主人公の名前
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ジョットの事を思いながらも、海莉は変わらずに出勤する。昨日の件でとても気まずく感じるが、それはこちらが勝手に感じているだけのようで彼は気にすることもなく気さくに話しかけていた。イルーゾォを疑う訳ではないが、本当に後を付けてきたのはジョットだったのかと思ってしまうほど彼は平然としていた。業務を開始してからも、他愛のない話をしたりして本当にいつもと変わらない。とりあえず今は仕事に集中しよう、そう気持ちを引き締めるとタイミングよくお客さんが入店してきた。くるりとそちらの方を向くけば、また見慣れた人物たちが立っている。しかも1人は良くも悪くもとても目立つ人物で、他の女性スタッフが少しだけ黄色の悲鳴をあげていた。海莉は思わず、げ。という顔をしてしまった。
「おい何だてめぇ、その顔はよぉ!!」
「よぉ海莉。へぇ…結構様になってるな」
「え、な、何で来たんですか…それにそんなぞろぞろと…」
「バイト始めたら見に行くって言っただろー?」
そう、なんと来たのはプロシュート、ペッシ、ギアッチョの3人だ。プロシュートはその綺麗な顔立ちあってか、目立って仕方ない。なぜそれで暗殺者としてやっていけてるのか、甚だ疑問である。バイトしている姿を様子見に来てくれたのかどうかはしらないが、来るならせめてペッシのみにしてほしい。
3人は一通り注文してから席へ向かっていった。海莉はそれらの準備に取り掛かろうとした瞬間、女性スタッフに囲まれている事に気付く。何やらとてつもない凄味のあるオーラを放っているのが嫌でもわかった。
「海莉ちゃん、あのイケメンさんと知り合いなの!?」
「まさか彼氏!!??」
「い、いえいえ違います!!全員友人です」
「どう生きたらあんなイケメンさんと友達になれるのよ〜!!」
彼女たちは次々と嘆き騒いでいた。やはりどこへ行ってもプロシュートはそういう反応を受けやすく、カッコいい人なんだなぁと改めて思った。海莉にとっては、彼に限らず暗殺チーム全員がそうだと思っている。先程も言ったがなぜそんな美貌を持ちながらも暗殺業が成り立っているのかさっぱりだ。
海莉は女性スタッフの間をするりと抜けてキッチンへと戻り、彼らの注文書を確認しながら淡々と準備をしていく。全てトレーに乗せて3人が待っているであろう席へとそのトレーを運んだ。
「お待たせしました」
「グラッツェ海莉」
「みんな今日任務は?」
「珍しく全員ねぇな……あぁ、メローネ以外は」
「だから、海莉の様子を見に行くって聞いた途端凄い駄々こねてたよ」
「けっ。いい歳こいた野郎がキメェ!!」
そう言えば昨日は、何で俺だけ…なんて呟きながら項垂れていたような気もする。つまりあれは任務に対しての事だったのか。駄々をこねるメローネも容易に想像がついてしまうのは、それなりの月日を彼らと過ごしてきた証である。任務から帰ってきたら、彼の好きなものを聞いて作ってあげようか。ぼんやりとそんな事を考えていると、プロシュートから声がかかる。それはとても真剣な表情で。
「お前、今日の勤務時間はあとどれくらいだ?」
「んー、3時間ちょいくらいですけど。え?帰っていいですよ?流石に待ってなくても…」
「海莉、俺たちが今日ここに来たのは海莉の様子を見に来ただけじゃあないんだ」
ズズッとミルクを全て飲み干したペッシもまた、プロシュート同様強張った顔で彼女へと向ける。どういうこと?首を傾げて疑問でいっぱいの表情を彼らに向けると、察しの悪い彼女に遂にギアッチョがキレる。
「だぁぁ!!イルーゾォから全部聞いてんだよ、察しろ!!」
「………あー…、」
悪意のある行動かどうかまだ判断できなかったため、海莉は特に言う必要はないと思っていたのだが、まさかイルーゾォがみんなに話していたとは知らなかった。巻き込まれて面倒だと言っていたし、彼もまた深刻には捉えていやかったようにも見えたがイルーゾォなりに心配はしてくれているようだ。尚、ジョットへ言った咄嗟の嘘、海莉がイルーゾォを彼氏と紹介した件については彼らは知らないでいる。
「いいか海莉。そういう事があったなら、ちゃんと俺たちに話せ」
「ご、ごめんなさい!!でも本当に今日は大丈夫です。彼とはあがりの時間違うので」
仕事が終わったら真っ直ぐアジトへ帰る事を約束すると、プロシュートたちはため息を吐きながらもわかったと静かに言った。海莉は女性スタッフに呼ばれたので仕事を再開せねばならない。また後で、そう彼らに告げると彼女はその席を離れてキッチンへ戻っていった。その後ろ姿を彼らは見送る中、ギアッチョはコップに入っていた溶けかけた氷を口に含みガリガリと砕いていく。
「イルーゾォからその野郎の外見は聞いてたが、聞かなくても分かるわなぁ!」
「見過ぎだなありゃ」
「俺心配だなぁ…」
プロシュートとギアッチョ、ペッシは海莉と言葉を交わしながらも明らかに彼女を、そして刺すような目で3人を見ていた人物がいる事に気付いていた。凄まじい殺気に対し、暗殺を仕事としている彼らがそれに気づかないわけもない。まだあまり仕事になれていないペッシでさえもそれに気づくのは容易な程だった。昨日のストーカーの件、それから今の刺すような視線。それが一体どんな意味を成すのかはまだ断定出来ない。普通なら海莉に好意があった上での行き過ぎた行動だと捉えるが、何せここはイタリア。そしてギャングのいる街である。それ以外の理由であっても何もおかしくはないのだ。
「ヤッちまった方が早ぇんじゃあねぇの?面倒が起きる前によ」
「そ、それは…!!」
「馬鹿か。ただの色恋沙汰かもしれねぇのに、んな事犯してたまるかよ」
「付けられたことは事実なんだろ!?あいつに何か起きてからじゃあ遅ぇんだよ」
「…ギアッチョ…海莉を心配する気持ちもわかるけどよぉ」
「なっ!!ちげぇっつの!!」
ペッシの言葉に更に苛立ちと若干の恥ずかしさを感じてバンッと机を叩く。一気に店はしんと静まりかえると、ギアッチョは我に返り舌打ちをした。海莉にももちろん聞こえていたので彼女は彼らの方を向き、何してんの…?というような怪訝な顔で見ていた。
とりあえず今回はその男の確認と、何より海莉との時間が違うという事で先にアジトへ戻ると彼女に伝えると3人は店を後にした。イケメンが帰っていってしまったので女性スタッフ達は少しだけ残念がっている。多分また来てくれますよと、本当かどうかも分からない事を彼女らに告げると一斉に元気になっていくのだから面白い。あともう少し頑張ろうと一息つくと首の後ろ辺りに妙な痛みが走った。ピリっと何かに刺されたような、小さい痛み。首でも痛めたのだろうかとさすってみる。だが特に変わった様子はない。
「どうかしたんですか?」
「んー、いや…首が痛いなぁって…。うん、でも大丈夫そう」
「何かあったら直ぐ言ってくださいね」
ニコーっと、まるで裏表のないジョットの笑顔にストーカーだのなんだの疑っている自分がとても申し訳ない気持ちになる。やはり昨日の件は何かの間違いではないかと、この子がそんな事するはずないのではないかと。海莉の中のジョットへの警戒心がどんどんと解けていく。
「それよりも海莉さん、ご友人…凄くかっこいい人ですね」
「あはは…その、色々あって知り合ったんだよ」
「それに彼氏さんも…背高いし、かっこよくて綺麗で…俺なんかじゃあ到底…」
咄嗟についた嘘を忘れかけていた海莉は、危うく彼氏とはなんの事だと口を滑らすところだった。それに同性にここまで言わせる彼らの容姿が、凄いを通り越して最早怖い。
「海莉さんの中に俺がどれだけ入り込めるのか分からないですけど、諦めたくありません」
「え…?」
「俺あなたの事が好きです!!」
ジョットは海莉の手を両手で掴むと、茹でダコの様に真っ赤に染まったその顔で、己の気持ちをぶちまけた。海莉は一体、何を言われたのか理解するのに時間がかかるが我に返って今言われた言葉を飲み込むと、彼女もまた見る見るうちに染まっていく。
「か、彼氏がいるのはもちろん知ってますし、望みが薄い事も分かってます。でも、俺…諦めませんから」
「………………、」
握っていた手をするりと離して、彼は休憩する為に事務所へと去っていく。その去り際の彼の顔はもちろん耳まで赤くしていた。こんなにもどストレートに気持ちを伝えられたのは久々で、まるで学生時代の青春の様なあの時に戻ったとさえ思えてしまうほど。海莉は騒がしく音を立てる心臓を宥めながら仕事にとりかかるが、どうしても彼の言葉が離れられず帰り道も、何度も何度も言葉を思い出しては顔を赤らめる、その繰り返し。昨日どんな出来事があったかなんて、警戒心なんて忘れてしまうほどに。
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「おう、海莉。帰ってたのかよ」
「んー…」
「何だよ疲れたのか?」
「んーー…」
ホルマジオの問いに海莉は聞いているのか聞いていないのか気の抜けた曖昧な返事ばかり。ペッシ曰く、バイトから帰ってきてからずっとその様子みたいであった。誰に声をかけられようとも、夕飯を作るときも、そして食べるときも心ここに在らずといった感じでぼーっとしている。たが時折変に笑う事があった。笑うというよりも、ニヤける言った方が正解だ。どう見ても口許が緩んでいるのだ。
「泣かれるよりマシだが、ニヤつかれるのもうぜぇわ」
「海莉、何か良いことでもあったのか?」
「え!?いや、別にぃ…」
明らかに良いことがあったんだと分かってしまう彼女の口ぶりに、リビングにいた面子は呆れていた。しかしプロシュートは自分が声をかけても、んー…としか返してこない彼女の態度が気にくわず海莉の隣にどかっと座り、彼女へこれでもかという程に迫った。
「海莉海莉海莉よぉ…俺が話しかけてるのにそんな態度とるとはいい度胸じゃあねぇかよ、え?どんだけ良いことがあったのかオニイサンに聞かせてくれよ、なぁ」
「…な、なんですか急に…ていうか近いです!!!!」
「近くしてんだよ。おら話せ」
迫る事をやめないプロシュートの胸板を押すが、びくともせず彼の綺麗な顔面が近づいてくる。そばにいたペッシに助けを求めようと手を伸ばそうとした瞬間、彼女の心臓がドカンと音を立てた。そして次第に呼吸が荒くなっていき、胸を押さえてみるがどうにもならない。
「おい、海莉!?」
「ハァッ……ハァッ…」
「どうした!?おい!!!」
彼女の異変はそこにいた全員が気づくが気づいた時には遅く、彼女は気を失った様にソファに倒れ込んだ。何事もなかったかの様に呼吸は正常で、恐らく眠っている。何が起きたのかさっぱり分からない彼らは、ただただ呆然とし立ち尽くすしか出来なかったのだ。