エルデナ王国物語

 エルデナ城の城壁から朝日差し込んできた。
 場外では巣穴に戻り損ねた魔物たちが朝日に焼かれるうめき声が所々で聞こえてきた。
 私たちレッド・アイのメンバーはまだ薄暗い時間帯に起床し出発に向けた最終支度をしていた。
 城門には朝も早いのに、じゃぱぱ王、るな姫、ひろくん、どぬく、なおきりさんの姿があった。
 皆、レッド・アイの見送りに来てくれたのだ。

「これが、エンダーアイ。そしてこっちがエンダーパール。
 エンダーパールは使ったことがあるよね、エンダーアイは…」

 じゃぱぱ王の側近である、ひろくんがうりにエンダーアイの説明をしていた。
私とゆあんくんも傍で話を聞く。
エンダーアイはエンダードラゴンが生息するジ・エンドの世界を結ぶエンドポータルが設置されている要塞の方角へと導く球体とのことだった。
 またジ・エンドへはエンドポータルにこのエンダーアイを12個すべてはめ込まないとゲートが開かないとのことなので、とても大事なアイテムになる。

 エンダーアイを使用して要塞探索の先陣を切るのはアサシンのうりの役目となった。
 常に、周囲に目を光らせ情報を組み立てトラップの検知や目的物の探索、仮に敵がいたときの奇襲攻撃はうりが一番得意とするところだからだ。


 エンダーアイと似た名前のエンダーパールはこれまでもレッド・アイの冒険で何度か使用したことがある。
 利用者が目的の方角へ投げると約40~50メートルほど先へとテレポートすることが可能なのだ。

 エンダーアイとエンダーパールはとてもよく似ている深緑の球体。

 
 ――間違えて使ったりしないようにしないとな…。


 私はポーチに自分に割り当てられたそれらを治めた。


「えとさん、エンダーアイとエンダーパール間違って投げないようにね。」


 隣にいたゆあんくんがニヤリと笑い、揶揄う様に言った。


「な!!ゆあんくんこそ間違えて使って無駄に壊したりしないでね!!」
「俺は誰かさんと違って大丈夫です~。」
「もぉぉ……。」


ゆあんくんがこう揶揄うのには理由がある。
これまで、レッド・アイとしての活動の中で、私は結構『やらかし』てきているのだ。
ある程度のことは魔法でカバーしているのだが、自然に生成された小さな穴に落ちたり、
水中呼吸のポーションと間違えて、解毒のポーションを飲み、呼吸が続かず溺れかけたりと
様々な『やらかし』をゆあんくんやうりの前でしてきたのである。
 
過去の失敗を忘れたい私はまだ、ニヤニヤと笑っているゆあんくんからをそっぽ向くように首を振った。
すると視線の先にいたるながくすくすと私たちの様子を見て笑っていた。

 
ほんと、綺麗になったよね…るな。ザ・お姫様って感じ…………。


実は昨夜、るなとは晩餐の後にしゃべっていた。
のあさんと私と3人で久しぶりに女子会をしたかったと悔しがっていたので帰ってきたらゆっくり話そうと約束したのだ。

 
るなの視線の先には私を揶揄う、ゆあんくん……。


昨夜のように胸がジリッと焼けるような痛みがした気がした。

 
――なんでまた……。
 

どう考えたってこれは良い反応ではないはずだ。
ゆくゆく結ばれる二人を応援すべきなのに、どうしてもそれとは違う反応をしている理由が
私自身わからなくて困る…


「えとさん、ごめんごめん怒らないでよ」


 ゆあんくんがそっぽを向いている私が怒っていると思っていたようで、顔の前で手を合わせて誤ってきたときだった。


 
「えとさん。」



柔らかいテノールの声が私の名前を呼んだ。
呼ばれた方を向くと朝日を背に、ゆっくりとした足取りで歩いてくる男の人がいた。
だんだんと近づいてきたその人は、深い紫色のローブを身に纏い、手には古びた分厚い本を抱えている。
年季の入った黒縁眼鏡をかけた目はまったく笑っていなかった。


「もふくん!!」


近づいてきた相手は私の兄のような存在であり魔法の師匠であり、勇者(のあさんの弟)とじゃぱぱ王、たっつん、のあさんとパーティを組んでいた賢者のもふくんだった。エンダードラゴン討伐の後、なおきりさんとともに城勤めで魔法の研究に力を注いでいるのだが、朝と夜が逆転した生活を送っているような人なので朝早いこの時間に起きてくるとは思わず驚いた。
もふくんは私とゆあんくんの間に割り込む様に立ち、本を持っていない方の手そっと私の頭をやさしく撫でてくれた。
 
 
「今日、出発だって聞いたから……。」
「うん。」


 小さいころから何度もこうやって撫でてくれた大きな手。手を引いていろいろなところへ連れて行ってくれて
 様々なことを教えてくれた手だ。
 私は子供のころに戻った気がして、少し目を閉じてされるがままになった。


「えとさんなら大丈夫だよ。僕の一番弟子だからね。」
「うん。がんばる。」


ゆっくりと目を開けると、目の前にもふくんの顔。
無表情なままじっと私の顔を見ていたかと思うと


「だれかに泣かされた?」
「えっ?!」


思わずどもって変な返事をしてしまった。
正確には『泣いてはいない』のだが心が塞ぎ込んでいたのを見透かされたようで動揺してしまった。


もふくんが周囲を見渡すようにして、ゆあんくんとうりを一瞥する。


――なんだかここだけ温度が下がったような気がするのは私の気のせい?…。



ゆあんくんとうりがまるで毒を喰らった様な怯んだ表情を見せた。









俺は昔からこの人がちょっと苦手だ……。



この人というのは、えとさんの魔法の師匠である『もふくん』の事である。
表情豊かなじゃぱぱさん、感情豊かなたっつんさんと違って、もふくんは常に冷静沈着。笑ったところなんて見たことはない。少なくとも俺は…だ。
笑うどころか俺やうりはガキの頃からどこか敵を見るよう鋭い視線を送られてきた。


まるで今のような、絶対零度の視線だ……。


普段から誰にでもそっけない態度をとっているもふくんだが、えとさんのことは本当の妹のように溺愛しているのを知っている・・・。
本人は隠しているつもりかもしれないが、昔から俺やうりがえとさんを揶揄うとひどい目に合ってきた。


「(えとさんの相手は)僕が認めた奴じゃないとだめだ。」


ガキの頃えとさんがいないところでツタで体をぐるぐる巻きにして木につるされたときに言われた言葉は
そのあともレッド・アイの活動が始まる前に必ず俺たちに釘をさすように言われてきた。



ごくりと唾を飲み込む。
もふくんは声に出していないはずなのにその視線がそれを語っていた。



「もふく~ん。ちょっと、ここの雰囲気どうしたの?怖くない?」



凍り付いていた俺たちの傍にじゃぱぱさんが間に入ってきてくれた。



「(えとさんを)悲しませる奴は誰であろうともゆるさない。」
「相変わらずえとさん大好きだなぁ~!!」
「そういうんじゃない」
「いやいや、何言っちゃってるのよ。相変わらずツンデレなんだから。」


じゃぱぱさんがもふくんの肩をバシバシと叩きながら笑っている。
じゃぱぱさん、俺はまだ笑えないよ…。
そして、もふくんの傍では何が起こっているのか理解できない表情のえとさんがいた。



「さてと、ひろくんの説明も終わったみたいだし…。そろそろ出発かな。」


ひとしきりもふくんを揶揄い終えたあと、真剣な表情でじゃぱぱ王が朝日が完全に空に昇った城外を見ながら言った。


「「「「はい!」」」」


俺たち、のあさん、うり、えとさんの4人は返事をした。



「もふくん……。」


俺はもふくんに声をかけた。



「なに?」

「必ず守ります。」


――誰を、とはあえて言わない。お互いわかっているから。


「当然だ。」


黒縁眼鏡の奥の何もかも見透かす様な視線と合う。



うりがエンダーアイを空に向かって投げる
深緑の球は北西の方角を示した。


「「いってきま~す」」


女性陣の明るい声とともにレッド・アイはエンダードラゴン討伐へと向かう一歩を踏み出したのだった。
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