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クロームと別れ、小山を登る。石段を上がり切れば、視界が開けて和風の建物が目に入った。まだ誰もいない。
縁側に腰かけて、スクールバックから弁当箱を取り出す。ツナのついでに奈々が作ってくれたものだ。中には玉子焼きが少し多めに入っている。レイが少し甘い卵焼きを好きだったことを、今でも忘れないでいてくれた。風に揺れる草木の音を聞きながら、ゆっくりと弁当を食べる。
レイはずっと大人に囲まれて生きてきた。ファミリーの人達は皆優しく、それなりに大切にされ、愛されていた自覚はある。
しかし、勘違いしてはいけないのは、あくまでも『庇護の対象として』という注釈がつくことだ。間違っても対等な立場ではない。
レイはキャバッローネファミリーの人間ではない。あくまでも、『保護されている孤児』でしかなかった。
それは拒絶ではなく、『いつか生きていきたい道筋が見えた時、所属が不明瞭な方が身動きが取れやすいだろう』という大人達の優しさであることを、レイはしっかりと理解している。
それに、叔父である家光への配慮もあっただろう。
直接的な血縁関係がないとはいえ、親族に同盟ファミリーのNo.2がいるのだ。無下にできるわけもない。
家光がマフィアに関わっていたことを、レイは兄が消えてから初めて知った。
家光自身は何度もレイに「日本に帰ろう」「ツナだってお前に会えたら喜ぶ」「怖いもんからはおじさんが守ってやるから」と言ってくれた。その行動は非常に合理的で、かつ愛情に溢れていた。
拒否するレイを無理矢理連れていく力も方法も、家光は持っていたはずだ。しかし、最終的にはイタリアに残ることを許された。
家光はCEDEFと家光個人への連絡先を渡し、「何かあったら必ず連絡するんだぞ。何もなくても連絡していいからな」と言って、レイを抱き締めた。
こうして大人に囲まれて生きる中で、年齢が近くそこそこ関係も深いとも言えるのは、ヴァリアーのベルフェゴールくらいだ。
ベルとは元々面識だけはあったのだが、特に会話を交わしたわけでもない。本当に赤の他人に近い関係性であり、ただ、あの世界で生き残るため、誰かの足手まといにならないため、そして『もしも』のため、どうしても力が、技術が必要だった。それを考えていたところで偶然会ったのが彼であり、その場の勢いで「強くなる方法を教えてほしい請うた」と請うたただけだ。
考えなしにも程がある行動は、その場で切り刻まれてもおかしくはなかっただろう。しかし。
「暇潰しになるならいいぜ」
意外にも彼は、そう言ってあっさりと受け入れてしまった。
ヴァリアー幹部も、暇を持て余しては衝動的に殺しを行うベルには手を焼いており、『暇潰しを与えれば少しはマシになるだろう』という思惑のもと、定期的に顔を合わせることになった。
とはいえヴァリアーから見たレイの立場は『同盟ファミリーの保護する子供』であり、間違っても『手合わせで力加減を間違えて死なせてしまいました』と報告するわけにはいかない。そのため、マーモンがお目付け役として置かれた。
これがレイが10歳、ベルが12歳の時の話である。
当然ながら、ベルとの関係性は、友人なんていう生暖かいものではない。
雑談をすることもあったが、基本的に手合わせの時間が大半を占める。
戦い方と殺し方について教わると言っても、手取り足取り、優しく口頭で、なんてものは欠片もない。
問答無用で飛んでくる拳、足、ナイフを必死に避け、生き延び方を叩き込まれた。一通り逃げ切れるようになったら、今度はステゴロ。拳や脚を打ち込む場所や、力の乗りやすい体の動かし方を教え込まれた。そして様々な武器に触れ、最終的に手に馴染んだ短剣を握り、手合わせや実戦で技術を磨いた。
現地訓練として、比較的低難度の作戦に同行させられたこともある。
当然だが、殺しだってした。
何人の命を奪ったか、数えようとは思わなかった。ただ、『あっさり終わらせる方法』と『なるべく後悔させる方法』をベルに教わってからは、基本的に前者を選択するようにしてきた。
キャバッローネの大人達のいらぬ心労を増やさないため、自分の体をなるべく汚さないような技術も覚えた。
これまでの生き方に後悔はない。パラレルワールドがあったとしても、きっと大多数の自分は似たような生き方を選ぶだろう。そもそもこんな生き方の子どもなんて、特段珍しいわけでも何でもないのだ。
空になった弁当箱を鞄にしまい、代わりに本を取り出す。
イタリアの本屋でも見かける、世界的にも有名な、ドイツ人作家の児童書。
待ち人が来るまで、レイはその本をゆっくりと読み進めた。
縁側に腰かけて、スクールバックから弁当箱を取り出す。ツナのついでに奈々が作ってくれたものだ。中には玉子焼きが少し多めに入っている。レイが少し甘い卵焼きを好きだったことを、今でも忘れないでいてくれた。風に揺れる草木の音を聞きながら、ゆっくりと弁当を食べる。
レイはずっと大人に囲まれて生きてきた。ファミリーの人達は皆優しく、それなりに大切にされ、愛されていた自覚はある。
しかし、勘違いしてはいけないのは、あくまでも『庇護の対象として』という注釈がつくことだ。間違っても対等な立場ではない。
レイはキャバッローネファミリーの人間ではない。あくまでも、『保護されている孤児』でしかなかった。
それは拒絶ではなく、『いつか生きていきたい道筋が見えた時、所属が不明瞭な方が身動きが取れやすいだろう』という大人達の優しさであることを、レイはしっかりと理解している。
それに、叔父である家光への配慮もあっただろう。
直接的な血縁関係がないとはいえ、親族に同盟ファミリーのNo.2がいるのだ。無下にできるわけもない。
家光がマフィアに関わっていたことを、レイは兄が消えてから初めて知った。
家光自身は何度もレイに「日本に帰ろう」「ツナだってお前に会えたら喜ぶ」「怖いもんからはおじさんが守ってやるから」と言ってくれた。その行動は非常に合理的で、かつ愛情に溢れていた。
拒否するレイを無理矢理連れていく力も方法も、家光は持っていたはずだ。しかし、最終的にはイタリアに残ることを許された。
家光はCEDEFと家光個人への連絡先を渡し、「何かあったら必ず連絡するんだぞ。何もなくても連絡していいからな」と言って、レイを抱き締めた。
こうして大人に囲まれて生きる中で、年齢が近くそこそこ関係も深いとも言えるのは、ヴァリアーのベルフェゴールくらいだ。
ベルとは元々面識だけはあったのだが、特に会話を交わしたわけでもない。本当に赤の他人に近い関係性であり、ただ、あの世界で生き残るため、誰かの足手まといにならないため、そして『もしも』のため、どうしても力が、技術が必要だった。それを考えていたところで偶然会ったのが彼であり、その場の勢いで「強くなる方法を教えてほしい請うた」と請うたただけだ。
考えなしにも程がある行動は、その場で切り刻まれてもおかしくはなかっただろう。しかし。
「暇潰しになるならいいぜ」
意外にも彼は、そう言ってあっさりと受け入れてしまった。
ヴァリアー幹部も、暇を持て余しては衝動的に殺しを行うベルには手を焼いており、『暇潰しを与えれば少しはマシになるだろう』という思惑のもと、定期的に顔を合わせることになった。
とはいえヴァリアーから見たレイの立場は『同盟ファミリーの保護する子供』であり、間違っても『手合わせで力加減を間違えて死なせてしまいました』と報告するわけにはいかない。そのため、マーモンがお目付け役として置かれた。
これがレイが10歳、ベルが12歳の時の話である。
当然ながら、ベルとの関係性は、友人なんていう生暖かいものではない。
雑談をすることもあったが、基本的に手合わせの時間が大半を占める。
戦い方と殺し方について教わると言っても、手取り足取り、優しく口頭で、なんてものは欠片もない。
問答無用で飛んでくる拳、足、ナイフを必死に避け、生き延び方を叩き込まれた。一通り逃げ切れるようになったら、今度はステゴロ。拳や脚を打ち込む場所や、力の乗りやすい体の動かし方を教え込まれた。そして様々な武器に触れ、最終的に手に馴染んだ短剣を握り、手合わせや実戦で技術を磨いた。
現地訓練として、比較的低難度の作戦に同行させられたこともある。
当然だが、殺しだってした。
何人の命を奪ったか、数えようとは思わなかった。ただ、『あっさり終わらせる方法』と『なるべく後悔させる方法』をベルに教わってからは、基本的に前者を選択するようにしてきた。
キャバッローネの大人達のいらぬ心労を増やさないため、自分の体をなるべく汚さないような技術も覚えた。
これまでの生き方に後悔はない。パラレルワールドがあったとしても、きっと大多数の自分は似たような生き方を選ぶだろう。そもそもこんな生き方の子どもなんて、特段珍しいわけでも何でもないのだ。
空になった弁当箱を鞄にしまい、代わりに本を取り出す。
イタリアの本屋でも見かける、世界的にも有名な、ドイツ人作家の児童書。
待ち人が来るまで、レイはその本をゆっくりと読み進めた。