主人公の名前
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「よし、なかなかいいんじゃあねぇの…?」
完成した食品を仁王立ちで眺め、自分が思っていた以上に見た目だけはよく出来ているそれをギアッチョは自画自賛していた。味見は何度かしたが自分が思い描いたような味にならず無駄に調味料を減らしてしまった気もする。まぁ今はそんな事は言ってられない、ギアッチョは出来た物をトレーに乗せて溢れない程度の速さで海莉の部屋へと向かった。
ノックもなしに問答無用で彼女の部屋のドアを開けると、静かな空間に寝息だけが聞こえてくる。彼女の顔をゆっくりとのぞくと、やはり容体は変わらず汗をかいており、とても辛そうだった。勢いで作ったは良いがこのまま起こしていいのかと悩んだ末、ギアッチョは彼女の肩を揺らし起こした。
「おい、おい!!なぁ!!」
「………ん、え、どしたの…?」
「飯…食え」
「めし…?」
寝ぼけた頭をなんとか目覚めさせて、ギアッチョがいる方へと目を向けると彼の手にはいい匂いがする食べ物がそこにあった。
「それ、は?」
「パスティーナ、こっちの病人食なんだよ」
「…へぇ…おいしそ」
パスティーナとは、パスタを細かく刻んでスープなどに入れて作った日本でいうお粥のようなものらしい。他にも野菜がごろごろと入っていて、まるでミネストローネみたいだ。
海莉は彼に手伝ってもらいながらも重たい体をなんとか起き上がらせ、器とスプーンを受け取る。鼻や喉も多少痛めているため、残念ながら匂いはよく分からないが、見た目はとてもおいしそうで食欲がそそられる。
「…これギアッチョが作ってくれたの?」
「…………まぁ。美味いかどうかは、しんねぇけどな」
「ありがとう…嬉しいよ」
「…っ、いいからさっさと食えよ!!冷めちまうだろうが!!」
確かにそれもそうだ。海莉はスプーンで一口掬って、少しだけ冷ましてから口にパクリと運んだ。風邪は鼻にも影響がきているため味に関しては分からないのだが彼が私のために作ってくれた、ただそれだけが嬉しくて、そして美味しくて。笑みを浮かべならが美味しいよと伝えるとギアッチョは照れ隠しのつもりなのか、フンと言ってそのままそっぽを向いてしまった。こんなにも気持ちのこもった食事を頂く事自体がとても久しぶりで、何故だが涙ぐんでしまいそうにもなる。風邪を引いているから余計にだ。全てを平らげた海莉は、小さくご馳走さまでしたと呟く。
「ありがとう、美味しかったよ」
「あー、あと薬はイルーゾォの奴が…」
「ほら買ってきたぜ、薬!!」
勢いよくドアから入ってきたイルーゾォは薬が入っているであろう袋を掲げてずかずかと近づいてくる。
「い、イルーゾォさん!!」
「どれが良いのかよく分かんなかったから、店の奴に勧められたの適当に買ってきたぜ。水も、ほらよ」
「イルーゾォさ〜ん……ありがとうございます…」
箱を開けて出てきたのは、錠剤タイプではなく粉末タイプの薬であった。子どものような発言だができれば、できれば錠剤の方が良かったなと心の中で呟く。とは言え、せっかく彼が買ってきてくれた薬を無下にするわけにはいかない。水と薬を受け取り口に含むと、独特な苦い味が口いっぱいに広がる。思わず顔が歪んでしまい、それを見た2人は苦笑が零れていた。
それからギアッチョは空になった皿とコップ、それからスプーンを片すべくキッチンへと戻ると言って部屋を出て行った。
「食べるもん食べて、薬も飲んだし、あとはまぁ大人しく寝てりゃ治るだろ」
「だといいんですけど…」
「なんかあったら呼べよな」
「はい」
最後にイルーゾォは布団を綺麗に直してから、彼女の部屋を後にした。賑やかだった部屋も再びしんと静まり返っていく。やっぱり彼らは優しい、ギャングだろうと何だろうと。ただ風邪を引いた自分に対してこんなにも気にしてくれるのだから。海莉は目を閉じて、再びやってくる眠気に耐えきれずそのまま眠った。
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使うだけ使い、汚れてしまったキッチンをそれなりに綺麗に片付けたギアッチョはどうしようかと悩んでいた。このまま自室に戻ってゲームでもするか、それとも彼女の様子を見に部屋へ行こうか。とは言え恐らく彼女は寝ているだろうし、行ったところで何をするわけでもないのだが。
「…だぁっ!!クソ!!」
考える事も面倒になったギアッチョは、とりあえず水の入ったペットボトルを握りしめて海莉の部屋へと向かった。一応、一応様子を見るだけだ、と自らに言い聞かせて部屋のドアノブを回し扉をちょっとずつ開けて部屋の様子を伺った。聞こえてくるのは先ほど同じように、小さな寝息だけ。とりあえず大人しく寝ている事を確認し、扉を開けて静かに部屋へと入った。大分薬が効いたのか顔色も良くなっていて、苦しさは感じられない。ギアッチョはそっと手を伸ばし海莉の額に触れる。加減をしながら自らの力を使うと、ぴくりと海莉が反応する。
「………ん、あれ、ギアッチョ…?」
「……おう」
「手…冷たくて…気持ちいい。ずっと…そーやっててよ…」
「………、」
寝ぼけながらそう言葉をこぼすと、彼女はまた目を閉じて寝てしまった。そう言われると離すに離せないだろうが、と文句を心の中で垂れるが悪くはないと思う自分がとても痒くて仕方ない。今日は朝から海莉の看病ばかりで変に疲れたのか、ギアッチョは大きな欠伸をするとそのまま床へと座り、彼女が寝ている布団に体を預けて気がつくと彼も意識を手放し、眠っていた。部屋には2人の小さな寝息だけが聞こえている。
それから暫くして時間は経ち、日は沈み外はすっかり夜になっていた。パチリと目を覚まし、状態をゆっくり起こす。目眩や怠さなどはなくすっかり回復していた。左手に温もりを感じ、そちらに目を向けると確かにギュッと握られていたのだ。そこには顔を布団に突っ伏して、寝息を立てて寝ているギアッチョの姿があった。あれからずっと、側にいてくれたのだうか。でも何で手を握られているのだろうか。うーん?と首を傾げていると彼もついに目を覚ます。
「おはようギアッチョ」
「………お?おぉ…もう、いいのか?」
「うん、熱も下がったみたい。ギアッチョのおかげだよ。ありがとう」
「この短時間で回復するとはな………………あ、」
己の手が彼女の手を握っている事に気付いた瞬間、彼は思いっきり放して距離を取る。それはまるで漫画のようにズザーッなどという効果音が入りそうになるくらいに。
「これは!!!!て、テメェが俺の手が冷たくて良いって言うから仕方なくだなぁッ!!」
「そうなの?ごめん、覚えてないや…」
「あぁそうかよ!!!クソ!!」
普段は怒りっぽくて、怒鳴ってばかりで怖さもあったけれど。こうやって接する毎に新しい一面を知れていくのが彼女は嬉しく思うのだ。赤くなった顔を隠すかのように右手で口元を抑えているギアッチョに、また風邪引いたらよろしくね?と冗談交じりに言うと、2度目はねぇよ馬鹿と返された。そうぶっきらぼうに言ってもきっと彼はため息を吐きながら、面倒くさそうにしながらも、今日のように看病してくれるのではないかと期待してしまうのを許してほしい。翌日には完璧に回復し、今までと変わらずに元気に仕事をする海莉がいた。この出来事を通して変わった事と言えば海莉がギアッチョに対して少しだけ人懐っこく彼に構うようになった事くらいだろう。だが彼はそうやって、積極的に接しに来る彼女が決して嫌ではないようだった。
「ね、ね!ギアッチョ!!あれ作ってよ!」
「作るかボケ!!自分で作れ!!!」