・ペン
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ペンビル♀未満の二人とそれに巻き込まれる周囲
サンドロックでの開幕一発目に受けた、宇宙まで吹っ飛ばされるようなパンチに、私のハートは見事に撃ち抜かれてしまった。
「サンドロックにかんぱーい!」
ダンっと勢いよくグラスを机に打ち付けるように下ろす。カウンターの奥でオーウェンが悲しそうな表情になるのが分かったが見ないふりをした。
故郷のハイウィンドでもなかなか拝めないダンディな顔立ちをしたオーウェンは、私の荒んだ心を慰めるオアシスだ。
そのオアシスが、店の備品を人質?に取られて情けなく眉根を下げているのがたまらない。その顔だけで酒が進む。
「ちょっとナナシ、机に傷がついたらただで新調させるわよ」
「やっときたのねグレース! ほらほらここに座って! 美人と飲むお酒は格別なんだから」
「仕事中だからやめて。というかナナシも仕事があるんじゃないの? ヤンがぼやいてたわよ」
「ボスの話なんてやめてよー、酒が不味くなる」
せっかく仕事をサボって楽しく酒盛りをしてるのに、辛気臭い顔を思い出してげんなりする。
どこかに私と楽しくお酒を飲んでくれる心優しい人はいないのかしら、と周りを見回すが、残念なことにアーネストしかいなかった。
「アーネストくん、一緒に飲まないかね?」
早速絡みにいくが、「悪いけど遠慮しようかな」と、すげなく断られた。小説家のくせにもっと上手いことわり文句はなかったの?
「なんだったら取材してもいいよ。砂の街に舞い降りた魅惑のビルダーの実態に迫る、なんてどう?」
「あー、ははっ」
「笑って誤魔化すなよう、傷つくでしょー」
目に力を込めて嘘泣きをするが、アーネストは女の扱いに慣れているのか軽くあしらわれてしまう。
ちなみにオーウェンも女慣れしているが、根が優しいので、嘘と分かっていながらも絆されてくれる。やっぱりオーウェンしか勝たん。
「君も黙ってたら十分魅力的な女性なんだけどね」
「うん。よく言われる」
これでも昔は可愛げがあったのだ。
あの頃の私はビルダーになるために真面目に勉強に勤しんでいた。それこそ恋愛なんて見向きもしないで一心不乱だった。
そのせいか男子によく虐められたものだ。そしてそのたびに幼馴染の女の子が助けてくれた。彼女はあの頃の私のヒーローだった。
「───その子がまたかわいいのよー! 男どもはみーんな幼馴染のほうに惚れちゃって! 私と同じで男勝りだったのに、どこで差がついちゃったのお〜」
昔話を語るうちに涙が込み上げてきた。そのままおいおいとアーネストの肩に腕を回して泣き崩れる。
いつの間にか酒はヤクメルミルクに変えられていたが、気にせずに呷る。ぬるいミルクが喉をゆっくり落ちていく感触がやけに鮮明だった。
「アーネスト、あとは僕が見ておくからそろそろ帰りなよ」
「ありがとうオーウェン、でもこの状態の彼女を君と二人きりにさせて大丈夫?」
すっかり酔っ払った私を男たちが押し付け合っている。しっけいな。据え膳だぞ、食えー!
酔いの回った体はいうことを聞かず、次第に視界がぼやけて遠ざかっていく。
ぐにゃぐにゃのオーウェンが遠くから私に呼びかけているのはわかるのだが、いかんせん眠たい。ここで眠れたらどれだけ気持ちいいか。
「……ン……ん…ここ……おい、ま……だ……っ」
「お……って……けっ!」
オーウェンの声に混じってもう一人の声がする。アーネストの声じゃない。甘ったるく感じるのに冷たい印象がする……あ、もう無理。寝る……。
小鳥の声で目覚めると、そこはどうみても自分の家じゃなかった。見覚えはある気がするのだが思い出せない。
「……オーウェンにお持ち帰りされた?」
「俺のベッドの上で他の男の名前を呼ぶなんて悪いスキニーだな」
「っ……?!」
真横からの声に慌てて振り向くと、上半身裸のペンがいた。下半身はシーツに覆われて見えないが、多分履いてるはずだ。もしマッパだったら耐えられない! 光よ!
「昨日はずいぶん飲んでたらしいじゃないか」
「そんなに飲んではないよ……多分」
「俺が見つけた時はほとんど意識もない状態だったが、もしかしてシラフであれなのか?」
「……いいえ」
というか私の服はどこ? 現在下着のみで大変心許ない状態だ。ペンからもう少しシーツを奪いたいが、見えてはいけないものがでてきたら怖いので遠慮がちに体を隠すことしかできない。
もしかしなくても、あの時聞こえた声はペンだったのだろうか。オーウェンの静止を振り切って私を連れ去ったのだろう。
可哀想なオーウェンはきっと眠れない夜を過ごしたに違いない。
「酒のどこがいいのか理解に苦しむな。あれは筋肉に悪い。教会の教えでも飲酒は控えるように書いてあるぞ、知らないのか?」
「信者じゃないから知らないよ」
「スキニー、あまり俺をがっかりさせるな」
ペンが甘ったるく叱りつけてくる。私が知らない間にペンと恋人になっていたのかもしれない。そうでなきゃ説明がつかない。
「ええと、その、ペン……聞いてもいい?」
「なんだ」
「私たちってその、やっちゃった?」
「品のない言い方はよせ。俺は酔っ払いと寝る趣味はない。添い寝までだ。それでも破格の対応だぞ」
「ワオ……」
デリカシーのないペンに言われてしまった。屈辱的だが、言い返せない。
状況を整理すると、昨日の夜ペンにお持ち帰りされた私は、おそらく暑苦しいと服を脱いだのだろう。なぜなら酔っ払った次の日の朝はいつも下着姿だからだ。そしてペンについては憶測だが、寝る時に服を脱ぐタイプなのだろう。
よかった。健全だ。……健全か?
「とにかく、ベッドを貸してくれてありがとうペン。じゃあ、私はそろそろお暇しようかな」
そろそろとベッドから抜け出そうとすると、ペンの見事な身体能力によってあえなく押し倒される。
いま私の目には逞しい胸筋しか見えない。思わずうっとりしてしまうほど鍛え上げられた肉体に喉がなる。
「なにもそんなに急ぐ必要はないだろう。どうせあんたは不良ビルダーだ。ヤンもあんたにはお手上げらしいな」
「人聞きの悪い……ちょっとサボってるだけだよ」
人生そこそこが一番だ。真面目に努力したって、持って生まれた人間には敵わないのだ。
私はビルダーになりたくてがむしゃらにがんばってきた。でもなんだか急に力が抜けてしまったのだ。
砂の街に初めてきた時、私は期待に胸がいっぱいだった。
街の人たちは一部を除いてみんないい人たちだったし、私より先に赴任したミアンは可愛い上に働き者だ。なんの文句もないスタートだった。
「ああ、あんたはなにがそんなに楽しいのか、毎日ゴミ拾いに勤しんだり、砂漠を駆け回っていたな。俺が誘っても全く首を縦に降らなかった」
「……」
それがいつしか息苦しくなっていった。
がんばればがんばるほどに、私は自分が本当はなにがしたかったのか分からなくなっていった。
理由がわからないまま酒に逃げた。飲んでる間は無敵になれた。なにも怖くなくなった。
私を心配する周りを遠ざけた。自分でも理解できないのに、みんなに理解してもらえるとは到底思えなかった。
「スキニー、俺にはあんたの苦悩がわかる」
「それはないでしょ。ペンって絶対共感能力を持たずに生まれてきてるもん」
「まあ聞け。あんたは真面目すぎるんだ。いまだって真面目に悪い子になろうとしてるくらいだからな。筋金入りだ」
だがそれじゃダメだとペンが言う。
「俺が堅物なスキニーに力の抜き方をレクチャーしてやる。今度こそ、あんたでもモノにできるはずだ」
「私はスペースパンチを打ちたかったの」
「ワガママを言うな。いい子だから、俺の言うとおりにしろ」
ペンの無骨な手が私の頬を撫でる。指先がなぞるように頬を滑り落ちて、唇をくすぐる。「あっ」思わず声が漏れる。
それに気をよくしたのか、ペンがくっと喉を絞るように笑った。それがなんだかとてもセクシーで、心臓が痛いほど脈打ち出す。
「あんたの心臓は今にも弾けそうだな。ここまで弱っちくてどうやって生きてるんだ」
「いっとくけど、私ってそこそこ強いんだよ」
「ああ知ってる。だがもっと強くなってもらわないと俺が面白くない」
私はペンの都合のいいおもちゃじゃないと言ってやるべきだろうか。
だがどう見ても今の状況でそんなことを言っても鼻で笑われて終わりだろう。現実問題、私にペンを退けるだけの力はない。おもちゃまっしぐらだ。
「もうなにも考えるなスキニー。
気持ちのいいことだけで自分を満たすんだ」
ペンの唇が私の首筋に触れる。
ペンの体は初めから私のものだったようによく馴染んだ。まるでペンとひとつになったような感覚に酔いしれる。
自覚はなかったが、私はこの熱をずっと前から求めていたようだ。砂漠に落ちた一滴の水のように、与えられてもすぐに乾いてしまう。私はこんなにも飢えていたのか。
「知ってるさ。あんたが俺を熱っぽく見てたことはとっくにお見通しだ」
だからこれは謙虚な俺のビルダーへのご褒美だと、ペンは彼に似合わない優しい手つきで私に奉仕する。
これはもしかしたら酔っ払いの夢なのかもしれない。あまりにも私に都合が良すぎる展開だった。
それでも構わない───たとえ消えてしまう夢だとしても、溺れてしまいたかった。
「ペン……もっとめちゃくちゃにして……」
初めてペンのレッスンを受けたときのように、私を吹っ飛ばして欲しかった。
「っ……スキニーは俺を煽るのだけは一流だな」
興奮しきって掠れた声が耳に直接流し込まれる。私はこの声に弱かった。ゾクゾクとした快感に体を震わせる。
あとはもう、私の望み通りだった。
❇︎ ❇︎ ❇︎
直撃してないにも関わらず、衝撃で体が吹っ飛ぶなんて初めてだった。
ハイウィンドで男相手にも負けなしだった自尊心が粉々になる。これが生まれ持った身体能力の差というやつなのかもしれない。
悔しかった。
急に現れて、突然喧嘩をふっかけられて、惨めに負かされた。なのに全然嫌じゃないのが悔しいのだ。
むしろ気分は清々した。
ずっと負けてはいけないのだと自分を追い詰めていた何かが消え去るのが分かった。憑き物が落ちたとでもいえばいいのだろうか。
私を思う存分痛めつけて満足したのか、サンドロックの守り手を名乗る男はご機嫌だった。
いつかこいつを負かしてやりたいという感情と、この男に屈服したい感情がせめぎ合う。二律背反だ。背徳的な響きに思わず胸が高鳴る。
きっとそれが私の恋の始まりで、
正しいレールから外れた瞬間だった。
終わり
サンドロックでの開幕一発目に受けた、宇宙まで吹っ飛ばされるようなパンチに、私のハートは見事に撃ち抜かれてしまった。
「サンドロックにかんぱーい!」
ダンっと勢いよくグラスを机に打ち付けるように下ろす。カウンターの奥でオーウェンが悲しそうな表情になるのが分かったが見ないふりをした。
故郷のハイウィンドでもなかなか拝めないダンディな顔立ちをしたオーウェンは、私の荒んだ心を慰めるオアシスだ。
そのオアシスが、店の備品を人質?に取られて情けなく眉根を下げているのがたまらない。その顔だけで酒が進む。
「ちょっとナナシ、机に傷がついたらただで新調させるわよ」
「やっときたのねグレース! ほらほらここに座って! 美人と飲むお酒は格別なんだから」
「仕事中だからやめて。というかナナシも仕事があるんじゃないの? ヤンがぼやいてたわよ」
「ボスの話なんてやめてよー、酒が不味くなる」
せっかく仕事をサボって楽しく酒盛りをしてるのに、辛気臭い顔を思い出してげんなりする。
どこかに私と楽しくお酒を飲んでくれる心優しい人はいないのかしら、と周りを見回すが、残念なことにアーネストしかいなかった。
「アーネストくん、一緒に飲まないかね?」
早速絡みにいくが、「悪いけど遠慮しようかな」と、すげなく断られた。小説家のくせにもっと上手いことわり文句はなかったの?
「なんだったら取材してもいいよ。砂の街に舞い降りた魅惑のビルダーの実態に迫る、なんてどう?」
「あー、ははっ」
「笑って誤魔化すなよう、傷つくでしょー」
目に力を込めて嘘泣きをするが、アーネストは女の扱いに慣れているのか軽くあしらわれてしまう。
ちなみにオーウェンも女慣れしているが、根が優しいので、嘘と分かっていながらも絆されてくれる。やっぱりオーウェンしか勝たん。
「君も黙ってたら十分魅力的な女性なんだけどね」
「うん。よく言われる」
これでも昔は可愛げがあったのだ。
あの頃の私はビルダーになるために真面目に勉強に勤しんでいた。それこそ恋愛なんて見向きもしないで一心不乱だった。
そのせいか男子によく虐められたものだ。そしてそのたびに幼馴染の女の子が助けてくれた。彼女はあの頃の私のヒーローだった。
「───その子がまたかわいいのよー! 男どもはみーんな幼馴染のほうに惚れちゃって! 私と同じで男勝りだったのに、どこで差がついちゃったのお〜」
昔話を語るうちに涙が込み上げてきた。そのままおいおいとアーネストの肩に腕を回して泣き崩れる。
いつの間にか酒はヤクメルミルクに変えられていたが、気にせずに呷る。ぬるいミルクが喉をゆっくり落ちていく感触がやけに鮮明だった。
「アーネスト、あとは僕が見ておくからそろそろ帰りなよ」
「ありがとうオーウェン、でもこの状態の彼女を君と二人きりにさせて大丈夫?」
すっかり酔っ払った私を男たちが押し付け合っている。しっけいな。据え膳だぞ、食えー!
酔いの回った体はいうことを聞かず、次第に視界がぼやけて遠ざかっていく。
ぐにゃぐにゃのオーウェンが遠くから私に呼びかけているのはわかるのだが、いかんせん眠たい。ここで眠れたらどれだけ気持ちいいか。
「……ン……ん…ここ……おい、ま……だ……っ」
「お……って……けっ!」
オーウェンの声に混じってもう一人の声がする。アーネストの声じゃない。甘ったるく感じるのに冷たい印象がする……あ、もう無理。寝る……。
小鳥の声で目覚めると、そこはどうみても自分の家じゃなかった。見覚えはある気がするのだが思い出せない。
「……オーウェンにお持ち帰りされた?」
「俺のベッドの上で他の男の名前を呼ぶなんて悪いスキニーだな」
「っ……?!」
真横からの声に慌てて振り向くと、上半身裸のペンがいた。下半身はシーツに覆われて見えないが、多分履いてるはずだ。もしマッパだったら耐えられない! 光よ!
「昨日はずいぶん飲んでたらしいじゃないか」
「そんなに飲んではないよ……多分」
「俺が見つけた時はほとんど意識もない状態だったが、もしかしてシラフであれなのか?」
「……いいえ」
というか私の服はどこ? 現在下着のみで大変心許ない状態だ。ペンからもう少しシーツを奪いたいが、見えてはいけないものがでてきたら怖いので遠慮がちに体を隠すことしかできない。
もしかしなくても、あの時聞こえた声はペンだったのだろうか。オーウェンの静止を振り切って私を連れ去ったのだろう。
可哀想なオーウェンはきっと眠れない夜を過ごしたに違いない。
「酒のどこがいいのか理解に苦しむな。あれは筋肉に悪い。教会の教えでも飲酒は控えるように書いてあるぞ、知らないのか?」
「信者じゃないから知らないよ」
「スキニー、あまり俺をがっかりさせるな」
ペンが甘ったるく叱りつけてくる。私が知らない間にペンと恋人になっていたのかもしれない。そうでなきゃ説明がつかない。
「ええと、その、ペン……聞いてもいい?」
「なんだ」
「私たちってその、やっちゃった?」
「品のない言い方はよせ。俺は酔っ払いと寝る趣味はない。添い寝までだ。それでも破格の対応だぞ」
「ワオ……」
デリカシーのないペンに言われてしまった。屈辱的だが、言い返せない。
状況を整理すると、昨日の夜ペンにお持ち帰りされた私は、おそらく暑苦しいと服を脱いだのだろう。なぜなら酔っ払った次の日の朝はいつも下着姿だからだ。そしてペンについては憶測だが、寝る時に服を脱ぐタイプなのだろう。
よかった。健全だ。……健全か?
「とにかく、ベッドを貸してくれてありがとうペン。じゃあ、私はそろそろお暇しようかな」
そろそろとベッドから抜け出そうとすると、ペンの見事な身体能力によってあえなく押し倒される。
いま私の目には逞しい胸筋しか見えない。思わずうっとりしてしまうほど鍛え上げられた肉体に喉がなる。
「なにもそんなに急ぐ必要はないだろう。どうせあんたは不良ビルダーだ。ヤンもあんたにはお手上げらしいな」
「人聞きの悪い……ちょっとサボってるだけだよ」
人生そこそこが一番だ。真面目に努力したって、持って生まれた人間には敵わないのだ。
私はビルダーになりたくてがむしゃらにがんばってきた。でもなんだか急に力が抜けてしまったのだ。
砂の街に初めてきた時、私は期待に胸がいっぱいだった。
街の人たちは一部を除いてみんないい人たちだったし、私より先に赴任したミアンは可愛い上に働き者だ。なんの文句もないスタートだった。
「ああ、あんたはなにがそんなに楽しいのか、毎日ゴミ拾いに勤しんだり、砂漠を駆け回っていたな。俺が誘っても全く首を縦に降らなかった」
「……」
それがいつしか息苦しくなっていった。
がんばればがんばるほどに、私は自分が本当はなにがしたかったのか分からなくなっていった。
理由がわからないまま酒に逃げた。飲んでる間は無敵になれた。なにも怖くなくなった。
私を心配する周りを遠ざけた。自分でも理解できないのに、みんなに理解してもらえるとは到底思えなかった。
「スキニー、俺にはあんたの苦悩がわかる」
「それはないでしょ。ペンって絶対共感能力を持たずに生まれてきてるもん」
「まあ聞け。あんたは真面目すぎるんだ。いまだって真面目に悪い子になろうとしてるくらいだからな。筋金入りだ」
だがそれじゃダメだとペンが言う。
「俺が堅物なスキニーに力の抜き方をレクチャーしてやる。今度こそ、あんたでもモノにできるはずだ」
「私はスペースパンチを打ちたかったの」
「ワガママを言うな。いい子だから、俺の言うとおりにしろ」
ペンの無骨な手が私の頬を撫でる。指先がなぞるように頬を滑り落ちて、唇をくすぐる。「あっ」思わず声が漏れる。
それに気をよくしたのか、ペンがくっと喉を絞るように笑った。それがなんだかとてもセクシーで、心臓が痛いほど脈打ち出す。
「あんたの心臓は今にも弾けそうだな。ここまで弱っちくてどうやって生きてるんだ」
「いっとくけど、私ってそこそこ強いんだよ」
「ああ知ってる。だがもっと強くなってもらわないと俺が面白くない」
私はペンの都合のいいおもちゃじゃないと言ってやるべきだろうか。
だがどう見ても今の状況でそんなことを言っても鼻で笑われて終わりだろう。現実問題、私にペンを退けるだけの力はない。おもちゃまっしぐらだ。
「もうなにも考えるなスキニー。
気持ちのいいことだけで自分を満たすんだ」
ペンの唇が私の首筋に触れる。
ペンの体は初めから私のものだったようによく馴染んだ。まるでペンとひとつになったような感覚に酔いしれる。
自覚はなかったが、私はこの熱をずっと前から求めていたようだ。砂漠に落ちた一滴の水のように、与えられてもすぐに乾いてしまう。私はこんなにも飢えていたのか。
「知ってるさ。あんたが俺を熱っぽく見てたことはとっくにお見通しだ」
だからこれは謙虚な俺のビルダーへのご褒美だと、ペンは彼に似合わない優しい手つきで私に奉仕する。
これはもしかしたら酔っ払いの夢なのかもしれない。あまりにも私に都合が良すぎる展開だった。
それでも構わない───たとえ消えてしまう夢だとしても、溺れてしまいたかった。
「ペン……もっとめちゃくちゃにして……」
初めてペンのレッスンを受けたときのように、私を吹っ飛ばして欲しかった。
「っ……スキニーは俺を煽るのだけは一流だな」
興奮しきって掠れた声が耳に直接流し込まれる。私はこの声に弱かった。ゾクゾクとした快感に体を震わせる。
あとはもう、私の望み通りだった。
❇︎ ❇︎ ❇︎
直撃してないにも関わらず、衝撃で体が吹っ飛ぶなんて初めてだった。
ハイウィンドで男相手にも負けなしだった自尊心が粉々になる。これが生まれ持った身体能力の差というやつなのかもしれない。
悔しかった。
急に現れて、突然喧嘩をふっかけられて、惨めに負かされた。なのに全然嫌じゃないのが悔しいのだ。
むしろ気分は清々した。
ずっと負けてはいけないのだと自分を追い詰めていた何かが消え去るのが分かった。憑き物が落ちたとでもいえばいいのだろうか。
私を思う存分痛めつけて満足したのか、サンドロックの守り手を名乗る男はご機嫌だった。
いつかこいつを負かしてやりたいという感情と、この男に屈服したい感情がせめぎ合う。二律背反だ。背徳的な響きに思わず胸が高鳴る。
きっとそれが私の恋の始まりで、
正しいレールから外れた瞬間だった。
終わり
