主人公の名前
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後日。
行動の早い海莉は働ける近場のお店を探した。日本で一度、喫茶店でバイトしていた経験があったためバールがいいと思い訪れてみると、人手はあまり多くないため直ぐにでもきて欲しいとそこの店長から言われた。かくして海莉は見事、リゾットからの要望通りアジトから近い場所でバイトをする事になる。しかも、入れるときに入ってくれればいいという事で、とても好条件。日本人である彼女を、他の従業員は快く受け入れてくれたようでそこも一安心だった。
「海莉、他で働くって本当か?」
「「は!?」」
「……何だと?」
「…マジかよ」
「遂に俺たちのお世話も限界がきたか〜残念だなぁ」
ソルベの言葉にいち早く反応したのはメローネ とギアッチョ。プロシュートは読んでいた本から顔をあげて眉をひそめ、テレビを見ていたイルーゾォの興味はテレビから彼女の方へと変わり、ジェラートは残念といいながらもその表情はとても残念そうには見えなかった。ペッシは既に事情は知っているため特に大きな反応はないが、結局どうなったのかは気になっていた様子だ。
「や、やめんのかよ!!ここ!!」
「嘘だろう!?君がいなくなったら誰がここの世話をするんだ、もうクソ不味い飯を食うのはごめんだぞ!!!」
「ちょっと待ってよ落ち着いて2人とも、近いから!!ジェラートもソルベも知ってるくせに誤解を招く言い方やめてよぉ!」
ギアッチョとメローネが勢いよく海莉の肩を掴み、ガクンガクンと容赦なく揺らす。なかなか彼女の話を聞かない2人に痺れを切らし彼らの頭をはたき付けたのはプロシュートだった。とてもいい音がしたので、多分間違いなく痛い。2人とも頭を抑えて悶絶している。ようやく解放された海莉は襟元を元に戻し、プロシュートに礼を言う。
「つまりお前は、ここ以外でも働くって事か?」
「そうです!空いてる時間で少しでも多く稼いできます!!」
「おいおい何勝手に決めてんだよ。その空いてる時間は俺と買い物だったり食事したりする時間だろうが」
「大丈夫ですよ、毎日ってわけじゃあないんですから」
いやそこはプロシュートに対して、違います何言ってんですかって突っ込んで返すべきだろうとソルベとジェラートは心の中で彼女に突っ込んだ。
「ギアッチョ、良かったな。海莉はいなくならないみたいだね」
「…ばっ!!!俺は別にそういうつもりで聞いたんじゃあねぇよ!!!ただ飯の心配をしただけで!!!」
「分かってるよギアッチョ。私はいなくならないよ〜」
「だからちげえっつの!!」
悶絶していたギアッチョが復活し、冗談混じりに彼の頭を撫でるとやめろ!とその手を引っぺがされた。例え食事だけの心配だったとしても気にしてくれた事は嬉しい。以前彼女が風邪を引きギアッチョが看病してくれたあの日から2人の雰囲気はとても良くなっている。それは他のメンバーから見てもよく分かるほどに。だが1人だけ、それが良いなんて思えない人物がいた。
「海莉、俺は飯の心配もだが君自身も心配したからな。俺は君がいないのはやだ、寂しい。本当だ」
「…メローネが?えぇ…?嘘だぁ」
「俺とギアッチョの対応の差酷すぎやしないかぁ!?なんで海莉は俺に対してそこまで冷たくなれる!?」
「「日頃の行いだろうが」」
何名かの突っ込みが見事に重なる。
「いや…だって……」
「俺はな海莉、君の作る料理も綺麗に掃除された部屋も好きだし、それから君と話すのも楽しい。だからいなくなるのは困る」
「……そ、そうなの?」
メローネは彼女の両肩に手を置き、まるで子どもに言いつけるように顔を近づける。正直海莉にとってメローネの今までの行動で信頼はとても薄い。全部が冗談に聞こえてしまう。が、彼がそこまで言うのであればこちらも全てを否定してしまうのはかわいそうかもしれない。もし…もし本当にそう思ってくれているのなら、やっぱり嬉しいから。海莉は、身を少し屈めて照れくさそうにありがと…と礼を言う。そのとても何気ない仕草がメローネの胸に突き刺さった。それが何故なのかは分からないが、悪い気もしなかったのでとりあえずまた彼女をぎゅーっと抱きしめる。
「ちょーーー!!!また!!!」
「イチャつくなら外でやれよ。なぁソルベ」
「お前らがそれ言うのか?」
「何してんだクソメローネ!!!離れろこのバカが!!!!」
「海莉よりも飯の心配をしたギアッチョにそんな命令される筋合いないね。俺は海莉が大事だからいいんだよ」
「よくないからね。離れて一刻も早く」
わいわいがやがやとリビングは騒がしくなる中、おい。というリゾットの一言で全員がぴたりと止まり一斉に彼へと向きを変える。するとリゾット、それからホルマジオは海莉に向かってこっちに来いと手を招いた。何だろうと思いながら言われた通り2人に付いて行こうとすると、いまだに離れないメローネも付いてくる気満々だったのでリゾットに剥がしてもらった。背後で嘆くメローネを無視して、リビングを後にする。そして連れてこられた場所は2人の自室だった。
「無事決まったみてぇだな」
「約束を守ってくれた事、礼を言う」
「え!?いえいえこちらこそ、許可してもらった身なのでそんな…!!」
「お前に、言っておく事がある。それは何もこれからお前がここではない別の場所で働くからというわけじゃあない」
「…はい」
先程の賑やかさから一変して、驚く程今は静かで、やや緊迫したような空気が流れている。まるで父や兄に揃って説教されそうな娘、という図のようにも感じる。海莉は大人しくリゾットの言葉に耳を傾けた。
「海莉はギャングではない。が、ギャングの元で働き生活をしている。それは分かるな?」
彼女はこくりと頷く。
「ここに来る前にお前は、殺される保証がないかと聞いて、俺たちはお前を殺さない、殺すメリットがないと言った。たがそれは俺たちが、という話で外部からも全くないという保証は正直どこにもない」
「別に今までも、お前は1人で買い出しにも行ってたしマジに今更って話なんだけどよ。けどオメェはこれから自然と多くの外部の人間と関わることになる。その中に組織の人間がいねぇとも限らねぇ」
「つまり…えっと、目つけられたり、不用意に親しくなったりするな、と?」
今自分が住む場所が、決して安全な場所ではない事なんて分かっていた。分かっていたのだが、時々忘れてしまいそうになるのだ。それはあまりにも彼らが優しくてギャングなんかじゃあないどこにでもいる、普通に生活をしている人達だと。ここが何よりも安全な場所で落ち着く場所へと変わっていったから。
「まぁ〜…噛み砕けばそういう事だなぁ。要は気をつけろってこった」
「大丈夫だよホルマジオ。色々覚悟を決めた上でここにいるんだし。何かあったら…その時はその時!!」
能天気に笑う海莉に、本当に分かっているんだか、分かっていないんだか。リゾットもホルマジオも小さくため息を吐いていた。
「それから私がここで働いてる事も、この場所も全部言いませんのでご安心を。みんなに迷惑かけるのは嫌だし」
「…分かっているなら良い。とにかく、これからもこっちの仕事もよろしく頼むぞ」
話は終わりだ、と言いながらリゾットは海莉の頭をポンと撫でると部屋を後にした。それに続いて彼女も足を進めようとするとホルマジオはくいっと海莉の腕を引っ張った。何?という顔をホルマジオに向けると、彼は近くに誰もない事を確認するようにキョロキョロしてから自身の頭を彼女の耳元に近づけた。
「リーダーのやつ、いつも無表情だしちゃんと言葉にしないしで分かりにくいけどよ、マジでお前の事心配してんだよ」
「………そっか、」
今回こうして改めて話をしてくれたのも、そういう風に自分を大切に思ってくれているからなのだろうかと自惚れると、嬉しくなって自然と頬が緩んでしまう。あの無表情によって隠された彼の本心がいつかちゃんと直接聞けたら、笑顔が見れたらいいなと海莉は密かに思う。
「言っとくけど俺だって心配だぜ。可愛い妹が外でバイトしたら、悪い虫が寄ってくんじゃあねぇかってよ!」
「ホルマジオがそんなに妹思いだなんて知らなかったなぁ!!」