主人公の名前
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男は愛おしそうに女を見つめていた。女は男のその真っ直ぐ過ぎる純粋な目を逸らせない。それは恥ずかしさゆえか、はたまた別の何かなのか。男は女の頬を優しくしかしながらどこか少しぎこちなさそうに包み込みめば、女はその手を自身の手で重ね合わせた。男の口元は弧を描き、言葉を紡いでいく。だが女には何を言っているかは聞き取れなかった。やがて彼らはどちらともなくゆっくり、ゆっくりとお互いの呼吸が鼻先に触れるぐらいまで近づき、そして…。
「………………だ、だめ!!!!!」
「うぉっ!??」
海莉は倒れた後、普通に眠り結局部屋まで運ばれた。しかし一度も目を覚ますことはなく今朝を迎えている。たまたま彼女の様子を見に来たプロシュートは、彼女の突然の起床に驚いていた、という所である。
「びっくりさせんなよ…」
「プ、プロシュートさん……おはようござい、ます?」
「おう。お前昨日急に倒れたんだぞ。覚えてるか?」
「…はい、覚えています」
「体の方はどうだ」
「別に痛いとかは無いですね」
ぴんぴんしてますよ、と手でグーをつくり前に突き出して元気アピールをする海莉。顔色も特にいつもと変わりなく、本当にそうだと伺える。突然胸を押さえて苦しみだした彼女を見た時は柄にもなく焦ってしまったが、本当に昨夜の彼女には何があったのかさっぱりだ。
「お前今日バイトは休みなんだろ?だったらまだ休んでろ」
「んー、でも買い物とか行きたいと思って…プロシュートさんに少し付き合ってほしいんですが…」
彼女の突然で意外すぎる言葉に、プロシュートはぴたりと止まる。彼は腕を組み平静を装った。
「……ほぉ。珍しいな、海莉からデートの誘いとは」
「………いやだから…もうデートでいいです。ところで今日仕事は?」
「良かったな、ねぇよ」
支度を済ませたら一階に来い、そう言ってプロシュートもどこか楽しそうに海莉の部屋を後にした。まだ寝起きでぼんやりしている頭を働かせて、彼女はベッドから降りて身支度を始める事1時間。プロシュートもどこか気合の入ったような、いつもより更にビシッと身なりを整え鏡の前で確認をしている。それをどこか冷ややかな眼差しで見ているリゾットがいる事を彼はもちろん気にも留めない。
「…どこか出掛けるのか?随分…気合が入っているようだが」
「あぁ、海莉とデートだ」
「…海莉と?もう体はいいのか?倒れたって聞いてたんだが」
「ぴんぴんしてたぜ。ま、あいつここんところ色々あったし外に出かけりゃあ気晴らしになるだろ」
「そうか、」
もちろんリゾットも、最近彼女がどういった事に遭っていたのかは知っていた。その上更に倒れたと聞いていたのでリゾットもまた心配していたようだが、プロシュートから元気そうな話を聞いて安堵する。
身支度を終えた2人が並ぶその後ろ姿は、本当に今からデートをするカップルのように見えなくも無かった。海莉が外へ出て心身ともに回復するのであればリゾットはそれでいいと思っていた。ゆっくり楽しんできて欲しい、気をつけて、それだけ海莉に伝えると彼女は笑って行ってきますと言って出かけていった。
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「んー、これどうですか?やっぱりこっちの方がいいですかねぇ…迷います…」
「俺はそっちの青の方がいいな」
海莉がプロシュートに付き合って欲しかった理由は、服選びであった。いつもはプロシュートの着せ替え人形状態の海莉だったが今日はいつになく張り切って自分から服を手にとっては彼の意見をおとなしく聞いていた。そんな彼女にもちろんプロシュートは満足げで普通に今を楽しんでいる自分が可笑しくて。
「どうしたんだ急に。えらく今日は張り切ってんな」
「元々私は服選びは好きですよ。それに、そろそろ季節も変わってきますし、買っておかないとなぁって」
「いい心がけだな」
「あ、たまには私がプロシュートさんの服選んであげましょうか?」
「…まー、考えといてやる」
そこは間髪いれずお願いしてほしいところだ、とぽつりと心で呟いた。しかし彼のようなイケメンの服選びなど責任重大な事など自分には荷が重いかもしれないと静かに自嘲した。
服選びに、それから靴、アクセなんかも一通り物色し本人とそれからプロシュートが良いと判断した物を海莉は次々と購入していく。あまりの数の購入にプロシュートは内心かなり驚いていた。最初は彼女自身と彼の意見を交えつつ購入していたのに、次第にプロシュートが似合うと言った物を躊躇なく買うと決めてカゴへ次々と入れていくのだから。
「…お前、いくらバイト始めたとはいえそんなに買って大丈夫か?」
「大丈夫ですよ!」
「……、」
彼女自身がそう言うのであれば、もうこちらからは何も言うまい。因みに今回海莉からプロシュートは一切お金を出すなと言われている。自分で買わなければ意味がないとも言っていた。プロシュートにとって彼女とこうして服やアクセサリーなどを選んで自らが金を払いプレゼントするというのはここ最近の楽しみであった。なので今回はその密かな楽しみが半減されているため、物足りない。どうせ自分が何を言っても彼女はやめてと断る、そう思ったプロシュートは1つだけアクセサリーを選び内緒で購入した事を海莉は知らないのだ。
「プロシュートさん、今日は付き合ってもらってありがとうございました!」
「あぁ。ま、これでデートの時の服には困らねぇな」
「……え、え!?何でデートの事知ってるんですか!?私言いましたっけ!?」
「………あ?」
「じ、実はその為に今日選んでもらいたくて…あれ…私いつの間に言ったんだろう。ジョットくんとデートする…、なん、て………、」
「……………、」
その場が凍りついた気がした。もちろんギアッチョのスタンド能力で物理的にではなく。自分が何を言っているのか、自分が分からずに思わず彼女は思い切り口を塞いだ。プロシュートは彼女のその言葉に固まっていた。目を見開いて、ただ彼女を見つめている。
「…ち、違う、違います今のは…!!」
「はっ…、何だそりゃあ…いつからそういう関係になったんだよ」
彼は笑っているが、目は確実にそうではなかった。
「ペッシもお前を心配していた、あぁギアッチョもイルーゾォもな。だから昨日お前の様子を見に行ったんだ。だがなんだ?付き合ってるだと?あのストーカー野郎とか?」
「違うんですそうじゃあなくて私…!!」
「あぁそうだな、男とデートする為の服を他の男が買うってのはまずいだろう。自分で買わなければ意味がねぇって言葉も納得だ。急にやる気出したのも、全部あいつの為か」
「聞いてくださいプロシュートさん!!今のは私が思った言葉じゃあなくて、勝手に…!!」
海莉はプロシュートの腕を掴んで必死に説明しようとするが、彼は海莉を鋭く睨みつけその手を振り払う。その目に彼女は言葉を失って呆然と立ち尽くす。
「…心配してたんだ、俺もあいつらも。だが…大きなお世話だったみてぇだな」
彼は立ち尽くす海莉を置いて、その場から去っていく。去り際に目にした彼の表情は怒りで満ち溢れたような顔ではなく、裏切られた悔しさで一杯だと訴えるようなそんな顔。いつも自身に満ち溢れている彼からは想像もつかない顔をさせてしまったからこそ、今のプロシュートの表情が酷く頭にこびり付いてしまった。もう、何を言ってもきっと聞いてくれない、こっちを見てくれないだろう。それでも海莉は待ってください、と腕を伸ばそうとした瞬間。
「………っ!?」
身に覚えのある痛み。昨日突然やってきた胸の痛みがまた襲ってきたのだ。彼女はあまりの苦しさに膝をつくもそれでも腕を伸ばす事をやめない。だんだんと遠ざかっていくプロシュートの後ろ姿を見てか、それとも胸の痛みのせいか、海莉の頬には涙が伝っていた。
「………プロシュート、さん…」
うずくまりながら名前をぽつりと呟くと、背中に温かみのある何かに触られた気がした。彼女は顔を思いっきり上げて自らの目に入った人物に、思わず悲鳴が上がりそうになった。
「大丈夫ですか!?海莉さん!!」
「ジョット…くん……、」
何があったんですか、どうして泣いているんですか。そう質問されるが、先はどのプロシュートのあの顔だけが過って、涙を流すしかなかった。状況を理解していないジョットは、とりあえずどこかお店に入りましょうといって彼女を立ち上がらせる。大丈夫ですかと心配の声をかける彼のその顔は、笑っていた。