エルデナ王国物語


―――じゃぱぱ王との謁見のあと、レッド・アイのメンバーはエルデナ城の晩餐に舌鼓をうち、客室に通された。

 謁見中若干取り乱していた、のあさんもすっかり普段の調子に戻っていた。
じゃぱぱ王とどんな話をしたのか分からないけど
じゃぱぱ王の名前を出すとすこし不機嫌そうに口をとがらせて黙ってしまうので私は深く追及しないことにした。
それに、私には明朝の出発する前にやるべきことがいくつか残っていた。

「のあさん。いまからなおきりさんのところへいってくるね。だから先に休んでいて」

 のあさんはお茶請けにと宮廷女中さんからもらったマカロンを頬張っていた。

「こんな夜に?1人で大丈夫ですか?」

「うん。なおきりさんにお願いしていたことがあってそれを受け取りにいきたくてさ。
 明日の朝だとバタバタしちゃうかなって。」

「そうですか、エルデナ城は国一番夜が安全ですがお気をつけて
 あと明日からゆっくり休むこともできなくなりますから早く休んでくださいね。」

 「うん。わかった」
 

そう答えて、私は王城内にある、なおきりさんの研究室へと向った。



なおきりさんはエルデナ大国では有名な学者だった。
特に錬金術のと薬学の研究は国の発展に大きく貢献していて冒険者登録はしていないけど
じゃぱぱ王とは昔から親交があり、じゃぱぱ王が即位されてからはじゃぱぱの希望もあって王城に研究室兼居住室を置き日夜研究を重ねていた。
異なる素材を掛け合わせることによって生まれる新たなレシピの開発や即効性のある回復薬は冒険者の討伐活動へ多大なる貢献をしている人なのだ。
 


 ――コンコン。



 「はい。どうぞ」
 
扉をノックすると部屋の中からなおきりさんの声が聞こえた。
私は扉を開けて薄暗い研究室の中へと一歩踏み入れた。
研究室は色とりどりの瓶や試薬が並ぶ棚が、壁一面を覆っている。
暗い木製の机には、古びた書物が散乱し、小さな窓から差し込む月明かりが、青い液体を満たしたフラスコや、色とりどりの粉末が入った小瓶が机の上に置かれていた。

 「久しぶり。よくきたね」

 「久しぶりです。例の物を受け取りに来たよ。」

私は唯一来客が座れそうなスペースであるソファーのほうへと向かい座った。
なおきりさんは戸棚のほうへ向かい何かガチャガチャと音を立て手にもった後一歩遅れて向かい合わせに座った。
2人の間にあるアカシアの木で作られたローテーブルの上にはさまざまなハーブや植物が置いてある。
来客はめったにないことなのだろう。


「ほら、頼まれていたフルポーションだよ」

なおきりさんは手に持っていた小瓶の数本をローテーブルの上に置いた。

「さっすが!なおきりさん、ありがとう」

「これを作るための材料を提供してくれたのは、君たちだからね。今度の討伐に少しでも役立つことを願っているよ。
 もちろん使うことがない状況であることが望ましいけどね。」


静かな声でなおきりさんは言った。エンドラ討伐のことも知っているようだ。それはそうか、ここは王城でじゃぱぱ王となおきりさんは常に国の発展のために情報を交換しているはずだ。


私は青色透明の液体入りの小瓶を数本受け取り、自分のポーチにしまった。
 
 
「それにしても、こうなることがわかっていたみたいなタイミングの依頼だったね」

「えっ……と……。」


 
なおきりさんはふっと笑みを漏らしていった。


 
「えとさんはね、もっとわがままになってもいいと思うよ。大丈夫、みんな君が頑張っていることはわかっているから。」

「えっ?」


なおきりさんに夢のことはいっていなかった。
そしてそれまでの会話の流れを断ち切るようななおきりさんから発せられた言葉の意味が分かずどう返事をしたらいいのか困った

 
「気をつけて行っておいで。帰ってきたらとびきりのハーブティーをご馳走するからね」


この話を今ここで深くするつもりはないよというように落ち着いた声でなおきりさんはいった。
なおきりさんという人はこういう人だ、会話がポンポンと切り替わる。
傍からみると会話は成立していないけど相手が気づいていないことも見透かしているからこのようなやりとりになるのだと
分かってきたのも最近だった。


「うん。……いってきます。」

 

そう言って私はなおきりさんの研究室を後にした。

あとは、最近完成した『あれ』をメンバーに付与するだけだ。
魔法の発現までに少し時間がかかるので誰にも気づかれない場所で行いたい。

私は王城のなかで人目に付きづらい場所を探すことにした。

  





 
王城での晩餐のあと俺は明日からの討伐のこと、エンダードラゴンのことを考えると眠れそうになかったので
剣を片手に部屋を出て王城内の中庭で少し体を動かしていた。 
もう夜なので王城に勤めている人たちもほとんど城内にいるため人の姿はなく静寂の中ランプの明かりだけで剣を振っていたら
少しずつ雑念を払えてきた気がする。


――ザッ


そんな静寂の中、誰かが歩いている気配と音がした。
俺は剣を鞘に納めて音のほうへと向かうと護衛も付けに中庭を歩いている『るな姫』を見つけた。
 
 るな姫は年の離れたじゃぱぱ王の妹だ。
 俺、うり、えとさんがまだ幼いころ、俺たちは王城でそれぞれ剣術や武術、魔法などをそれぞれの師匠から指導してもらうために出入りをしていた。
そのころ、るな姫ともよく合い、休憩時間には遊んでいた。相手はお姫様で身分の違いは子供ながらに分かっていたが4人と過ごすときには身分に関係なく接してほしいという、るな姫の希望もあって妹のように接し可愛がっていた。

るな姫はほかの人と会話がワンテンポずれているところがあった。
そして、なおきりさんの研究室に入り浸って勉強をするほどの勤勉家でもあった。
当の本人はそれを「るなは天才ですから」というものだから俺たちはいつも笑って聞いていた。


 
――えとさんも、るな姫をとても可愛がっていたな。


幼いころ、うりがるな姫にいたずらをして、代わりにえとさんが怒ってうりを追いかけまわしていたのを思い出し思わず笑みがこぼれる。

ここは城の中、しっかりと湧き潰しがしてあるからたとえ夜でも魔物がスポーンすることはないと思うけど、護衛もなくどこかへと向かうるな姫の様子が気になり俺は後をつけていくことにした。
 


るな姫は城内に作られた神殿の中へ入っていった。
神殿の中央に佇み、柔らかなろうそくの光に包まれた祭壇の前にひざまずいている。
るな姫の長い水色の髪は、神殿の静けさの中で優雅に流れ、背後の石壁に映る影を柔らかく揺らしている。
ドレスは、わずかに差し込む月の光を反射していた。

るな姫の手の指は、顔の前で組まれており、顔には、深い祈りの表情を見せていた。
長い祈りの後、るな姫はゆっくりと組まれた指をほどき立ち上がり月光の光を浴びるように天井を見上げていた。

 
「お姫様。いくら城内は安全とはいえ、夜の一人歩きは危ないですよ。」


俺はるな姫に声をかけた。
るな姫は突然声を掛けられたのでびくっと肩を震わせたが振り向くと
そこにいたのが俺だったことがわかると安心したようにほほ笑んだ。

  
「ゆあんくん…。姫はやめてください。それを咎める人がいないところでは、昔みたいに名前で呼んでください」

「何をしていたの?」

「レッド・アイの……みんなのこれからの討伐が無事に終わるよう祈願を……。」

「そっか……。ありがとな。」

「わたしはのお兄様たちや、ゆあんくん達みたいに国の為に戦うこともできないから……
 みんなの無事を祈ることしかできないから……。」


謁見の間で久しぶりに顔を合わせたときにはあんなにも明るく振舞っていたのに
目の前のるなは今にも消えそうな声で答えた。


 「歴代の勇者一行は命がけでエルデナ大国の国民を守ってくれました
 お兄様たちのパーティもそうです。今の平和な時代は皆さんのおかげなんです。
 でも、お兄様たちのパーティの勇者…のあさんの最愛の人はその平和のために命を落としています……。」


るなの声はだんだんと震えてきた。


「私は名ばかりの姫で、何も力になれなくて申し訳ないです……」

「晩餐でるなは頑張っているって、じゃぱぱ王いってたよ。」

「そんな、……少しお手伝いをしているだけです。」

「誰にでもできることじゃないよ。」


「………もし、もしもですよ?
ゆあんくん達も同じようなことになったらと思うと……るな、怖くて。
ゆあんくん達と永遠のお別れなんて絶対嫌……
エンダードラゴンを討伐できなくてもいいです、お願いだからみんな無事で帰ってきて。」
 

 るなの大きな瞳から一筋の涙が頬を伝う。
 月光に照らされて星みたいだな…。なんて俺はぼんやりと考えていた。


エンダードラゴンの討伐は歴代の勇者たちもなしえなかったことだ。いくら難易度の高い討伐を経験してきた俺たちだって『絶対大丈夫』なんて言い切れない。

 数歩歩み寄って、俺はるなとの距離を縮め目の前にたった。
 

「ごめん。俺さ、ハンカチとか持ってなくて。」


 
 こんなところ、誰かに見られたら不敬だと言われそうだけど俺は、るなの頭をやさしく撫でたんだ。
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