・ミゲル
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ミゲビル♀のビルダーとペン〜バージェスを添えて〜
「よう、腕細っ子! 今日も寄付をしにきたのか、あんたも飽きないな」
教会の前でバージェスと素振りをしていたペンが目ざとく駆け寄ってくる。
ナナシは笑顔で「そうなの。少しでも役に立てればと思って」と返す。
バージェスは彼女のその献身に感動した。彼女は初めて会った頃から慎み深く、真面目な女性だった。
ペンだってバージェスと同じように彼女を気に入っているだろうに、まるで嘲笑うかのような態度を取る。
「腕細っ子が役に立ちたいのは教会じゃなく、あの牧師じゃないのか? できてるんだろう?」
「ペン、失礼ですよ」
「フン。事実を確認することの何が失礼なんだ?」
不遜な態度を崩さないペンに、バージェスは焦る。ナナシが嫌な気分にならないようにと、ペンと彼女の間に入る。
ミゲルがこの場にいれば流石のペンも強く出られないだろうが、この場にいない人を頼るわけにはいかないとバージェスは気を引き締める。
だがナナシは微笑んだままペンを見ていた。その目は全てを見透かすように澄んでいる。
「ありがとうバージェス」
ナナシはバージェスに向かって礼を言うと、改めてペンに向き直る。
「確かにミゲルに気に入られたい気持ちはゼロじゃないよ。お金で好意を買うわけじゃないけど、感謝の気持ちはもらえるもの」
「腕細っ子は随分正直ものだな」
「でもそれだけじゃないのも本当だよ。教会の活動費はほとんど寄付で賄っているし。巡り巡って自分のためにもなることをしているだけ。私が持っていても貯まる一方だしね」
最後の言葉は冗談のような口調だったが、本当のことなのだろう。彼女は倹約家で、贅沢をしている姿をバージェスは一度も見たことがなかった。
その姿は、バージェスが尊敬する牧師の姿と重なった。
ペンはナナシの言葉に白けたような顔をして「何をサボってるバージェス。早く素振りに戻れ」と手で追い払うようなジェスチャーをした。
「二人ともがんばって!」
ナナシの明るい声援を受けて、バージェスは胸に暖かなものが宿るのを感じた。
きっとペンもそうなのだろうと思ったが、バージェスから見た横顔は、苦いものでも噛んだように歪んで見えた。
それは一見すると、凶悪な笑顔のようでもあった。
❇︎ ❇︎ ❇︎
かつん、と音を立てて地下に降り立つと、ペンは先客を見つける。お目当ての人物を見つけて、思わず口角が上がった。
「精が出るな」
「……何をしにきた」
「様子を見にきただけだ。それにしてもあんたは上手くやってるようだな」
先客───ミゲルはペンの言葉によくない響きを感じた。直感的になんのことを言われた察するが、ペンと話す気にはならずとぼける。
「なんの話だ。それよりも用がないのならここにはあまり近づかない方がいい」
「おいおい。オレの方が関係者なんだぜ。むしろあんたのほうが部外者だ。立場を弁えろ───と言いたいところだが、それよりもさっきのオレの言葉に答えてもらおうか」
「なんの話か理解できない」
「嘘をつくな。わかってるだろう、あんたのビルダーの話だ」
「……彼女が、なんだ」
ミゲルは警戒で声を固くする。その様子にペンは獰猛に歯を見せて笑う。
「メイソンが引退するってなった時はどうするかと思ったが、後任は決まったようだな。それも奴よりもずっと役に立ちそうだ」
「……」
「だが、少し話して思ったが、あれは素直にオレらに協力しないだろうな。なんなら街を守るために邪魔をしてきそうだ。でもそれもあんたがいれば話は変わるだろうがな」
「……計画は最終段階に入っている。今更新しいビルダーは不要だ。だからメイソンが街を出ることを許したのだ」
年老いた彼は解放を求めていた。それは、いまさら金の力で押し留められるようなものではなかった。拒否すれば、彼はより一層無気力になるのは目に見えていた。どちらにせよ、彼の役目は終わったのだ。
そんなメイソンはミゲルにとって、まるで未来の自分のように思えてならなかった。
ミゲルの中にある熱意も、いつかは冷めていくのかもしれない。親兄弟の顔を、時の中で忘れていったように、いつかすべてを諦める日が来るのだろう。だかそれは今ではない。
「オレが悪者を買って出てもいい。あんたを人質にとったふりをして、言うことを聞かないと酷い目に合わせるぞ! ってな、どうだ? なかなかサマになってるだろう?」
「……必要になればそうすればいい。今はことを荒立てるべきではない」
ミゲルはペンと言葉を交わすことに疲れを感じ始めていた。どこまでが本気なのか読めないペンは、正直ミゲルの手に余った。だが、我儘を言える立場でもない。どんな物も使いようだ。
それにミゲルは、彼女をこの件に関わらせる気はなかった。きっと彼女なら心を込めて話せば理解してくれるだろうが、心優しい彼女を無駄に傷つける必要はないと考えていた。
彼女が知るのは全てが終わった後でいい。ミゲルはまだ彼女の話を続けたがるペンを無視して、その場を後にした。
残されたペンは水を吸い上げる装置を見上げて笑う。
「まるでおままごとみたいな連中だな」
可愛らしいことだ、そう吐き捨ててペンはこの任務の終わりに思いを馳せる。
故郷の英雄になる───その時が待ち遠しいペンだった。
終わり
「よう、腕細っ子! 今日も寄付をしにきたのか、あんたも飽きないな」
教会の前でバージェスと素振りをしていたペンが目ざとく駆け寄ってくる。
ナナシは笑顔で「そうなの。少しでも役に立てればと思って」と返す。
バージェスは彼女のその献身に感動した。彼女は初めて会った頃から慎み深く、真面目な女性だった。
ペンだってバージェスと同じように彼女を気に入っているだろうに、まるで嘲笑うかのような態度を取る。
「腕細っ子が役に立ちたいのは教会じゃなく、あの牧師じゃないのか? できてるんだろう?」
「ペン、失礼ですよ」
「フン。事実を確認することの何が失礼なんだ?」
不遜な態度を崩さないペンに、バージェスは焦る。ナナシが嫌な気分にならないようにと、ペンと彼女の間に入る。
ミゲルがこの場にいれば流石のペンも強く出られないだろうが、この場にいない人を頼るわけにはいかないとバージェスは気を引き締める。
だがナナシは微笑んだままペンを見ていた。その目は全てを見透かすように澄んでいる。
「ありがとうバージェス」
ナナシはバージェスに向かって礼を言うと、改めてペンに向き直る。
「確かにミゲルに気に入られたい気持ちはゼロじゃないよ。お金で好意を買うわけじゃないけど、感謝の気持ちはもらえるもの」
「腕細っ子は随分正直ものだな」
「でもそれだけじゃないのも本当だよ。教会の活動費はほとんど寄付で賄っているし。巡り巡って自分のためにもなることをしているだけ。私が持っていても貯まる一方だしね」
最後の言葉は冗談のような口調だったが、本当のことなのだろう。彼女は倹約家で、贅沢をしている姿をバージェスは一度も見たことがなかった。
その姿は、バージェスが尊敬する牧師の姿と重なった。
ペンはナナシの言葉に白けたような顔をして「何をサボってるバージェス。早く素振りに戻れ」と手で追い払うようなジェスチャーをした。
「二人ともがんばって!」
ナナシの明るい声援を受けて、バージェスは胸に暖かなものが宿るのを感じた。
きっとペンもそうなのだろうと思ったが、バージェスから見た横顔は、苦いものでも噛んだように歪んで見えた。
それは一見すると、凶悪な笑顔のようでもあった。
❇︎ ❇︎ ❇︎
かつん、と音を立てて地下に降り立つと、ペンは先客を見つける。お目当ての人物を見つけて、思わず口角が上がった。
「精が出るな」
「……何をしにきた」
「様子を見にきただけだ。それにしてもあんたは上手くやってるようだな」
先客───ミゲルはペンの言葉によくない響きを感じた。直感的になんのことを言われた察するが、ペンと話す気にはならずとぼける。
「なんの話だ。それよりも用がないのならここにはあまり近づかない方がいい」
「おいおい。オレの方が関係者なんだぜ。むしろあんたのほうが部外者だ。立場を弁えろ───と言いたいところだが、それよりもさっきのオレの言葉に答えてもらおうか」
「なんの話か理解できない」
「嘘をつくな。わかってるだろう、あんたのビルダーの話だ」
「……彼女が、なんだ」
ミゲルは警戒で声を固くする。その様子にペンは獰猛に歯を見せて笑う。
「メイソンが引退するってなった時はどうするかと思ったが、後任は決まったようだな。それも奴よりもずっと役に立ちそうだ」
「……」
「だが、少し話して思ったが、あれは素直にオレらに協力しないだろうな。なんなら街を守るために邪魔をしてきそうだ。でもそれもあんたがいれば話は変わるだろうがな」
「……計画は最終段階に入っている。今更新しいビルダーは不要だ。だからメイソンが街を出ることを許したのだ」
年老いた彼は解放を求めていた。それは、いまさら金の力で押し留められるようなものではなかった。拒否すれば、彼はより一層無気力になるのは目に見えていた。どちらにせよ、彼の役目は終わったのだ。
そんなメイソンはミゲルにとって、まるで未来の自分のように思えてならなかった。
ミゲルの中にある熱意も、いつかは冷めていくのかもしれない。親兄弟の顔を、時の中で忘れていったように、いつかすべてを諦める日が来るのだろう。だかそれは今ではない。
「オレが悪者を買って出てもいい。あんたを人質にとったふりをして、言うことを聞かないと酷い目に合わせるぞ! ってな、どうだ? なかなかサマになってるだろう?」
「……必要になればそうすればいい。今はことを荒立てるべきではない」
ミゲルはペンと言葉を交わすことに疲れを感じ始めていた。どこまでが本気なのか読めないペンは、正直ミゲルの手に余った。だが、我儘を言える立場でもない。どんな物も使いようだ。
それにミゲルは、彼女をこの件に関わらせる気はなかった。きっと彼女なら心を込めて話せば理解してくれるだろうが、心優しい彼女を無駄に傷つける必要はないと考えていた。
彼女が知るのは全てが終わった後でいい。ミゲルはまだ彼女の話を続けたがるペンを無視して、その場を後にした。
残されたペンは水を吸い上げる装置を見上げて笑う。
「まるでおままごとみたいな連中だな」
可愛らしいことだ、そう吐き捨ててペンはこの任務の終わりに思いを馳せる。
故郷の英雄になる───その時が待ち遠しいペンだった。
終わり
