エルデナ王国物語
古びた石レンガの建物が街の中心に佇んでいた。
それは、冒険者たちの集う『英雄のギルド』と呼ばれる場所で
重厚な木製の扉を開けると、内側からは賑やかな声と共に、微かな酒の香りが漂ってきた。
ギルドのホールは、壁一面に掲げられた数々の武具や戦績が、過去の冒険者たちの名声を物語っていた。
テーブルには、剣士や魔法使い、レンジャー(弓使い)、アサシン(盗賊)といった多種多様な冒険者たちが集い、互いの武勇伝を語り合っている。
エルデナでは冒険者の能力がレベル分けされている。
オーバーワールドで発生する魔物討伐・素材集めはC級
ネザーで発生する魔物討伐・素材集めはB級
ジ・エンドで発生する魔物討伐・素材集めはA級
伝説級の魔物、エルダーガーディアンやウォーデンなどの討伐はS級
とレベルによって地位と名声、報酬は異なっているのだ。
ギルドの壁には任務を掲示する掲示板があり、そこには新たな冒険の依頼がぎっしりと貼られていた。
ギルドは冒険から帰還した冒険者達が休息し次の冒険に向けて準備をし、
更なる高みを目指すべく次の任務を探す場所なので常に冒険者たちがいた。
そんな中、俺はダークオークで作られたカウンターの定位置に座ってジョッキの中のオレンジ色の液体をちびちびと飲んでいた。
ギルドの中で飲めるアルコールが入っていない飲み物といったらこれくらいで、甘くもなく抜けかけの炭酸が舌の上ではじけるこれは、おいしいのかまずいのかよくわからないものだった。
「ゆあん、お前なーに、しけた面しとんねん。もっとシャキッとしいや」
そう声をかけてきた金髪、碧眼、そして左目に黒い眼帯をしている一見怖そうな見た目の男はこのエルデナ大国の冒険者を束ねるギルドマスターの『たつや』だ。
前の勇者一行のレンジャーだったとかで遠距離攻撃を得意としながらチームを支える役だったことでも有名で、ここにいる普通の冒険者であれば遠い存在、過去の英雄だが俺は「たっつん」という愛称で呼ばせてもらっていた。
「たっつーん。俺だって先の討伐から帰ってきてここでしばらく足止め食っているわけ。
もう、何日経ったのよっ…って感じ。」
普段なら討伐内容によってはパーティを組んでる俺だけど、ここ最近はソロ討伐の活動がメインだった。
幼なじみで、俺と同じパーティの魔法使いに頼まれた、そこら辺の冒険者じゃ入手することが難しい鉱石やら薬草やら素材をとってくるというものだった。「私たちの活動にも大切なものになるんだからよろしくね!」とウインクする彼女に対して一言二言、無駄なあがきはしてみたものの、いつも最後には彼女希望を叶えてしまうのは、惚れた弱みなのだろうか…。
何に使われるのか分からない、頼まれた素材達は依頼者に言われた通り、錬金術と薬学に長けている『なおきりさん』に預けてきた。
単身ネザーでの活動は俺にとって難易度が高いものではないけれど、ギルドに帰ってきた俺を見るなりたっつんから休息命令を言い渡されギルド内の宿泊施設で世話になっているってわけ。
「まぁ、休めるときに休んどきや。今朝、ここにもじゃぱぱからの勅命を伝える早馬が来たし
もうすぐお仲間も揃うやろ。今はこれでも摘まんどき」
王様を呼び捨てにするのは元同じパーティだからだろうけど、相変わらずすげーな。と思う。
小さい頃寝る前に親にねだって聞かせてもらった勇者の冒険物語に登場してくる、勇者やじゃぱぱ・たっつん・もふくん・のあさん達の旅物語は子供ながらにワクワクしたのを今でも鮮明に覚えている。
ただ、じゃぱぱ王の勅命ってことはこのギルドの壁にも貼れない様な高難易度の討伐な訳で、今度はどんなことさせられるのかなと憂鬱な気持ちになるのも正直なところだ。もやもやとそんなことを考えていたら、たっつんはニカっと少年のような笑みを浮かべて俺の大好物のチキンの香草焼きを皿に載せて出してくれた。
「たっつん、大好きー」
「きしょいわ」
ははっ、と笑うと忙しいたっつんは別の冒険者へ討伐内容の説明をする為に奥に引っ込んでしまった。
俺は、皿のチキンをつまんで口の中に放り込み鶏肉をほおばった。俺好みの香草で味付けされたジューシーなチキンがたまらなく美味い。
――カラン、カラン
ギルドの扉に備え付けているベルが鳴る。人の出入りを知らせる音だ。
忙しなく人の出入りがあるのだからあんなベル外せばいいのにと思ったこともあったけれど、慣れてくるとあまり気にならなくなのが不思議だ。
普段なら気にならないベルが鳴った後、ギルド内のざわつきが一瞬止んだ。
好奇の対象へと送る口笛、そして「あれって、レッド・アイの…」という囁きが聞こえてきたので俺は扉のほうへと目を向けた。
視線の先には、黒いローブを身に纏ったオレンジのストレートロングの女性とエルフ特有の自然色をベースとしたフワフワ生地のワンピースを身に纏ったピンクの髪の女性2人組が立っていたのである。
シンプルな衣装でありながらも、誰の目も惹きつける2人組はこのむさ苦しいギルドでは違和感を感じるほどの美女と美少女だった。そして2人は誰かを探す様にあたりを見回している。俺はカウンター席から立ち上がり手を上げ2人に声をかけた。
「おーい!のあさーん。えとさーん。こっち!!」
俺の呼びかけに気づくと2人は笑みを浮かべながら俺が立っているカウンター傍まできてくれた。
「ゆあんくん…お久しぶりですね」
口に何かを含んでいたのか、のあさんは少し籠った声で挨拶をするとごっくんと飲み込んだ。
ほんのりバニラとチョコレートの匂いがする。よく食べているクッキーかな?
「うん。久しぶり。数ヶ月ぶり?のあさんは相変わらず……だね。」
「相変わらずってどういう意味ですか?」
なにか悪い意味がふくまれていると思ったのか少し頬を膨らませて怒ったふりをしている。
えとさんとのあさんがギルドに入ってきたことに気づいた、たっつんもこちらを見ている状況でこれは、まずいと思った。
俺がまだ剣士の端くれだったころ、のあさんの揶揄い方を間違え、側にいたじゃぱぱ王とたっつんからボコボコにされたことを思い出したからだ……。
「いやぁ、相変わらずお綺麗ですね。という意味ですよ」
「ふう〜ん、まあいいでしょう」
のあさんとの挨拶を終えるとのあさんはたっつんの方へ向かっていってしまった。
そんな俺たちのやりとりを傍で見ていたえとさんがクスクス笑っている。
「えとさんも。久しぶり」
「うん。久しぶり。ゆあんくんも元気だった?」
「あーー、うん。誰かさんの依頼を1人でこなすのが大変で体がバッキバキかな……。」
「えーー、勇者様なら余裕っしょ?」
えとさんはイタズラっぽく笑った。
そう、俺は周囲から勇者と呼ばれている。生まれつきもっている赤眼がその証拠ということで物心ついたときから親元を離れてじゃぱぱ王やたっつんに稽古をつけてもらっていた。はじめはなんで俺が…と思うこともあったけど、歴代の勇者達が守ってきたこのエルデナでの暮らしや、ここで生活をしている人たちを守ることの大切さだとか、親に聞かせてもらっていた勇者達の冒険物語だけではわからない教えを聞いて次第に心にも体にも使命感が染みついてきた。
世界の運命が俺にかかっていると思われるのも、言われるのも俺にとってはプレッシャーだけど、こうやって揶揄いあえる仲間の笑顔を守るために使える力なら悪くないのかもしれないと思う様になってきたところだ。
「ごめんね。ありがと、なおきりさんからも連絡があったよ。『こんなに早く貴重な素材がいい状態で手に入れることができるのは
ゆあんくんしかできないことだね』って」
なんだろう、心がむずがゆくなるのは…エルデナ大国では知らない人はいない錬金術 兼 薬師のなおきりさんから褒められたからなのか、えとさんからお礼を言われたからなのか…。俺は照れ臭くなって
「まぁ、俺くらいの冒険者になりますと、朝飯前ですよ」
冗談交じりでいった。するとまたクスクスと鈴が鳴るようにえとさんが笑うから頑張ってよかったな。と思った。
出会ったばかりのえとさんは魔法使いの師匠である賢者の『もふくん』に手を引かれる小さな大人しい女の子だった。
それが今ではえとさんは俺と同じく国に数人しかいないS級ランクの冒険者(魔法使い)だ。
小さいころに両親をはやり病で亡くして心を閉ざしていたえとさんは俺と同じ赤みがかった瞳と魔法の才能を見出され生活面ではのあさんに、魔法使いとしてはもふくんに支えてもらっていた。心と体の成長と共に言葉数は増え、笑うことも増えてきた。
今ではその笑顔はまるで一輪のヒマワリが咲いたようにあたりを照らし出すものだから、周囲の人たちを…特に男どもを惹きつけている。今だってそう。ギルドの中にはえとさんに惹かれているヤツが沢山いて俺たちのやり取りを気にしていることを俺は知っている。
「あとこれ。」
「ん?なに?」
俺はえとさんに向かって拳を突き出した。
次会えたら渡そうと思っていたものを握りしめている。
これを作るのに協力してもらったシヴァさんには「俺は装備や武器が専門なわけ。こんなチマチマしたもの作ったのは初めてだから捨てられても知らねーぞ」と言われたけど俺が想像していた以上の物を作ってくれたのだからシヴァさんにはちゃんとお礼をしなければと思っている。
不思議そうな表情でえとさんが俺の拳の下に両手で器を作る。
俺はその上で拳を広げると彼女の白くて小さな手のなかでコロンとそれは転がった。
「えっ……これピアス?」
「うん。いつだったか、無くしたっていっていたから、次に気に入るものが見つかるまでどうかなと思って……。
それに俺たちのパーティ名『レッド・アイ』だからさ。」
それは、真っ赤な鉱石レッドストーンを加工して作ってもらったピアスだった。レッドストーンは特別希少な鉱石じゃないけど
俺の赤眼と同じ、赤色の物を身に着けてもらいたいなと思ってシヴァさんにお願いしたものだった。それに、えとさんのオレンジ色の髪の毛と赤みがかった瞳にも似合うんじゃないかなと思っていたのだ。
ただ、俺の本心をそのまま伝えるのは恥ずかしいのでパーティ名を理由に渡してみる。
えとさんの手の上に転がったそれはえとさんの魔力に反応するようにうっすらと赤い光を灯した。
「えーー超うれしい、綺麗、ありがと!」
えとさんはピアスを親指と人差し指でつまんで嬉しそうに眺めている。
「折角だからつけて見せてくれない?」
えとさんは、小さく「うん。」と答えると魔法の呪文を唱えて目の前に鏡を出した。いつ見ても魔法ってすごい。
えとさんは慣れた手つきでピアスをつけようとしてくれるのだが長い髪がピアスホール付近で邪魔をして少し手間取っているようだった。
俺はえとさんの後ろに回って、えとさんの髪を手で束ねるようにしてもってあげることにした。
ただ、この無意識の俺の行動が自分の首を絞めることになるとは思っていなくて…後悔した。
だって、束ね上げた髪の下から現れた色白の首筋やうなじがこんなにも色っぽいものだとは思わなかったからだ。
直視できない…
俺は顔が赤く熱くなっていくのを感じたので思わずえとさんからも鏡からも視線を逸らした。
視線の先には、のあさんがカウンターの一席に座ってたっつん特製のケーキをホールで頬張っている。
たっつん、ケーキなんていつ準備していたんだろう……とこの顔の火照りを落ち着かせるように意識を逸らせることに集中したのだった。
それは、冒険者たちの集う『英雄のギルド』と呼ばれる場所で
重厚な木製の扉を開けると、内側からは賑やかな声と共に、微かな酒の香りが漂ってきた。
ギルドのホールは、壁一面に掲げられた数々の武具や戦績が、過去の冒険者たちの名声を物語っていた。
テーブルには、剣士や魔法使い、レンジャー(弓使い)、アサシン(盗賊)といった多種多様な冒険者たちが集い、互いの武勇伝を語り合っている。
エルデナでは冒険者の能力がレベル分けされている。
オーバーワールドで発生する魔物討伐・素材集めはC級
ネザーで発生する魔物討伐・素材集めはB級
ジ・エンドで発生する魔物討伐・素材集めはA級
伝説級の魔物、エルダーガーディアンやウォーデンなどの討伐はS級
とレベルによって地位と名声、報酬は異なっているのだ。
ギルドの壁には任務を掲示する掲示板があり、そこには新たな冒険の依頼がぎっしりと貼られていた。
ギルドは冒険から帰還した冒険者達が休息し次の冒険に向けて準備をし、
更なる高みを目指すべく次の任務を探す場所なので常に冒険者たちがいた。
そんな中、俺はダークオークで作られたカウンターの定位置に座ってジョッキの中のオレンジ色の液体をちびちびと飲んでいた。
ギルドの中で飲めるアルコールが入っていない飲み物といったらこれくらいで、甘くもなく抜けかけの炭酸が舌の上ではじけるこれは、おいしいのかまずいのかよくわからないものだった。
「ゆあん、お前なーに、しけた面しとんねん。もっとシャキッとしいや」
そう声をかけてきた金髪、碧眼、そして左目に黒い眼帯をしている一見怖そうな見た目の男はこのエルデナ大国の冒険者を束ねるギルドマスターの『たつや』だ。
前の勇者一行のレンジャーだったとかで遠距離攻撃を得意としながらチームを支える役だったことでも有名で、ここにいる普通の冒険者であれば遠い存在、過去の英雄だが俺は「たっつん」という愛称で呼ばせてもらっていた。
「たっつーん。俺だって先の討伐から帰ってきてここでしばらく足止め食っているわけ。
もう、何日経ったのよっ…って感じ。」
普段なら討伐内容によってはパーティを組んでる俺だけど、ここ最近はソロ討伐の活動がメインだった。
幼なじみで、俺と同じパーティの魔法使いに頼まれた、そこら辺の冒険者じゃ入手することが難しい鉱石やら薬草やら素材をとってくるというものだった。「私たちの活動にも大切なものになるんだからよろしくね!」とウインクする彼女に対して一言二言、無駄なあがきはしてみたものの、いつも最後には彼女希望を叶えてしまうのは、惚れた弱みなのだろうか…。
何に使われるのか分からない、頼まれた素材達は依頼者に言われた通り、錬金術と薬学に長けている『なおきりさん』に預けてきた。
単身ネザーでの活動は俺にとって難易度が高いものではないけれど、ギルドに帰ってきた俺を見るなりたっつんから休息命令を言い渡されギルド内の宿泊施設で世話になっているってわけ。
「まぁ、休めるときに休んどきや。今朝、ここにもじゃぱぱからの勅命を伝える早馬が来たし
もうすぐお仲間も揃うやろ。今はこれでも摘まんどき」
王様を呼び捨てにするのは元同じパーティだからだろうけど、相変わらずすげーな。と思う。
小さい頃寝る前に親にねだって聞かせてもらった勇者の冒険物語に登場してくる、勇者やじゃぱぱ・たっつん・もふくん・のあさん達の旅物語は子供ながらにワクワクしたのを今でも鮮明に覚えている。
ただ、じゃぱぱ王の勅命ってことはこのギルドの壁にも貼れない様な高難易度の討伐な訳で、今度はどんなことさせられるのかなと憂鬱な気持ちになるのも正直なところだ。もやもやとそんなことを考えていたら、たっつんはニカっと少年のような笑みを浮かべて俺の大好物のチキンの香草焼きを皿に載せて出してくれた。
「たっつん、大好きー」
「きしょいわ」
ははっ、と笑うと忙しいたっつんは別の冒険者へ討伐内容の説明をする為に奥に引っ込んでしまった。
俺は、皿のチキンをつまんで口の中に放り込み鶏肉をほおばった。俺好みの香草で味付けされたジューシーなチキンがたまらなく美味い。
――カラン、カラン
ギルドの扉に備え付けているベルが鳴る。人の出入りを知らせる音だ。
忙しなく人の出入りがあるのだからあんなベル外せばいいのにと思ったこともあったけれど、慣れてくるとあまり気にならなくなのが不思議だ。
普段なら気にならないベルが鳴った後、ギルド内のざわつきが一瞬止んだ。
好奇の対象へと送る口笛、そして「あれって、レッド・アイの…」という囁きが聞こえてきたので俺は扉のほうへと目を向けた。
視線の先には、黒いローブを身に纏ったオレンジのストレートロングの女性とエルフ特有の自然色をベースとしたフワフワ生地のワンピースを身に纏ったピンクの髪の女性2人組が立っていたのである。
シンプルな衣装でありながらも、誰の目も惹きつける2人組はこのむさ苦しいギルドでは違和感を感じるほどの美女と美少女だった。そして2人は誰かを探す様にあたりを見回している。俺はカウンター席から立ち上がり手を上げ2人に声をかけた。
「おーい!のあさーん。えとさーん。こっち!!」
俺の呼びかけに気づくと2人は笑みを浮かべながら俺が立っているカウンター傍まできてくれた。
「ゆあんくん…お久しぶりですね」
口に何かを含んでいたのか、のあさんは少し籠った声で挨拶をするとごっくんと飲み込んだ。
ほんのりバニラとチョコレートの匂いがする。よく食べているクッキーかな?
「うん。久しぶり。数ヶ月ぶり?のあさんは相変わらず……だね。」
「相変わらずってどういう意味ですか?」
なにか悪い意味がふくまれていると思ったのか少し頬を膨らませて怒ったふりをしている。
えとさんとのあさんがギルドに入ってきたことに気づいた、たっつんもこちらを見ている状況でこれは、まずいと思った。
俺がまだ剣士の端くれだったころ、のあさんの揶揄い方を間違え、側にいたじゃぱぱ王とたっつんからボコボコにされたことを思い出したからだ……。
「いやぁ、相変わらずお綺麗ですね。という意味ですよ」
「ふう〜ん、まあいいでしょう」
のあさんとの挨拶を終えるとのあさんはたっつんの方へ向かっていってしまった。
そんな俺たちのやりとりを傍で見ていたえとさんがクスクス笑っている。
「えとさんも。久しぶり」
「うん。久しぶり。ゆあんくんも元気だった?」
「あーー、うん。誰かさんの依頼を1人でこなすのが大変で体がバッキバキかな……。」
「えーー、勇者様なら余裕っしょ?」
えとさんはイタズラっぽく笑った。
そう、俺は周囲から勇者と呼ばれている。生まれつきもっている赤眼がその証拠ということで物心ついたときから親元を離れてじゃぱぱ王やたっつんに稽古をつけてもらっていた。はじめはなんで俺が…と思うこともあったけど、歴代の勇者達が守ってきたこのエルデナでの暮らしや、ここで生活をしている人たちを守ることの大切さだとか、親に聞かせてもらっていた勇者達の冒険物語だけではわからない教えを聞いて次第に心にも体にも使命感が染みついてきた。
世界の運命が俺にかかっていると思われるのも、言われるのも俺にとってはプレッシャーだけど、こうやって揶揄いあえる仲間の笑顔を守るために使える力なら悪くないのかもしれないと思う様になってきたところだ。
「ごめんね。ありがと、なおきりさんからも連絡があったよ。『こんなに早く貴重な素材がいい状態で手に入れることができるのは
ゆあんくんしかできないことだね』って」
なんだろう、心がむずがゆくなるのは…エルデナ大国では知らない人はいない錬金術 兼 薬師のなおきりさんから褒められたからなのか、えとさんからお礼を言われたからなのか…。俺は照れ臭くなって
「まぁ、俺くらいの冒険者になりますと、朝飯前ですよ」
冗談交じりでいった。するとまたクスクスと鈴が鳴るようにえとさんが笑うから頑張ってよかったな。と思った。
出会ったばかりのえとさんは魔法使いの師匠である賢者の『もふくん』に手を引かれる小さな大人しい女の子だった。
それが今ではえとさんは俺と同じく国に数人しかいないS級ランクの冒険者(魔法使い)だ。
小さいころに両親をはやり病で亡くして心を閉ざしていたえとさんは俺と同じ赤みがかった瞳と魔法の才能を見出され生活面ではのあさんに、魔法使いとしてはもふくんに支えてもらっていた。心と体の成長と共に言葉数は増え、笑うことも増えてきた。
今ではその笑顔はまるで一輪のヒマワリが咲いたようにあたりを照らし出すものだから、周囲の人たちを…特に男どもを惹きつけている。今だってそう。ギルドの中にはえとさんに惹かれているヤツが沢山いて俺たちのやり取りを気にしていることを俺は知っている。
「あとこれ。」
「ん?なに?」
俺はえとさんに向かって拳を突き出した。
次会えたら渡そうと思っていたものを握りしめている。
これを作るのに協力してもらったシヴァさんには「俺は装備や武器が専門なわけ。こんなチマチマしたもの作ったのは初めてだから捨てられても知らねーぞ」と言われたけど俺が想像していた以上の物を作ってくれたのだからシヴァさんにはちゃんとお礼をしなければと思っている。
不思議そうな表情でえとさんが俺の拳の下に両手で器を作る。
俺はその上で拳を広げると彼女の白くて小さな手のなかでコロンとそれは転がった。
「えっ……これピアス?」
「うん。いつだったか、無くしたっていっていたから、次に気に入るものが見つかるまでどうかなと思って……。
それに俺たちのパーティ名『レッド・アイ』だからさ。」
それは、真っ赤な鉱石レッドストーンを加工して作ってもらったピアスだった。レッドストーンは特別希少な鉱石じゃないけど
俺の赤眼と同じ、赤色の物を身に着けてもらいたいなと思ってシヴァさんにお願いしたものだった。それに、えとさんのオレンジ色の髪の毛と赤みがかった瞳にも似合うんじゃないかなと思っていたのだ。
ただ、俺の本心をそのまま伝えるのは恥ずかしいのでパーティ名を理由に渡してみる。
えとさんの手の上に転がったそれはえとさんの魔力に反応するようにうっすらと赤い光を灯した。
「えーー超うれしい、綺麗、ありがと!」
えとさんはピアスを親指と人差し指でつまんで嬉しそうに眺めている。
「折角だからつけて見せてくれない?」
えとさんは、小さく「うん。」と答えると魔法の呪文を唱えて目の前に鏡を出した。いつ見ても魔法ってすごい。
えとさんは慣れた手つきでピアスをつけようとしてくれるのだが長い髪がピアスホール付近で邪魔をして少し手間取っているようだった。
俺はえとさんの後ろに回って、えとさんの髪を手で束ねるようにしてもってあげることにした。
ただ、この無意識の俺の行動が自分の首を絞めることになるとは思っていなくて…後悔した。
だって、束ね上げた髪の下から現れた色白の首筋やうなじがこんなにも色っぽいものだとは思わなかったからだ。
直視できない…
俺は顔が赤く熱くなっていくのを感じたので思わずえとさんからも鏡からも視線を逸らした。
視線の先には、のあさんがカウンターの一席に座ってたっつん特製のケーキをホールで頬張っている。
たっつん、ケーキなんていつ準備していたんだろう……とこの顔の火照りを落ち着かせるように意識を逸らせることに集中したのだった。