エルデナ王国物語
(side N)
黒曜石の柱の頂に煌々とピンクに光り輝く結晶――エンドクリスタル
高さが異なる黒曜石の柱の上に10個のエンドクリスタルが宙を浮遊していた
あれをすべて破壊しなければ、最恐のエンダードラゴンは復活を遂げる。
ゆあんくんとうりさんとえとさんは3方向へ散りそれぞれエンドクリスタルの破壊に向かった
視力の良いわたしはエンダードラゴンの動きと、エンダーマンの動きを観察し
3人への指示だしと、負傷をしたときにヒール(治癒)をかける役となった
――今、目の前に最愛の弟”ヌーフ”を殺した、エンダードラゴンがいる
――あれから十数年決して忘れることはなかった弟の敵が目の前にいる
本当はなりふり構わずこの激情をあいつ(エンダードラゴン)へ向け一矢報いたい。
ジ・エンド到着してからずっとかみしめていた奥歯がギリギリと音を鳴らしていた。
けれど、わたしの怒気に気づいたえとさんさんが、わたしの頭をすっぽりとやさしく抱きしめて声をかけてくれた。
「のあさん。絶対いっしょに帰ろうね。」
エンドポータルで付与してくれた癒しの魔法とは違う、えとさんの直接のぬくもり……
浅く、小刻みにしかできていなかった呼吸が
えとさんの言葉と体温でようやく深く息を吸い込んで肺に酸素を送り込むことができた。
(side Y)
「散開!」
「おぉ!」 「オッケー」 「はい!」
俺の言葉にうり、えとさん、のあさんは反応しそれぞれの持ち場へと向かった。
息を呑み、黒曜石の塔を目指して駆け出す。少し外に目をやればそこは黒く底の見えぬ虚無の世界だった。
きっと落ちれば一貫の終わり、ささいな気のゆるみも許されない戦場だ。
足を止めることはできない。
無数のエンダーマンが一斉に首を巡らせた。
わずかでも視線を合わせれば、静寂は地獄へと変わる。
俺は顔を伏せ、ただ塔へ、ただ光へと向かって走った。
えとさんのように浮遊魔法も使えない、うりのように飛び道具(弓)も得意ではない俺は
エンダードラゴンに見つからないように、人為的に水流を作りエンドクリスタルがある塔の頂上へと向かう。
頂上に着き間近で見たエンドクリスタルは禍々しくも綺麗に光り輝いていた。
俺は鉄の柵に囲われたそれを破壊するために剣で衝撃を与える。
するとエンドクリスタルは破壊とともにすさまじいエネルギーを発しながら爆発した。
とっさに盾を構えて爆発の威力を抑えたが、ダメージを喰らってしまった。
「ゆあんくん!大丈夫ですか!?」
俺のいる場所から数十メートルは距離が離れている地上で、のあさんが今の爆撃音に驚き、声をかける。
のあさんのヒールは近距離でないと効力がないので治してもらうなら降りないといけないけど
空を旋回しているエンダードラゴンとの戦いの中で何があるかわからない。油断せずに回復もまめにしておくべきだろう。
「あぁ!大丈夫、ちょっとダメージを受けたけど、回復してから次に向かうよ!」
俺は、この討伐の出発の時にえとさんからもらったポーションを口にした。貴重なポーションもこれが最後だった。
流石、なおきりさんが作ったポーション。即時回復といってもいいくらい、あっという間に、爆発で受けたダメージと体力が回復した。
エンドクリスタルを破壊するときの対策もわかった。
気を引き締めて次のエンドクリスタル破壊へと向かった――。
(side U)
足元にはざらついたエンドストーン。見渡せば黒曜石の柱が静かに並び、その頂上で、エンドクリスタルが脈動を繰り返していた。
それは確かに“鼓動”だった。あれがある限り、あのドラゴンは何度でも蘇る。
ドラゴンの影が頭上を横切った瞬間、オレは弓を引き絞った。
指先にかかる弦の張力が震えを伝え、呼吸と鼓動が重なる刹那――矢は放たれ、黒い空を裂いて飛ぶ。
鋭い音とともに、矢は頭上の塔へと向かう。
だがその頂に輝くエンドクリスタルは、あまりに高く、光の幕に守られているかのようだった。
かすっただけでは砕けぬその結晶は、鉱物のはずなのにやすやすとは破壊はさせないという意志すらも感じる。
「もっと、クリスタルの芯を狙わなければならないか――」
天を覆う影が再び旋回し、咆哮が虚空を震わせる。
巨大な影が翼を広げ、オレを嘲笑うかのように旋回する。
風圧に身体が押され、それでも必死に弓をつかみ直し、矢を番える。
先ほどのわずかな軌道の狂いを計算して狙いを微調整して矢を放つ。
黒曜石の塔の上でピンク色の光を放っていたエンドクリスタルを射抜くと小爆発が起こるのを確認した。
これでドラゴンの身体を覆う力がまた少し削がれたはずだ……
オレは次の目標へと向かい走りだした。
向かう途中で浮遊魔法で滑空しているえとさんの姿を確認した。
えとさんはエンドクリスタルまで近づくと杖を構え
「――アイスアロー」
呟きは風に溶けるほど小さかったが、杖先に宿る魔力は静かに膨れ上がり
杖から放たれた魔法の氷の矢はただ“破壊”だけを目的とした白い光となって――エンドクリスタルへ突き刺さった。
爆発というより、消失だった。クリスタルは跡形も残さず消え、灰すら生まれない。
ただ、エネルギー源がまた一つ消失したことに対してエンダードラゴンの怒りの咆哮だけが響いた。
えとさんは次のエンドクリスタル破壊に向けて方向転換をして飛びまわっている
――ピュゥー
緊迫感のある線上には似つかわしくない口笛だったかもしれない。
けれど、惚れた女の獲物を狙う、視線と横顔はあまりにも綺麗だった。
(side N)
「「「これで最後だ」」」
3人がほぼ同時に最後のエンドクリスタルを破壊した時だった。
エンダードラゴンのエネルギーの源であるエンドクリスタルをすべて破壊したのを目視で確認し
まずは第一関門突破を喜び、各々負傷しているであろう3人を治癒しようと駆け寄ろうとしたときだった。
暴風のような衝撃に煽られ、わたしは瞬間宙を舞ったかと思ったらあっという間に地面に叩きつけられた。
視界は揺れ、耳鳴りの中で何が起きたのかすぐには理解できない。
巨翼が振り下ろされ、凄まじい風圧で再び吹き飛ばされる。
黒曜石の床に叩きつけられ、視界が白く弾けた。
咳き込んだ口から、赤黒い血が滴る。
「のあさん!!!」
意識が遠のいていく中でえとさんがわたしを呼ぶ声が聞こえた。
「大丈夫ですよ、はやくみんなの治癒をしましょうね」返事ができたかどうかわからない中で私はブラックアウトした。
(side U)
塔の影に飛び込み、荒く乱れる呼吸を抑えようとしたその時だった。
エンダードラゴンの空を滑空する影が、頭上をかすめる。
耳をつんざく咆哮とともに、烈しい風圧が叩きつけられ、身体が石壁に押しつけられた。
視線を上げると、巨大な顎が光を帯びて開かれる。
次の瞬間、紫色の奔流――ドラゴンブレスが大地を焼き、黒曜石の床に紫色の炎が広がっていた。
衝撃で落としてしまった弓を拾い、オレは咄嗟に身を投げて炎の縁を転がり抜ける。
なおきりさんのポーションも使い切り、通常のポーションも底を尽きた今のオレはHPもMPも回復が追い付かなくなってきた……
振り返れば、背後は既に灼熱の海。
吐き出された毒のような紫色の炎は、立っているだけで肺を蝕み、視界を歪めていく。
咳き込みながら立ち上がった瞬間、影が再び覆いかぶさる。
ドラゴンが旋回をやめ、突撃してくる――。
振動が足下から突き上げ、黒曜石の塔までもが震える。
足がすくむ。逃げ場はない。
遠くでは倒れているのあさんに駆け寄るえとさんの姿が見えた。
――オレがここで少しでもエンダードラゴンの気を逸らせることができれば
えとさんはのあさんを連れて少しでも安全な場所へ移動することができるかな?
普段だったら感じることがない”恐怖”にその場から一歩も動くことができず
その時「死」すらも覚悟して目を瞑ったその時だった。
巨体がぶつかる重低音と鉄が火花が散せる甲高い音が入り混じって激しい音とが聞こえた。
目を開けると甲冑に身を包んだゆあんくんがエンダードラゴンと真正面からぶつかって
剣と盾で防戦している状況だった。
「――って(痛って)ー――!!!」
「ゆ あん…くん…。」
「なに、腑抜けてるんだよ うり!しっかりしろ!」
エンダードラゴンの攻撃からかばうようにオレの前に立ちふさがったゆあんくんは視線だけわずかにオレに向けて激を飛ばした。
人間よりも数倍大きなエンダードラゴンの前足の爪とそれを受け止めたゆあんくんの剣は力が拮抗しているかのようだった。
エンダードラゴンは自分のエネルギー源であるエンドクリスタルをすべて破壊された怒りと
自分よりはるかに小さい生物に対して圧倒的優位になれない怒りが入り混じっているのか竜胆色の霧、ブレスを吐いた。
ゆあんくんは腕を交差させて霧の直撃を防いだが、盾代わりの鋼の籠手は毒で腐食し、腐食した鉄から突き刺すような痛みを腕に伝える。
「ぐっ……!」
ゆあんくんの膝がわずかに沈む。視界の先、巨体のドラゴンが翼を広げ、嘲るように低く唸った。
黄金の瞳が、虫でも見るかのようにオレを射抜いている。
「のあさんと、えとさんを安全な場所に!!」
「お、おぅ」
ゆあんくんの言葉ではじけるようにオレはえとさんとのあさんがいる方角へと向かって走っていった。
エンダードラゴンが漆黒の空へと再び浮上する。
次の獲物を狙うかのように空中で旋回を始めた。
ゆあんくんがエンダードラゴンと対峙していた場所からそう遠くない小さな岩山の陰で
のあさんとえとさんを見つけた。
エンダードラゴンの竜胆色の霧の被害からのあさんを守ろうとしたのか
頭から血を流しているのあさんと、それに覆いかぶさるようにえとさんが倒れていた。
ドラゴンブレスを真向から受けたのか、えとさんが羽織っていた魔法使いのローブが腐敗し
真っ黒な炭のような形で落ちていた。
2人とも荒くか細い呼吸――そして、その音さえ今にも途絶えそうに弱まっている。
オレはできるだけ被害の受けないであろう岩陰にのあさんを抱き上げ移動させた。
そして、えとさんのもとへ戻ると、ゆあんくんが足を負傷して立ち上がれないえとさんと向かい合って跪き、何かを言っている。
「洞窟では、変な態度をとってごめん……。」
「ううん…………。」
首を大きく振るえとさん。
「あれには、理由があって…。」
「??」
「エンダードラゴンを倒さない限り、この世界は終わる。えとさんも……えとさんの大事な人たちも、エルデナ大国の人々も……。」
「……うん。」
ゆあんくんの背後で漆黒の空が紫色に燃えていた。
――戦闘態勢に戻ったエンダードラゴンが自分たちを威嚇するように吐いた炎の色だ。
ゆあんくんは、後ろを振り返るとその方角をただまっすぐに見つめていた。
腰に下げている剣は黒銀に鈍く光り、身に着けたチェストプレートやレギンスはエンダーブレスを受けて腐敗した跡が残っている。
「……行かなくちゃな」
そう言って立ち上がりオレのほうを振り返ったゆあんくんは、いつもと同じように笑った。
だけど、その微笑みの奥にひそむ覚悟が、はっきりと見えてしまった。
――行かないで。 とでも言いたそうに、
えとさんがゆあんくんの袖を掴もうとして伸ばした手がゆあんくんが立ち上がったため宙を切った。
「すぐには戻れないかもしれない。でも……」
ゆあんくんは言葉を探すように一瞬だけえとさんに向けて視線を落とす。
それからそっと右手を伸ばして、えとさんの頭に触れた。戦いで乱れたオレンジ色の髪をなでる。
「もし――生きて帰れたら。そのときは、伝えたいことがある……
でも――戻らなかったら……、俺のことは忘れてどうか幸せになってね。えとさん。」
「ゆあん…く…。」
振り切るようにゆあんくんはえとさんを背中でかばう様にして立つ
宙を旋回していて地上に降り立とうとしているエンダードラゴンに視線をやった
えとさんの目から、涙が頬を伝っていた。
――そうか……ここにいる全員が最終局面だとわかっているのか。
オレはえとさんの傍に寄り、身をかがめて彼女の頬を伝う涙の跡を指でなぞる。
そして、ほんの少しだけ目を細めた。けれど何も言わないまま、そっと手を離し、涙の跡に唇を落とした。
えとさんの赤みがかったオレンジ色の瞳が大きく揺れる。
「えとさん、死ぬなよ。生きろ。」
「うり――。」
言葉が震える……。ガラにもなく、オレの目から熱いものが一筋頬を伝った。
「オレは、えとさんまで失ったら、きっと生きていけない。」
えとさんの頭を軽くポンポンと叩くと、立ち上がりゆあんくんと肩を並べて
これから対峙するエンダードラゴンへと視線をやる。
「いくぞ。うり。」
「あぁ……。」
一歩踏みしめたらエンドサンドが宙を舞った。
「お願い、ふたりとも……のあさんを連れて逃げて――!!」
背後からえとさんの声がする。
「逃げられないよなぁ。」
「あぁ……。」
「っていうか、うりおまえ……うすうす感じていたことだけど……。」
「ん?」
「昨日の野営といい、さっきの事といい、俺を焚きつけるためにわざとやってるのか?」
オレは答えなかった。
エンダードラゴンが台座に着陸したタイミングでゆあんくんは剣で切りつけに
オレは弓を構えて矢を放つ。エンダードラゴンが飛び立ち空中を旋回する
これを何度か繰り返した時だった。
激怒するエンダードラゴンがオレたちにむかって大きな尻尾を振りまわしエンダーブレスを放ってきた。
HPもMPも底をつきかけていたオレたちはついに「それ」をまともにくらってしまった。
視界が紫色になる。自分が焼ける匂いと音がするけど不思議と痛みを感じない。
遠くからえとさんの悲痛の叫びが聞こえる。
――えとさん、泣くな。笑え――
隣で同じく竜胆色の霧に包まれたゆあんくんが膝から地面へと崩れ落ちた。
それを最後に俺も意識を失ったのだった――
黒曜石の柱の頂に煌々とピンクに光り輝く結晶――エンドクリスタル
高さが異なる黒曜石の柱の上に10個のエンドクリスタルが宙を浮遊していた
あれをすべて破壊しなければ、最恐のエンダードラゴンは復活を遂げる。
ゆあんくんとうりさんとえとさんは3方向へ散りそれぞれエンドクリスタルの破壊に向かった
視力の良いわたしはエンダードラゴンの動きと、エンダーマンの動きを観察し
3人への指示だしと、負傷をしたときにヒール(治癒)をかける役となった
――今、目の前に最愛の弟”ヌーフ”を殺した、エンダードラゴンがいる
――あれから十数年決して忘れることはなかった弟の敵が目の前にいる
本当はなりふり構わずこの激情をあいつ(エンダードラゴン)へ向け一矢報いたい。
ジ・エンド到着してからずっとかみしめていた奥歯がギリギリと音を鳴らしていた。
けれど、わたしの怒気に気づいたえとさんさんが、わたしの頭をすっぽりとやさしく抱きしめて声をかけてくれた。
「のあさん。絶対いっしょに帰ろうね。」
エンドポータルで付与してくれた癒しの魔法とは違う、えとさんの直接のぬくもり……
浅く、小刻みにしかできていなかった呼吸が
えとさんの言葉と体温でようやく深く息を吸い込んで肺に酸素を送り込むことができた。
(side Y)
「散開!」
「おぉ!」 「オッケー」 「はい!」
俺の言葉にうり、えとさん、のあさんは反応しそれぞれの持ち場へと向かった。
息を呑み、黒曜石の塔を目指して駆け出す。少し外に目をやればそこは黒く底の見えぬ虚無の世界だった。
きっと落ちれば一貫の終わり、ささいな気のゆるみも許されない戦場だ。
足を止めることはできない。
無数のエンダーマンが一斉に首を巡らせた。
わずかでも視線を合わせれば、静寂は地獄へと変わる。
俺は顔を伏せ、ただ塔へ、ただ光へと向かって走った。
えとさんのように浮遊魔法も使えない、うりのように飛び道具(弓)も得意ではない俺は
エンダードラゴンに見つからないように、人為的に水流を作りエンドクリスタルがある塔の頂上へと向かう。
頂上に着き間近で見たエンドクリスタルは禍々しくも綺麗に光り輝いていた。
俺は鉄の柵に囲われたそれを破壊するために剣で衝撃を与える。
するとエンドクリスタルは破壊とともにすさまじいエネルギーを発しながら爆発した。
とっさに盾を構えて爆発の威力を抑えたが、ダメージを喰らってしまった。
「ゆあんくん!大丈夫ですか!?」
俺のいる場所から数十メートルは距離が離れている地上で、のあさんが今の爆撃音に驚き、声をかける。
のあさんのヒールは近距離でないと効力がないので治してもらうなら降りないといけないけど
空を旋回しているエンダードラゴンとの戦いの中で何があるかわからない。油断せずに回復もまめにしておくべきだろう。
「あぁ!大丈夫、ちょっとダメージを受けたけど、回復してから次に向かうよ!」
俺は、この討伐の出発の時にえとさんからもらったポーションを口にした。貴重なポーションもこれが最後だった。
流石、なおきりさんが作ったポーション。即時回復といってもいいくらい、あっという間に、爆発で受けたダメージと体力が回復した。
エンドクリスタルを破壊するときの対策もわかった。
気を引き締めて次のエンドクリスタル破壊へと向かった――。
(side U)
足元にはざらついたエンドストーン。見渡せば黒曜石の柱が静かに並び、その頂上で、エンドクリスタルが脈動を繰り返していた。
それは確かに“鼓動”だった。あれがある限り、あのドラゴンは何度でも蘇る。
ドラゴンの影が頭上を横切った瞬間、オレは弓を引き絞った。
指先にかかる弦の張力が震えを伝え、呼吸と鼓動が重なる刹那――矢は放たれ、黒い空を裂いて飛ぶ。
鋭い音とともに、矢は頭上の塔へと向かう。
だがその頂に輝くエンドクリスタルは、あまりに高く、光の幕に守られているかのようだった。
かすっただけでは砕けぬその結晶は、鉱物のはずなのにやすやすとは破壊はさせないという意志すらも感じる。
「もっと、クリスタルの芯を狙わなければならないか――」
天を覆う影が再び旋回し、咆哮が虚空を震わせる。
巨大な影が翼を広げ、オレを嘲笑うかのように旋回する。
風圧に身体が押され、それでも必死に弓をつかみ直し、矢を番える。
先ほどのわずかな軌道の狂いを計算して狙いを微調整して矢を放つ。
黒曜石の塔の上でピンク色の光を放っていたエンドクリスタルを射抜くと小爆発が起こるのを確認した。
これでドラゴンの身体を覆う力がまた少し削がれたはずだ……
オレは次の目標へと向かい走りだした。
向かう途中で浮遊魔法で滑空しているえとさんの姿を確認した。
えとさんはエンドクリスタルまで近づくと杖を構え
「――アイスアロー」
呟きは風に溶けるほど小さかったが、杖先に宿る魔力は静かに膨れ上がり
杖から放たれた魔法の氷の矢はただ“破壊”だけを目的とした白い光となって――エンドクリスタルへ突き刺さった。
爆発というより、消失だった。クリスタルは跡形も残さず消え、灰すら生まれない。
ただ、エネルギー源がまた一つ消失したことに対してエンダードラゴンの怒りの咆哮だけが響いた。
えとさんは次のエンドクリスタル破壊に向けて方向転換をして飛びまわっている
――ピュゥー
緊迫感のある線上には似つかわしくない口笛だったかもしれない。
けれど、惚れた女の獲物を狙う、視線と横顔はあまりにも綺麗だった。
(side N)
「「「これで最後だ」」」
3人がほぼ同時に最後のエンドクリスタルを破壊した時だった。
エンダードラゴンのエネルギーの源であるエンドクリスタルをすべて破壊したのを目視で確認し
まずは第一関門突破を喜び、各々負傷しているであろう3人を治癒しようと駆け寄ろうとしたときだった。
暴風のような衝撃に煽られ、わたしは瞬間宙を舞ったかと思ったらあっという間に地面に叩きつけられた。
視界は揺れ、耳鳴りの中で何が起きたのかすぐには理解できない。
巨翼が振り下ろされ、凄まじい風圧で再び吹き飛ばされる。
黒曜石の床に叩きつけられ、視界が白く弾けた。
咳き込んだ口から、赤黒い血が滴る。
「のあさん!!!」
意識が遠のいていく中でえとさんがわたしを呼ぶ声が聞こえた。
「大丈夫ですよ、はやくみんなの治癒をしましょうね」返事ができたかどうかわからない中で私はブラックアウトした。
(side U)
塔の影に飛び込み、荒く乱れる呼吸を抑えようとしたその時だった。
エンダードラゴンの空を滑空する影が、頭上をかすめる。
耳をつんざく咆哮とともに、烈しい風圧が叩きつけられ、身体が石壁に押しつけられた。
視線を上げると、巨大な顎が光を帯びて開かれる。
次の瞬間、紫色の奔流――ドラゴンブレスが大地を焼き、黒曜石の床に紫色の炎が広がっていた。
衝撃で落としてしまった弓を拾い、オレは咄嗟に身を投げて炎の縁を転がり抜ける。
なおきりさんのポーションも使い切り、通常のポーションも底を尽きた今のオレはHPもMPも回復が追い付かなくなってきた……
振り返れば、背後は既に灼熱の海。
吐き出された毒のような紫色の炎は、立っているだけで肺を蝕み、視界を歪めていく。
咳き込みながら立ち上がった瞬間、影が再び覆いかぶさる。
ドラゴンが旋回をやめ、突撃してくる――。
振動が足下から突き上げ、黒曜石の塔までもが震える。
足がすくむ。逃げ場はない。
遠くでは倒れているのあさんに駆け寄るえとさんの姿が見えた。
――オレがここで少しでもエンダードラゴンの気を逸らせることができれば
えとさんはのあさんを連れて少しでも安全な場所へ移動することができるかな?
普段だったら感じることがない”恐怖”にその場から一歩も動くことができず
その時「死」すらも覚悟して目を瞑ったその時だった。
巨体がぶつかる重低音と鉄が火花が散せる甲高い音が入り混じって激しい音とが聞こえた。
目を開けると甲冑に身を包んだゆあんくんがエンダードラゴンと真正面からぶつかって
剣と盾で防戦している状況だった。
「――って(痛って)ー――!!!」
「ゆ あん…くん…。」
「なに、腑抜けてるんだよ うり!しっかりしろ!」
エンダードラゴンの攻撃からかばうようにオレの前に立ちふさがったゆあんくんは視線だけわずかにオレに向けて激を飛ばした。
人間よりも数倍大きなエンダードラゴンの前足の爪とそれを受け止めたゆあんくんの剣は力が拮抗しているかのようだった。
エンダードラゴンは自分のエネルギー源であるエンドクリスタルをすべて破壊された怒りと
自分よりはるかに小さい生物に対して圧倒的優位になれない怒りが入り混じっているのか竜胆色の霧、ブレスを吐いた。
ゆあんくんは腕を交差させて霧の直撃を防いだが、盾代わりの鋼の籠手は毒で腐食し、腐食した鉄から突き刺すような痛みを腕に伝える。
「ぐっ……!」
ゆあんくんの膝がわずかに沈む。視界の先、巨体のドラゴンが翼を広げ、嘲るように低く唸った。
黄金の瞳が、虫でも見るかのようにオレを射抜いている。
「のあさんと、えとさんを安全な場所に!!」
「お、おぅ」
ゆあんくんの言葉ではじけるようにオレはえとさんとのあさんがいる方角へと向かって走っていった。
エンダードラゴンが漆黒の空へと再び浮上する。
次の獲物を狙うかのように空中で旋回を始めた。
ゆあんくんがエンダードラゴンと対峙していた場所からそう遠くない小さな岩山の陰で
のあさんとえとさんを見つけた。
エンダードラゴンの竜胆色の霧の被害からのあさんを守ろうとしたのか
頭から血を流しているのあさんと、それに覆いかぶさるようにえとさんが倒れていた。
ドラゴンブレスを真向から受けたのか、えとさんが羽織っていた魔法使いのローブが腐敗し
真っ黒な炭のような形で落ちていた。
2人とも荒くか細い呼吸――そして、その音さえ今にも途絶えそうに弱まっている。
オレはできるだけ被害の受けないであろう岩陰にのあさんを抱き上げ移動させた。
そして、えとさんのもとへ戻ると、ゆあんくんが足を負傷して立ち上がれないえとさんと向かい合って跪き、何かを言っている。
「洞窟では、変な態度をとってごめん……。」
「ううん…………。」
首を大きく振るえとさん。
「あれには、理由があって…。」
「??」
「エンダードラゴンを倒さない限り、この世界は終わる。えとさんも……えとさんの大事な人たちも、エルデナ大国の人々も……。」
「……うん。」
ゆあんくんの背後で漆黒の空が紫色に燃えていた。
――戦闘態勢に戻ったエンダードラゴンが自分たちを威嚇するように吐いた炎の色だ。
ゆあんくんは、後ろを振り返るとその方角をただまっすぐに見つめていた。
腰に下げている剣は黒銀に鈍く光り、身に着けたチェストプレートやレギンスはエンダーブレスを受けて腐敗した跡が残っている。
「……行かなくちゃな」
そう言って立ち上がりオレのほうを振り返ったゆあんくんは、いつもと同じように笑った。
だけど、その微笑みの奥にひそむ覚悟が、はっきりと見えてしまった。
――行かないで。 とでも言いたそうに、
えとさんがゆあんくんの袖を掴もうとして伸ばした手がゆあんくんが立ち上がったため宙を切った。
「すぐには戻れないかもしれない。でも……」
ゆあんくんは言葉を探すように一瞬だけえとさんに向けて視線を落とす。
それからそっと右手を伸ばして、えとさんの頭に触れた。戦いで乱れたオレンジ色の髪をなでる。
「もし――生きて帰れたら。そのときは、伝えたいことがある……
でも――戻らなかったら……、俺のことは忘れてどうか幸せになってね。えとさん。」
「ゆあん…く…。」
振り切るようにゆあんくんはえとさんを背中でかばう様にして立つ
宙を旋回していて地上に降り立とうとしているエンダードラゴンに視線をやった
えとさんの目から、涙が頬を伝っていた。
――そうか……ここにいる全員が最終局面だとわかっているのか。
オレはえとさんの傍に寄り、身をかがめて彼女の頬を伝う涙の跡を指でなぞる。
そして、ほんの少しだけ目を細めた。けれど何も言わないまま、そっと手を離し、涙の跡に唇を落とした。
えとさんの赤みがかったオレンジ色の瞳が大きく揺れる。
「えとさん、死ぬなよ。生きろ。」
「うり――。」
言葉が震える……。ガラにもなく、オレの目から熱いものが一筋頬を伝った。
「オレは、えとさんまで失ったら、きっと生きていけない。」
えとさんの頭を軽くポンポンと叩くと、立ち上がりゆあんくんと肩を並べて
これから対峙するエンダードラゴンへと視線をやる。
「いくぞ。うり。」
「あぁ……。」
一歩踏みしめたらエンドサンドが宙を舞った。
「お願い、ふたりとも……のあさんを連れて逃げて――!!」
背後からえとさんの声がする。
「逃げられないよなぁ。」
「あぁ……。」
「っていうか、うりおまえ……うすうす感じていたことだけど……。」
「ん?」
「昨日の野営といい、さっきの事といい、俺を焚きつけるためにわざとやってるのか?」
オレは答えなかった。
エンダードラゴンが台座に着陸したタイミングでゆあんくんは剣で切りつけに
オレは弓を構えて矢を放つ。エンダードラゴンが飛び立ち空中を旋回する
これを何度か繰り返した時だった。
激怒するエンダードラゴンがオレたちにむかって大きな尻尾を振りまわしエンダーブレスを放ってきた。
HPもMPも底をつきかけていたオレたちはついに「それ」をまともにくらってしまった。
視界が紫色になる。自分が焼ける匂いと音がするけど不思議と痛みを感じない。
遠くからえとさんの悲痛の叫びが聞こえる。
――えとさん、泣くな。笑え――
隣で同じく竜胆色の霧に包まれたゆあんくんが膝から地面へと崩れ落ちた。
それを最後に俺も意識を失ったのだった――