暗雲
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SHITT・P!を追って向かった先は近所の公園だった。
近寄ると、確かに声が聞こえる。公園の一角を覆う植木のせいで、姿は見えないし声も聞き取り辛いが、聞き覚えのある声だ。
「ハルの声だ」とレイが言えば、同意するように獄寺も頷いた。
そろそろ公園の入り口に差し掛かったところで、ようやくその声がはっきり聞こえた。
「しっかりしてください!京子ちゃん!!」
悲鳴のようなその声を聞いた瞬間、頭が真っ白になる。足がもつれそうになりながらもスピードを上げて公園の入り口を蹴っていった。
開けた視界、入り口から反対側に置かれたベンチに向かって膝をついている人の姿が見えた。揺れるポニーテールの持ち主がハルだと確信する。
そしてベンチに力なくもたれかかっているのは。
「京子ちゃん!!」
ベンチまで駆け寄って、スラックスが汚れることなど忘れ、ハルと同じように膝をつく。
顔色は悪くないし、呼吸もしている。しかしこんなところで意識を失うなど普通ではない。
「ツナさん!きょ、京子ちゃんが……!」
「どうして、一体何が」
「分からないんです。塾に行こうとこの道を通りかかったら」
ハルの声は動揺で酷く震えていた。次いで駆け寄ってきたレイが、京子の肩や口元、腕に触れる。
後ろで周囲を警戒する獄寺達に倣ってツナも辺りを見回すが、他に人影もない。
「怪我をしてるわけじゃないし、呼吸も……。多分大丈夫、寝てるだけだ」
安堵したような息を吐きながら、レイが言う。涙声で「よかった」と呟いたハルに引きずられるように、ツナも腰が抜けそうになる。
突如、もぞ、と京子の肩が動いて、目が開いた。焦点は合っておらず、ぼんやりとしている。
「京子ちゃん、大丈夫?」
恐る恐る声をかけて3秒、京子の瞳の焦点が合う。
「あ、れ……?」
京子はゆっくりと瞬きを繰り返し、寝ぼけまなこを擦りながら不思議そうにツナとハルの顔を見た。
「ツナ君?ハルちゃん?どうしたの?」
「京子ちゃん!よかったですー!!」
泣きながら抱き着いてきたハルを抱き締めながら、京子はきょとんとした。
「京子、痛いとか、だるいとかない?」
「レイちゃんも。ううん、特に何もないよ」
「何があった?」
「花と一緒に帰ってて、それで途中で分かれて……あれ?その後どうしたっけ?」
首を傾げつつも、京子はふわりとあくびをする。
「何でだろう、まだ眠いや……」
「無理しないで」
会話や様子に異常は見当たらないことには安心するが、あくまでもそれだけしか分からない。
ふと違和感を覚えてベンチの下に目を向けた。何か落ちている。
体を傾けてさらにのぞき込むと、そこに落ちていたのは30cm程度の棒状の何か。しかし木の棒にしてはあまりになめらかで、そして色も淡く、先は5股に分かれていて。人の手。
漏れそうになる悲鳴を飲み込む。恐怖で全身がこわばって、呼吸も浅くなる。
「ツナ?」
様子のおかしいツナに気付いてレイが声を掛ける。返事をしようとして、こわばった喉を開こうとしたところで、後ろから足音が聞こえた。
「京子ぉ!!」
「あ、お兄ちゃん」
振り返れば、血相を変えた了平が物凄い勢いで駆け寄ってきていた。泥を散らしながらベンチの前に滑り込み、京子の肩を掴む。
「何があった!?倒れたと聞いたぞ!痛いところや苦しいところはないか!?」
「大丈夫だよ、ちょっと寝ちゃってたみたい」
自分よりも取り乱している了平の声と様子に、はっと体の縛りが取れる。よろけそうになりながらも立ち上がって一歩下がれば、獄寺達が近寄ってきた。
了平と一緒にいたのだろうか、新たに紅葉も加わっている。
「今日は部活がなくて早く帰ったが、炎真達を見かけて声を掛けたらあれだ。結局、了平の妹は無事だったのか?」
「多分、大丈夫だと思います」
「そうか」
まったくシスコンめ。そう言いながら、紅葉は炎真に向かって言った。
「今日は笹川家に泊まる。相手も目的も分らん以上、あれ1人より僕もいた方が結局いいだろう」
「わかった。アーデルには伝えておくね」
先に帰るという笹川姉妹とそれについていく紅葉、塾があるというハルを公園の入り口で見送った。
ハルの向かう塾は笹川家に近いため、そのまま了平達が送っていった。
「結局何もいなかったネ」
彼らを最後まで見送ったSHITT・P!が不貞腐れたように言う。未だに第三者の気配はない。レイ曰く、見たところ京子の体には注射痕を含めた傷も、薬物等の使用もみられないという。
とにかく心身ともに無事だったことが幸いだが、不安はぬぐい切れない。
「急に眠くなるにしても前後の記憶がないのはおかしいですね。何か手掛かりがあればいいんですが……」
悔しそうに言う獄寺の言葉に、手掛かりという単語に、ベンチの下で見たものを思い出してまたツナの背筋が凍った。
誰に言うでもなく、ぎこちなくベンチに近寄れば、他の皆も戸惑いながらもついてきてくれている。
京子の倒れ込んでいたベンチまで辿り着いて、その前にしゃがみ込み、ツナは再度ベンチの下を覗き込んだ。
そこにはやはり、人の手が転がっている。
「や、やっぱりあった……」
覚悟していたとはいえ、やはり目の当たりにすると気分が悪い。吐き気に近い悪寒を逃がそうと、ゆっくり息を吐く。
「うわっ!なにこれ!?」
「手……!?」
ツナに倣うように覗き込んだ炎真と獄寺も、やはり驚きと恐怖の混じった声を上げる。
そんな不気味なものを、躊躇いなく細い指が摘まみ上げた。
「なーにこれ」
「ちょっ、しとぴっちゃん!?」
「バカ!変なもんに触んな!」
「右手だネ、コレ」
ベンチの下から日の当たるところに引きずり出された手が、SHITT・P!に摘ままれた人差し指を起点にぶらりと揺れる。
明らかに肉と骨の質感を持った揺れ方に、また胃の中のものがせりあがってくる。
恐らく断面と思われる箇所には、血のようなものがついているが、血や油はすでに固まり切っているのか、滴るのは泥と砂だけだ。
そして一層不気味なのが、切断面からまるでひびのような模様が入っていることだった。一番大きいそれは、腕の断面から小指の根元まで伸びている。
「気持ち悪いナ、なんかココとかえぐれてるし」
「しとぴっちゃん、もうそれ下ろしなよ、ね?」
ぶらぶらと手をゆするSHITT・P!を、炎真がへっぴり腰で止めようとしている。
SHITT・P!が言うように、親指の付け根の肉が妙にえぐれている。が、あまり直視できない。
獄寺が手の落ちていた辺りを足で掘り返す。黄土色の中に、少しずつ赤黒さが混ざってきた。
「手を切り落とした後、ベンチに蹴り入れてから血痕を泥で隠したんですかね。この血と手の状態から、そこまで時間は経っていないかと」
「京子ちゃんに何かした人の手、ってこと?」
「分かりません。笹川を眠らせた奴の手か、あるいは守ろうとした奴の手か、まったく関係ないか……。ただ、笹川が意識を無くしてから目を覚ますまでの間に切り落とされたと考えて間違いないと思います」
「京子ちゃんとハルがこれに気付かなくてよかった……」
「ええ」
獄寺と共に地面を眺めていると、今度は「うわぁ!?」と炎真の悲鳴が聞こえてきた。
驚いて振り返れば、SHITT・P!の持ち上げている謎の手に大きな亀裂が走っていく様が見えた。そしてガラスのように、ひびを起点にパリパリと小さな音を立てて、細かく割れて風に流れていく。
硬いものが割れるような挙動をしながらも、その手はやはり柔らかく揺れているのが、何よりもアンバランスで異様だ。
誰もが言葉もなく、呆然と見送るしかできなかった。
破片は、目視できないほどのサイズに砕けて風にさらわれて、文字通り跡形もなくなっていく。
どんどんとその体積を無くしていき、そして最後にSHITT・P!がつまんでいた人差し指さえもが、さらりと溶けるように消えた。
「なくなっちゃった。私、炎使ってない」
「分かってるよ。あれは発酵とは全然違う」
SHITT・P!の呟きと、炎真の返答が、静かな公園に響いた。
足元に目をやれば、泥と混ざっていた血の跡も消えている。
「ご、獄寺君。ああいうUMAっているの……?」
「いえ……、すいません……」
「そう、だよね」
獄寺と顔を見合わせた。獄寺の肌は元から色白だが、今はもはや青白い。恐らくツナも同じような色になっていることだろう。
何歳になっても、どんな経験を経たとしても、得体の知れないものに対する恐怖への耐性は別物のようだ。
「あれ、瀬切君……?」
不意に炎真が口を開く。その声は案ずる色が濃く、つられるようにツナ達も顔を上げてレイを見やる。
レイは、先ほどまで破片が流れていった風下をただただ見つめていた。
その横顔は、顔色こそ変わらず、大きく顔を歪めているわけでもなかった。
それなのに、酷い顔だ、と思った。まるで全てを諦め切ったかのような乾いた瞳で、虚空を見ている。
「レイ?」
思わず炎真よりも強い声で名前を呼ぶと、肩を小さく跳ねさせてこちらを向いた。
誰もが案ずるように自分を見ていることに気付いたのか、レイは口端だけを歪めて口を開く。
「ごめん、びっくりしただけだ」
「本当に、それだけ……?」
「ああ」
ツナの問いかけにまともに答えず、レイは踵を返した。
踏み込まれることを明らかに拒絶していた。これ以上問い詰めても、絶対に口を割らないだろう。
その後は誰も口を開くことなく、レイの背を追うように公園を出て、それぞれの家路についた。
近寄ると、確かに声が聞こえる。公園の一角を覆う植木のせいで、姿は見えないし声も聞き取り辛いが、聞き覚えのある声だ。
「ハルの声だ」とレイが言えば、同意するように獄寺も頷いた。
そろそろ公園の入り口に差し掛かったところで、ようやくその声がはっきり聞こえた。
「しっかりしてください!京子ちゃん!!」
悲鳴のようなその声を聞いた瞬間、頭が真っ白になる。足がもつれそうになりながらもスピードを上げて公園の入り口を蹴っていった。
開けた視界、入り口から反対側に置かれたベンチに向かって膝をついている人の姿が見えた。揺れるポニーテールの持ち主がハルだと確信する。
そしてベンチに力なくもたれかかっているのは。
「京子ちゃん!!」
ベンチまで駆け寄って、スラックスが汚れることなど忘れ、ハルと同じように膝をつく。
顔色は悪くないし、呼吸もしている。しかしこんなところで意識を失うなど普通ではない。
「ツナさん!きょ、京子ちゃんが……!」
「どうして、一体何が」
「分からないんです。塾に行こうとこの道を通りかかったら」
ハルの声は動揺で酷く震えていた。次いで駆け寄ってきたレイが、京子の肩や口元、腕に触れる。
後ろで周囲を警戒する獄寺達に倣ってツナも辺りを見回すが、他に人影もない。
「怪我をしてるわけじゃないし、呼吸も……。多分大丈夫、寝てるだけだ」
安堵したような息を吐きながら、レイが言う。涙声で「よかった」と呟いたハルに引きずられるように、ツナも腰が抜けそうになる。
突如、もぞ、と京子の肩が動いて、目が開いた。焦点は合っておらず、ぼんやりとしている。
「京子ちゃん、大丈夫?」
恐る恐る声をかけて3秒、京子の瞳の焦点が合う。
「あ、れ……?」
京子はゆっくりと瞬きを繰り返し、寝ぼけまなこを擦りながら不思議そうにツナとハルの顔を見た。
「ツナ君?ハルちゃん?どうしたの?」
「京子ちゃん!よかったですー!!」
泣きながら抱き着いてきたハルを抱き締めながら、京子はきょとんとした。
「京子、痛いとか、だるいとかない?」
「レイちゃんも。ううん、特に何もないよ」
「何があった?」
「花と一緒に帰ってて、それで途中で分かれて……あれ?その後どうしたっけ?」
首を傾げつつも、京子はふわりとあくびをする。
「何でだろう、まだ眠いや……」
「無理しないで」
会話や様子に異常は見当たらないことには安心するが、あくまでもそれだけしか分からない。
ふと違和感を覚えてベンチの下に目を向けた。何か落ちている。
体を傾けてさらにのぞき込むと、そこに落ちていたのは30cm程度の棒状の何か。しかし木の棒にしてはあまりになめらかで、そして色も淡く、先は5股に分かれていて。人の手。
漏れそうになる悲鳴を飲み込む。恐怖で全身がこわばって、呼吸も浅くなる。
「ツナ?」
様子のおかしいツナに気付いてレイが声を掛ける。返事をしようとして、こわばった喉を開こうとしたところで、後ろから足音が聞こえた。
「京子ぉ!!」
「あ、お兄ちゃん」
振り返れば、血相を変えた了平が物凄い勢いで駆け寄ってきていた。泥を散らしながらベンチの前に滑り込み、京子の肩を掴む。
「何があった!?倒れたと聞いたぞ!痛いところや苦しいところはないか!?」
「大丈夫だよ、ちょっと寝ちゃってたみたい」
自分よりも取り乱している了平の声と様子に、はっと体の縛りが取れる。よろけそうになりながらも立ち上がって一歩下がれば、獄寺達が近寄ってきた。
了平と一緒にいたのだろうか、新たに紅葉も加わっている。
「今日は部活がなくて早く帰ったが、炎真達を見かけて声を掛けたらあれだ。結局、了平の妹は無事だったのか?」
「多分、大丈夫だと思います」
「そうか」
まったくシスコンめ。そう言いながら、紅葉は炎真に向かって言った。
「今日は笹川家に泊まる。相手も目的も分らん以上、あれ1人より僕もいた方が結局いいだろう」
「わかった。アーデルには伝えておくね」
先に帰るという笹川姉妹とそれについていく紅葉、塾があるというハルを公園の入り口で見送った。
ハルの向かう塾は笹川家に近いため、そのまま了平達が送っていった。
「結局何もいなかったネ」
彼らを最後まで見送ったSHITT・P!が不貞腐れたように言う。未だに第三者の気配はない。レイ曰く、見たところ京子の体には注射痕を含めた傷も、薬物等の使用もみられないという。
とにかく心身ともに無事だったことが幸いだが、不安はぬぐい切れない。
「急に眠くなるにしても前後の記憶がないのはおかしいですね。何か手掛かりがあればいいんですが……」
悔しそうに言う獄寺の言葉に、手掛かりという単語に、ベンチの下で見たものを思い出してまたツナの背筋が凍った。
誰に言うでもなく、ぎこちなくベンチに近寄れば、他の皆も戸惑いながらもついてきてくれている。
京子の倒れ込んでいたベンチまで辿り着いて、その前にしゃがみ込み、ツナは再度ベンチの下を覗き込んだ。
そこにはやはり、人の手が転がっている。
「や、やっぱりあった……」
覚悟していたとはいえ、やはり目の当たりにすると気分が悪い。吐き気に近い悪寒を逃がそうと、ゆっくり息を吐く。
「うわっ!なにこれ!?」
「手……!?」
ツナに倣うように覗き込んだ炎真と獄寺も、やはり驚きと恐怖の混じった声を上げる。
そんな不気味なものを、躊躇いなく細い指が摘まみ上げた。
「なーにこれ」
「ちょっ、しとぴっちゃん!?」
「バカ!変なもんに触んな!」
「右手だネ、コレ」
ベンチの下から日の当たるところに引きずり出された手が、SHITT・P!に摘ままれた人差し指を起点にぶらりと揺れる。
明らかに肉と骨の質感を持った揺れ方に、また胃の中のものがせりあがってくる。
恐らく断面と思われる箇所には、血のようなものがついているが、血や油はすでに固まり切っているのか、滴るのは泥と砂だけだ。
そして一層不気味なのが、切断面からまるでひびのような模様が入っていることだった。一番大きいそれは、腕の断面から小指の根元まで伸びている。
「気持ち悪いナ、なんかココとかえぐれてるし」
「しとぴっちゃん、もうそれ下ろしなよ、ね?」
ぶらぶらと手をゆするSHITT・P!を、炎真がへっぴり腰で止めようとしている。
SHITT・P!が言うように、親指の付け根の肉が妙にえぐれている。が、あまり直視できない。
獄寺が手の落ちていた辺りを足で掘り返す。黄土色の中に、少しずつ赤黒さが混ざってきた。
「手を切り落とした後、ベンチに蹴り入れてから血痕を泥で隠したんですかね。この血と手の状態から、そこまで時間は経っていないかと」
「京子ちゃんに何かした人の手、ってこと?」
「分かりません。笹川を眠らせた奴の手か、あるいは守ろうとした奴の手か、まったく関係ないか……。ただ、笹川が意識を無くしてから目を覚ますまでの間に切り落とされたと考えて間違いないと思います」
「京子ちゃんとハルがこれに気付かなくてよかった……」
「ええ」
獄寺と共に地面を眺めていると、今度は「うわぁ!?」と炎真の悲鳴が聞こえてきた。
驚いて振り返れば、SHITT・P!の持ち上げている謎の手に大きな亀裂が走っていく様が見えた。そしてガラスのように、ひびを起点にパリパリと小さな音を立てて、細かく割れて風に流れていく。
硬いものが割れるような挙動をしながらも、その手はやはり柔らかく揺れているのが、何よりもアンバランスで異様だ。
誰もが言葉もなく、呆然と見送るしかできなかった。
破片は、目視できないほどのサイズに砕けて風にさらわれて、文字通り跡形もなくなっていく。
どんどんとその体積を無くしていき、そして最後にSHITT・P!がつまんでいた人差し指さえもが、さらりと溶けるように消えた。
「なくなっちゃった。私、炎使ってない」
「分かってるよ。あれは発酵とは全然違う」
SHITT・P!の呟きと、炎真の返答が、静かな公園に響いた。
足元に目をやれば、泥と混ざっていた血の跡も消えている。
「ご、獄寺君。ああいうUMAっているの……?」
「いえ……、すいません……」
「そう、だよね」
獄寺と顔を見合わせた。獄寺の肌は元から色白だが、今はもはや青白い。恐らくツナも同じような色になっていることだろう。
何歳になっても、どんな経験を経たとしても、得体の知れないものに対する恐怖への耐性は別物のようだ。
「あれ、瀬切君……?」
不意に炎真が口を開く。その声は案ずる色が濃く、つられるようにツナ達も顔を上げてレイを見やる。
レイは、先ほどまで破片が流れていった風下をただただ見つめていた。
その横顔は、顔色こそ変わらず、大きく顔を歪めているわけでもなかった。
それなのに、酷い顔だ、と思った。まるで全てを諦め切ったかのような乾いた瞳で、虚空を見ている。
「レイ?」
思わず炎真よりも強い声で名前を呼ぶと、肩を小さく跳ねさせてこちらを向いた。
誰もが案ずるように自分を見ていることに気付いたのか、レイは口端だけを歪めて口を開く。
「ごめん、びっくりしただけだ」
「本当に、それだけ……?」
「ああ」
ツナの問いかけにまともに答えず、レイは踵を返した。
踏み込まれることを明らかに拒絶していた。これ以上問い詰めても、絶対に口を割らないだろう。
その後は誰も口を開くことなく、レイの背を追うように公園を出て、それぞれの家路についた。