主人公の名前
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今日はいろんな出来事が起きて頭も体も疲れている。海莉は食事は後回しでとにかくお風呂場へと直行した。シャワーを浴びて明日からのことをぼんやりと考えていると、直接ではないにしろ始めて見た人の死体というのがまた脳裏をよぎった。まだ焼き付いて離れない。いやきっと、この記憶は自分が生きていく上で一生忘れる事がないだろう。人の死様など、そうそう見るものではないのだから。どんなに楽しいことで上書きしようとしてもずっとずっと海莉の記憶に残り続ける。それでも海莉はその記憶を消すように頭を横に振って、明日のことだけに集中した。
きれいさっぱりにした体を拭いて脱衣所を出る。そういえば冷蔵庫の中空っぽじゃあなかったっけ、なんて考えながらリビングに戻るとさも当たり前のように1人の男が佇んでた。
「やぁ海莉、風呂上がりさっそくで悪いんだが食事を作ってくれないか?夕飯がまだなんだ。君もだろう?」
「…………………え、メローネ…さん?」
驚きすぎて反応に時間がかかった。当たり前である。何でここに、というかどうやって入ったのかと聞く間もなく早くしてくれよ〜と催促し、そのまま狭いソファに横になり始めた。ぐう…と自身のお腹も空腹を訴えてきたので、とりあえず今はもうスタンドか何かで入ったんだろうなと脳内で片付けて夕飯を作るために冷蔵庫を開ける。ラッキーなことに、そこにはないと思っていた材料がないまだ少しだけ残っていた。2人分作れるだけの材料があるかどうかは分からない。
奇跡的にあった材料で一品作り彼の前へ出す。グラッツェ!!と言って、よほど空腹だったのか勢いよくそれにかぶりついていた。
「口に合うかどうか…」
「いや、普通に美味しい。久しぶりだぜ、こんなまともな飯を食べたのは」
いつも適当だからなぁ、他のやつがつくる飯は不味いし。などと呟きながらも、それでも食べる手は止めなかった。
海莉はこうして誰かと向き合って食べるのは久々だった為か、それとも相手が相手なのでうまく咀嚼が出来ないでいた。いくら明日から世話になる人物とはいえ会ったばかりの男。緊張しないわけもない。
「そう言えば自己紹介がまだだったね。知ってるかもしれないが、俺はメローネ」
「ど、どうも…」
「因みにどうやってここに入ったかというと、答えは単純。鍵、開けっ放しだったよ。まったく不用心だな」
こんな時に思うことではないのはわかっているが、この人よく見ると本当に綺麗な顔立ちをしている。アジア人にとってこちら側の顔立ちはどんな人でもかっこよく見えてしまうのだが彼は特別そうだと感じた。食事をするという簡単な動作さえも、様になる。その独特で理解し難い服も彼だからこそ似合っているんだろう。
海莉がまじまじとメローネを見ていると、本題なんだがなと話を切り出した。
「俺たちギャングは君が思っているより何倍もヤバい奴らだ。その本人が言うのもなんだがな。俺たちはその中でも特に、だ。」
メローネの言葉を海莉は黙って静かに聞いた。
「俺たちは暗殺チームで、その言葉通り暗殺が主な仕事なんだよ。今君の目の前にいるのは、君が明日から働く場所には、人を当たり前の様に殺す事ができる奴がいる。怖いだろう?」
「……………、」
「逃げる君を俺は追いかけたりもしないし、アイツらもきっと追いかけない。前の会社にやっぱり退職を取り消したいと連絡してたって、まだ間に合うはずだ。逃げるなら今だよ、海莉」
食べる手を止めて、真剣な表情で海莉を見るその目が余計に海莉を強張らせた。怖いか怖くないかなんて、そんなの決まってる。
「怖いですよ、怖かったですよ!こっちに来てからずっとずっと!!治安は悪いって聞いてましたし、スリも多いって。慣れない国で、環境で生活する事が、今までずっと怖かった。でも…仕事だからって思って、辞められなくて、いつか慣れると思ったから続けてきた…!!」
知ってる人がいるわけでもない、時々自分の勉強不足で言葉だって通じない時もあった。それでも仕事だからと言い聞かせて頑張って頑張って続けてきた。残業があった日の、あの静かな夜道を歩いて帰るときの恐怖ったらなかった。気軽に相談できそうな相手もいない、友達も家族もいない。だがそんな中、良くも悪くもそんな日々に終止符がついた気がしたんだ。今日のあの出来事によって。
「逃げるなら今だなんて…私はもう逃げましたよあの会社から!!逃げた場所が、あなた達の場所です!!」
「…………、」
「ギャングが何ですか!!私には馴染みがなさすぎて実感がありません!!そりゃ怖いですけど……でも怖くありませんから!!」
支離滅裂だ。自分でもわかる。
メローネも何を言ってるんだと言わんばかりに目を丸くして、口をぽかんと開けて海莉を見ている。勢いで言うだけ言った後のこの微妙な空気に耐えられなくなった海莉は再び言葉を続けていく。
「そ、それから…もしかしたらメローネさんはそんなつもりはないのかもしれませんが…逃げろって言ってくれたのは、あなたなりの優しさだと私は勝手に思っておきます」
たしかに彼らは人を殺す事を生業として生きているのだろう。だからと言って、彼らに誰かを気にかける優しさだとか思いやりだとか、そういった心が欠けているわけではないんだとなんとなく思った。メローネに至っては今がそうだ。心が欠けていればこんな事をわざわざ伝えにこない。ここまで送り届けてくれたホルマジオ さんだって…。
「………ふっ」
メローネが一度吹き出したと思ったら、彼はあははははっと声をあげて笑いだしたのだ。今度は海莉が目を丸くしている。やばい、支離滅裂すぎて笑われているのか、一体何がそこまで彼を笑わせてしまったのかよく分からない。おどおどとしている海莉を他所に、メローネは笑った笑ったと、うっすらと出ていた涙を拭き取って落ち着かせていた。
「君にギャングが馴染みないからこうして忠告しているというのに…それが逆に怖くないって?俺の優しさだって?何だそれ…あははっ…!」
「そんなに笑わなくても…」
「いやまさか、俺の突拍子でもない家政婦っていう提案をのむとは正直思わなくてあの時も驚いたけど…」
じゃあさっきのあの意味深な笑顔というのは、ただ単に本当に笑っていただけだったというのか。自分から言ったくせに…ぽつりと海莉が呟くと、すまないと申し訳なさそう眉を下げて、しかしながら肩はまだ震えていた。本当にすまないと思うならその笑いを堪えるように口元を隠す手をどけたらどうだ。
こうして接していると、ギャングではなくて普通の人と接しているのとたいした変わらないと思う。それはまだ、ギャングというものがどんなものなのか分からないだけなのかもしれないが。
「君のその面白い覚悟も知れた事だし、俺はそろそろアジトへ戻るよ。食事もありがとう、美味しかった」
ソファから立ち上がり、帰る準備をするメローネに合わせて海莉も彼を見送るために立ち上がる。玄関の鍵をしっかり閉めるようにと注意をされたので、そこはしっかりと頷いた。
「明日の朝、ホルマジオがまたここに迎えに来るはずだ。荷物はある程度纏めておいた方がいいかもな」
「分かりました」
「それと…」
玄関の扉を開けようとした彼の手が止まり、海莉の方へとくるりと振り向く。彼の綺麗なブランドの髪がさらりと揺れた。
「メローネでいい。あとその堅苦しい喋り方はやめてくれよ、海莉」
「……うん、メローネ」
「うんうん、ディ・モールトベネ」
ふっと笑って、出て行く彼を見送りリビングに戻る。先ほどまでそこで笑い声が聞こえていたはずの部屋はしんと静まり返っていた。なんだかそれが寂しく感じたのは、きっと気のせいではないのだろう。
明日から私の生活が、人生が変わっていく。出来れば良い方へと繋がる事を切に願いながら、海莉は綺麗に平らげた空の食器を片付けるのだった。
きれいさっぱりにした体を拭いて脱衣所を出る。そういえば冷蔵庫の中空っぽじゃあなかったっけ、なんて考えながらリビングに戻るとさも当たり前のように1人の男が佇んでた。
「やぁ海莉、風呂上がりさっそくで悪いんだが食事を作ってくれないか?夕飯がまだなんだ。君もだろう?」
「…………………え、メローネ…さん?」
驚きすぎて反応に時間がかかった。当たり前である。何でここに、というかどうやって入ったのかと聞く間もなく早くしてくれよ〜と催促し、そのまま狭いソファに横になり始めた。ぐう…と自身のお腹も空腹を訴えてきたので、とりあえず今はもうスタンドか何かで入ったんだろうなと脳内で片付けて夕飯を作るために冷蔵庫を開ける。ラッキーなことに、そこにはないと思っていた材料がないまだ少しだけ残っていた。2人分作れるだけの材料があるかどうかは分からない。
奇跡的にあった材料で一品作り彼の前へ出す。グラッツェ!!と言って、よほど空腹だったのか勢いよくそれにかぶりついていた。
「口に合うかどうか…」
「いや、普通に美味しい。久しぶりだぜ、こんなまともな飯を食べたのは」
いつも適当だからなぁ、他のやつがつくる飯は不味いし。などと呟きながらも、それでも食べる手は止めなかった。
海莉はこうして誰かと向き合って食べるのは久々だった為か、それとも相手が相手なのでうまく咀嚼が出来ないでいた。いくら明日から世話になる人物とはいえ会ったばかりの男。緊張しないわけもない。
「そう言えば自己紹介がまだだったね。知ってるかもしれないが、俺はメローネ」
「ど、どうも…」
「因みにどうやってここに入ったかというと、答えは単純。鍵、開けっ放しだったよ。まったく不用心だな」
こんな時に思うことではないのはわかっているが、この人よく見ると本当に綺麗な顔立ちをしている。アジア人にとってこちら側の顔立ちはどんな人でもかっこよく見えてしまうのだが彼は特別そうだと感じた。食事をするという簡単な動作さえも、様になる。その独特で理解し難い服も彼だからこそ似合っているんだろう。
海莉がまじまじとメローネを見ていると、本題なんだがなと話を切り出した。
「俺たちギャングは君が思っているより何倍もヤバい奴らだ。その本人が言うのもなんだがな。俺たちはその中でも特に、だ。」
メローネの言葉を海莉は黙って静かに聞いた。
「俺たちは暗殺チームで、その言葉通り暗殺が主な仕事なんだよ。今君の目の前にいるのは、君が明日から働く場所には、人を当たり前の様に殺す事ができる奴がいる。怖いだろう?」
「……………、」
「逃げる君を俺は追いかけたりもしないし、アイツらもきっと追いかけない。前の会社にやっぱり退職を取り消したいと連絡してたって、まだ間に合うはずだ。逃げるなら今だよ、海莉」
食べる手を止めて、真剣な表情で海莉を見るその目が余計に海莉を強張らせた。怖いか怖くないかなんて、そんなの決まってる。
「怖いですよ、怖かったですよ!こっちに来てからずっとずっと!!治安は悪いって聞いてましたし、スリも多いって。慣れない国で、環境で生活する事が、今までずっと怖かった。でも…仕事だからって思って、辞められなくて、いつか慣れると思ったから続けてきた…!!」
知ってる人がいるわけでもない、時々自分の勉強不足で言葉だって通じない時もあった。それでも仕事だからと言い聞かせて頑張って頑張って続けてきた。残業があった日の、あの静かな夜道を歩いて帰るときの恐怖ったらなかった。気軽に相談できそうな相手もいない、友達も家族もいない。だがそんな中、良くも悪くもそんな日々に終止符がついた気がしたんだ。今日のあの出来事によって。
「逃げるなら今だなんて…私はもう逃げましたよあの会社から!!逃げた場所が、あなた達の場所です!!」
「…………、」
「ギャングが何ですか!!私には馴染みがなさすぎて実感がありません!!そりゃ怖いですけど……でも怖くありませんから!!」
支離滅裂だ。自分でもわかる。
メローネも何を言ってるんだと言わんばかりに目を丸くして、口をぽかんと開けて海莉を見ている。勢いで言うだけ言った後のこの微妙な空気に耐えられなくなった海莉は再び言葉を続けていく。
「そ、それから…もしかしたらメローネさんはそんなつもりはないのかもしれませんが…逃げろって言ってくれたのは、あなたなりの優しさだと私は勝手に思っておきます」
たしかに彼らは人を殺す事を生業として生きているのだろう。だからと言って、彼らに誰かを気にかける優しさだとか思いやりだとか、そういった心が欠けているわけではないんだとなんとなく思った。メローネに至っては今がそうだ。心が欠けていればこんな事をわざわざ伝えにこない。ここまで送り届けてくれたホルマジオ さんだって…。
「………ふっ」
メローネが一度吹き出したと思ったら、彼はあははははっと声をあげて笑いだしたのだ。今度は海莉が目を丸くしている。やばい、支離滅裂すぎて笑われているのか、一体何がそこまで彼を笑わせてしまったのかよく分からない。おどおどとしている海莉を他所に、メローネは笑った笑ったと、うっすらと出ていた涙を拭き取って落ち着かせていた。
「君にギャングが馴染みないからこうして忠告しているというのに…それが逆に怖くないって?俺の優しさだって?何だそれ…あははっ…!」
「そんなに笑わなくても…」
「いやまさか、俺の突拍子でもない家政婦っていう提案をのむとは正直思わなくてあの時も驚いたけど…」
じゃあさっきのあの意味深な笑顔というのは、ただ単に本当に笑っていただけだったというのか。自分から言ったくせに…ぽつりと海莉が呟くと、すまないと申し訳なさそう眉を下げて、しかしながら肩はまだ震えていた。本当にすまないと思うならその笑いを堪えるように口元を隠す手をどけたらどうだ。
こうして接していると、ギャングではなくて普通の人と接しているのとたいした変わらないと思う。それはまだ、ギャングというものがどんなものなのか分からないだけなのかもしれないが。
「君のその面白い覚悟も知れた事だし、俺はそろそろアジトへ戻るよ。食事もありがとう、美味しかった」
ソファから立ち上がり、帰る準備をするメローネに合わせて海莉も彼を見送るために立ち上がる。玄関の鍵をしっかり閉めるようにと注意をされたので、そこはしっかりと頷いた。
「明日の朝、ホルマジオがまたここに迎えに来るはずだ。荷物はある程度纏めておいた方がいいかもな」
「分かりました」
「それと…」
玄関の扉を開けようとした彼の手が止まり、海莉の方へとくるりと振り向く。彼の綺麗なブランドの髪がさらりと揺れた。
「メローネでいい。あとその堅苦しい喋り方はやめてくれよ、海莉」
「……うん、メローネ」
「うんうん、ディ・モールトベネ」
ふっと笑って、出て行く彼を見送りリビングに戻る。先ほどまでそこで笑い声が聞こえていたはずの部屋はしんと静まり返っていた。なんだかそれが寂しく感じたのは、きっと気のせいではないのだろう。
明日から私の生活が、人生が変わっていく。出来れば良い方へと繋がる事を切に願いながら、海莉は綺麗に平らげた空の食器を片付けるのだった。