主人公の名前
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「イルーゾォ!!お願い出して!!」
「海莉…悪いな。それはできねぇんだ」
ガンガンと鏡を叩く音が響く。海莉は朝目を覚まして、いつも通りの仕事をしようとリビングへと降りるとイルーゾォが現れ気づけば彼女は鏡の中にいた。訳も分からず必死になって閉じ込められた理由を聞いても、彼は悪いとだけ言ってそれ以上は語ってはくれなかった。イルーゾォの隣にはペッシもいたが、彼に助けを求めても申し訳なさそうに首を横に振るだけ。
同時刻、プロシュート、メローネ、ホルマジオの3人はアジトの外へ出ており海莉が働く店先へと向かっていた。尚他メンバーは任務のため不在である。自分も関わった今回の一件にイライラしていたギアッチョは、男…ジョットを殴る事が出来ない事へ更に怒りを募らせていた。後は頼んだぞとリゾットは海莉の事を3人に任せて、彼もまた任務へと赴いていった。さて、昨日ジョットに対する殺意が溜まっているメローネに対しプロシュートはやり方を考えろと言っていたが、特に大きな作戦はない。だがとにかく今は、スタンド使いであろうジョットを見つけることが優先だという事で彼を探していた。
「…あのよぉ、1つ聞くけどおめぇら何でそんな気合い入ってんの?」
「気合いだと!?ホルマジオ、あんたこれから海莉を元に戻すってのに気合い無いのか!?」
「気持ちどうのこうのじゃあねぇよ!!おめぇらの格好の事を言ってんだよ俺は!!」
は?と言わんばかりの顔で、2人はホルマジオへと向く。2人の格好は明らかにいつもとは違かった。おかげで先程から周りの視線が非常に痛い。主に女性からだ。プロシュートは髪をいつもよりも更にきっちりと纏めあげ、この日の為に新調したんじゃあないかと思う程綺麗なスーツを着ていた。彼がつけているであろう香水の匂いが鼻をつく。メローネは、彼ならではの独特のファッションセンスではなく今の季節に合ったような、少し丈の長いTシャツに元から長い脚が更に強調するようなスキニーのパンツにスニーカー、それから腕にはアクセもつけて今時の男という感じだ。
「別に普通だろうが」
「気合の入れようがおかしいだろ明らかよぉ!!メローネ、おめぇのいつものトンチンカンな服はどうした」
「俺のファッションにケチつけるってのか!?ふん、あのセンスが分かんないんじゃあホルマジオはまだまだだな」
要するに2人は、ジョットを前にした際にどちらが海莉に相応しいのか、お前の様なガキでは無理だ、と殺しは出来ないのでとりあえず身なりだけで物申したいようだ。ホルマジオは深くため息を吐き手で顔を覆う。殺意丸出しで歩かれるのも困るが、こんな注目を浴びる様なオーラを出して歩かれるのも困りものである。
「いい大人が何をガキ相手に…」
「ガキだろうがなんだろうが、俺は嫌なんだよ。海莉があのままなんて絶対嫌だ」
「……ふん」
この2人にとって、一体海莉はどんな立場なのかは知らないが気に入っているという事は確かだとホルマジオは思っている。ホルマジオにとっても彼女は守りたいと思える対象である。それは何もこの3人だけではなくチーム全員だ。だからこうして動けるメンバーが彼女を元に戻す為に動いている訳なのだから。
彼女のバイト先に到着した3人は、お互いに顔を合わせてからその扉を開けた。振り向いた女性店員達は、以前来たであろうイケメンと、また別のイケメンが来た事に驚いて黄色い声が店内に響き渡った。
「あ、貴方は海莉ちゃんの…!?」
「聞きたい事があるんだが…ジョットって名前の男は今ここにいるか?ここで働いてるはずなんだがな」
「…えぇ…あちらに…」
女性店員が指差す方へと視線を向けると、確かにジョットがいた。彼は驚きの表情を浮かべてこちらを警戒している。
「……お前に話がある。少しいいか?」
「………、」
仕事中なんですけど、ジョットはそう訴えるように店長へ顔を向けるが彼女は突然やってきたイケメン達に骨抜きにされており、どうぞ!とさらりと許可を出した。ジョットを含めた4人は店から少し離れた小さな公園へと移動する。子どもが数人遊んでいるが御構い無しに彼らは本題へと移ろうとしていた。
「あの…海莉さんのご友人の方、ですよね?一体僕に何の用が…」
「友人…まぁそうだな、そんなところだ。色々あって一緒にいる時間も多くてな。…だから最近あいつがおかしいっていう事にも気づくわけだが」
「……海莉さん、何かあったんですか?」
「やだやだ、変に芝居打つのやめなよ」
まるで何も知らないかのような態度を見せるジョットを、メローネはぎろりと睨みつけた。思わず彼は肩をビクつかせて視線を逸らす。ジョットの態度で、既に答えが見えていた。ほんの些細な動きでも彼らは見逃さない、そして気づかないわけがないのだ。
「海莉に何かしたならしたって、はっきり言った方がいいぜ。そこの金髪2人は気が長くはねぇ」
「な、何もしてないですよ!!海莉さんが変だなんて僕は今知りましたし………って、うわぁ!!!」
ジョットは突然声をあげた。震える手をどうにかして、今彼が怯える理由の先に指を指す。メローネとホルマジオは、その指した先を辿り見るとプロシュートは何とスタンド、ザ・グレイトフル・デッドを出していた。つまり。
「……君…これが、見えるんだな?」
「…え!?」
メローネはすぐ様彼の胸ぐらを片手で掴み、己の顔まで近づける。ジョットは、ただただ困惑し情けない声を出すだけ。
「知らないようなら教えてやる。こいつはスタンドと言って、同じスタンド使いしか見えないんだよ。君がこれを見えるって事は君もスタンド使いって事だろうが、なぁ?」
落ち着けとホルマジオはメローネを宥めるが離せと突き放す。彼の目はマジだ。
「君のスタンド能力、人の心を無理やり自分に向けられるのか?それとも幻覚でも見せているのか?…なぁ、教えてくれよ」
「何なんだよ…何なんだよあんたら!!こんなの知らない…僕は知らなかった!!僕以外に変な力を使える人がいたなんて…!!」
離せと言わんばかりに、力を込めて掴まれた胸ぐらをを離そうとするジョット。しかし非力な青年の力では彼らに到底勝てるわけもない。己だけが使えると思っていた不思議な力がまさか他の誰かも持っているなど、今回の彼の思惑からは想定外の出来事であった。
「あぁそうだよ、いるんだよ残念ながらな。答えろ、君は海莉に力を使ったな?」
「…えぇ…、使いましたよ…海莉さんに振り向いてほしくて」
プロシュートはメローネに、手を離してやれと言うと渋々その手を緩め離した。
ジョットはただ海莉が好きで今回やった事だと少しずつ白状していく。彼のスタンド能力は、スタンド本体が対象を切りつけたその傷口から内部へと侵入して、思いを…正確には脳をコントロールするという力だった。遠隔自動操縦型であり、対象が本人への思いが遠ざかるとスタンドは反応し無理やり意識を本人へと向けさせる事ができる。どれほどの思いでスタンドが反応するのかは、そのスタンドの匙加減。
海莉が突然息を切らし倒れた時を思い出せば、1回目はプロシュートが必要以上に彼女へと迫り慣れないその距離から一時的に海莉の意識はプロシュートへ向けられたから。2回目も、怒り去っていくプロシュートへとても強く意識が向けられたからである。
メローネ達のスタンド能力の予想は当たっていた。
「…振り向いてほしくて、ねぇ…そんなもん使わずに惚れた女振り向かせてやるのが男なんじゃあねぇの?それにお前、尾けた事あるだろ。あいつの事」
「……そんな事まで知ってるんですね。あの日、別に最初から尾ける気はありませんでしたよ。でも…彼氏がいるなんて言われて、気になってしまって…、途中まで後を追って…」
彼氏がいる、その不思議なワードに一斉に動きがピタリと止まった。ゆっくりとお互いの顔を見合わせる。
「……は?」
「彼氏?あいつに!?いたのかよ!?」
「………その日海莉とイルーゾォって一緒に帰って来たとか言ってたよな」
イルーゾォと海莉が共に帰ってきたからこそ、その日尾けられたと彼が気づき分かったのだ。
「か、髪は黒くて長い、身長も高めの男性でしたけど……、」
「「「…………、」」」
イルーゾォてめぇ!!という心の叫びが見事全員重なる。
「それに…海莉さんのご友人の皆さんもとても、かっこいい人ばかりで…自分では到底敵わないと思ってしまって…力を…、」
ジョットはちらりと3人を見上げる。そう、3人の内2人は本日とんでもない程気合を入れた格好をしているのだ。満更でもなさそうに分かってんじゃん、とそんな顔をするメローネ。思ったほど悪意は無かった事がわかり、こんなガキ相手に何してんだと自嘲するプロシュート。
「恋は盲目ってな。そんな力ありゃ、そうしたくなる気持ちも、まー…なぁ」
「はっ…そんな事してまで自分を好きなってもらっても結局は空っぽなだけだろ」
「………はい、」
ジョットも、心の奥底では分かっていた。力を使って自分へ気持ちを向けさせても、上っ面なだけ。たまたま彼女と出くわした時、泣き崩れていたあの時彼女の心はまだ抵抗していたのが分かった。まだ海莉は完璧に自分を見ていない、そんな気持ちにセーブが出来ず強制的に自分を見るように更に力を使ったのだ。そして海莉の心は遂に壊れて、あの様になってしまった。
「とにかく君、早く力解除してくれないか?ひたすらに君を求める海莉は…とても気持ち悪くてね。あぁ君が、じゃあなくて、海莉がって意味」
馬鹿の一つ覚えみたいに好きだの愛してるだの、恋愛経験そこそこの彼女の口から出る事にメローネにとってはとても気味が悪いらしい。
ジョットは、分かりましたと頷いてスタンドを解除しようとすると遠くの方から自分の名前を呼ぶ声が聞こえ、思わずぴたりと動きが止まる。その声が聞こえたのは彼だけではなかった。きょろきょろと周りを見ると、ここにいる3人とはまた違う3人組がこちらに向かって走ってきていた。1人は、女性だった。
「海莉さん…?」
「ジョットくーん!!!やっと見つけた」
走ってきたのは海莉とイルーゾォ、ペッシであった。乱れる呼吸を直し、彼女は当たり前の様にジョットの腕に自信の腕を絡ませる。そしてジョットを囲んでいた彼らを海莉は思いっきり睨みつけた。
「何してるの!?いい大人数人でジョットくん囲んで!!はたから見たら脅してるようにしか見えなかったけど」
「はぁ〜!?あのなぁ海莉、これは君のために…!!ていうか何腕なんか組んじゃってんだよ!!」
「はいはいメローネ、今のこいつに何言っても無駄だって」
「おいイルーゾォ…てめぇ何で連れてきた?こういうことになるのを回避して鏡ん中入れたんだろうがよぉ……」
「し、仕方ねぇだろ!!俺だって泣かれるのは流石に勘弁だ」
なぜ、閉じ込めた海莉を出してここまで連れてきてしまったのか。それは、彼女が泣きそうな顔で出してほしいと、好きな人に会わせてほしいと懇願されたからだ。流石のイルーゾォも鬼にはなれず、渋々鏡から出したという事らしい。出したら出したで、会いに行くなど言い勢いよくアジトから飛び出して、自分のスタンド能力を使いながらここまで来た、という事だ。
「海莉さん」
ジョットは組まれた腕を離すように彼女に言うと、真剣な表情で海莉に向き合う。彼女も何かを感じとり静かに彼を真っ直ぐに見つめた。その見つめる瞳が、彼にはとても悲しいほど眩しく、しかし確かに今彼女が自分を見て好きだと言ってくれているという事実が嬉しかった。例え、全部空っぽだったとしても。ジョットは、彼女の両手首を優しく掴み、一言問うた。
「………海莉さん、僕の事…どう思いますか?」
「…………、」
「……好きですか?」
「え!?突然どうしたの?好きだよ。色んな話聞いてくれるし………というか、何で私…ジョットくんに会いに来たんだっけ?」
彼女の言葉にメンバーは気づいた。能力は解除されている。彼女はただジョットに会いたくて、ここまで走ってきた。それを彼女はもう思い出す事は出来ない。
ジョットは今までの事を全て話した。自分の力の事も、あの日尾けてしまった事も、海莉自身を操ってしまった事も何もかも全て。海莉は、プロシュートと買い物に行った時までの記憶ははっきり思い出せるが、それ以降のことは酷く曖昧だと言った。特別何かをしたという記憶も無い。しかしジョットの事をずっと想っていたのは何となく分かるとも言った。記憶から消えても、想いの跡は残っているようだ。ジョットにとってはそれで良かったのだ。
「ごめんなさい…」
「何となく分かるって言っても凄く曖昧だし、正直ちゃんとは覚えてないっていうか…。でも…話してくれてありがとう」
お礼を言われるべきではないと、頭を横に振る。好きだと言っても結局はそんな好きな人の心を自分勝手に操ってしまったのだから。
「そこまでしちゃうくらい、私の事を好きでいてくれたのかなって自惚れちゃうよ」
「………海莉さん。こんな事した後で、何を言っても無意味ですけど…でも僕は本当に、あなたが好きでした…」
「気持ちには応えられないけど、ありがとう…」
「…はい!」
自分のしてしまった事をきちんと聞いて受け止めた上で、伝えた気持ちにもしっかり答えてくれた彼女が、やっぱりそういう所が好きなんだなと改めて感じつつ笑ってみせた。
海莉とジョットのやりとりを遠くで黙って見ていた彼らに深くお辞儀をすると、彼はその場から立ち去っていった。
「みんな、その…ごめんなさい」
「まぁ各々言いたい事あると思うけどよぉ、とにかくお前が元に戻って、無事でよかったぜ」
ホルマジオはぽんぽんと彼女の頭を撫でる。するとメローネが無言のまま海莉に近づき撫でていたホルマジオの手を振り払った。えー…というなんとも言えない表情でホルマジオはメローネを見たが、なんとなく気持ちを察してしょうがねぇなぁと笑いながらため息を吐いた。黙って立ったままのメローネに、海莉は気まずそうにしながらも、彼の顔を覗き込もうとした瞬間、腕を引かれ体は彼の腕の中に収まっていた。
「…いつもの君だ…っ!!」
その言葉の声色が驚くほどどこか弱々しくて、でも、嬉しいという気持ちも込められている気がして彼女はメローネの背中に腕を回し抱き返した。