日並
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ふと気配を手元に影がかかった。
顔を上げると、本を上からのぞき込んでいた山本と目が合い、肩が跳ねる。驚かせるな、と睨めば、悪い悪い、と山本が笑う。
「気配消してくる必要ないだろ」
「いやぁ、すげぇ集中してたから、声かけるかどうするか迷ってさ。今は何読んでんだ?」
「時間泥棒と女の子の話」
「時間泥棒?」
本を持ち上げてタイトルを見せるが、表情を見るにあまりピンと来ていないようだ。
山本は運動着のままで、ジャージの上着を腰に巻いている。マンガで読んだ、部活帰りの学生そのものの様相だ。
「部活、お疲れ」
「ああ。瀬切もお疲れ。学校でクロームと勉強してたのか?」
「なんで知ってるんだ?」
「走り込みしてる時、お前らが昇降口から出るの見えたんだよ。オレは学校で薫と弁当食ってきたけど、瀬切は?」
「おばさんが弁当作ってくれてて、ここで食べてた」
「そっか。ツナは補習だっけ?」
「3時まで」
「なるほどな」
エナメルバッグから鍵を取り出して、山本が錠を開ける。彼の後ろに付いて、靴も靴下も脱いで中に上がった。板張りの床はひんやりしていて気持ちいい。
「オレも今回かなりヤバかったからなぁ」
「でも、補習にはならなかったね」
「補修になると部活の時間削られるからさ、これでも頑張ったんだぜ」
話しながらも山本はジャージの上着を、レイはネクタイと腰の隠し布を取って、荷物と共に壁際へ。
山本が壁に立てかけられた木刀を手に取れば、レイは短剣を鞘ごと抜けるよう、ホルダーの緩みを調整する。
「んじゃ、やるか」
「ああ、よろしく」
目測およそ3メートルの距離、木刀を構えた山本の目から温度が抜けていく。初めてこの目を見た時に、なるほど、あのリボーンやスクアーロが気に入るはずだと納得をした。
決して冷淡なわけではない。しかし、笑顔から不意に瞳の温度を消せる者ほど、命の奪い合いにおいて恐ろしい相手はいないのだ。
互いに数秒見合ってから、目を閉じ大きく深呼吸。目を開けて再度視線が合った瞬間、ほぼ同時に床を蹴った。
相手は居合いの構え、レイは右腿からダガーを引きぬく。木刀とダガーの鞘がぶつかり、乾いた音が響いた。
山本の父が所有する道場で、レイと山本は時折手合わせをしている。誘ったのはレイの方からだった。
感覚を鈍らせないために、日本にいたとしても手合わせができる環境がほしい。そう思って、リボーンに相談をした。
最初はリボーンに相手してもらうつもりだったが、彼は「それなら山本が適任だぞ」と言ったのだ。
「オレが相手をしてやってもいいが、お前が一番不安に思ってることを考えれば、山本が一番適任だぞ。実力は折り紙付きだし、アイツん家は道場も持ってるからな。教えるのはド下手くそだが、お前に今さら細かい教鞭を取る奴は不要だろ」
かくして交渉に赴けば「いいぜ。あ、道場だけは親父に訊かねえと」、その翌日には「親父、大丈夫だって」と、父子揃って快諾してくれた。
使用にあたって、山本の父親から提示された条件は、抜き身の刃物を使わないこと、互いに無闇な怪我を負わせないこと、そして使った後は必ず掃除と片づけを行うことだけだった。
一秒にも満たない、様子見のような鍔迫り合い。しかし、レイの方が圧倒的に劣勢である。
ダガーも短剣も、投げない限りリーチは無いに等しい。その上、自分より体格も得物の大きさも勝る相手に、素直に正面から力の押し合いを持ちかけるのも愚策だ。
そもそもレイは闇討ちか、あるいは相手が攻撃ができないほど極端に懐に潜って仕留めるというのが基本のスタイルだ。如何に早く山本の土俵から逃げ、こちらの土俵に引きずり込むかが明暗を分ける。
木刀を受け止めていた右手首の力を軽く抜いて、相手の刀身がぶれたところで体を押し込む。互いの胴体が触れるほどの距離。これで長い武器を振るうのは至難の業になる。
即座に左手で短剣を抜き、その鞘で山本の首元を撫でようと手を伸ばしたが、あとわずかのところを肘で押し退けられる。
阻まれることまでは予想できたが、思ったよりも強い力に重心が崩れて体が仰け反ってしまった。
ヒュ、と下方から空気を裂く音が耳に飛び込んだ。咄嗟に脱力して重力に従えば、カッターシャツの袖と前髪を剣先が掠めていく。
次の攻撃が飛んでくる前に、木刀の側面を足裏で蹴り押し、ついでに腕の力も使って、即座に距離を取った。
振り出しの距離に戻った山本が、楽しそうに声を上げる。釣られてレイの口角も上がった。
「相変わらず、行儀悪ぃな!」
「お行儀のいい戦い方、教えてもらったことはないんだ!」
顔を上げると、本を上からのぞき込んでいた山本と目が合い、肩が跳ねる。驚かせるな、と睨めば、悪い悪い、と山本が笑う。
「気配消してくる必要ないだろ」
「いやぁ、すげぇ集中してたから、声かけるかどうするか迷ってさ。今は何読んでんだ?」
「時間泥棒と女の子の話」
「時間泥棒?」
本を持ち上げてタイトルを見せるが、表情を見るにあまりピンと来ていないようだ。
山本は運動着のままで、ジャージの上着を腰に巻いている。マンガで読んだ、部活帰りの学生そのものの様相だ。
「部活、お疲れ」
「ああ。瀬切もお疲れ。学校でクロームと勉強してたのか?」
「なんで知ってるんだ?」
「走り込みしてる時、お前らが昇降口から出るの見えたんだよ。オレは学校で薫と弁当食ってきたけど、瀬切は?」
「おばさんが弁当作ってくれてて、ここで食べてた」
「そっか。ツナは補習だっけ?」
「3時まで」
「なるほどな」
エナメルバッグから鍵を取り出して、山本が錠を開ける。彼の後ろに付いて、靴も靴下も脱いで中に上がった。板張りの床はひんやりしていて気持ちいい。
「オレも今回かなりヤバかったからなぁ」
「でも、補習にはならなかったね」
「補修になると部活の時間削られるからさ、これでも頑張ったんだぜ」
話しながらも山本はジャージの上着を、レイはネクタイと腰の隠し布を取って、荷物と共に壁際へ。
山本が壁に立てかけられた木刀を手に取れば、レイは短剣を鞘ごと抜けるよう、ホルダーの緩みを調整する。
「んじゃ、やるか」
「ああ、よろしく」
目測およそ3メートルの距離、木刀を構えた山本の目から温度が抜けていく。初めてこの目を見た時に、なるほど、あのリボーンやスクアーロが気に入るはずだと納得をした。
決して冷淡なわけではない。しかし、笑顔から不意に瞳の温度を消せる者ほど、命の奪い合いにおいて恐ろしい相手はいないのだ。
互いに数秒見合ってから、目を閉じ大きく深呼吸。目を開けて再度視線が合った瞬間、ほぼ同時に床を蹴った。
相手は居合いの構え、レイは右腿からダガーを引きぬく。木刀とダガーの鞘がぶつかり、乾いた音が響いた。
山本の父が所有する道場で、レイと山本は時折手合わせをしている。誘ったのはレイの方からだった。
感覚を鈍らせないために、日本にいたとしても手合わせができる環境がほしい。そう思って、リボーンに相談をした。
最初はリボーンに相手してもらうつもりだったが、彼は「それなら山本が適任だぞ」と言ったのだ。
「オレが相手をしてやってもいいが、お前が一番不安に思ってることを考えれば、山本が一番適任だぞ。実力は折り紙付きだし、アイツん家は道場も持ってるからな。教えるのはド下手くそだが、お前に今さら細かい教鞭を取る奴は不要だろ」
かくして交渉に赴けば「いいぜ。あ、道場だけは親父に訊かねえと」、その翌日には「親父、大丈夫だって」と、父子揃って快諾してくれた。
使用にあたって、山本の父親から提示された条件は、抜き身の刃物を使わないこと、互いに無闇な怪我を負わせないこと、そして使った後は必ず掃除と片づけを行うことだけだった。
一秒にも満たない、様子見のような鍔迫り合い。しかし、レイの方が圧倒的に劣勢である。
ダガーも短剣も、投げない限りリーチは無いに等しい。その上、自分より体格も得物の大きさも勝る相手に、素直に正面から力の押し合いを持ちかけるのも愚策だ。
そもそもレイは闇討ちか、あるいは相手が攻撃ができないほど極端に懐に潜って仕留めるというのが基本のスタイルだ。如何に早く山本の土俵から逃げ、こちらの土俵に引きずり込むかが明暗を分ける。
木刀を受け止めていた右手首の力を軽く抜いて、相手の刀身がぶれたところで体を押し込む。互いの胴体が触れるほどの距離。これで長い武器を振るうのは至難の業になる。
即座に左手で短剣を抜き、その鞘で山本の首元を撫でようと手を伸ばしたが、あとわずかのところを肘で押し退けられる。
阻まれることまでは予想できたが、思ったよりも強い力に重心が崩れて体が仰け反ってしまった。
ヒュ、と下方から空気を裂く音が耳に飛び込んだ。咄嗟に脱力して重力に従えば、カッターシャツの袖と前髪を剣先が掠めていく。
次の攻撃が飛んでくる前に、木刀の側面を足裏で蹴り押し、ついでに腕の力も使って、即座に距離を取った。
振り出しの距離に戻った山本が、楽しそうに声を上げる。釣られてレイの口角も上がった。
「相変わらず、行儀悪ぃな!」
「お行儀のいい戦い方、教えてもらったことはないんだ!」