このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

デート

遠くで虚の気配がする。
暫くして慣れた霊圧が、すごい勢いでそこに向かうのが解って思わずニヤけてしまった。
井上織姫は慌てて手にした雑誌で口元を覆う。
珈琲スタンドの一角。お気に入りの温かいキャラメルマキアートはすっかり冷めていた。

オレンジな頭の霊気の主と、こんな怪奇スペシャルな関係になるとは思いもしなかった。
しかも、自分にもそんな【力】が生まれるとわ!ちょっと得した気分。
だって実体も霊体も結構離れているのに、すぐ近くにいるカンジなんですよ?!
霊圧がスゴイからよけい近い感じ。スゴイよね「よぉ」うん。
声まで聞こえちゃう「本、逆さ」ん?逆さ……ホントだ。
背後から見覚えのあり過ぎる腕が2本、にゅ~っと伸びて雑誌の向きを正す。
そろ~り。
ゆっくり首をまわして。

「「!!!!?」」

顔!近いです!黒崎隊長!!
びっくりしたのは黒崎くんも同じ。
声はなんとか抑えたけど、椅子から落ちそうだった私を支えてくれた。
「悪い」
座り直しつつ「ありがとぅ」と言いかけ、近くの席のおばさんと目が合う。
笑ってごまかす。
「……大丈夫?」
「はい。ちっちゃいハエにびっくりしちゃって」
「いや~ねぇ。外から入ってくるのよねぇ……」
私とおばさん。ぼんやり談笑してる横で「……小バエか、俺わ!!」
申し訳ないが黒崎くん……君【普通の人】に今、見えてないから。


珈琲スタンドを出て。
もし、[見える人]がいたら。
オレンジな頭のダラけきった弓道部員が、大きな包丁背負ってショッピングモールをふらふらしてる……カンジ。の黒崎くんは現状をかなり楽しんでいるみたい。口元ニヤけてるよ。
そう、さっきの虚の所に行ってずいぶん早いなって思ってたら、アフロの死神が先にいたんだって。
「よくココ、判ったねぇ?」
通路側にあるピンクの可愛いトートバックを見ながら、こそっと聞く。
「ん、勘」
きっぱりと。
す・すごい勘ですな。それとも行動パターンがバレてるのか。
「あ、そこ曲がる」
黒崎くんが、くっと指先で指示して人が少ない所を通っていくと裏道に出た。

「待ち合わせ、してた?」
「っひゃぁ」
びっくりした。いきなりだし耳元で呟くなし。なんかもぉ低音だし!
両手で耳を押さえて「もぅヒソヒソしなくていいんですよ?黒崎くん」
「そうかぁ?」
見上げるとニヤニヤ笑い。ワザとだ。絶対。時々イジワルだ、この人。
「で?予定あんのか?誰かと……会うとか?」
「ないよ。どうして?」
「いやぁ、別に……」
チラリ。視線を織姫に向けた後照れたように頭を掻く。
え……と、あぁ。
黒崎くんの反応がそうだったら嬉しいなっ。
「あ……あのねぇ。今日、日曜でしょ?」
「あ、あぁ」
「なのに皆、用事があって全然暇ぢゃぁないんですョ」
「おぅ」
「ですから、気分転換と暇つぶしににちょっと……ね?」
「……」
気分転換にいつもはほとんどイジらない髪を巻いてみたり、ちょっとお化粧してみたり……
つまり[オシャレ]してたりする訳です。
コンセプトは[デート]相手、いないけど。
話してるうちになんだか恥ずかしくなってきた。
誰とも合わないって思ってたから。
変、ぢゃないかな?
時々、千鶴ちゃん達に教わったりしてるから、大丈夫なハズ。
黒崎くんがじっと睨むように見てる。この間がなんかコワイ。が負けない!
「……じゃ[空き]だな?」
確かめるように聞いてきた。
こくこくと頷くと「うしゃぁっ!」片手で拳を握る。……どうしたんでしょう?
おもむろに首を傾げてる織姫に向き合い
「井上。そこに喫茶店、あるな?」
「うん?」あった……かな?
一瞬なにを云いたいのか分からず間の抜けた返事になった。
「俺も暇なんだ。ものすごっっっくっ!!」
[ものすごっっっくっ]に物凄いタメが入ってる。
そんなに暇だったの。
ってゆ・か。コレって私の妄想による幻聴とかぢゃぁないよね?!
つい両手を上げて喜んでしまった。どうか誰も見てませんように……(ほら、黒崎くん幽霊だから)
「うわぁ~ぃっ!付き合ってくれるの?!黒崎くん」
「お願いしますっ!……い、ぃや、すぐ戻る。いいな?」
「はい。黒崎隊長!」
ビシッ。敬礼で答えると偉そうにウンウン頷く。
「お菓子くれるからって、変な奴についてくんぢゃねぇーぞぉっ」
小さな子に言い聞かせるような事を云い残して、一護は人家の屋根へ飛んだ。
……お菓子で釣られるようにみえるのか……ショック。


織姫は昼間の死神の去った方をぽーっとしばらく見上げたまま、頬をつねった。
「イタイ」
夢ぢゃない。妄想でも幻覚でも白昼夢でもない。
ドキドキドキドキ
心臓の音が大きい。
ホントのデートになっちゃった。しかも黒埼くんと、だよ?……緊張、してきた。
深呼吸する。1回、2回……落着いて井上織姫。
指定された喫茶店にゆっくりと足をむける。
とりあえず
今日はもう虚が出てきませんように。
1/1ページ
    スキ