日並
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「じゃあこれは?」
「ここまでは普通に読んで、ここで折り返す。この漢字は、えっと……」
「それは『むしろ』って読むの。後は『丁寧』の『ネイ』の字だから、書けた方がいいかも」
「書くのか、これ……」
土曜日の昼下がり、運動部の掛け声や楽器の音を遠くに聞きながら、レイとクロームは学校の図書室で肩を並べていた。休日ではあるが、部活や補習の関係で図書室も解放されている。
教室では中間テストの補習が行われており、ツナが参加している。恐らく隣の空き教室では獄寺が待機しているだろう。
レイはというと、自習のためにツナと一緒に登校して、途中で獄寺も合流して、そして昇降口で別れて図書室に向かった。家ではランボがじゃれついて勉強どころではないのだ。
「学がないってのはな、どの世界で生きるにせよ選択肢がなくなるんだ。だからちゃんと勉強はしとけよ」と言ってくれたのはロマーリオだった。
学ぶことは嫌いではないし、知識が増えることも楽しい。ジャンルを問わず、本を読むのだって好きだ。
兄やディーノのお古の教科書、書庫の本は基本的に自由に使えたし、暇を持て余して教鞭を取ってくれる大人もいた。
だから、年齢相応の学力や知識はあるはずだった。もし学校のテストの出題がイタリア語で、その解答もイタリア語でよければもっと良い点数が取れただろう。
しかし、ここは日本であり、出題も解答もすべてが日本語。
日本語については日常会話や簡単な漢字までの勉強したしていなかったこともあり、中学三年生のテストでは見事に振り落とされた。
読めない漢字や意味の分からない表現があれば、そこでまず手が止まる。言葉の音として知っていても、漢字で表記されると読めない。日本の地理や歴史への理解も浅いし、理科でも現象を知っていても、該当する日本語が分からない。古文や漢文などはもってのほか。
結果的に、中間テストではほぼすべての教科が赤点スレスレとなってしまった。
赤点を取ったツナを足蹴にしながら、リボーンはレイのこともしっかりと睨む。
「問題文すらろくに読めないのは『日本語ができる』とは言えねぇぞ」
叩きつけられた正論にぐうの音も出せない。
それからはとにかく自分のために空いた時間には本を読んだ。漢字の勉強もした。
今やっと、小学5年生の漢字の正答率が8割を超えたところだ。少しずつ、文章を読むスピードも向上している。
それでも辞書は手放せない。比喩表現は、まだまだ弱い。
そんなレイの自習によく付き合ってくれるのがクロームだった。
クロームの教え方は丁寧で、得意教科が国語ということもあり、よく世話になっている。その代わり、レイはクロームに頼まれて、彼女にイタリア語を教えることもある。
ツナ以外で共に過ごす時間が一番長いのは、いつしかクロームになっていた。
今日のクロームは、ただ学校に忘れ物を取りに来たついでに図書室に寄っただけのようだが、漢文の問題集を前に頭を抱えているレイに気付いて、自ら声を掛けてくれた。
「……」
「ヒントいる?」
「もう少し一人で頑張る」
「ふふ、分かった」
「あと10分で閉めますね」という司書の声が、室内に響いた。
顔を上げて時計を見れば、短針が頂点を指そうとしているところだった。土曜日の図書室は午前で閉まってしまう。
「クローム、休みなのにわざわざありがとう」
「ううん。代わりにまた今度、イタリア語教えてね」
「もちろん。だいぶ発音が綺麗になったし、ちょっとした会話くらいなら六道さんとできるんじゃない?」
「そ、そうかな……」
そう言って、クロームは耳まで赤くしながら、少しうつむいた。その反応が可愛らしくて、思わず笑みが零れる。
いつか六道骸とイタリア語で会話をしてみたい、だから教えてほしい。そんな可愛らしい願いを無下にすることはできない。
個人的には六道骸とはあまり関わりたくはなかった。一度、ツナに紹介されたついでに挨拶を交わした程度だ。向こうも察するところがあったのか、当たり障りのない会話だけを交わし、それからはほとんど接触していない。
とはいえ、それはあくまでもレイの問題であり、クロームが望み、なおかつ六道骸がクロームを害することがないのであれば、レイはクロームのそのいじらしい想いが実ることを願うのみである。
鞄に荷物を詰め込み、廊下へ出る。冷房のかかった図書室とは違い、6月の湿度がべたりと体にまとわりついてきて、その不快感を緩めるために少しネクタイを緩めた。
階段を下りれば、雲雀率いる風紀委員とすれ違う。
雲雀の少し後ろを歩く副委員長に一言「ネクタイ」と指摘を受け、大人しくネクタイを締めなおした。
雲雀については、転入早々にその恐ろしさを垣間見たので、学校生活において歯向かうつもりはない。
「ボスのこと、待たなくていいの?」
「午後まで補習なんだって。それに獄寺がいる」
「そっか。この後何かあるの?」
「手合わせの約束をしてる」
「じゃあ、帰り道ほとんど一緒だね」
靴を履き替えて外に出れば、陽も当たってさらに蒸し暑さが増す。風紀委員の目が届いていないことを確認して、再度ネクタイを緩めて息を吐いた。
イタリアでは中々味わうことのない質量を持った空気が新鮮だったのは、最初の二日程度だ。
「暑いなぁ」と愚痴るように言えば、クロームからは「梅雨が明けたらもっと暑くなるよ」と返ってきた。
「ここまでは普通に読んで、ここで折り返す。この漢字は、えっと……」
「それは『むしろ』って読むの。後は『丁寧』の『ネイ』の字だから、書けた方がいいかも」
「書くのか、これ……」
土曜日の昼下がり、運動部の掛け声や楽器の音を遠くに聞きながら、レイとクロームは学校の図書室で肩を並べていた。休日ではあるが、部活や補習の関係で図書室も解放されている。
教室では中間テストの補習が行われており、ツナが参加している。恐らく隣の空き教室では獄寺が待機しているだろう。
レイはというと、自習のためにツナと一緒に登校して、途中で獄寺も合流して、そして昇降口で別れて図書室に向かった。家ではランボがじゃれついて勉強どころではないのだ。
「学がないってのはな、どの世界で生きるにせよ選択肢がなくなるんだ。だからちゃんと勉強はしとけよ」と言ってくれたのはロマーリオだった。
学ぶことは嫌いではないし、知識が増えることも楽しい。ジャンルを問わず、本を読むのだって好きだ。
兄やディーノのお古の教科書、書庫の本は基本的に自由に使えたし、暇を持て余して教鞭を取ってくれる大人もいた。
だから、年齢相応の学力や知識はあるはずだった。もし学校のテストの出題がイタリア語で、その解答もイタリア語でよければもっと良い点数が取れただろう。
しかし、ここは日本であり、出題も解答もすべてが日本語。
日本語については日常会話や簡単な漢字までの勉強したしていなかったこともあり、中学三年生のテストでは見事に振り落とされた。
読めない漢字や意味の分からない表現があれば、そこでまず手が止まる。言葉の音として知っていても、漢字で表記されると読めない。日本の地理や歴史への理解も浅いし、理科でも現象を知っていても、該当する日本語が分からない。古文や漢文などはもってのほか。
結果的に、中間テストではほぼすべての教科が赤点スレスレとなってしまった。
赤点を取ったツナを足蹴にしながら、リボーンはレイのこともしっかりと睨む。
「問題文すらろくに読めないのは『日本語ができる』とは言えねぇぞ」
叩きつけられた正論にぐうの音も出せない。
それからはとにかく自分のために空いた時間には本を読んだ。漢字の勉強もした。
今やっと、小学5年生の漢字の正答率が8割を超えたところだ。少しずつ、文章を読むスピードも向上している。
それでも辞書は手放せない。比喩表現は、まだまだ弱い。
そんなレイの自習によく付き合ってくれるのがクロームだった。
クロームの教え方は丁寧で、得意教科が国語ということもあり、よく世話になっている。その代わり、レイはクロームに頼まれて、彼女にイタリア語を教えることもある。
ツナ以外で共に過ごす時間が一番長いのは、いつしかクロームになっていた。
今日のクロームは、ただ学校に忘れ物を取りに来たついでに図書室に寄っただけのようだが、漢文の問題集を前に頭を抱えているレイに気付いて、自ら声を掛けてくれた。
「……」
「ヒントいる?」
「もう少し一人で頑張る」
「ふふ、分かった」
「あと10分で閉めますね」という司書の声が、室内に響いた。
顔を上げて時計を見れば、短針が頂点を指そうとしているところだった。土曜日の図書室は午前で閉まってしまう。
「クローム、休みなのにわざわざありがとう」
「ううん。代わりにまた今度、イタリア語教えてね」
「もちろん。だいぶ発音が綺麗になったし、ちょっとした会話くらいなら六道さんとできるんじゃない?」
「そ、そうかな……」
そう言って、クロームは耳まで赤くしながら、少しうつむいた。その反応が可愛らしくて、思わず笑みが零れる。
いつか六道骸とイタリア語で会話をしてみたい、だから教えてほしい。そんな可愛らしい願いを無下にすることはできない。
個人的には六道骸とはあまり関わりたくはなかった。一度、ツナに紹介されたついでに挨拶を交わした程度だ。向こうも察するところがあったのか、当たり障りのない会話だけを交わし、それからはほとんど接触していない。
とはいえ、それはあくまでもレイの問題であり、クロームが望み、なおかつ六道骸がクロームを害することがないのであれば、レイはクロームのそのいじらしい想いが実ることを願うのみである。
鞄に荷物を詰め込み、廊下へ出る。冷房のかかった図書室とは違い、6月の湿度がべたりと体にまとわりついてきて、その不快感を緩めるために少しネクタイを緩めた。
階段を下りれば、雲雀率いる風紀委員とすれ違う。
雲雀の少し後ろを歩く副委員長に一言「ネクタイ」と指摘を受け、大人しくネクタイを締めなおした。
雲雀については、転入早々にその恐ろしさを垣間見たので、学校生活において歯向かうつもりはない。
「ボスのこと、待たなくていいの?」
「午後まで補習なんだって。それに獄寺がいる」
「そっか。この後何かあるの?」
「手合わせの約束をしてる」
「じゃあ、帰り道ほとんど一緒だね」
靴を履き替えて外に出れば、陽も当たってさらに蒸し暑さが増す。風紀委員の目が届いていないことを確認して、再度ネクタイを緩めて息を吐いた。
イタリアでは中々味わうことのない質量を持った空気が新鮮だったのは、最初の二日程度だ。
「暑いなぁ」と愚痴るように言えば、クロームからは「梅雨が明けたらもっと暑くなるよ」と返ってきた。