エルデナ王国物語

「ううう……やっぱり寒いよぉ。」

 
ローブの襟を立てるようにして私は残雪が残る道を踏みしめながら歩いていた。
吐く息は外気に冷やされ白くなり、タイガから雪原のタイガの地へと足を踏み入れたことを肌で感じていた。
タイガよりも雪原のタイガに生えているトウヒの背丈は高く密集しているせいか、
まだ昼過ぎなのに辺りは薄暗くゾンビやスケルトンが湧いて来る。

さっきのスイートベリーでの「やらかし」を挽回したい私は魔物の感知と防御魔法を組み合わせたシールドを展開しながら歩いていた。自分たちに危害を与えようとする魔物であればその気をシールドで感知できるので感知すると火炎魔法でなぎ倒していた。
このシールドあえて弱点をいうのであれば知能が低すぎる魔物はその気を感知できないので接近されていても気づきづらいところだろうか…。だからシールドを展開しながらも気を張り巡らせながら周囲を観察しながら歩いた。

 
「えとさん、今からそんなに張り切りってるとすぐにばてるぞ」

 
そう言う、うりはうりで、魔法とは異なる索敵をしながら辿った道がわかるように目印をつけながら歩いていた。
進行方向に魔物がいるとわかると颯爽と姿を消して討伐してしまうから私はパーティの側面から後方側、うりは前方という暗黙の役割分担ができていた。


「うりこそ、飛ばしすぎなんじゃない?!」
「アサシンだったらこれくらいやって当たり前だろ。」


息を切らすこともなく涼しげな表情をしたうりが栗色の髪の毛をかきあげながらいった。

 
山の麓に到着した私たちは一本の松明を立て、それを囲う様にして現在位置を確認することにした。
のあさんがポーチからスイートベリーを取り出し口にしたのでそれに倣って皆が食料を口にする。
目の前には雪山。ところどころ岩肌が見えるけれどほとんど雪に覆われている。
山頂のほうを見上げるとガスが立ち込めていてどんよりと灰色の雲が覆いかぶさっている。
きっと、上に行けば雪が降っているに違いない……。



「これからこの山を登っていくことになるな。」
「粉雪に埋もれないように注意しながらですね。」
「雪と粉雪の色違うからしっかり見極めていこう」
「オッケー」

 
 雪山の歩き方を全員で確認していた時だった。
 
 
 ――――ガサガサガサ

 
数メートル先に見える背の高いシダの葉が擦れる音とも私の張ったシールドがこちらに向けられた攻撃の「気」を検知する。
音がした方向を見るとシダの葉の合間から弓を構えたスケルトンが私たちを狙っていた。
私は、右手を上げ火炎魔法をスケルトンに向かって打ち込もうと詠唱をしはじめたときだった。

ゆあんくんが私の目の前に立ちふさがり盾を構える。
スケルトンの打った矢を盾で受けとめると鞘から抜刀するときの踏み込みの力を使って跳躍しあっという間に敵との距離を縮めて切り倒してしまった。


目にも止まらぬ速さとはこういうことを言うのだろうか……
スケルトンは骨を一本ドロップして砕け散っていった。



「おぉ~さすが!」


スケルトンがドロップする骨はいろいろな使い道がある。
ゆあんくんはそれを拾い、私たちの所へと戻ってくるゆあんくんにむかって私はパチパチと手を叩き声をかけた。


「えとさんとうりに負けていられないよ。」


はにかむように笑いながら長剣を鞘に納めながらゆあんくんがいう。
ゆあんくんが私たちのところに合流したらいよいよ登山開始だ。
ゆあんくんの歩幅であと数歩という距離の時、突然木枯らしが吹いた。

ゴォという風の音の中に混ざってガスが漏れるような音が聞こえる。
次の瞬間ゆあんくんの表情が曇り、焦りを見せた


「みんな!!」


目を大きく見開いて 私達のほうへと駆け寄ろうとするゆあんくんの姿を視界にとらえたとき
ものすごい爆発音と衝撃が私を襲った。


――やっば…


衝撃を受ける前に聞こえたガス漏れのような音…
『クリーパー』だと瞬時にわかった。爆発の威力は周辺数メートルを吹き飛ばす厄介なものだった。
森の解体工事屋といわれる魔物『クリーパー』は知能がない。
ただ生体に反応して近づき、接近すると自爆するという単純な魔物だった。
だけどその単純さゆえに冒険者も不意を突かれることが多いのだ。


薄れゆく意識の中で私の傍にいて同じように爆発の被害を受けたであろう、のあさんとうりへの被害が少しでも減るようにと治癒の魔法を二人にかけ……私は意識を失った。






不意を突かれた――


そう思った時にはもう遅くて、クリーパーの自爆に巻き込まれていた。
ものすごい爆発音と衝撃

「いって……。」

「きゃぁ!」

のあさんの悲鳴が聞こえた。慌ててのあさんの腕をつかみ引き寄せ被害を減らせるようにとオレのローブの中に閉じ込めた。

えとさんは!?今の爆発で周辺の土や岩が粉々になり空中に舞い散ったため
目を細めてあたりを見るがえとさんの姿がみえなかった。
そしてさっき受けた衝撃による、痛みが嘘みたいになくなっている。
のあさんのヒールか?いや、ローブの中に納まっているのあさんはオレと同じように爆撃を受け
動けなかったはずだ…なのでえとさんが治癒魔法をかけてくれたのだろう。


爆風が収まりようやく視界が開けてきたところでオレは変わり果てた周囲の景色に驚いた。


オレ達が立っていた場所は大きく底が見えない深い穴があいていてオレとのあさんはその崖っぷちにいたからだ。
一歩でも動いていたら穴に気づかずに落ちていたところだろう。


ローブからもぞもぞと出てくるのあさんもその状況に気づいた様子だった。


「あれ、えとさんは?――――って ゆあんくん!!?」


のあさんが叫ぶ声と同時にゆあんくんがものすごい勢いで穴の中に落ちていった。


「もしかして……えとさん落ちたのか?」


さっきまで傍にいたはずのえとさんがいないこと、そしてゆあんくんが穴に入っていったこと。
直近の出来事と今の景色を見てはじき出した予測だった。
普通のクリーパーの爆発くらいではこんなに深い穴は開かない。
もともと深い谷底があるようなところに薄い岩盤はってあってオレ達はその上に立っていたのだろう……
クリーパーの爆発で穴が開き、深い穴に落ちていった……のか?

考えたくはない最悪なシナリオが頭をよぎる。


「オレも!!」


ゆあんくんが入っていった穴にオレも入ろうとした時だった。


「落ち着いてください!うりさん!」


のあさんがオレの体にものすごい力でしがみつき、穴に向かおうとするオレを止める。


「でも……2人が……。」
「ここはゆあんくんを信じましょ。私たちは安全にここまで上ってこれるルートを確保しながら
 2人を迎えにいくんです。」 


普段は見た目も言動も子供っぽいのあさんだが、状況を把握して冷静に、先のことまで考えて焦るオレを制してくれた。
自分もえとさんのことを心配だろうに……。

「ごめん。のあさん。ありがとう。そうだな、そうしよう。」


――ゆあんくん。頼んだぞ…………


オレは暗く底が見えない穴に落ちていった2人の無事を祈ったのだった。
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