中だぞ」
「電話ですか?」
「ああ、ディーノにな」
急に出てきた兄弟子の名前に、ツナは目を丸くする。
「ディーノさん?どうして急に」
「京子の件も、今回の件も、『灰の手』の仕業で間違いない。今、この件の調査はキャバッローネにゆだねられている。だから、お前らは自衛行為以外でこれ以上関わるな」
リボーンはボルサリーノを目深に被り、そこからちょうどいい深さを探りながら、そう言い放った。その言葉に真っ先に食って掛かったのは獄寺だった。
「ま、待ってください、リボーンさん!『灰の手』の捜査はボンゴレとキャバッローネ合同で行っていたはずです。それに笹川とボンゴレの守護者である山本も巻き込まれました。ボンゴレが無関係の案件とは思えません!」
「そうだな」
「えっ」
きつい反論を覚悟していたであろう獄寺は、リボーンのあっさりとした肯定に声を詰まらせた。
「これはオレの独断だ。そんでディーノの希望でもある」
「跳ね馬の……?」
帽子の鍔で、リボーンの顔が見えない。ただ、これ以上踏み込んでくれるな、という思いだけを感じる。
リボーンに関わるな、と言われたのはこれで二度目だ。一度目は代理戦争で復讐者が乱入をしてきたときだった。あの時は勝てる見込みがない、自分のために命を散らす必要はないと、そういう理由だったが、今回は違うように思える。
ツナも縁側に下ろしていた腰を上げ、獄寺の隣に立った。
「リボーン。何で今回のことからそこまでオレを、オレ達を遠ざけようとするんだ?」
彼が理由もなくこんな選択をするはずがないことくらい、ツナだって重々承知している。
あからさまな面倒事に首を突っ込みたいわけでもないが、ここまで身近な人間が立て続けに狙われて「無関係ですか、そうですか」と聞き分けよく引けるはずもない。だからこそ、明確な理由を知りたかった。
リボーンは帽子の鍔から片目だけを覗かせ、ツナを見る。やはり表情は読めない。
「オレは常々お前には試練を乗り越え、最終的に立派なボスになってほしいと思っている。ただな、不必要な傷まで負う必要があるとは思ってねぇ。それだけだ」
傷ってなんなんだ。
そう問おうとしたところで、砂利を踏む音が聞こえた。顔を向ければ、携帯電話を片手に持ったレイが近付いてきていた。
表情は晴れていない。先ほどより幾分かマシになった程度だ。それでも、ようやく目が合った。
「レイ、大丈夫?」
「うん」
ツナの問いかけに、レイは薄く笑って返す。
ディーノとの電話の内容について訊こうとして、リボーンの言葉で口を閉ざした。従兄として、友人として、どこまで踏み込むことが許されているのだろう。
ツナが黙ることを選択したからか、獄寺と山本もレイに対して問いただすようなことはなかった。
「じゃ、帰るぞ」
重い沈黙を破るようにリボーンが言えば、山本も「そうだな」と便乗するように言い、レイに鞄を手渡す。
「あの、さっきは本当に」
「いいって、もう気にすんなよ」
その光景をぼんやり眺めているツナを、獄寺が気遣わし気に見ていることに気付いた。
「大丈夫」と答えたが、恐らくこれで本当に大丈夫だと思われることはないだろう。それでも獄寺は何も言わず、「では、帰りましょうか」と言って、傘を開いて渡してくれた。
分厚い雲は空を焼く夕日すら通さない。色もなく薄暗くなった道を、言葉少なに並び歩いて、それぞれの岐路についた。
「ディーノさん」
「よお、レイ。久しぶりだな、学校楽しいか?」
「はい」
「そうか、よかった」
「今日は山本が標的になりました」
「山本もか……。怪我は?」
「無傷です」
「そうか、流石だな。……悪い、行ってやりたいのは山々だが、今週はどうにも動けねぇ」
「分かってます。……だから、次に何かあればボクが動いてもいいですか?」
「……ああ、頼んだ」
「はい」
「レイ」
「……はい」
「ごめんな」