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ヤン+ビルダーnot恋愛
仕事中毒者とサイコパス上司の日常とそれに潜む思惑
やんごと‐な・い───
1 家柄や身分がひじょうに高い。高貴である。
2 そのまま捨てておけない。特別に大切である。
サンドロックに赴任してまず初めに行ったことは、自分に与えられたワークショップの片付けからだった。
主人に捨て置かれたガラクタたちの、解放を求める声を聞きながら淡々と作業をした。こういった単純作業はいい。ツルハシを振り下ろした時にだけ得られる栄養がある。
私はビルダーの仕事が好きだ。
生まれて初めてビルダーの仕事を目にした時、この世界にこんなにも心躍るものがあったなんて、と酷く感じ入ったのを今も覚えている。
仕事の大小は関係ない。クレーンリフトだろうが、ツルハシだろうがビルドはビルドだ。そこに貴賎などない。木の棒一本だって馬鹿にはできないのだ。
私がサンドロックを赴任先に選んだのは、発展途上どころか衰退途上の街だったからというのが大きい。
周りからは止すように散々説得された。腕を試したいならもっと他の場所にすべきだと、心からの助言をもらったが、自分の意思を曲げることはできなかった。
再生するためにはまず破壊しなければならない──これが私の持論だ。
前任者であるメイソンが残した数々だけを見ると、彼はあまりビルダーという職を愛してないように思えた。
道具一つとっても杜撰な管理をしていたようで、必要最低限すら満たせていない有様だった。
上司であるヤンも、どちらかというといないほうがマシなタイプの上司だったが、私に仕事を回してくれるのならいい上司だ。なんの文句もない。
いや、よく考えればむしろ最高だ。
労働環境が劣悪イコール好きなだけ仕事ができる。私の頭の中にはツルハシを振り下ろし、枯れ木を伐採し、朝から夜まで荒野を駆け回るハッピーライフしかなかった。
その過程で手に入れた金やダイヤを上司に渡すだけで評価も上々。手に入る給料は全て新しいレシピや、素材に費やした。
しかも嬉しいことにサンドロックでは問題が湯水のように湧いてくる──おっと、ここでは水が貴重だから、不適切だったかな──とにかくハイウィンドでは考えられないトラブルやハプニングの連続だった。
「オレの一番の相棒、そんなところでなにをしてる? 仕事なら他のやつに押し付けて、飲みに行こうぜ! もちろんお前の奢りでな!」
そんな数ある問題の中でもこれはいただけない。ビルダーを愛する自分にとって最大の難問だった。
どうやら今までの賄賂のおかげで上司に懐かれてしまったらしい。懐く上司は可愛げがあってそれは結構なことだが、仕事を押し付ける対象から外されるのは困る。
ビルダーというのはただものを作ればいいってものではない。誰かの願いありきの、魔法使いのような存在なのだ。
「ボス、仕事なら私に任せてください。なんでもしますよ。工業炉を作りましょうか? それとも工業プロセッサー?」
「分かった分かった! そんなにゴマをすらなくてもオレはちゃんとお前を評価してやるよ」
「違います。自分がやりたくてやってるんです」
一日に受けられる依頼は限られている。本当なら貼り出されている依頼全てを受けたいぐらいなのに、その上ヤンから回される仕事がなくなるなんて耐えられない。
ああ、ミアンが羨ましい。いつ見てもあちこち走り回っている彼女は、まるでサンドロックに吹く風のように軽やかだ。
自分も負けていられない。ミアンだってヤンとの仲は悪くないはずなのに仕事を押し付けられている。私だってそのポジションにつけるはずだ。
「この町でいい奴はお前だけだよ。他のやつはみんな頭が悪い家畜みたいに話すもんだから、こっちの頭が痛くなってくる」
「……光栄です、ボス」
ヤンの口から溢れるお世辞のような本音のような言葉をどう受け取るべきかいまだにわからないでいた。
今まではヤンを讃えて、天高く持ち上げてきたが、そこから落としたらヤンは自分を憎むだろうか。
憎まれて仕事が増えるならそんな楽な話はない──目の前の上司の頭をツルハシで殴打したい衝動に駆られる。だがさすがにクビになるのは御免だ。
さてどうしたものか、と、ヤンを漫然と眺めていると、ヤンが何かを思いだしかのようにポケットをまさぐりだした。
「───オレとしたことが、自由都市からの仕事を忘れてたみたいだ。ちょうどいい、これをお前に任せてやる! よかったなナナシ、これでまたポイントが稼げるぞ!」
「!」
前言撤回! ヤンは最高の上司だ!
差し出される依頼書をひったくるように受け取る。素材は常に収納箱に蓄えられているが、この依頼内容だと鉱石が少しばかり足りなそうだ。思わず口が弧を描く。
「よろこんでやりますボス!!」
「その意気だ。酒はまた今度、その仕事が終わった頃にでも奢らせてやるから、それを楽しみに働くんだな」
「(金だけ渡して一人で飲んでもらおう)イエスボス!」
さあ遺跡に行こう!
足は軽やかに意気揚々と走り出す。
サンドロックの荒野に眠る鉱石たちを掘り起こすために、私はツルハシを強く握りしめた。
❇︎ ❇︎ ❇︎
ビルダーの走り去る姿を見つめながら、ヤンはいつもの道化の顔を捨てて、ニヒルに笑った。
「あの新入りは本当に使えるヤツだ。いい思いをさせてやれば喜んでオレの手足として働くだろうな」
オレだっていつまでもこんな街で燻ってられない。メイソンのやつはうまいこと抜けられたが、オレの方はそうはいかないだろう。
連中はオレの首根っこを掴んで離そうとしない。代わりの羊が必要だ。
ヤンは、いつになったらこのイカれた盤面をおさらばできるのかを考えて、その答えを脳が弾き出す前に頭を横に振って思考を振り払った。
「まあ、あいつならどこでもうまくやれるだろうよ」
───オレと違ってな。
その独白は砂混じりの風に吹かれて、誰のもとに届くこともなく消えた。
終わり
仕事中毒者とサイコパス上司の日常とそれに潜む思惑
やんごと‐な・い───
1 家柄や身分がひじょうに高い。高貴である。
2 そのまま捨てておけない。特別に大切である。
サンドロックに赴任してまず初めに行ったことは、自分に与えられたワークショップの片付けからだった。
主人に捨て置かれたガラクタたちの、解放を求める声を聞きながら淡々と作業をした。こういった単純作業はいい。ツルハシを振り下ろした時にだけ得られる栄養がある。
私はビルダーの仕事が好きだ。
生まれて初めてビルダーの仕事を目にした時、この世界にこんなにも心躍るものがあったなんて、と酷く感じ入ったのを今も覚えている。
仕事の大小は関係ない。クレーンリフトだろうが、ツルハシだろうがビルドはビルドだ。そこに貴賎などない。木の棒一本だって馬鹿にはできないのだ。
私がサンドロックを赴任先に選んだのは、発展途上どころか衰退途上の街だったからというのが大きい。
周りからは止すように散々説得された。腕を試したいならもっと他の場所にすべきだと、心からの助言をもらったが、自分の意思を曲げることはできなかった。
再生するためにはまず破壊しなければならない──これが私の持論だ。
前任者であるメイソンが残した数々だけを見ると、彼はあまりビルダーという職を愛してないように思えた。
道具一つとっても杜撰な管理をしていたようで、必要最低限すら満たせていない有様だった。
上司であるヤンも、どちらかというといないほうがマシなタイプの上司だったが、私に仕事を回してくれるのならいい上司だ。なんの文句もない。
いや、よく考えればむしろ最高だ。
労働環境が劣悪イコール好きなだけ仕事ができる。私の頭の中にはツルハシを振り下ろし、枯れ木を伐採し、朝から夜まで荒野を駆け回るハッピーライフしかなかった。
その過程で手に入れた金やダイヤを上司に渡すだけで評価も上々。手に入る給料は全て新しいレシピや、素材に費やした。
しかも嬉しいことにサンドロックでは問題が湯水のように湧いてくる──おっと、ここでは水が貴重だから、不適切だったかな──とにかくハイウィンドでは考えられないトラブルやハプニングの連続だった。
「オレの一番の相棒、そんなところでなにをしてる? 仕事なら他のやつに押し付けて、飲みに行こうぜ! もちろんお前の奢りでな!」
そんな数ある問題の中でもこれはいただけない。ビルダーを愛する自分にとって最大の難問だった。
どうやら今までの賄賂のおかげで上司に懐かれてしまったらしい。懐く上司は可愛げがあってそれは結構なことだが、仕事を押し付ける対象から外されるのは困る。
ビルダーというのはただものを作ればいいってものではない。誰かの願いありきの、魔法使いのような存在なのだ。
「ボス、仕事なら私に任せてください。なんでもしますよ。工業炉を作りましょうか? それとも工業プロセッサー?」
「分かった分かった! そんなにゴマをすらなくてもオレはちゃんとお前を評価してやるよ」
「違います。自分がやりたくてやってるんです」
一日に受けられる依頼は限られている。本当なら貼り出されている依頼全てを受けたいぐらいなのに、その上ヤンから回される仕事がなくなるなんて耐えられない。
ああ、ミアンが羨ましい。いつ見てもあちこち走り回っている彼女は、まるでサンドロックに吹く風のように軽やかだ。
自分も負けていられない。ミアンだってヤンとの仲は悪くないはずなのに仕事を押し付けられている。私だってそのポジションにつけるはずだ。
「この町でいい奴はお前だけだよ。他のやつはみんな頭が悪い家畜みたいに話すもんだから、こっちの頭が痛くなってくる」
「……光栄です、ボス」
ヤンの口から溢れるお世辞のような本音のような言葉をどう受け取るべきかいまだにわからないでいた。
今まではヤンを讃えて、天高く持ち上げてきたが、そこから落としたらヤンは自分を憎むだろうか。
憎まれて仕事が増えるならそんな楽な話はない──目の前の上司の頭をツルハシで殴打したい衝動に駆られる。だがさすがにクビになるのは御免だ。
さてどうしたものか、と、ヤンを漫然と眺めていると、ヤンが何かを思いだしかのようにポケットをまさぐりだした。
「───オレとしたことが、自由都市からの仕事を忘れてたみたいだ。ちょうどいい、これをお前に任せてやる! よかったなナナシ、これでまたポイントが稼げるぞ!」
「!」
前言撤回! ヤンは最高の上司だ!
差し出される依頼書をひったくるように受け取る。素材は常に収納箱に蓄えられているが、この依頼内容だと鉱石が少しばかり足りなそうだ。思わず口が弧を描く。
「よろこんでやりますボス!!」
「その意気だ。酒はまた今度、その仕事が終わった頃にでも奢らせてやるから、それを楽しみに働くんだな」
「(金だけ渡して一人で飲んでもらおう)イエスボス!」
さあ遺跡に行こう!
足は軽やかに意気揚々と走り出す。
サンドロックの荒野に眠る鉱石たちを掘り起こすために、私はツルハシを強く握りしめた。
❇︎ ❇︎ ❇︎
ビルダーの走り去る姿を見つめながら、ヤンはいつもの道化の顔を捨てて、ニヒルに笑った。
「あの新入りは本当に使えるヤツだ。いい思いをさせてやれば喜んでオレの手足として働くだろうな」
オレだっていつまでもこんな街で燻ってられない。メイソンのやつはうまいこと抜けられたが、オレの方はそうはいかないだろう。
連中はオレの首根っこを掴んで離そうとしない。代わりの羊が必要だ。
ヤンは、いつになったらこのイカれた盤面をおさらばできるのかを考えて、その答えを脳が弾き出す前に頭を横に振って思考を振り払った。
「まあ、あいつならどこでもうまくやれるだろうよ」
───オレと違ってな。
その独白は砂混じりの風に吹かれて、誰のもとに届くこともなく消えた。
終わり
