第一章 冬の国
朝の雪は、昨夜の祭りが夢だったかのように静かだった。
静寂の中で繰り返し思い出すのはゆあんくんと2人で作った雪灯籠の灯りと、重なった手の温もり……。
私は初めて名がつけられない感情に戸惑いなかなか寝付けなかった。
冬の王国ニヴェリアは白銀の光に包まれ、屋根に積もった雪が朝日にきらめいている。
私は窓辺からその景色を眺めながら、小さく息を吐いた。
「今日も綺麗だなぁ……。」
その時だった。遠くから、城門を開く重々しい音が響いた。
ゴォォン――。
続いて聞こえたのは、見張りの兵士の声。
「春の王国より使者、到着!」
思わず身を乗り出して城門を凝視する。
春の国から?誰?私は慌てて廊下へ飛び出した。
城門には、女王陛下のるな、冬の近衛騎士団長のシヴァさん、冬の魔法使いのゆあんくんが並んでいた。
私はその少し後ろへ立つ。
白銀の門がゆっくりと開く。
朝日に照らされた雪道を、一頭の白馬がゆっくり歩いてくる。
その背に跨る騎士を見た瞬間、思わず息を呑んだ。
深い若葉色のマントが風を受けてふわりと揺れる。
肩には春王国近衛騎士団の紋章――大樹を囲む四枚の花弁が、銀糸で精巧に刺繍されていた。
鎧は磨き上げられた白銀。
冬の騎士たちの重厚な鎧とは違い、胸当てや肩当てには蔦や花の意匠が繊細に彫り込まれ、春風のような軽やかさを感じさせる。
腰には細身の長剣。
柄には翡翠色の宝石が埋め込まれ、鞘には幾重にも絡む若葉の模様。
背中には白い外套が流れ、その裾には淡い桜色の刺繍が施されていた。
騎士というより、一枚の絵画のような姿だった。
馬から静かに降り立った青年は、真っ直ぐ女王へ歩み寄る。
そして胸に手を当て、美しく一礼した。
「春の王国近衛騎士団長、ヒロです。」
その落ち着いた声は、春風のように穏やかだった。
「四季王じゃぱぱ陛下のお言葉をお届けに参りました。」
るなが優しく微笑む。
「遠路はるばる、ありがとうございます。」
「……ヒロくん。ヒロくん!」
気付けば走り出していた。
青年がゆっくり顔を上げる。
視線が交わるとその表情が、一瞬で柔らかく崩れた。
「えとさん。久しぶり!」
勢いよく駆け寄った私は、そのままヒロくんの前で立ち止まる。みんながいなかったら抱きつく勢いだ。
「元気だった?」
「うん!」
「ちゃんとご飯食べてる?」
「食べてる!」
「……泣いてない?」
「もう子どもじゃないもん!」
思わず頬を膨らませると、ヒロくんは優しく笑った。
「そうだったね。」
そう言いながら、昔と変わらない手つきで私の頭をそっと撫でる。ふっと、ヒロくんの袖口から春の香りがしたきがする。
春の国を経ってからまだそこまで月日が経っていないはずなのに懐かしい香に思わず私も笑みがもれる。
「でも、少し痩せたかな。」
「えぇ?」
「頑張りすぎなんじゃない?」
ヒロくんほその一言で、胸の奥がじんわり温かくなった。
春の国にいた頃と何も変わらない。
ヒロくんはいつだって、私の小さな変化に気付いてくれる。
出発の時は別の重要任務で春の国を空けていて会えなかったのだ。
「……会えてよかった。」
小さくつぶやくと、ヒロくんは困ったように笑った。
「俺も。会いたかったよ」
◇ ◇ ◇
少し離れた場所で、俺はその様子を静かに見ていた。
なんとなく静かに視線を落とす。
ヒロという王子様みたいに整った容姿の春の近衛騎士団長に頭を撫でられて、安心したように笑うえとさん。
うりの時にも感じた自分はまだ見たことのない表情だった。
胸の奥が、少しだけ締めつけられる。
えとさんの周りには、こんなふうに安心して甘えられる人が多くいるんだなと、そんな小さな寂しさだった。
◇ ◇ ◇
応接室へ案内されると、ヒロくんは懐から一通の封書を取り出した。
「これは正式な親書です。」
るな女王が受け取る。
「そして、もう一つ。」
ヒロくんは真っ直ぐゆあんくんと私を見つめた。
「これは、じゃぱぱ陛下からの伝言です。」
部屋の空気が静まる。
「先日、世界樹の神殿で新たな神託がありました。」
その場にいた全員が息をのむ。
「世界樹はこう告げたそうです。」
ヒロくんは静かに言葉を紡ぐ。
「雪の中に春が根を張る時、封じられた記憶は目を覚ます。」
その言葉に、るな女王の表情がわずかに揺れる。
シヴァさんも静かに目を伏せた。
ヒロくんは続ける。
「じゃぱぱ陛下は、この異変を止める鍵は、——互いを知ることにある、と。」
窓の外では、一枚の桜の花びらが雪に舞い降りた。
私がこの言葉の意味を知るのはまだ少し先のことだった。
静寂の中で繰り返し思い出すのはゆあんくんと2人で作った雪灯籠の灯りと、重なった手の温もり……。
私は初めて名がつけられない感情に戸惑いなかなか寝付けなかった。
冬の王国ニヴェリアは白銀の光に包まれ、屋根に積もった雪が朝日にきらめいている。
私は窓辺からその景色を眺めながら、小さく息を吐いた。
「今日も綺麗だなぁ……。」
その時だった。遠くから、城門を開く重々しい音が響いた。
ゴォォン――。
続いて聞こえたのは、見張りの兵士の声。
「春の王国より使者、到着!」
思わず身を乗り出して城門を凝視する。
春の国から?誰?私は慌てて廊下へ飛び出した。
城門には、女王陛下のるな、冬の近衛騎士団長のシヴァさん、冬の魔法使いのゆあんくんが並んでいた。
私はその少し後ろへ立つ。
白銀の門がゆっくりと開く。
朝日に照らされた雪道を、一頭の白馬がゆっくり歩いてくる。
その背に跨る騎士を見た瞬間、思わず息を呑んだ。
深い若葉色のマントが風を受けてふわりと揺れる。
肩には春王国近衛騎士団の紋章――大樹を囲む四枚の花弁が、銀糸で精巧に刺繍されていた。
鎧は磨き上げられた白銀。
冬の騎士たちの重厚な鎧とは違い、胸当てや肩当てには蔦や花の意匠が繊細に彫り込まれ、春風のような軽やかさを感じさせる。
腰には細身の長剣。
柄には翡翠色の宝石が埋め込まれ、鞘には幾重にも絡む若葉の模様。
背中には白い外套が流れ、その裾には淡い桜色の刺繍が施されていた。
騎士というより、一枚の絵画のような姿だった。
馬から静かに降り立った青年は、真っ直ぐ女王へ歩み寄る。
そして胸に手を当て、美しく一礼した。
「春の王国近衛騎士団長、ヒロです。」
その落ち着いた声は、春風のように穏やかだった。
「四季王じゃぱぱ陛下のお言葉をお届けに参りました。」
るなが優しく微笑む。
「遠路はるばる、ありがとうございます。」
「……ヒロくん。ヒロくん!」
気付けば走り出していた。
青年がゆっくり顔を上げる。
視線が交わるとその表情が、一瞬で柔らかく崩れた。
「えとさん。久しぶり!」
勢いよく駆け寄った私は、そのままヒロくんの前で立ち止まる。みんながいなかったら抱きつく勢いだ。
「元気だった?」
「うん!」
「ちゃんとご飯食べてる?」
「食べてる!」
「……泣いてない?」
「もう子どもじゃないもん!」
思わず頬を膨らませると、ヒロくんは優しく笑った。
「そうだったね。」
そう言いながら、昔と変わらない手つきで私の頭をそっと撫でる。ふっと、ヒロくんの袖口から春の香りがしたきがする。
春の国を経ってからまだそこまで月日が経っていないはずなのに懐かしい香に思わず私も笑みがもれる。
「でも、少し痩せたかな。」
「えぇ?」
「頑張りすぎなんじゃない?」
ヒロくんほその一言で、胸の奥がじんわり温かくなった。
春の国にいた頃と何も変わらない。
ヒロくんはいつだって、私の小さな変化に気付いてくれる。
出発の時は別の重要任務で春の国を空けていて会えなかったのだ。
「……会えてよかった。」
小さくつぶやくと、ヒロくんは困ったように笑った。
「俺も。会いたかったよ」
◇ ◇ ◇
少し離れた場所で、俺はその様子を静かに見ていた。
なんとなく静かに視線を落とす。
ヒロという王子様みたいに整った容姿の春の近衛騎士団長に頭を撫でられて、安心したように笑うえとさん。
うりの時にも感じた自分はまだ見たことのない表情だった。
胸の奥が、少しだけ締めつけられる。
えとさんの周りには、こんなふうに安心して甘えられる人が多くいるんだなと、そんな小さな寂しさだった。
◇ ◇ ◇
応接室へ案内されると、ヒロくんは懐から一通の封書を取り出した。
「これは正式な親書です。」
るな女王が受け取る。
「そして、もう一つ。」
ヒロくんは真っ直ぐゆあんくんと私を見つめた。
「これは、じゃぱぱ陛下からの伝言です。」
部屋の空気が静まる。
「先日、世界樹の神殿で新たな神託がありました。」
その場にいた全員が息をのむ。
「世界樹はこう告げたそうです。」
ヒロくんは静かに言葉を紡ぐ。
「雪の中に春が根を張る時、封じられた記憶は目を覚ます。」
その言葉に、るな女王の表情がわずかに揺れる。
シヴァさんも静かに目を伏せた。
ヒロくんは続ける。
「じゃぱぱ陛下は、この異変を止める鍵は、——互いを知ることにある、と。」
窓の外では、一枚の桜の花びらが雪に舞い降りた。
私がこの言葉の意味を知るのはまだ少し先のことだった。
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