闇鍋
沸々と携帯コンロに鎮座する鍋を凝視する。この世のモノとは認めたくない映像。
部屋中に充満した甘ったるいの、生臭いのどっちかにしてくれっ!と叫びたい空気。
せめて同じ黒汁ならイカ墨にして欲しかった……
クツクツといい音をたてる鍋を囲んで、俺たち3人は同じ想いに頭を抱えていた。
「えっと……なんの会、だっけ?」
タツキがダルそうに口を開いてチャドが答える。
「“鍋をつっつく会”だ」
つっつくだけなら問題ねーがな?
冷たい汗が滴り落ちる。やベぇ腹痛くなってきた。
どういう課程で今に至るのかは覚えちゃいないけど。昼休みに啓吾のバカが「“鍋を囲む会”をしたい」と騒いでいて。騒いでいた啓吾と勘のいい水色を抜きにした、元馬芝中学出身腐れ縁が揃って井上の家にいるのは、成り行きと……ほんの少しの下心。
「とりあえず。今まで織姫のチャレンジレシピで大失敗は、無いから」
「失敗はあるのか」
うっかりツッコむと隣の鬼が睨む。「闇鍋」とチャドが提案する趣旨の方向性の変更。
あぁ、闇鍋……か。
チャド。お前スゲェ前向きだ。コレ本気で喰う気なんだな……
俺の目の前には超スマイリーな井上織姫サマ。
「そろそろ……どぉかなぁ~?」
周囲の想いは完全スルー。天使の如く微笑みでマイ・ウェイ井上は怪しい鍋へ箸を入れた。
「織姫ぇ……大丈夫なの?コレ、アクだか何だかわかんないよっ」
「うぅ……ん。牛乳鍋とかトマト鍋とかあるんだし。チョコレートもイケルと思うんだ!多分」
「「「……たぶん?」」」
3人見事にハモった。
「実験かよっ」
怒ってはいない。ただ日頃から『人相が悪い』など、不本意な事をよく云われる俺の表情はヒドかったようだ。井上のキレイな目が怯えて曇った瞬間 「っぅほほぅ!!」 鳩尾にタツキの肘が入る。
「なんっつー邪悪な顔してるのよ!あんたわ。姫、怖がってるでしょーがっ」
……俺はお前の方が怖ぇよ。加減を覚えてください。
「あぁっ……た・たつきちゃんってばっ」
すぐに復活できず悶絶する肩へ軟らかい感触が「黒崎くん……大丈夫?」眉を八の字にして俺の頭を撫でる。痛いのソコじゃない。
コンの奴が“特盛”と称したよく育ったふくらみが腕に触れ、さりげなく姿勢をずらし身体を押し付けた。
このくらいは……イイよな?
「ん……あぁ、なんとか」
いい匂いするよな……井上って。いつも思うけど。
「ごめんなさい。私が……チョコなんて入れたから……つい、その。誘惑に勝てなくて」
謝ってはいるが目を反らした口元は笑っていた。ん?誘惑って……
「確信犯じゃねーかっ!?」
「やーんっ」
跳ね起きた勢いで井上を押し倒してしまった。
近くにいて距離感が掴めなかった結果で故意では決してない。『ごめんなさい』のポーズの彼女を押さえつけていたのに気づくと同時にヘッドロックがかけられた。
「だ~か~ら~ぁっ!ヤメロってゆーのっっ!!」
「っごぉ……ほっっ」
「たつきちゃんったつきちゃんっ……オチちゃうよっ黒崎くん」
「オトしたほーが世界平和に貢献するわっ」
なんだよソレ?ワケわかんねぇわ。
必死に技を外そうとしてるが、流石は日本で2番目に強い女。綺麗にキマって外せない。
やベぇ、ホンキでオチそう……本気で加減ってモンを覚えてくれ。頼むから。
「えー。それじゃぁ鍋食べれないよぉ~」
そこ?そこなか?お前の心配する所は。
タツキの気が抜け脱力したおかげで俺は生還した。
「足らないんじゃないか?」
救出する事も援護する事もなかったチャドは、何事も無かったように井上に声をかけた。
見ると謎の物体を少し小鉢に盛って手には箸。 したのか?味見。
数少ない友人の勇気ある行動に呆れつつ感心する。
……っつーか、興味持っちまったのかよ。
「うーん。やっぱり?」
俺の下で井上が仰け反り気味でチャドの方に向く。
なかなか、この角度のこのポーズの女の子は見れねぇよな。
俺のケツに蹴りを入れたタツキが「どきなさいよ」呟いてチャドの方へ行った。退いてやろうと思ってたんだが?足で押さえつけてた井上の拘束を緩めると、ゆるゆると這いずり出て慰めてくれる。
マジ女神。
「大丈夫、なの?」タツキはチャドの小鉢をのぞく。
「む……牛乳を」
「うん。臭みを何とかしないとねー」
云いながら意を決しスープを口にしてかなり複雑な顔をした。
井上は心配そうに「実はね。ココアパウダーを入れようか迷ってて」
「「それ!」だ!」
「へ?」
「は?」
「チョコにしてはチョコっぽさが足んないの。かと云ってチョコを足すのはどうかっていうか」
なんか3人で話が盛り上がっている。というよりもこの展開は「……正気か?お前ら」恐る恐る聞いた。
「だって……気にならない?一護?」
「俺は……なる」
2人共、目がマジだ。
「……ならないでくれ」
「いいじゃん。チョコ好きなんだし、あんた」
好きだがな!鍋にするほどじゃねぇよ。
「たつきちゃんっ、チャドくん!いいの?ホントに?」
タツキ・チャド・俺と順番に顔を覗き込んだ。キランキランした目で。
「もったいないでしょぉ?材料。ちゃんと美味しく食べようね」
「う、うぅ……ありがとぉっ!たつきちゃぁ~んっ」
はしっ!と抱きつく井上を、タツキはあやすように頭を撫でて「!?」俺と目が合った。
「なぁー……っ」
っだよ?そりゃぁ。“アッカンベー”って小学生か?!てめぇは。ご丁寧に舌まで出してんじゃぁねぇ。
「タツキてめぇ……「あんた、毒見役ね」ったろーじゃねぇかっ……うぇええ?!!」
それはやっちゃダメっしょ……俺。
タツキの嫌な笑い方がムカつく。
「てめぇなぁ」云いかけて肩を叩かれた。
「なんだチャド?」
「一護。セクハラはダメだ」
バレてる!!!
じっと見合ってると、チャドがゆっくり頷いた。わかった。ヤレばいいんだな?ヤレば!
「上等だ!!チョコでもココアでも入れやがれっ!完食してやるっ」
「ホント!?黒崎くん!」
パアッと井上の表情が明るくなった。
「ふふっ。嬉しいなぁっ!皆で美味しくしよぉーねぇ?」
君たち。家が病院で親父が医者だからって、胃が丈夫ってわけじゃないんだ。
結果。
チョコ鍋は奇跡的に美味く出来た。納得できない事だが事実だから仕方がない。
いつの間にかバナナとかリンゴが魚と一緒に投入された鍋を、俺はもう2度と食いたくはない。
部屋中に充満した甘ったるいの、生臭いのどっちかにしてくれっ!と叫びたい空気。
せめて同じ黒汁ならイカ墨にして欲しかった……
クツクツといい音をたてる鍋を囲んで、俺たち3人は同じ想いに頭を抱えていた。
「えっと……なんの会、だっけ?」
タツキがダルそうに口を開いてチャドが答える。
「“鍋をつっつく会”だ」
つっつくだけなら問題ねーがな?
冷たい汗が滴り落ちる。やベぇ腹痛くなってきた。
どういう課程で今に至るのかは覚えちゃいないけど。昼休みに啓吾のバカが「“鍋を囲む会”をしたい」と騒いでいて。騒いでいた啓吾と勘のいい水色を抜きにした、元馬芝中学出身腐れ縁が揃って井上の家にいるのは、成り行きと……ほんの少しの下心。
「とりあえず。今まで織姫のチャレンジレシピで大失敗は、無いから」
「失敗はあるのか」
うっかりツッコむと隣の鬼が睨む。「闇鍋」とチャドが提案する趣旨の方向性の変更。
あぁ、闇鍋……か。
チャド。お前スゲェ前向きだ。コレ本気で喰う気なんだな……
俺の目の前には超スマイリーな井上織姫サマ。
「そろそろ……どぉかなぁ~?」
周囲の想いは完全スルー。天使の如く微笑みでマイ・ウェイ井上は怪しい鍋へ箸を入れた。
「織姫ぇ……大丈夫なの?コレ、アクだか何だかわかんないよっ」
「うぅ……ん。牛乳鍋とかトマト鍋とかあるんだし。チョコレートもイケルと思うんだ!多分」
「「「……たぶん?」」」
3人見事にハモった。
「実験かよっ」
怒ってはいない。ただ日頃から『人相が悪い』など、不本意な事をよく云われる俺の表情はヒドかったようだ。井上のキレイな目が怯えて曇った瞬間 「っぅほほぅ!!」 鳩尾にタツキの肘が入る。
「なんっつー邪悪な顔してるのよ!あんたわ。姫、怖がってるでしょーがっ」
……俺はお前の方が怖ぇよ。加減を覚えてください。
「あぁっ……た・たつきちゃんってばっ」
すぐに復活できず悶絶する肩へ軟らかい感触が「黒崎くん……大丈夫?」眉を八の字にして俺の頭を撫でる。痛いのソコじゃない。
コンの奴が“特盛”と称したよく育ったふくらみが腕に触れ、さりげなく姿勢をずらし身体を押し付けた。
このくらいは……イイよな?
「ん……あぁ、なんとか」
いい匂いするよな……井上って。いつも思うけど。
「ごめんなさい。私が……チョコなんて入れたから……つい、その。誘惑に勝てなくて」
謝ってはいるが目を反らした口元は笑っていた。ん?誘惑って……
「確信犯じゃねーかっ!?」
「やーんっ」
跳ね起きた勢いで井上を押し倒してしまった。
近くにいて距離感が掴めなかった結果で故意では決してない。『ごめんなさい』のポーズの彼女を押さえつけていたのに気づくと同時にヘッドロックがかけられた。
「だ~か~ら~ぁっ!ヤメロってゆーのっっ!!」
「っごぉ……ほっっ」
「たつきちゃんったつきちゃんっ……オチちゃうよっ黒崎くん」
「オトしたほーが世界平和に貢献するわっ」
なんだよソレ?ワケわかんねぇわ。
必死に技を外そうとしてるが、流石は日本で2番目に強い女。綺麗にキマって外せない。
やベぇ、ホンキでオチそう……本気で加減ってモンを覚えてくれ。頼むから。
「えー。それじゃぁ鍋食べれないよぉ~」
そこ?そこなか?お前の心配する所は。
タツキの気が抜け脱力したおかげで俺は生還した。
「足らないんじゃないか?」
救出する事も援護する事もなかったチャドは、何事も無かったように井上に声をかけた。
見ると謎の物体を少し小鉢に盛って手には箸。 したのか?味見。
数少ない友人の勇気ある行動に呆れつつ感心する。
……っつーか、興味持っちまったのかよ。
「うーん。やっぱり?」
俺の下で井上が仰け反り気味でチャドの方に向く。
なかなか、この角度のこのポーズの女の子は見れねぇよな。
俺のケツに蹴りを入れたタツキが「どきなさいよ」呟いてチャドの方へ行った。退いてやろうと思ってたんだが?足で押さえつけてた井上の拘束を緩めると、ゆるゆると這いずり出て慰めてくれる。
マジ女神。
「大丈夫、なの?」タツキはチャドの小鉢をのぞく。
「む……牛乳を」
「うん。臭みを何とかしないとねー」
云いながら意を決しスープを口にしてかなり複雑な顔をした。
井上は心配そうに「実はね。ココアパウダーを入れようか迷ってて」
「「それ!」だ!」
「へ?」
「は?」
「チョコにしてはチョコっぽさが足んないの。かと云ってチョコを足すのはどうかっていうか」
なんか3人で話が盛り上がっている。というよりもこの展開は「……正気か?お前ら」恐る恐る聞いた。
「だって……気にならない?一護?」
「俺は……なる」
2人共、目がマジだ。
「……ならないでくれ」
「いいじゃん。チョコ好きなんだし、あんた」
好きだがな!鍋にするほどじゃねぇよ。
「たつきちゃんっ、チャドくん!いいの?ホントに?」
タツキ・チャド・俺と順番に顔を覗き込んだ。キランキランした目で。
「もったいないでしょぉ?材料。ちゃんと美味しく食べようね」
「う、うぅ……ありがとぉっ!たつきちゃぁ~んっ」
はしっ!と抱きつく井上を、タツキはあやすように頭を撫でて「!?」俺と目が合った。
「なぁー……っ」
っだよ?そりゃぁ。“アッカンベー”って小学生か?!てめぇは。ご丁寧に舌まで出してんじゃぁねぇ。
「タツキてめぇ……「あんた、毒見役ね」ったろーじゃねぇかっ……うぇええ?!!」
それはやっちゃダメっしょ……俺。
タツキの嫌な笑い方がムカつく。
「てめぇなぁ」云いかけて肩を叩かれた。
「なんだチャド?」
「一護。セクハラはダメだ」
バレてる!!!
じっと見合ってると、チャドがゆっくり頷いた。わかった。ヤレばいいんだな?ヤレば!
「上等だ!!チョコでもココアでも入れやがれっ!完食してやるっ」
「ホント!?黒崎くん!」
パアッと井上の表情が明るくなった。
「ふふっ。嬉しいなぁっ!皆で美味しくしよぉーねぇ?」
君たち。家が病院で親父が医者だからって、胃が丈夫ってわけじゃないんだ。
結果。
チョコ鍋は奇跡的に美味く出来た。納得できない事だが事実だから仕方がない。
いつの間にかバナナとかリンゴが魚と一緒に投入された鍋を、俺はもう2度と食いたくはない。
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