主人公の名前
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テレビをつけたものの特に目を引くような番組はやっておらずそれでもやる事がなかったペッシは電源を付けたままぼーっと画面を見ていた。リビングにはペッシとそれからリゾットがいる。リゾットは書類整理を行っていたので、うるさくない程度に音量を下げた。見たいものが無ければ消せばいいのだが沈黙が続く中リゾットと2人きりになるのは、やはりペッシにはきつかったようだ。リゾットの書類をめくる音と、テレビの中の人間が喋る声がリビングに響く。ペッシが小さくため息を吐いた瞬間、勢いよく玄関の扉が開いた。
「……おい、もう少し静かに開けろ。壊れる」
「はいはい悪かったな」
「海莉はどうした?一緒だったろ」
そう、帰ってきたのはプロシュート1人だけだった。共にでかけたはずの彼女の姿が見当たらない。しかも何故かプロシュートはかなり不機嫌のように見える。それはペッシも嫌でも分かるようで少しだけそんな彼にビクついていた。
「知るかよ!!あのストーカー野郎と仲良くやってんじゃあねぇのか!!」
「ど、どういう事ですかい兄貴…!」
「そのまんまだ、付き合ってたみたいだぜ。ったく馬鹿馬鹿しい」
「え、付き合ってたって……海莉が…あいつと…?」
プロシュートは全て話した。先程あったばかりの海莉の事を。彼はあの後、いくら腹を立てたとは言え女を1人にするわけにはいかないと思い、がしがしと頭をかきながらもくるりと向きを変えて一度海莉の元へ戻ったのだ。するとどうだろう、彼女とそれからあのジョットらしき人物が並んで歩いていたのだ。あぁ、自分はもう必要ないと判断したプロシュートはこうしてアジトに帰ってきたという事になる。彼の荒々しい説明に、騒ぎをききつけた他のメンバーもリビングへと集っていた。ギアッチョは、いつものような乱暴な口調で騒ぐかと思いきや何も発さずにただ黙ってプロシュートの話を聞いていた。しかし彼の体の周りには目に見えてしまうほどの冷気が漂っているのは、つまりそういう事だ。メローネに至っては放心している。
「…その、なんだ。あー…つまり、そのストーカーしていた野郎と海莉は既に付き合っていて海莉の事も心配はいらねぇって事か。その点に関しては良かったと言うべきか」
「……何とも、言えねぇな。だが俺と一緒に帰ってきた時は絶対にそうじゃあなかった。ありゃ尾けられていた、絶対にだ」
「つまり…ギアッチョ達3人が海莉の様子を見に行った日…昨日からそうなったという事か」
しんと静まり返る中、再び玄関の扉が開き全員の目がそちらに向く。中に入ってきた人物はもちろん、彼らが今話していた海莉だった。何つータイミングで帰ってきたんだよ、心の中で騒ぐホルマジオの声はもちろん誰にも聞こえるはずも無く、海莉はただいまと言った。だが特に誰かと会話する事もなければ、プロシュートに対して気まずい雰囲気を出すわけでもなくすたすたと歩いてリビングを去ろうとする。そんな彼女に対し遂にブチ切れたギアッチョは腕を思いっきり掴んだ。
「テメェ!!何なんだ、どういうつもりだ!!!??」
「…え、痛っ!」
「待ってギアッチョ!!!」
ペッシの制止の声にギアッチョは彼を睨みつける。ギアッチョもあの時は違うと否定はしていたが、それなりに彼女を気にかけてはいたのだ。だがまさか、あの男と実は付き合っていたなんて誰が予想できただろう。ギアッチョが怒る理由も分かる、しかしペッシはそれでもギアッチョを止めた。
「海莉、部屋戻りなよ…」
「うん」
再びすたすたと歩いていく海莉。何故自分が止められねばならなかったのか、彼女への怒りと、止められた事への怒りで更に爆発しそうなギアッチョの目は誰が見ても怖かった。
「…ペッシ……何で止めやがったぁ…?」
「一旦落ち着こうみんな!!気がかりな点がいくつかあるんだよ!」
気がかりな点。メンバーの何人かもそれについては同じ事を考えていたようだ。リゾットはペッシに話を続けろと促す。
「まず、イルーゾォが海莉と一緒に帰ってきた日は確かに尾けられてたんだよね?つまりこの日は2人はまだそういう関係じゃあないって事」
「あぁ…、」
「次の日、俺と兄貴とギアッチョは海莉の店に行って男の確認をした。それから今日海莉は、その男と付き合っているって言った…。で、でも俺…!!昨日と今日の間におかしな事が起きてると思うんだ…」
「そうだな。あいつは昨日の夜…突然倒れた」
「俺はその倒れた理由が気になる。今思えば突然すぎて変だったし…それに倒れる前、海莉なんか変だったよね!ぼーっとしてたりニヤニヤしてたり」
「……つまりおめぇは、あいつは今普通じゃあねぇって言いてぇんだな?」
ホルマジオの結論を、ペッシは弱々しく頷いた。ペッシ自身、本当にそうなのかはもちろん確信は持っていない。ただ、この数日間彼女と一緒に過ごしてきて出会ったばかりの、しかも自分を尾けたであろう男とすぐ様付き合いますだなんて言うような、ましてや相手に強く迫られたとしてもイエスと言わず自分の気持ちをしっかり持って、そして伝えるような人ではないかとペッシなりに思っていた。というよりも今はとにかく、そんな人であってほしいと願う気持ちの方が大きいわけなのだが。
「普通じゃあねぇって事は…やっぱ、スタンドか」
「ありえない話ではないな。スタンド使いは何もギャングだけって訳じゃあねぇ」
「あの男がスタンド使いだとすると……おい待て」
イルーゾォが何かに気づくと、全員の視線がそちらに集中する。彼はきょろきょろと周りを見渡してから、慌てたように声をあげた。
「さっきからメローネが全く喋ってなかったが、あいつどこ行った…?」
海莉がジョットと付き合っていると耳にしてからメローネはずっと放心しており、それこそメンバーの会話を聞いているのか分からないくらい喋らずにいた彼が突如消えていた。もしかすると男を殺しに行ったのではないかと考えるメンバーだが、流石に玄関の扉を開けた事に気付かない訳じゃあない。となると、ショックのあまり自室に戻ったのだろうか。
実はそんな事はなく、彼は今海莉の部屋の前にいたのだ。話はきちんと聞いていた、彼女は今普通じゃあないかもしれないという所までだ。メローネは海莉の部屋の扉を開ける。特に何をするでもなくベッドの上に座り込んでいる彼女がいた。
「海莉、何してるんだ?」
「………、」
いつもならノックもせずに扉を開けると、ちゃんとノックしてよと怒りながら言ってくるはずだった。しかし彼女は何を言うわけでもなく、自分の部屋に無言で入ってきたメローネに見向きもしなかった。メローネはそのまま部屋に入り込み、ベッドに座る彼女へと近づく。
「…君、今普通じゃあないようだ」
「どうして?そんな事ないよ。ねぇそれよりも凄く胸が痛いの。さっきまでジョットくんと一緒にいたんだけど、でもまた直ぐ会いたくて仕方ない…」
「そんな台詞、君には似合わないね」
メローネは両手で海莉の頬を挟んで、自分の方へと向ける。彼女の目には恐らく何も写っていない。だってそうだ、いつもの彼女なら近いと言って、恥ずかしがってすぐ遠ざけるのだから。
「こんなに人を好きになったの、初めて」
「……やめてくれ」
「好きなの、ジョットくんの事が」
彼女の心は完璧に壊れていた。人の心をコントロールするスタンド能力でも使われたか、はたまた別の何かか。どう考えてもこれはスタンド使いの仕業だろう。何を思って海莉をこうさせたのか今のメローネにとってはどうでもよかった。彼女が自分を見てくれない、それどころか違う男の、ムカつく野郎の名前を口に出されたのだ。スタンド能力により彼女は正気じゃあない、そうだとしても。彼は下唇をギュッと噛んだ。跡が残ってしまうくらい。そして力任せに海莉の身体を押し倒す。メローネの長い髪が海莉の頬にかかっても、男に押し倒されていても、それでも尚無反応な彼女がとても悲しく思えた。
「…頼むよ海莉、俺を見て」
「早く会いたいなぁ」
「海莉!!俺を見てくれよ、見ろよ!!頼むから………俺を…」
顔を彼女の肩に埋めて、強く懇願する。それでも海莉の変えられてしまった心はジョットを求めた。彼女の目にはもうジョットしか写っていないのだ。
メローネは状態を起こしベッドから退けると、開けっ放しだった部屋の入り口にプロシュートが立っていた。
「……俺、あのクソ野郎ぶっ殺す」
「はっ…奇遇だな。しかしリーダーはその許可は出しちゃくれねぇさ」
「じゃあ海莉はどうすんだよ、このままか!?」
「バーカ、やり方を考えるんだよ」
一体自分がどんな女に手を出してしまったのか、強く思いしらせなくてはならない。プロシュートやメローネだけではなく、暗殺チームのメンバーの心は今まで以上に団結していた。
ペッシの推理を整理し仮定するなら、昨日の段階で既に海莉はスタンドの攻撃を受けていて、その影響で倒れたというのが1つの流れだとする。これはあくまで彼の仮定だ。しかし今日プロシュートと海莉が買い物をしている最中はまだ自我を持っていたと彼は感じた。必死に自らの口を抑えて違うと否定していたのが理由である。
「……くそ、」
彼女の微かな抵抗に、何かおかしいと気づけた筈だった。それでもプロシュートは怒りのあまり彼女の話を聞かず離れていってしまった事へそ後悔が募って仕方ない。
「悪ぃな…、」
ベッドに横になったまま動かずにいる彼女の顔を覗き込んでも、どこかぼーっとしていて生きている感じがしない。必ず元に戻す、一方的にそう約束をして2人は海莉の部屋を出て行った。