玉蜀黍とお姫さま
「おにぃ~ちゃんっ!お願い。ソレ!持って行って欲しーのっ。タツキちゃんのトコ」
帰宅するなり、双子の片割れに指し示されたのは台所のカウンター。
スーパーのデカい袋に皮付きのトウモロコシがはみ出していた。
「……どうしたんだ。コレ?」
なんでも親父の患者から差し入れだと。
町医者の親父は、外見に似合わず意外と近所からのウケがいい。
男ヤモメで子供3人抱えてるせいか、昔から人様からいろいろ頂いていた。
遊子が名前を言ったけど俺にはその人物が分からなかった。
「ヨロシクネ?お兄ちゃん」
歳の離れた妹は、話ている間も電卓片手に小さなメモ帳と新聞の折込みとで、なにやらせわしない。
この状態の遊子に反抗してはならない。
黒崎家暗黙のルールだ。
「……行ってきます」
内心エライ面倒くせぇけど。
タツキの家は近い。
とはいえ袋いっぱいのトウモロコシはかなり重い。
7月の日差しはキビシくて、頭頂部から汗がだくだく流れてくるし。
学校の鞄、持ったままだし……なんで置いてこねぇんだよ。アホか俺。
「あ……っちぃ」
口走っても涼しくならねぇが。
タツキの家の前に人がいた。
肩ぐらいの髪の毛がサラサラして、同じ馬芝中の制服。
「……客、か?」
ウチの学校に外人、いたっけ?
そう聞いたような、数人を思い出してみたがなんか違うっぽいし。
それよりも客だったらマズイ。
一護の外見はどう見てもヤンキーだ。日頃のおこないもそう思われて仕方がない程、その通りだ。
本人はそのつもりないが。
少し待ってみるか。
だいぶ近くに来ていたから、さりげに通り過ぎる事にする。
外人が一護に気がついた。
サラサラの胡桃色の髪にセーラー服。
「…………」
「……ぁ」
ピンク色の唇が小さく開いて
「ぇっとぉ…[イチゴ]くん?」
思っきりフルーツイントネーションで我に返った。
うわぁ、思いっきり見惚れててたわ。ハズぅ……
赤面した顔を誤魔化し背ける。
「発音記号は[越後]と同じ!フルーツイントネーションは却下」
「!?……あぁ、そう。ごめんなさい。イチゴくん」
ペコリ。丁寧に頭を下げた。イントネーションが妙。
彼女の周りだけなんか涼しそうで近づく。怖がられてなさそうなのが内心嬉しかったり。
確か最近タツキが構ってる奴だっな。
名前とか顔をちゃんと覚えられない俺が即、覚えた。理由は……聞くなよ?
「……オリ「おっまぁったせぇーーーーぃいっ!!」」
バタン!!
ハデな音をたてて玄関が開きタツキが出てきた。
「まだちょーっと散らかってるけど……おや、一護?」
タツキは俺に気づくと、顔をしかめる。
「なによ?アンタ……姫に変な事してないでしょうねぇ?」
「変な事って……どーゆー目で俺を見てるんだ?お前わ」
だいたい。まっ昼間の路上でナニをどうする……と、言いかけてやめた。
硬派な俺のイメージが崩れる。
タツキはオリヒメを家に招き入れていた。
「あー。遊子が……持ってけってさ」
袋いっぱいのトウモロコシを腰の辺りまで上げた。
「うおぉぅっ!すっごいぢゃん!どしたの?」
「なんたらって患者からの差し入れだとよ」
「なんたらって………いい加減覚えなよ?人名。サンキュー」
タツキに無事荷物を渡し、帰りろうとすると襟首を捕まれた。
「まーまー。寄ってけって一護、暇なんでしょ?」
「なんだよっ?!」
「そうだ……アンタ[オリヒメ]言うの禁止。ね?」
「はいぃ?何だそりゃぁ……」
「[イノウエ]さんから始めなさい」
「あぁん?」
なに云ってるんだ、この女。
しかし妙に凄みのあるタツキの表情に、これ以上ツッコむ勇気は俺にはない。
タツキに聞かれぬようにブツブツと小声で文句をいい、勝手を知ったタツキに部屋に向かう。
背後で母親を呼ぶ幼馴染の大声が聞こえた。
部屋には[イノウエ]さんがよく出来た人形みたく、ちょこんと座ってた。
「ぁ……イチゴクン」
イントネーションがまだ微妙だ。
「悪いな……邪魔して」
折りたたみのテーブルを挟んで向かいに座る。
こざっぱりしたタツキの部屋は、俺の部屋より実に男らしい部屋だ。
見た目もボーイッシュで同性からラブレターを貰う程男らしい。中学になれば多少女の子らしき片鱗が現れるかと来るたびに思うが、一向にその気配は感じられない。上に兄貴が2人もいるからか?
下でタツキと母親が言いあってるのが聞こえる。
おばさんは俺をみると、どうも構いたくなるらしい。
タツキが上手く防御してくれている、すまん。
「……外、暑かったね?」
ハイ。と、ピンクのハンドタオルが差し出された。
見返すと「汗、スゴイよ?」細い指で[頭から滝汗]とジェスチャー。
「……すまん。サンキュー」
ハンドタオルを受取り額を拭う。部屋が涼しくて汗ダクなのを忘れてた。
ハンドタオルはいい匂いがして(使ったのかな?今日……)つい妄想してしまう。
気分的には、首やら脇やら拭きたいトコだけど。
軽く抑えただけで、ピンクのタオルは真っ黒になった。
あぁ。そーいやぁさっき空座一校の奴にカラまれたんだったなぁ……もちろんシメてやったけどよ。
チラッと[イノウエ]さんを見て「……悪い。洗って返す」
「いいよ。そんなの……」
「汚しちまったからさ……そうさせてくンねぇ?」
でないとタツキにシメられる可能性が大。
男の俺よりタツキは強い。
返すって口実で[イノウエ]さんと話すチャンスも出来るし。
一護は返事を待たず、ハンドタオルを鞄にしまった。
「………ホントにいいのに。でも、ありがと」
ふんわり、微笑みかけられ心臓が高鳴る。
これこれ!
[女の子]って本来こーゆー生き物だよなっ!
という再実感と[不良]というレッテルにマトモに[女の子]と接触する事なかった、黒崎一護14歳男子の免疫力のなさと。
[イノウエオリヒメ]さんは、鞄から英語の教科書とプリント数枚を確かめるように出した。
「何それ。宿題?」
「うん。いチゴクンの所はまだ貰ってない?」
惜しいイントネーションだ。
「んん~?どぅだろうな……」
正直、ここんところ学校にマトモにいる事がなかった。
絡まれたり呼び出されたり、教師と揉めたり……ネタには事欠かない。
配られていたなら机に入ってるし、机のモノは今日全部鞄に突っ込んできた。
もしかしたら入ってる。
「テスト出るかもって」
「……マジ?」
ガチャン!
自己主張ハゲしくドアが開き部屋の主が入ってきた。
ち……いいカンジだったのに。
「おまたせ。一護持って」
強制的に盆を持たされる。麦茶3つと麦茶の入ったボトル。
カラン。氷の当たる涼しげな音が気持ちいい。
「人使い荒いし」
「……あ・代わる?」
[イノウエ]さんが盆を受け取ろうとしてくれたけど「いい。重いし」
盆を机の下、邪魔にならなさそうな所に置く。
「……で、なんなんだよ?」
タツキを見ると、鞄から同じようにプリントなどを出して「お勉強会。織姫コイツもいいよね?」
「うん。もちろん」
笑顔で答えてるけど邪魔じゃねぇ?
「事後承諾かよ……」
「だって、あんた期末ヤバかったしょ?点数ぐらいいいの採っとかなきゃさ~」
「たしかに……」
「それに織姫、頭いいんだ。教えてもらったほうがいいって」
「へへぇ~」
照れて顔を赤くする。
女の子に教わるのはイイ気がする。
それが[イノウエオリヒメ]さんなら、なおイイ。
「んじゃ……俺もお願いします」
「はい。頑張りましょーっ」
「うっし!気張るよっ、一護!」
「おぅっ」
タツキと俺はガッと、拳を付き合わせ気合を入れる。
……お勉強だけどな。今から。
帰宅するなり、双子の片割れに指し示されたのは台所のカウンター。
スーパーのデカい袋に皮付きのトウモロコシがはみ出していた。
「……どうしたんだ。コレ?」
なんでも親父の患者から差し入れだと。
町医者の親父は、外見に似合わず意外と近所からのウケがいい。
男ヤモメで子供3人抱えてるせいか、昔から人様からいろいろ頂いていた。
遊子が名前を言ったけど俺にはその人物が分からなかった。
「ヨロシクネ?お兄ちゃん」
歳の離れた妹は、話ている間も電卓片手に小さなメモ帳と新聞の折込みとで、なにやらせわしない。
この状態の遊子に反抗してはならない。
黒崎家暗黙のルールだ。
「……行ってきます」
内心エライ面倒くせぇけど。
タツキの家は近い。
とはいえ袋いっぱいのトウモロコシはかなり重い。
7月の日差しはキビシくて、頭頂部から汗がだくだく流れてくるし。
学校の鞄、持ったままだし……なんで置いてこねぇんだよ。アホか俺。
「あ……っちぃ」
口走っても涼しくならねぇが。
タツキの家の前に人がいた。
肩ぐらいの髪の毛がサラサラして、同じ馬芝中の制服。
「……客、か?」
ウチの学校に外人、いたっけ?
そう聞いたような、数人を思い出してみたがなんか違うっぽいし。
それよりも客だったらマズイ。
一護の外見はどう見てもヤンキーだ。日頃のおこないもそう思われて仕方がない程、その通りだ。
本人はそのつもりないが。
少し待ってみるか。
だいぶ近くに来ていたから、さりげに通り過ぎる事にする。
外人が一護に気がついた。
サラサラの胡桃色の髪にセーラー服。
「…………」
「……ぁ」
ピンク色の唇が小さく開いて
「ぇっとぉ…[イチゴ]くん?」
思っきりフルーツイントネーションで我に返った。
うわぁ、思いっきり見惚れててたわ。ハズぅ……
赤面した顔を誤魔化し背ける。
「発音記号は[越後]と同じ!フルーツイントネーションは却下」
「!?……あぁ、そう。ごめんなさい。イチゴくん」
ペコリ。丁寧に頭を下げた。イントネーションが妙。
彼女の周りだけなんか涼しそうで近づく。怖がられてなさそうなのが内心嬉しかったり。
確か最近タツキが構ってる奴だっな。
名前とか顔をちゃんと覚えられない俺が即、覚えた。理由は……聞くなよ?
「……オリ「おっまぁったせぇーーーーぃいっ!!」」
バタン!!
ハデな音をたてて玄関が開きタツキが出てきた。
「まだちょーっと散らかってるけど……おや、一護?」
タツキは俺に気づくと、顔をしかめる。
「なによ?アンタ……姫に変な事してないでしょうねぇ?」
「変な事って……どーゆー目で俺を見てるんだ?お前わ」
だいたい。まっ昼間の路上でナニをどうする……と、言いかけてやめた。
硬派な俺のイメージが崩れる。
タツキはオリヒメを家に招き入れていた。
「あー。遊子が……持ってけってさ」
袋いっぱいのトウモロコシを腰の辺りまで上げた。
「うおぉぅっ!すっごいぢゃん!どしたの?」
「なんたらって患者からの差し入れだとよ」
「なんたらって………いい加減覚えなよ?人名。サンキュー」
タツキに無事荷物を渡し、帰りろうとすると襟首を捕まれた。
「まーまー。寄ってけって一護、暇なんでしょ?」
「なんだよっ?!」
「そうだ……アンタ[オリヒメ]言うの禁止。ね?」
「はいぃ?何だそりゃぁ……」
「[イノウエ]さんから始めなさい」
「あぁん?」
なに云ってるんだ、この女。
しかし妙に凄みのあるタツキの表情に、これ以上ツッコむ勇気は俺にはない。
タツキに聞かれぬようにブツブツと小声で文句をいい、勝手を知ったタツキに部屋に向かう。
背後で母親を呼ぶ幼馴染の大声が聞こえた。
部屋には[イノウエ]さんがよく出来た人形みたく、ちょこんと座ってた。
「ぁ……イチゴクン」
イントネーションがまだ微妙だ。
「悪いな……邪魔して」
折りたたみのテーブルを挟んで向かいに座る。
こざっぱりしたタツキの部屋は、俺の部屋より実に男らしい部屋だ。
見た目もボーイッシュで同性からラブレターを貰う程男らしい。中学になれば多少女の子らしき片鱗が現れるかと来るたびに思うが、一向にその気配は感じられない。上に兄貴が2人もいるからか?
下でタツキと母親が言いあってるのが聞こえる。
おばさんは俺をみると、どうも構いたくなるらしい。
タツキが上手く防御してくれている、すまん。
「……外、暑かったね?」
ハイ。と、ピンクのハンドタオルが差し出された。
見返すと「汗、スゴイよ?」細い指で[頭から滝汗]とジェスチャー。
「……すまん。サンキュー」
ハンドタオルを受取り額を拭う。部屋が涼しくて汗ダクなのを忘れてた。
ハンドタオルはいい匂いがして(使ったのかな?今日……)つい妄想してしまう。
気分的には、首やら脇やら拭きたいトコだけど。
軽く抑えただけで、ピンクのタオルは真っ黒になった。
あぁ。そーいやぁさっき空座一校の奴にカラまれたんだったなぁ……もちろんシメてやったけどよ。
チラッと[イノウエ]さんを見て「……悪い。洗って返す」
「いいよ。そんなの……」
「汚しちまったからさ……そうさせてくンねぇ?」
でないとタツキにシメられる可能性が大。
男の俺よりタツキは強い。
返すって口実で[イノウエ]さんと話すチャンスも出来るし。
一護は返事を待たず、ハンドタオルを鞄にしまった。
「………ホントにいいのに。でも、ありがと」
ふんわり、微笑みかけられ心臓が高鳴る。
これこれ!
[女の子]って本来こーゆー生き物だよなっ!
という再実感と[不良]というレッテルにマトモに[女の子]と接触する事なかった、黒崎一護14歳男子の免疫力のなさと。
[イノウエオリヒメ]さんは、鞄から英語の教科書とプリント数枚を確かめるように出した。
「何それ。宿題?」
「うん。いチゴクンの所はまだ貰ってない?」
惜しいイントネーションだ。
「んん~?どぅだろうな……」
正直、ここんところ学校にマトモにいる事がなかった。
絡まれたり呼び出されたり、教師と揉めたり……ネタには事欠かない。
配られていたなら机に入ってるし、机のモノは今日全部鞄に突っ込んできた。
もしかしたら入ってる。
「テスト出るかもって」
「……マジ?」
ガチャン!
自己主張ハゲしくドアが開き部屋の主が入ってきた。
ち……いいカンジだったのに。
「おまたせ。一護持って」
強制的に盆を持たされる。麦茶3つと麦茶の入ったボトル。
カラン。氷の当たる涼しげな音が気持ちいい。
「人使い荒いし」
「……あ・代わる?」
[イノウエ]さんが盆を受け取ろうとしてくれたけど「いい。重いし」
盆を机の下、邪魔にならなさそうな所に置く。
「……で、なんなんだよ?」
タツキを見ると、鞄から同じようにプリントなどを出して「お勉強会。織姫コイツもいいよね?」
「うん。もちろん」
笑顔で答えてるけど邪魔じゃねぇ?
「事後承諾かよ……」
「だって、あんた期末ヤバかったしょ?点数ぐらいいいの採っとかなきゃさ~」
「たしかに……」
「それに織姫、頭いいんだ。教えてもらったほうがいいって」
「へへぇ~」
照れて顔を赤くする。
女の子に教わるのはイイ気がする。
それが[イノウエオリヒメ]さんなら、なおイイ。
「んじゃ……俺もお願いします」
「はい。頑張りましょーっ」
「うっし!気張るよっ、一護!」
「おぅっ」
タツキと俺はガッと、拳を付き合わせ気合を入れる。
……お勉強だけどな。今から。
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