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苗字 デフォルトは「瀬切(セギリ)」
名前 デフォルトは「レイ」

おまけ
入学早々に風紀委員長の恐ろしさを知った話。




「ここだぞ」

リボーンに先導されて連れてこられたのは、少し辺鄙なところにある部屋だった。
扉にかけられた室名は、読み方も意味も分からない。廊下に面した窓もすりガラスだからか、中の様子を窺い知ることもできなさそうだ。

「『ショクインシツ』ってところ?」
「違うぞ、応接室だ」
「転入のあいさつは『ショクインシツ』じゃないの?」
「学校によって変わるからな。並盛中はここだ」
「……本当に?」

疑いながらもネクタイを締め直してノックする。奥から「入れ」と太い声で返事が返ってきた。
「失礼します」と言って引き戸を開ける。
最初に目に飛び込んだのは、長身で強面のリーゼント男だった。教員だろうか。しかし、学ランを着ている。自分の知識が誤っていなければ、あれは学生が着る服ではないだろうか。

「お前が今日転入予定の瀬切レイか?」
「はい。あなたは先生ですか?」
「風紀委員副委員長の草壁だ」
「『フーキイーン』……」

聞きなれない単語に困惑する。変換できる漢字が何も思い浮かばないが、何らかの役職だろうか。

「あの、『フーキイーン』とは何ですか?」
「……そうか、帰国子女だったな。風紀、つまり学校の治安と規則を維持する委員会、小集団だ。教員ではなく生徒によって構成されている」

つまりどう見ても年上にしか見えない草壁は中学生、ということだろう。
しかし、日本の中学は3年生までで、なおかつ留年のシステムはなかったように記憶している。何らかの特例措置でもあるのだろうか。
草壁が上から下へとレイの姿を眺める。「服装の風紀は乱れていないな」と納得したように言い、振り返って「委員長」と呼びかけた。

草壁の後ろの空気が動く。現れたのは、草壁より幾分か小柄な、学ランを肩にかけた黒髪の青年だった。
彼は見覚えがある。ロマーリオが見せてくれた日本で過ごすディーノの写真、その隅に写っていた。確か名前は、雲雀恭弥。
ツナの雲の守護者で、詳細な年齢は不明だが、おそらくレイとそう離れてはいないはずだ。
しかし、写真で見るよりもその目はずっと鋭い。強者の、捕食者の目だ。現職のマフィアでもこれほどの目をした者はそうそういない。少しだけ身がすくむ。

「ねえ、君が赤ん坊の言ってた転入生?」
「赤ん坊……?」
「オレのことだぞ」

レイの足元に立つリボーンが声を上げると、鋭いだけだった雲雀の目に、わずかだが喜色が浮かんだ。

「どう?できる?」
「オレが教えてるわけじゃあではないが、まあ最低限のもんは身に着けてるな」
「そう」

何が『できる』のか、何が『最低限』なのか。草壁の方を見れば、彼は冷静さを装いつつも、同情を多分に含んだ目を向けている。これは嫌な予感がする。
足音がして雲雀の方に目を向ければ、彼は表情の読めない声で「ついてきなよ」と言った。リボーンは促すように、レイの肩に飛び乗ってきた。



雲雀についていった先は屋上だった。
周囲を見渡す。全体的にそこそこの広さがある。転落防止のフェンスは1,2年前にかえられたのだろうか、少し新しく見えた。リボーンが肩から飛び降りる。

「あの、どうして屋上に」

来たんですか。そう質問をする前に、眼前に迫ったトンファーを避ける方が重要だった。
咄嗟に身を屈めて、そのまま腕を振りぬかんとする雲雀の脇の下を抜け、その背後に回る。
獲物が視界から消えたというのに、雲雀から一切の焦りを感じない。今のはわざと抜け道を示して、そこにレイが気付けるか試されたのだと理解した。

「あの小動物とはまた身のこなしが違うね」
「小動物って」

何ですか。という質問も途中で打ち切らざるを得なかった。バックステップも絡めて距離をとれば、鼻先をトンファーがかすめる。
「やめてください」と言ってやめてくれるような人間ではないだろうことは、もうわかっていた。今になって「あいつ、本当に戦闘狂でさぁ」と言いながら包帯を変えていたディーノの言葉を思い出しても意味がない。
しかし、ディーノと渡り合える程強い相手に、果たして丸腰のレイがどこまで対応できるだろうか。

レイ

リボーンの声が耳に入ると同時に、右腕に何かが引っ付いた感触がした。ちらりと目を落とせばレオンの尻尾が見える。
申し訳ないと思いつつ、レオンの体を左手でつかめば、その体はぐにゃりと溶ける。もう一度強く握れば、その手に合うように形を変え、短剣に姿を変えた。普段使うものには劣るが、それでも十分手に馴染んでくれた。
軽く握り直し、トンファーの隙間を縫って刃を振り上げる。襟にかするくらいは期待していたのだが、雲雀は容易く最低限の動きで刃先を避けた。

「へえ、それが君の武器?」

レイが武器を取ったのを確認して、雲雀は薄い笑みを浮かべて再度腕を振りぬいてきた。
一撃目は避けられたが、二撃目は間に合わず、短剣で真正面から受け止める羽目になった。

「おっも……!」

思わず声が漏れる。あの短い予備動作から生まれたとは思えないほどの重さが体全体に伝わる。こんなものを何度も無策に受け止めていたら、数十秒と持たないだろう。

「へえ、受け止められるんだ」

そう言いながら、雲雀はさらに腕を押し込んでくる。鋼鉄同士が押し合い、ヒステリックな音が細く小刻みに響く。
ず、と靴裏が滑る感触がするが、あまりの膂力に短剣を押すことも引くこともできない。下手に重心を動かせば、バランスを崩してしまうことは容易に想像がついた。喉の奥が熱い。
せめてもう片方のトンファーも振ってくれたなら、雲雀の重心が変わるなら、抜け道が見えるかもしれない。
しかし、当の雲雀はそれを理解しているのか、あるいはこちらがどう抜け出すか確認したいのか、冷たい目でレイを見下ろすだけだった。

「もう策がなくなったの?面白くないな」

ふっと腕が軽くなり、重心が大きく前にぶれる。下がらなければ、と思っても、転倒しないようにするのが精いっぱいだった。咄嗟に腕で頭と胸をかばう。
どっ、という鈍い音がして、背中が塔屋の壁に叩き付けられた。体内の空気が咳と共に飛び出す。
コンクリートにぶつかった背中だけでなく、鳩尾も痛い。
倒れ込むのだけは堪えて顔を上げれば、雲雀はゆっくりと右足を地面につける。それを見て、ガードしていなかった腹に膝を入れられたのだと理解した。
明らかにレイは雲雀より格下だ。
それでありながら、一切の油断をせず、しかし必要以上の警戒はせず。そして加減もしない。
間違いなく、この男は強者だ。相手を叩き潰すことに、躊躇いを感じることはないだろう。

「倒れて吐かないのはまだマシだけど、それでも大したことなかったね」

少し残念そうに溜息を一つ溢してから、雲雀は地面を蹴る。
攻撃が飛んでくるのは理解しているのに、体を動かしたいのに、全身に強い衝撃を受けたせいか思ったように体が動かない。
せめて一矢報いることができれば。そんな淡い望みを掛けて、喉の奥を燃やすように酸素を吸い込む。
鋼鉄の棒が迫り、ナイフを握り直し、そして。

「そこまでだ」

バチンとナイフが手から弾き飛ばされ、同時にトンファーがレイのこめかみ5cmのところで止まった。
トンファーには何かが複雑に巻き付いており、それが動きを止めている。雲雀の肩越しに、見慣れたモッズコートが目に入る。

「ちょっと、部外者は邪魔しないでよ」
「残念だけど、オレはこいつの保護者枠なんだ。無関係者じゃねーよ」

「ディーノさん」と、自分で思っていたものより遥かに細い声が出る。
雲雀の矛先がディーノに向いたのを理解したら、足の力が抜けてしまった。ずりずりと壁に背中が擦れる。地面に尻が着く前に、脇に腕を差し込まれて支えられた。

「入学早々に制服を汚すなよ」
「ロマーリオさんも……」
「リボーンさんが引率したって聞いたから慌てて来たんだが、やっぱりこうなってたか」

優しい手つきでレイの服に付いた汚れを払いながら、ロマーリオは苦笑した。まだ足の力が入らないので、レイはされるがままになっている。
目の前では標的を完全に切り替えた雲雀が、ディーノへとトンファーを振るっている。レイを相手していた時よりもずっと楽しそうだ。悔しい。
少しだけ奥歯を噛み締めるレイの髪を、ロマーリオの手が髪を撫で付け、最後にネクタイを直してくれた。

「挨拶の場で服が汚れて髪もボサボサ、なんてのはみっともないからな。そら、これでいいだろ。もう立てるか?」
「ありがとうございます。立てます」

ロマーリオの手を離れても、しっかりと体を足が支えてくれる。体の痛みも、手の痺れも、かなりマシになった。

溜息を吐いたところで、急に屋外の人の気配が増えた。弧状の屋根の大きな建物から、ぞろぞろと人が出てきている。あそこで何かイベントをしていたのだろうか。

「始業式が終わったな。年度初めに校長とかがあいさつする式典だ」

いつの間にやらリボーンが隣に立って、先回りして疑問に答えてくれた。
うごめく集団の中にツナを見つけた。当たり前のことだが、同年代の人がたくさんいる。
もうすぐ、自分もあの中に飛び込んでいかなければならない。上手くやっていけるだろうか。
背後からの暴れる音を聞きながら、人の波を眺める。

「学校、色々あるだろうが楽しむんだぞ」

ロマーリオの大きな手が、一度だけレイの頭を撫でた。
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